作品タイトル不明
第302話 ラウル達へのプロステス土産
初めてのイノセントポーションレシピ生成を成功させたライトは、その勢いで同じものを作り続けた。
最初の一個目こそ様子見もあってゆっくり丁寧な作業で作っていたので20分くらいかかったが、二個目三個目と回数を重ねる毎にだんだんと手慣れていき時間も短縮されていく。
最後の五個目になると、10分ちょっとくらいで作れるようになっていた。
「あー、しっかしこうして作ってみると結構大変なもんだなぁ」
「ゲームじゃ手間かかるとしても、せいぜいアイテム集めに時間かかるくらいで他はボタンひとつポチるだけで済んじゃうし。アイテム持ち込むだけでいろんなアイテムと交換してくれる交換所って、実は偉大なボランティアだったのね……」
「ま、いろんなところを省略されてるゲームの世界と現実ってのは全然違うけどさ」
物作りを経験して、改めてその苦労や大変さを思い知るライト。スキルという便利手段や強化ステータスなどの強力な後押しはあっても、やはり手間がかかることには違いない。
ボタンをポチポチすれば即成果を得られる、全く以て美味しいとこ取りも甚だしいソシャゲのような訳にはいかないのだ。
だが、その分やり甲斐や手応え、達成感といった精神的な満足感は十分得られるのもまた事実である。
とりあえず目標の五個分のイノセントポーションを作り終えて、背伸びしたり腕を回しながら身体を解すライト。
出来上がった五本の瓶を改めて揃えたら、最後の仕上げの濃縮化だ。
これまでの濃縮化同様、五個分のイノセントポーションを遠心分離の器に入れてクラフトスキル【遠心分離】を発動する。
薄黄色だった液体が、夏に大輪の花を咲かせる向日葵を思わせる鮮やかな濃い黄色になっていく。
イノセントポーションの空き瓶をそのまま使い、瓶に詰めて満杯にして蓋をしたら濃縮イノセントポーションの完成である。
「濃縮イノセントポーション、完成ーーー!」
またひとつ、クエストイベントのお題のひとつを達成した瞬間だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
イノセントポーションのレシピ生成を開始してから、濃縮イノセントポーションを完成させるまでに約二時間が経過した。
ふと気がつけば午後の三時、おやつタイムも兼ねて休憩することにしたライト。厨房に向かい、いそいそとおやつの支度を始める。
ホットミルクを用意したところで、レオニスが帰宅した。
「ただいまー」
「あっ、レオ兄ちゃん、おかえりなさーい!今ちょうどおやつにしようとしてたところだよ!」
「おう、そりゃ良いタイミングだな。んじゃ着替えてくるから、俺の珈琲も淹れといてくれ」
「はーい」
居間で顔を合わせた二人は、それぞれ厨房と自室に分かれて向かう。
レオニスが部屋着に着替えて居間に入ると、ライトがレオニスの分の珈琲を持ってきたところだった。
二人は椅子に座り、それぞれ自分の飲み物を口にしながらほっと一息つく。
「レオ兄ちゃんもお疲れさま。毎日欠かさず見回りするのって、本当に大変なことだよね」
「まぁな。でもそれが俺の仕事だしな」
「明日の大晦日も、明後日の元旦も見回りするんでしょ?」
「そりゃもちろん。カタポレンの森にいる以上は一日だってサボる訳にはいかんさ。ま、日によっては簡単に済ませる時もあるがな」
ライトの労いや問いかけに、レオニスは事も無げに答える。
「そういえば、今年の大晦日やお正月はどうするの?今まではずっとこのカタポレンの家でのんびり過ごしてたけど」
「そうだなー。今年からライトもラグーン学園に通うようになったから、ラグナロッツァでの知り合いも増えたよな」
「うん。せっかくだから、大晦日やお正月は向こうの家でラウルやマキシ君といっしょに過ごしたいな」
「そうだな、それもいいかもしれんな」
そう、去年の今頃はまだライトとレオニス、二人きりでこのカタポレンの家で日々を過ごしていた。
だが、今年の秋からライトはラグーン学園に通い始めた。そのために、それまでほぼ放置だったラグナロッツァの邸宅を活用しだしたし、おかげでラウルやマキシ、ラグーン学園の同級生達などライトの交友関係も大きく広がったのだ。
「じゃあ、もう一休みしたらラグナロッツァの家に行くか。昨日のプロステス土産をラウルに渡してやらなきゃならんしな」
「うん!じゃあぼく、出かける支度してくるね!」
レオニスの提案に、ライトは嬉しそうに答える。
食器類を台所に下ろし、そのままパタパタと自室に駆け込んでいくライト。
その嬉しそうな姿を見て、レオニスも微笑む。
ラグーン学園も途中入学だったから、同級生と馴染めるかどうか不安だったんだが……学園でそれなりに友達もできてるようだし、杞憂だったな。ラウルやカイ姉、オラシオンなんかの大人達とも仲良くやれてるし。
ライトはもとから本好きだったが、学園でもたくさん本を読んでて勉強も頑張ってるよな。俺があのくらいの年の頃なんて、食って寝て遊ぶことくらいしか頭になかったもんなー。
そう考えるとやっぱライトはすげぇな、さすがグラン兄とレミ姉の子だ!
そんなことを考えながら、レオニスも自分の分の食器類を台所に下ろしていく。回想の最後はライトとその父母の絶賛で締め括るあたり、今日もブラコン全開である。
レオニスも転移門のあるライトの部屋に行き、二人でラグナロッツァの屋敷に移動していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ラウルー、マキシくーん、いるー?」
レオニスとともにラグナロッツァの屋敷に来たライト、早速万能執事とその親友の名を呼ぶ。
その呼びかけにさほど間を置かずして姿を現すラウルに、少し遅れてからフォルを抱っこしつつ二階から階段を降りてきたマキシ。
そう、昨日はライトもレオニスも二人してプロステスに出かけていたため、フォルをこちらの屋敷の方に預けていたのだ。
「おう、ご主人様達、おかえり」
「レオニスさん、ライト君、おかえりなさい!」
「フィィィィ」
三者がそれぞれ笑顔でライト達を出迎える。
今年になってから新たに増えた家族の温かい出迎えに、ライトの心は歓喜に満ちるばかりだ。
「昨日のプロステスはどうだった?」
「忙しくて大変だったけど、とても楽しかったよ!」
「そうか、そりゃ良かったな」
「ラウルやマキシ君にもお土産買ってきたから、皆で居間に来て!すぐ渡したいから!」
「えっ、僕にまでお土産買ってきてくれたんですか?ありがとうございます!」
「フォルにもちゃんとあるからね!」
「キュイ?キュィィィ!」
ラウルやマキシだけでなく、使い魔のフォルにまでライトは何か土産を購入してきたらしい。
果たして使い魔に土産とか必要なのか?という野暮な疑問を抱いてはいけない。フォルだってライトにとってはこのサイサクス世界の友達なのだ。
瑞獣の友にまで土産を買ってくるライトの心優しさに、横にいたレオニスも静かに微笑む。
一同はライトを先頭にし、広間に向かい部屋に入る。
「えーとねぇ、まずはレオ兄ちゃんの空間魔法陣に預けてあるお肉ね。レオ兄ちゃん、出してくれる?」
「了解」
「肉?」
「そ、お肉。プロステスの近くには『人喰いパイア』っていう猪型の魔物が多くて、そのお肉がプロステスの特産品のひとつなんだって」
「ほほう、一都市の特産品にまでなる肉か。そりゃまた間違いなく美味いんだろうな」
「うん!お昼ご飯や領主様のおうちでいただいた晩餐でも食べたけど、ものすごーく美味しかったよ!」
レオニスの空間魔法陣からどんどん出てくるパイア肉の塊に、ライトの解説を聞きながら目をキラキラと輝かせるラウル。
美味しい料理や食材に目のないラウルらしい反応だ。
「お肉の部位とかはよく分からないんだけど、とりあえずあるだけ買ってきちゃった」
「そこら辺は俺が見れば分かるから大丈夫だ」
「そうなの?ラウルの料理の腕は世界一だから食材のことも分かるんだね、すごい!」
「おう、お褒めに与り光栄だ」
レオニスが出したパイア肉を、ラウルが自分の空間魔法陣にどんどん入れて仕舞っていく。その様子はさながらバケツリレーである。
そのリレーを尻目に、ライトはマキシやフォルの土産を出すべく自分のアイテムリュックをガサゴソと漁る。
「マキシ君にはこれ!これね、プロステスのゆるキャラ……じゃなくて、有名なマスコットキャラクター?なんだって」
「これは……ブタ、ですか?」
「そう、プロステスでは『迷子の小ブタ』って名前でとっても人気者らしいよ。ハリエットさんも大好きで、ラグナロッツァでも密かな人気があるとか何とか言ってたなー」
「そうなんですかー。とってもゆるい感じが何とも可愛らしいですね」
ライトがマキシに渡したのは『迷子の小ブタ』のブローチだ。
小ぶりで服や帽子、鞄などにつけてもチャーミングなアイテムである。
「これ、どっちかというと女の子向けのものだとは思うんだけど……可愛いからついお土産に買っちゃった。無理に服とかにつけなくてもいいから、お部屋に飾ったり仕舞っといてくれてもいいよ」
「いいえ、ライト君が選んでくれたお土産です、今度出かける時に帽子につけてオシャレを楽しむことにします!」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しい!」
マキシはそう言うと、ブローチを大事そうにライトの手から受け取った。
続けてライトはフォルに向けても土産を出して見せる。
「フォルにはこれ、『迷子の小ブタ』のペンダントのモチーフ。フォルの魔導具につけられるように買ってきたんだよ」
「ぼく、アクセサリー作る道具持ってないから、今度アイギスに行った時に加工してもらおうね!」
それは『迷子の小ブタ』の顔が描かれている、小指の爪ほどの小さなペンダントモチーフだ。
フォルがお土産の概念を理解しているかどうかは不明だが、にこやかに話しかけるライトにフォルも常にニコニコとしている。
「あ、あとね、ラウルにもあるんだよ!」
「ん?さっきのパイア肉が俺への土産じゃないのか?」
「あれももちろんラウルへのお土産だけどさ?いつも食べ物ばかりじゃ、ラウルの手元に何も残らないでしょ?それじゃ寂しいと思ってさ」
自分にもまだ土産があると聞き、不思議そうに問うたラウル。
その問いに対し、ライトは手元に残るものをあげたい旨の答えを返す。
「ラウルのは、これ。『迷子の小ブタ』のエプロン!」
ライトが自信満々にババーン!と出したのは、前掛けタイプのエプロンだ。前面に迷子の小ブタの大きなポケットがデデーン!と鎮座ましましている。
真っ赤なエプロン生地に小ブタの顔の薄桃色が絶妙な色合いである。
「お、おう……」
「本当はね、青色とか緑色のエプロンがあれば良かったんだけど……小ブタのエプロンはこの赤しかなかったんだよね」
「そ、そうか……」
「うん。ラウルのお土産もね、『迷子の小ブタ』でマキシ君とフォルのお揃いにしたかったの」
あまりにも可愛らしい小ブタのエプロンに、正直ラウルは戸惑いを隠せない。
だが、『マキシやフォルとお揃いの柄にしたかった』というライトなりの理由を聞き、その思い遣りを嬉しく感じるラウル。
ラウルは早速小ブタのエプロンをその場で着用してみせた。
「どうだ、似合うか?」
「……ぁー、ごめん、あまり似合わない、かも」
「何ッ!?」
「ぃゃ、あの、その……カッコいいラウルに、小ブタはあまりにも可愛らしすぎたかも……ごめんね、ラウル」
せっかく皆の前で着用してみせたのに、ライトに速攻で似合わない判定を出されてしまったラウル。そりゃもう大打撃のガビーン顔の大ショック!である。
だが、ライトとて悪気があって否定した訳ではない。ラウルのカッコよさが台無しかも……こんなお土産チョイスしちゃってごめんなさい、という意味合いでの否定だった。
現にライトもしゅーん……としょげていることから、ラウルにもその意図がきちんと伝わったようだ。
「……大丈夫だ、気にすんな。この程度で俺の男前度は落ちん」
「そ、そう?」
「おう、それにエプロンにポケットが付いているのは使いやすそうですごく良いな。俺のためにこんな素敵なお土産買ってきてくれて、ありがとうな」
「……うん!このエプロンをつけて、これからもいっぱい美味しいもの作ってね!」
「ああ、任せとけ」
ラウルにフォローされて、ライトのしょげた顔が一気に喜びの色に変わる。
昨日のプロステスでの多忙さや様々な修羅場など忘れさせてくれる、ラグナロッツァの屋敷での束の間の平和なひと時だった。