作品タイトル不明
第315話 暗黒の洞窟
「さて、と。新年初の修行兼イベント作業するとしますかー」
「ラグーン学園の三学期が始まったら、また土日しか基本的に動けなくなるし」
「今のうちに集められる素材は集めておかないとね!」
レオニスが冒険者ギルドにいるマスターパレンに報告に出かけていた頃。ライトもそろそろ本格的に動き出そうとしていた。
今はまだ冬休み中、素材集めなど一日中出かけられる絶好の機会なのだ。
「まずはレシピ作成のセラフィックエーテルだなー。これを作れるようにならないと、イベント進められんし」
ライトはマイページを開き、レシピコレクションの中のひとつ『セラフィックエーテル』を閲覧し始めた。
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☆セラフィックエーテルレシピ☆
【材料】
螢光花の花弁5枚
アークエーテル3個
エネルギードリンク2滴
聖魔の泉の湧水2個
暗黒茸の柄3個
これらを混ぜ合わせて【遠心分離】1回かけて濃縮する
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この上記の材料のうち、新たに集めなければならないのはアークエーテルとエネルギードリンクを除く三つの素材『螢光花の花弁』『聖魔の泉の湧水』『暗黒茸の柄』である。
そして、三つのうち一つ『螢光花の花弁』は神樹ユグドラツィの近辺に咲いている花で、既に十分な量を確保できていた。
残る二つも、地図や図鑑などで調べたりレオニスに聞くなどして採取場所は把握できている。
暗黒茸はレオニスが『ご近所さん』と呼ぶ、カタポレンの家からはるか遠くに見える岩山の裏側にある洞窟に生息している。
そして『聖魔の泉』はその岩山と神樹ユグドラツィを直線で結んだ中間地点にあるらしい。
どちらもカタポレンの家からは結構な距離があるが、森の中を走り回る修行でかなり健脚になったライトなら十分に行ける距離だ。とはいえ、レオニスのようにあの岩山をご近所さん呼ばわりするまでにはまだ至らないが。
「さ、じゃあ今からあの岩山に行くかー」
アイテムリュックにお出かけ用ウエストポーチ、レオニスの付与魔法つきイヤーカフ、同じく付与魔法つき腕輪、ツェリザーク行きの時に仕立てたアイギス特製コートの胸元には八咫烏の羽根のラペルピン。アイテムリュックの中には、ライトが出かけた時にいつでも食べられるように、とラウルが持たせてくれたサンドイッチも入っている。
準備万端に整えたライトは、目的地『暗黒の洞窟』に向かって出発した。
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カタポレンの家を出てから、岩山目指して駆けること五十分。
目的地である岩山の裏側に到着したライト。洞窟の入口手前で一息つきながら地面に座り、岩山に背を凭れながらハイポーションをコクコクと飲む。
「はー……やーっぱこの岩山、絶対ご近所さんじゃねぇわ」
「つーか、カタポレンの家から見える面なら三十分程度でいけるからいいけど。その裏側に回らなきゃならんから、余計に時間がかかるんだよなぁ」
「レオ兄みたいに空飛べたら、回り込まずに頂上越えてそのまま一直線で行けるのにー」
「んー、そのうちレオ兄に空の飛び方を教えてもらおう。楽できるところは楽したいし!」
岩山を背に日向ぼっこしながら、あれこれと呟くライト。
十分ほど休憩の後、立ち上がって背を伸ばす。
「さ、では『暗黒の洞窟』への初潜入、行きますか」
ライトは両手で己の頬を軽くパンパン、と叩きつつ、気合いを入れて洞窟の中へと入っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『暗黒の洞窟』―――それは文字通り、暗黒の闇に包まれた洞窟。暗闇を好む魔物達が生息する場所である。
今回ライトの主目的である『暗黒茸』という魔物の名前からも分かる通り、そこに潜む大抵の魔物には『暗黒○○』もしくは『ブラック○○』という名前がつけられているので分かりやすい。
『ゲームの中では、この暗黒の洞窟は中級程度のフィールドだったが……』
『このサイサクス世界でもそうだとは限らんからな、慎重に行こう』
ライトの記憶の中のゲーム、BCO世界での暗黒の洞窟は『初心者が初心者を卒業した頃に行く場所』であり、難易度そのものは高くない。むしろ低めの方だと言っていい。
だが、ゲームの世界とこのサイサクス世界は同じ舞台のようでいて違うところも結構あることが分かってきている。
ライトの記憶では容易いフィールドだったからといって、舐めてかかる訳にはいかない。
洞窟の入口から入ってすぐに曲がり角があり、そこを曲がってしばらく進むともう完全な暗闇に包まれる。
ここでライトはアイテムリュックからランタンを取り出し、明かりを灯す。真っ暗だった洞窟の中が、一気に明るくなる。
このランタンの明かりの動力源は魔石である。明かりの強弱はダイヤル式で、無段階調整できる仕組みだ。
暗闇の中で急激に明るくするのも目に眩しそうだから、一番弱い出力で明かりを灯したのだが。暗闇との対比なのか、それでもかなり明るく感じる。
そして明かりを灯した瞬間から、光に引き寄せられるように魔物達がライトめがけて襲いかかってきた。
安寧の闇の中をいきなり眩しい光で照らし出されたのだ、魔物達が怒り狂って襲撃して当然である。
しかしライトはそんな怒りなどどこ吹く風で、一切の攻撃を受け付けない。レオニスがライトのお出かけ用のために用意した、各種付与魔法のおかげで防御は完璧。暗黒の洞窟入口付近にいる魔物相手ではHP1すら減らない、鉄壁の守りである。
ダメージが一切出ないとなれば、ここはもはやライトの独擅場である。
職業システムの斥候系闇三次職【忍者】にて習得済みの物理系必中スキル『手裏剣』を繰り出して、襲ってくる魔物をどんどん仕留めていくライト。
何も持っていない手を魔物に向けて横薙ぎに振れば、その瞬間に手の先の空間に手裏剣が出てきて獲物にダメージを与え、その後手裏剣は煙のように掻き消えていく。スキルという攻撃手段を具現化させているだけで、物質的な手裏剣を創造している訳ではないのだ。
ライト自身何度見ても不思議だなー、と思う光景である。
お目当ての暗黒茸だけでなく、暗黒蘭や暗黒蜂、ブラックスライムなどが出てくる。どこからか涌いてきては、ライトめがけて棘や針を飛ばしたり棍棒を振り回して襲いかかる。
どれも前世のゲームBCOで素材採取のために散々狩り倒した、懐かしの面々だ。
ちなみに暗黒茸の攻撃は『胞子を振りまく』だ。
読んで字の如しで、茸の胞子を粉のようにばら撒いて相手を麻痺や毒、睡眠状態などに陥らせる攻撃である。
もちろんライトの装備のどれかに状態異常回避の防御魔法が付与されているので、ライトに状態異常攻撃は効かない。
とはいえ胞子を吸い込んで物理的障害で喘息にでもなったら困るので、バンダナで口周りをマスクのように覆う。
そうしてライトは暗黒茸を見つけたら優先的に狩ることにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「んー、そろそろレベルが上がらなくなってきたなー」
レベルアップによるSP回復が得られなくなったライト。
狩りを一旦中断して、暗黒の洞窟の外に出ることにした。
今のライトの S P(スキルポイント) は50。物理系必中スキル『手裏剣』はSP消費1なので、SPが満タン状態ならば0になって尽きるまでに50回手裏剣を繰り出せる。
攻撃力も各種称号でかなり底上げされているので、この暗黒の洞窟の魔物なら武器無しでも手裏剣一発で全て倒せる。
もともとレベル一桁だったライト、最初のうちは魔物を一体二体倒しただけで『♪ピロリーン♪』というレベルアップを知らせる音がライトの脳内に頻繁に響いていた。
だがそれも次第に間隔が長くなり、とうとうSP50全てを使い切ってもレベルアップしなくなった。
一旦外に出るため、倒した魔物を全てアイテムリュックに入れていくライト。その間にも魔物がライトに襲いかかってきているのだが、全て跳ね返している。
何事も起きていないかのようにひたすら収集作業を行うライトと、ライトという外敵に向かって果敢に飛びかかるも都度跳ね飛ばされる暗黒茸他魔物達。なかなかにシュールな図である。
ライトは魔物の死骸を一通りアイテムリュックに入れ終え、一旦外に出てからSP回復剤であるエネルギードリンクを取り出してこくりと一口飲む。
洞窟の外に出れば、暗闇をこよなく愛する魔物達は外の光を嫌って外まで追ってくることはない。安心して休憩を取ることができる。
ちなみにゲームの世界では、SPを全回復させるのにエネルギードリンク1個を丸々消費したが、このサイサクス世界ではSP50はエネルギードリンク二口を飲めば満タン回復となるようだ。
一口がエネルギードリンク一本の一割程度なので、一本全部で十口分。今のライトなら暗黒の洞窟と外の往復を十回分できる勘定だ。
そしてエネルギードリンク一本を飲み終える頃には、ライトが岩山に到着してから三十分ほど経過していた。
「何をいくつ狩ったか、全然数えてないけど。暗黒茸も結構獲ったし、暗黒の洞窟はとりあえずこんなところでいいかなー」
「よし、次は聖魔の泉で水汲みだー!」
ライトは暗黒の洞窟での狩りを終え、神樹ユグドラツィと暗黒の洞窟の間にある聖魔の泉に向かって意気揚々と出発した。