作品タイトル不明
第346話 翼竜わくわくふれあい広場
冒険者ギルド総本部を出たライト達は、再び大通りの露店巡りを始めた。
お祭りの買い食い定番の串肉を始めとして、タコ焼きに焼きそばにイカ焼き、お好み焼き、焼きトウモロコシ等々買い込んではラウルの空間魔法陣に収納していく。
マキシの八咫烏の里帰りを機に、空間魔法陣が使えることを普段通う市場でもカミングアウトしたラウル。もう人目も憚らずに使いまくるラウルは、実に清々しい。
そんなラウルの様子を見て、早く空間魔法陣が使えるようになりたいなぁ、とライトは密かに思う。
ちなみに祭りの食べ物類は、名前や見た目的にはほぼ現代日本のそれと大差ない。そもそもこのサイサクス世界が現代日本企業の創った世界なので、そこら辺も似通うのは当然のことだ。
ただし、タコは青くて深海の海底産、イカはクラーケン、お好み焼きの具はパイア肉に角切り状の聖なる餅等々、微妙に異なる点も多いのだが。
そうした定番品以外にも、以前商業都市プロステスで食べた豚のちゃんちゃか焼きや、どこかの地方都市の名物らしいぐつぐつと煮え立った芋煮鍋など、普段のラグナロッツァではお目にかかれない珍しい食べ物もちょこちょこ見受けられる。
もちろんそうした品々もどんどん購入しては、ラウルの空間魔法陣に収納されていく。というか、そこら辺の珍品系はむしろラウルが率先して見つけては買っている。
そうした珍品系を購入する時は最低でも三個、ラウルが個人的に特に気になるもしくは気に入った品だと五個以上は買うという熱の入れようだ。
もしかして『味見用』『味の再現研究用』『再現後確認用』とか、主に料理研究目的で様々な使い道がラウルの中で決まっているのかもしれない。
お昼ご飯にするには十二分過ぎるほどに、様々な食べ物を買い込んだライト達。大通りから少し離れた公園で、昼食として食べることにした。
公園にはライト達と同じように、お祭りで購入した品々を食べている人達がたくさんいた。
かなり混雑しているが、三人座れそうな場所を見つけてそのまま地べたに座り、ラウルの空間魔法陣からお祭りフードを出して三人で食べ始めた。
「ンー、このお好み焼き美味しーい!」
「豚のちゃんちゃか焼きもなかなか美味いな。後で追加購入しとくか」
「僕はこの焼きトウモコロシ?の味がすごく好きです!」
「温かいお茶も持ってきてあるぞ、飲むか?」
「「飲むー!」」
三人とも存分にお祭りフードの美味しさを堪能しているようだ。ラウル特製の温かいお茶を飲みながら、ほっとひと息つくライト達。
「さ、じゃあもうそろそろ翼竜牧場行くか」
「うん!」
「人混みが減って空いてきても、念の為にはぐれないよう二人とも手ぇ繋いどけよ」
「「はーい」」
大きなお兄ちゃん(ラウル) の指示に、 中くらいのお兄ちゃん(マキシ) と 一番小さい弟(ライト) は素直に従うのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『ようこそ!翼竜わくわくふれあい広場』
ビッグワームの大顎の仕入れ先としてお馴染みの、翼竜牧場に到着したライト達。
いつもは何の変哲もない、若干殺風景気味な翼竜牧場の建物。そこにポップなカラーの大きく派手な看板がデデーン!と掲げられている。
ターミナルの入口の扉の左右にも、手描きの可愛らしいデフォルメ翼竜の立て看板が置かれていて入場者を温かく出迎えてくれる。
人の賑わいも結構あり、子供がいる家族連れが主な客層のようだ。ライト達も早速受付に並び、簡単な記帳をしてから牧場の方に向かう。
牧場ではたくさんの親子が翼竜達と触れ合っていた。
「ライト君」
ふいに自分の名を呼ばれたライト。キョロキョロと辺りを見回すと、ターミナルから牧場に出る出入口のところにヴルムが立っているではないか。
ヴルムはこのドラグエイト便の会長で、今でもドラグエイト便の重要な仕事や経営を取り仕切る最高責任者だ。
普段は冒険者ギルド総本部の近くにある事務所にいるが、生誕祭の間は事務所は休業なのだろう。
「あっ、ヴルムさん。こんにちは!」
「こんにちは。ふれあい広場に遊びに来てくださったんですね」
「はい!ぼく、ここの翼竜達大好きですので!」
「それはまた嬉しいことを仰ってくださる」
ライトとヴルムの立ち話は『好々爺と幼い孫の微笑ましい会話』としか見えない図である。
「今日はいつもより翼竜達に近づいてもいい日だと聞いてたので、とても楽しみにしてたんです!」
「普段は人に触らせることはほとんどないですがね。生誕祭の間だけは、翼竜のイメージアップのために翼竜達にも頑張って接客してもらってるんですよ」
「翼竜達のストレスにはなりませんか?」
ライトが心配そうに尋ねるも、ヴルムが小さく微笑みながら穏やかな口調で答える。
「その辺は大丈夫ですよ、うちの子達は人に慣れてますからね。それに賢い子達なので、年に一度のこの生誕祭のことも理解していますし」
「そうなんですね!翼竜って頭良いんだなぁ」
「生誕祭の間は『餌やり体験コーナー』でいつも以上にたくさんの餌をもらえますからね」
「えっ、餌やり体験できるんですか!?」
そう、そもそも翼竜達は人族や獣人族を御者としてその背に日々乗せているのだ。ある程度の人慣れはしているだろう。
そして『餌やり体験コーナー』なる場があることを聞き、ライトが色めき立つ。
ライトは普段シグニスの手伝いとして餌やりに携わることは何度もあったが、手伝うのは餌を運ぶまでで直接餌を与える側になったことは今まで一度もなかったのだ。
「あちらの方で餌のビッグワームを販売してますので、それを購入していただければ餌やり体験できますよ」
「そうなんですね!それは絶対にやらなくっちゃ!」
翼竜牧場のふれあい広場は完全に無料開放だが、餌やり体験は餌を別途購入することで与えることができる。
前世における動物園や水族館の餌やり体験そのまんまのシステムであることに、ライトは内心で感心する。
「ラウル、マキシ君、餌やり体験コーナーに行こう!」
「僕も餌やりしたいので、自分の分の餌を買います!」
「俺はお前らの餌やり見てるだけでいいわ……」
翼竜への餌やりに意欲を燃やすライトとマキシに、ラウルだけは若干腰が引け気味だ。
ラウルはどうやら生のプリップリのビッグワームはあまり得意ではないらしい。裸足で逃げ出すほど大の苦手!とまではいかないが、積極的に見たいものでもないのだろう。
もしこれが『ビッグワーム=美味しい=食材』ということであれば、ラウルも目の色を変えて関与してくるであろうが。
残念ながら今のところラグナロッツァ近辺ではビッグワームを食べる習慣はないので、ラウルの中でもビッグワームは単なる非食材の魔物でしかないようだ。
「じゃ、いってきますね!」
「あ、ライト君、ちょっとお待ちください」
「ン?何ですか?」
「君に渡したいものがありまして。こちらを後でご確認ください」
ヴルムはそう言うと、懐から一通の封筒をライトに差し出した。中には何か書類らしきものが入っているようだ。
一体何が書かれているんだろう?とライトは不思議で仕方がない顔つきになる。
「中のものに関しましては、また生誕祭が終了した後いつでも構いませんので。いつでもお手隙の時に事務所の方にいらしてくだされば、私が対応いたします」
「???……分かりました、後日また改めて事務所の方に伺いますね」
「よろしくお願いしますね。では、翼竜ふれあい広場を存分に楽しんでいってくださいね」
「はい!!……さ、マキシ君、ラウル、行こうか!」
ライトはヴルムから受け取った封筒をウエストポーチに仕舞い、ヴルムに軽く一礼してラウルやマキシとともに餌やり体験コーナーのある方向に向かっていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ヴルムに教えてもらった方向に行くと、そこには『翼竜に美味しい餌をあげちゃおう!』という、これまたポップでカラフルな立て看板とともにナディアが受付をしていた。
「あっ、ライト君!いらっしゃい!」
「ナディアさん、こんにちは!」
「約束通り来てくださったんですね、ありがとうございますー!」
ナディアはいつもと変わらぬ笑顔でライト達を迎える。
「えーと、餌やり体験はここで餌を買うんですよね?」
「はい!このバケツひとつで20Gになります!」
ナディアの背後に、樽がたくさん積み重なっている。そしてその一つ一つにビッグワームのぶつ切りが入っているようだ。
「ぼくは五個くらい買いたいんだけど、この大きなバケツをいっぺんに五個も受け取るのは大変そうだなぁ」
「そしたら二回か三回に分けて購入なさいますか?」
「そうですね、じゃあひとまず二個買います」
「僕も二個お願いします」
「はーい!」
ライトとマキシ、二人ともナディアに40Gを支払って餌入りの樽を受け取る。樽は台車に乗せて運べるシステムだ。一度に二個乗せられるので、ちょうど良い。
ライトの分の樽はラウルが代わりに台車を押して、翼竜達のもとに歩いて近づいていく。
翼竜達も来場者が餌をくれることが分かっているので、鼻をスンスン、と鳴らしながらおとなしく餌をくれるのを待っている。
ちなみに餌のやり方は自由らしい。ビッグワームのぶつ切りを直接手に持って翼竜の口に入れてあげたり、樽を近くに置いてあげて翼竜がバケツから直接むしゃむしゃと頬張るのを眺めたりしてもいいとか。
何ならピーナッツを上に放り投げて口に入れるかのように、ビッグワームのぶつ切りを空高く放り投げて食べさせることも可能なようだ。
ナディアから餌やりのレクチャーを受けたライトは、早速ビッグワームのぶつ切りを天に向けて『えいッ!』と力一杯放り投げてみた。
すると、あろうことかビッグワームのぶつ切りが『バビュンッ!』と音を立てんばかりに、とんでもない勢いで空に向かって飛んでいってしまったではないか。
しかも、しばし待てど一向にぶつ切りが落ちてくる気配がない。ライトとラウル、マキシ、そして餌をもらう側の翼竜までもがポカーン、と口を開けたまま首を真上に向けた状態で動きが止まってしまった。
そこから三十秒ほど経過しただろうか。ようやくぶつ切りが落ちてきて、翼竜の口にカポッ、と入った。
やっと口に入った餌を嬉しそうにもくもくと咀嚼する翼竜。
その傍らで、ライト達は未だに呆気にとられている。
「……ライト。お前も俺と同じで、神樹族の加護やら祝福やら受けて相当な馬鹿力になってるっぽいな」
「……うん……」
「これは多分僕やラウルにも言えることですが、普段の生活でも力を込める場所や加減を考えて行動した方が良さそうですねぇ……」
「……はい、そうしますぅ……」
ラウルとマキシが、ライトに向けてそれぞれアドバイスを口にする。
そのアドバイスは双方とも正鵠を射ており、ライトはただただひたすら項垂れつつ従う他ない。
ライトの場合、神樹族の加護や祝福だけでなく称号システムの恩恵もステータス補正として大幅加算されているので、ラウルやマキシが思う以上に力が強くなってしまっている。
そのことに改めて気づいたライトは、ラウル達に言われるまでもなく内心で冷や汗をかきまくる。
今の場面はライト達三人と翼竜しか目撃していなかったようで、ナディアや他の来場客は全く気づいていないのが唯一の幸いだ。
思わぬところでオーバーキル気味な己の力を思い知ったライト。
こんなのをラグーン学園の同級生達に見られたらマズい、何を言われるか分かったもんじゃない。これからはもっと慎重に行動しよう……そう心に誓ったライトだった。