軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第348話 アクシーディア公国建国記念日

翌日の朝。

ライトはレオニスとともに、ベッドの上で大の字でぐーすか寝ていた。

前日の夜に『夜明け前に帰ってくるレオニスに『おかえり』を言う!』と早々に寝ついたライト。何とか眠い目をこすり、頑張って深夜に起きて無事レオニスにおかえりを言うことができた。

「……ただいまー……」

ラグナロッツァの屋敷に帰宅して、誰に言うでもなく呟きつつ玄関の扉を開いたレオニス。こんな夜明け前の帰宅に自分を迎える者などいるはずもない。ただいまの声も自然と低く小さめになる。

だがそこには、まだ眠たそうなライトが立っていた。

「レオ兄ちゃん、おかえりー……」

「……うおっ!な、何だ、ライト、起きてたのか!?」

「うん……レオ兄ちゃんにおかえり言いたくて、早起きしたの……」

「……そっか。ありがとうな。ライトもまだ眠たそうだから、もう一度寝るか?」

「……うん……」

パジャマのまま出迎えたライトを、レオニスが抱っこしながら二階の寝室に連れていく。

ベッドに寝かされたライトは、レオニスの顔を見て安心したのかレオニスの抱っこの腕の中で既に再び眠りについていた。

レオニスもサクッと部屋着に着替えて仮眠を取り、現在に至る―――という訳だ。

外はすっかり明るくなり、冬の朝の柔らかい日差しが窓のカーテンの隙間から入る。

時刻が午前九時を回った頃に、ラウルが二人を起こしに来た。

「おーい、大きいご主人様に小さいご主人様よ。そろそろ起きて朝飯食わんと、竜騎士団や鷲獅子騎士団の飛行ショー見遅れるぞー」

ラウルの放った『竜騎士団』『鷲獅子騎士団』という言葉に即座に反応したライト。その瞬間目をパチッ!と開けて飛び起きた。

「……あ、ラウル、おはよう。もうそんな時間なんだね、起こしてくれてありがとう」

「どういたしまして。レオニスはまだ起きんようだが、どうする?」

「そのうち起きるだろうから、もう少し寝かせといてあげようか。十時になっても下りてこなかったら、また起こしに来ればいいし」

「了解ー」

ライトはレオニスの身体に改めて布団をかけ直してから、ラウルとともに一階に下りていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトとラウル、マキシの三人が朝食を食べ終えてそのまま食堂でのんびりと過ごしていると、レオニスが起きてきた。

「おう、皆、おはよーぅ」

「あっ、レオ兄ちゃん、おはよう!」

「レオニスさん、おはようございます!」

「ご主人様の朝飯できてるぜー」

「ありがとよ」

いつもレオニスが座る定席に用意された朝食を摂るレオニス。

時刻は九時半、今頃ラグナ宮殿には既にたくさんの人々が押し寄せているであろう。

「ねぇラウル、ラグナ大公のお言葉?はこの屋敷にいても聞こえるの?」

「ああ、民衆のいる場に向けて音声拡張魔法を使ってるから聞こえるぜ」

「そうなんだー。せっかくだから聞いてみたいなー」

「いつも代わり映えはしないがな?まぁそれはそれで平和な証でもあるが」

ラウルの言葉に、それもそうか、とライトも内心で思う。

言ってみれば学校の始業式の校長先生の挨拶のようなものか。

特に二学期の始業式、夏休み明けで残暑厳しい炎天下の校庭での校長先生の挨拶。あれ程嫌だったもんはなかったなー。

五分未満でサクッと終わらせてくれるのは良い校長先生、十五分以上喋り続ける校長先生は嫌われ校長先生、なーんてよく言われてたもんだったよな。

さて、ラグナ大公はどっちかな?

ライトがそんなことを考えていると、レオニスも朝食を食べ終えたようで自分の食器を下ろしにいく。

食後のお茶を出されたレオニスが、ふとカップに目を遣る。

「ん?このカップ、新しいやつか?」

「おお、さすがご主人様、目敏いな。そう、昨日の祭りで買ったばかりの新入りだ」

「そういや三人とも、昨日の祭りは楽しめたか?」

「うん!」「はい!」「おう!」

レオニスの問いかけに、三人ともが嬉しそうにそれぞれ返事をした。

お子様なライトや烏生初のお祭りとなるマキシはともかく、もう既に何度も生誕祭を見てきたラウルまでもがにこやかに頷くとは、レオニスにも想定外だ。

だが、皆で楽しく過ごせたならそれに越したことはない。

「そうか、そりゃ良かった。さて、今日はこれから飛行ショーを観るが、その後はどうする?お前らどこか行きたい催し物とかあんのか?」

「えーとねぇ、ぼくはこれ行ってみたいんだ!」

ライトがそう言いながら出してきた一枚のチラシ。そこには『魔術師ギルド直売会』というデカデカとした文字が踊る。

「ん?何ナニ?『魔術師ギルド謹製各種呪符を直売価格でお届け!』『数量限定販売・日常で使えるお役立ち呪符セット!』『年に一度の生誕祭でしか入手できない、貴重&面白呪符もたくさん!』……魔術師ギルドもなかなか面白ぇことしてんな」

「でしょでしょ?買いたいものがあるかどうかは見てみないと分かんないけど、見るだけでも楽しそうだなー、と思ってさ!」

レオニスが顎に手を当てながら、もう片方の手にチラシを取り売り文句をマジマジと眺める。

その読み上げた売り文句はなかなかにキャッチーで、ライトでなくとも思わずお店を覗いてみたくなる優秀なキャッチコピーである。

普段なら魔術師ギルドの敷居が高いと感じてしまいがちな平民でも、多くの人で賑わう生誕祭の出店なら気軽に立ち寄れそうだ。

そして利点はそれだけではない。この呪符の売り上げもまた魔術師ギルドの活動費に充てられるのだ。

宣伝と収益にイメージアップも兼ねた戦略は、魔術師ギルドという組織の智略性の高さを感じさせる。

「よし、じゃあ行ってみるか」

「うん!……ていうかさ、魔術師ギルドの出店があるなら冒険者ギルドの出店もあるんじゃないの?」

「ん?冒険者ギルドの出店か?……あー、多分何かやってんだろうとは思うが……俺今まで生誕祭はずっと総本部での待機で詰めてたから、出店とかあってもろくに知らねぇんだよな」

「そうなんだー。昨日クレナさんに聞いておけばよかったなー」

ライトがもっともな疑問を呈するも、レオニスは全く関与したことがないらしい。

確かに魔術師ギルドが出店しているなら、冒険者ギルドだって何かしら出店していそうなものだ。

「つか、そもそも冒険者ギルドに一般向けの売るもんとかあんのか?という疑問はあんだよな」

「そうだねぇ……魔術師ギルドの呪符みたいなお手軽商品はなさそうだけど……どうなんだろ?」

「そこら辺後でクレナに聞いてみるか」

「うん、そうしよっか」

「おい、ご主人様達。そろそろ外に出て屋上の上に行く頃合いだぜ」

そんなことを話しているうにちに、時刻は十時を回ったようだ。

「よし、じゃあぼちぼち行くか」

「「はーい!」」「おう」

飛行ショーの観戦を楽しみにしていたライトとマキシは、レオニスの言葉に元気良く返事をする。

外での観戦なので皆それぞれにコートを羽織る。マフラーや手袋などの防寒対策もバッチリだ。

四人は屋敷の屋上に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『……歴史ある我がアクシーディア公国は、生誕813年を迎えることができた』

『これも官民揃っての努力の賜物である……』

ライト達が屋上に上ると、既にラグナ大公の祝辞が始まっていた。

レオニスの屋敷から見ると、ラグナ宮殿は位置的に真東にある。ラグナ宮殿に参賀に集まった人々が入れるのは、南側の広大な庭園である。

生誕祭当日のみ一般開放される庭園には、たくさんの人々が集まり 犇(ひし) めいているのがレオニスの屋敷からもよく見える。何百人、いや、数千人はいるかもしれない。

民衆に語りかける国家元首と、それを聞きに集まる民衆。

このサイサクス世界の国々は、基本的に貴族社会であり貴族と平民という身分制度が厳然としてある。

だが、こうして国家の生誕を身分問わず祝い寿ぐ姿は割と健全な社会なのかもしれない―――ライトはそんなことを考えながら、ラグナ宮殿の方を眺めていた。

『……では、我が国の誇る二大騎士団、竜騎士団と鷲獅子騎士団の勇姿をとくと見よ』

『彼等はアクシーディア公国の輝かしい未来を護る守護神である』

『我等アクシーディア公国に、 永久(とこしえ) に栄光あれ』

ラグナ大公の祝辞が締め括られた途端『おおおおおッ!!』という割れんばかりの歓声が、庭園に集まった民衆から沸き起こる。

そして宮殿を挟んで庭園とは反対側から、竜騎士団が現れた。

その数七騎、時に 鏃(やじり) の尖矢のように整列して飛んだかと思えば上空でばらけてランダムに飛び回る。

ランダムと言っても決して激突したりはしない。ぶつかる直前までギリギリ近づきながら、ものすごい勢いですれ違っていく。

それら全てが予定された動きであり、演舞とも言える見事な飛行ショーを呈している。

おおお、あれはまさしく前世で言うところの青インパルス!このサイサクス世界でも、こんな本格的なアクロバット飛行ショーを観れるとは夢にも思わなんだ!キャッホーィ!

ライトは言葉を失いつつも、内心では歓喜していた。

そしてそれは横にいたマキシも同様のようで、ライトと同じく目をキラキラさせながら竜騎士団の動きを眺めていた。

「おー、竜騎士団のショーは久しぶりに観るが、相変わらずすげぇなぁ」

「そうだなぁ、俺もここ数年はずっと総本部待機組してたからまともに観るのは子供の頃以来でかなり久しぶりだが。やっぱすげぇなぁ」

「何だ、ご主人様も小さい頃には観に行ったのか?」

「さすがに庭園に入ることはできなんだがな。ラグナ宮殿から少し離れた市場からでも十分見えたからな、そこで孤児院仲間とよく観たもんさ」

食い入るように竜騎士団のショーを観ているライトやマキシの横で、レオニスとラウルはのんびりと昔話などをしている。

レオニスも孤児院時代に竜騎士団の飛行ショーを何度か観ていたようだ。

そんな思い出話をしたせいか、レオニスも何とも懐かしそうな顔になる。

目の前で繰り広げられる見事な飛行ショーを、それぞれ思い思いに眺めていた。