軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第335話 拳士の特性

「そういえば、グライフの持つジョブは何ですか?」

「……私のジョブ、ですか?」

「はい。そういえば一度も聞いたことがないなぁ、とさっき思いまして」

「…………」

グライフが冒険者に復帰したという話の流れで、ライトは今まで知らなかったグライフのジョブが何であるかを尋ねてみた。

これだけ本好きで理知的なグライフのことだ、きっと魔術師とか賢者等の魔法職系統だろう。そう思いながら気軽に尋ねたライトだったが、何やらグライフの様子がおかしい。

若干スーン、とした表情で何かが半分くらい抜け落ちたかのような顔をしている。

「……聞いても驚かないでくださいね?」

「??はい、驚かない努力はしますが……そんなにスゴいジョブなんですか?」

「スゴいというほどのことでもないのですがね……私のジョブは【剛掌穿爪拳士】です」

「ゴウショウ、センソウケンシ……?」

音読みだけ聞いても何の事かすぐには分からないので、グライフが紙に文字として書いていく。その字面のあまりのゴツさに、ライトは思わず『ブフッ』と噴き出しかけてしまった。

普段から優雅で紳士然とした、知性溢れるグライフからは全く想像もできないゴツいジョブだ。

「ゲホッ、ゴホッ……す、すみません……」

「いいえ、いいんですよ。私のジョブを初めて知った人は皆そういう反応になりますからね」

「いや、でも本当に意外です……グライフだったら魔術師とか賢者とかの魔法職だろうと思ってたので」

「ええ、皆さんそう仰るんですよねぇ。かくいう私自身も、かつてはそっち方面になるものとばかり思ってましたし」

遠い目をしたグライフが、それはもうはるか彼方をぼんやりと眺めながらぽつり、ぽつり、と語る。

グライフ自身幼い頃から読書が好きで、魔術や魔法にも興味がある子供だった。故に、自身のジョブも魔法職がいいな、という希望があったそうだ。

そしていよいよ受けたジョブ適性判断の際に、何と十種類近くものジョブが出現したという。

それだけ聞けば、何と幸運な!と羨ましく思われる話だ。

ジョブ適性判断では一つのジョブしか出てこなかった、なんてことはザラにある話だし、五つ以上候補があれば選り取り見取りの選び放題!ということになるのだから。

だが、グライフの目の前に出現したジョブのことごとくが完全物理系統だったらしい。

【千手鋼槍】【天翔飛脚】【波動烈拳士】等々、どこからどう見てもゴツい物理系ジョブ名ばかりが並ぶ図に、当時のグライフはそれはもう絶望の淵に立たされたという。

だが、何をどう足掻いても結局はその中からジョブを決めなければならない。どの道物理攻撃系統を選択しなければならないのなら、せめてその中で最も強くて使えそうなものを選ばなければ。グライフはそう考えたという。

その選択の結果が【剛掌穿爪拳士】というジョブだったのだ。

「……ジョブシステムって、本人が本当に好きなものを選べないというのが致命的な欠点ですよねぇ」

「そうですね、正直私も己のジョブ運の無さを嘆き悲しんだこともありました……ですが、今ではこのジョブも悪くない、と私は思ってるんですよ」

「そうなんですか?」

思わずジョブシステムの欠点を 論(あげつら) ってしまったライト。生涯ただ一つのジョブにしか就けないなど、前世の現代日本やBCOの転職自由な職業システムを知るライトに言わせれば欠点以前の問題である。

だが、グライフ自身は今のジョブもそう悪くはない、と言う。

「拳士というのはその攻撃力の高さや打撃の強さばかりに目が奪われがちですが、実は自己回復力や身体強化もかなり使えるんですよ」

「それに、自分が思い描いていたジョブにこそなれませんでしたが、初級魔法だけなら巻物屋でスクロールを買って習得することもできましたしね」

確かに拳士、いわゆるモンク系はその拳の強さが売りのジョブだ。だが、精神集中による自己回復力や身体強化も実は何気に性能が高い。下手な魔法使いの回復魔法や身体強化魔法などよりよほど強力だろう。

「初級魔法を購入したんですか?」

「ええ、地水火風光闇の初級魔法は全部購入しましたよ。私のジョブは拳士系ですが、ジョブ技に魔法を乗せるとなかなかに破壊力が増して威力抜群なんですよ」

己の拳を軽く握り見つめながら、静かに語るグライフ。

自分の希望するジョブが選べなかったというのに、グライフはなんて前向きなんだろう。俺だったら絶対に心が折れて卑屈になってるよな……ライトはそう思いながら、グライフの姿に感銘を受けていた。

己の不運や逆境をものともせず、ひたすら邁進するグライフの直向きな姿勢はライトが憧れるのに十分な格好良さだった。

「グライフは本当にすごいなぁ。ぼく、大きくなったらグライフのような立派な冒険者になりたいです!」

「それは嬉しいことを言ってくれますね。ですが、そこはレオニスではなく私でいいのですか?」

「はい!レオ兄ちゃんももちろん大きな目標だけど、ぼくにとってはグライフだって立派な目標で、目指すべき先輩です!」

「そうですか……ならば私も、復帰したばかりだなどと情けない言い訳をしてはいられませんね。冒険者の先輩として恥ずかしくないように、ライトのより良い手本とならねば」

「ぼくが冒険者になったら、いつか皆で世界中を冒険しましょうね!」

「もちろんですよ。それまでに私も鈍った腕や身体を鍛え直しておかなければ」

ライトの言う『皆』とは、レオニスやグライフだけでなくラウルやフェネセン、クレアにマキシ、フォルやウィカ、アクアなども含まれていた。

そんなことを考えたライト、今日このスレイド書肆を訪ねた本来の目的をはたと思い出す。

そう、今日はアクア、つまり水神アープに関する書物がないかをグライフに尋ねるつもりでライトはここに来たのだ。

「……あ。そういえばですね、ぼく、グライフに聞きたいことがあったんです」

「おや、それは一体何ですか?」

そこからライトとグライフは、神話や古代の伝説談義に没頭していったのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

一方、レオニスとラウルはどうしていたかと言うと。

ライトに仲直りのハグをさせられた二人は、冒険者ギルドの転移門でラグナロッツァからツェリザークまで二人仲良く移動していた。

「うおおおお、これが城塞都市ツェリザークか…… 寒(さみ) ぃなぁ!」

初めて訪れるツェリザークの冬景色に、白い息を吐きながら感嘆するラウル。

「ラウルはこれから雪を採りに行くんだろ?俺はルティエンス商会という店に用事があるんだが、さすがにこの時間じゃまだ店は開いてないだろうから昼飯食った後にでも行く予定だが」

「そうか。じゃあそれまで俺といっしょに雪を採取するか?」

「そうだなぁ、ここの雪解け水はツィちゃんも美味しいって言ってたからなぁ……神樹の枝もたくさんもらったことだし、その御礼にツェリザークの雪を山ほど持ち帰ってツィちゃんの土産にするか」

二人は北側城壁門を潜り、ツェリザークの外に出た。

ツェリザークは豪雪から都市を守るための結界があり、街の中に雪は積もっていない。だが、街を守る城壁から一歩外に出ればそこは一面白銀の世界だ。

「氷の洞窟のある方向はあっちか?」

「そう、今潜った北側城壁門から真っ直ぐ北側の方向にある」

「やっぱりそうか、あっちの方から強力な魔力を感じるもんな」

ラウルは妖精なので、魔力を敏感に感じ取ることも得意だ。

その感知能力で氷の洞窟のある方向が確実に分かるらしい。

魔力がより強く感じられる方向に、二人は歩を進めていく。

「さ、じゃあここら辺から採取を始めるか。この時期の氷の洞窟なんて、入口近くに近寄ることさえ困難だからな」

「おう、ガッツリ採るぜぇー!」

二人がツェリザークの北側城壁門を出てから、歩いて約三十分くらい経過したか。周囲はかなり雪深くなり、風も少し強くなってきた。ここら辺から採取を開始するのがベストだろう。

さぁ、これから思う存分たくさん雪を採取するぞー!とラウルが張り切って空間魔法陣を出した、その瞬間。

「だ、誰か!た、助けてくれぇぇぇぇ!」

雪の中を 倒(こ) けつ 転(まろ) びつ、レオニス達のいる方に逃げてくる者の姿が見えた。