軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第295話 庭園の散策

その後ライト達は、パイア肉を取り扱う大手の御用達店を見つけ、ありったけの肉を購入することができた。

ただし、ライト達は今アイテムリュックも空間魔法陣も使えないので、もう一台の馬車に乗せて領主邸まで運んでもらうことにした。

領主邸まで持っていけば、後はレオニスの空間魔法陣に仕舞ってもらえばOK!とばかりに買い込んだ、という思惑も実はライトの中にあったりする。

そもそも今日のライトはアイテムリュックは持ってきていないのだが、こんな時こそアイテムリュックを堂々と使えたらいいのになぁ、と思うライト。

レオニス達が開発したアイテムバッグが、一日でも早く世に普及することを願うばかりである。

とりあえず、ライト達三人の土産は早々に全て買えた。

ウィルフレッドが懐中時計で時刻を確認すると、午後の三時を少し過ぎたところか。

「うーん、今三時か。あと小一時間ほど散策できるけど、どうする?」

「ぼくは皆へのお土産を十分買えたから満足です!それよりハリエットさん達は長旅で疲れてますよね?もうお屋敷に戻ってゆっくり一休みした方がいいんじゃ……」

「そうだな、では伯父上のところに戻ろうか。ハリエットもそれでいいかい?」

「はい、お兄様」

片道四日も馬車の旅をしてきたハリエット達を気遣うライトの提案に、兄妹は同意する。

ライト達は再び馬車に乗り、プロステス領主邸へと戻っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「レオ兄ちゃん、ただいまー!」

「おう、おかえり、ライト」

「お肉とかお菓子とか、皆へのお土産たくさん買えたよ!」

「そうか、そりゃ良かったな。小遣いは足りたか?」

「うん!」

レオニスはまだ領主邸内の執務室にいると聞き、早速執務室に行きレオニスに買い物の成果を報告するライト。

ライトの嬉しそうな顔を見て、レオニスも笑顔になる。

「ウィルフレッド達も良い買い物ができたかい?」

「はい!伯父上のおかげで今年は早々に土産も買えました!ありがとうございます!」

「私もラグーン学園のお友達に小ブタの小物を買えました。きっと喜んでもらえると思います」

「そうか、それは何よりだ」

アレクシスも甥姪の明るい笑顔に、自然とその顔も綻ぶ。

「クラウス達はもう部屋でのんびり一休みしてるよ。お前達もここに来るまでの長旅で疲れたろう、晩餐までゆっくり休みなさい」

「はい、そうさせていただきます」

「ライトさん、また後でお会いしましょう」

「うん、ハリエットさんもお兄さんもお疲れさまでした!」

アレクシスの勧めに素直に従い、父母のいる部屋にいくため執務室を退出するハリエットとウィルフレッド。

「さて、お客人方にも部屋は用意できているが」

「いや、俺達はここに泊まるつもりはない。晩飯をいただいたらラグナロッツァに戻る」

「そうなのかい?せっかくだから泊まっていけばいいのに」

「そうもいかんさ、明日もまた仕事があるしな」

「はぁ、冒険者というのも忙しいんだねぇ。でもまぁそうだな、ここで無理強いしても致し方あるまい」

「ああ、気持ちだけありがたく頂戴しておく」

アレクシスがレオニス達に一泊していくように勧めるも、翌日の仕事を理由に断るレオニス。

「まだ晩餐まで時間がある。良ければ邸内や庭の散策でもしていってくれたまえ。邸内に飾られた美術品や調度品、そして我が庭園はどれも自慢の一級品なんだ」

「そうなのか?俺は美術品とかさっぱり分からんが、ライトの教育には良さそうだな」

「うん、ぼくお屋敷や庭の探検したい!」

「じゃあここは領主のお言葉に甘えて、いろいろと見せてもらうか。ライト、あちこち触って物を落っことしたり壊したりするなよ?」

「えー、やだなぁ、レオ兄ちゃんじゃあるまいし。ぼく、そんなドジなことしないよ?」

「うぐッ」

「ハッハッハ、君達は本当に仲の良い兄弟なんだな!」

ライトとレオニスの仲睦まじくも軽快なやり取りに、アレクシスも笑いながらその仲の良さを褒め称える。

だが、ライトとレオニスはじゃれ合いつつも腹の中でガッツポーズを取る。

プロステス領主のお墨付きのもと、領主邸の内外を隈なく調査する絶好の機会を得たのだ。さすがに領主やその一族のいる私室などのプライベートエリアは立ち入れないだろうが、それ以外の一般人でも普通に入れる場所なら一通り見て回れるだろう。

「では君達が迷子にならぬよう、案内に執事をつけよう。この屋敷はウォーベック侯爵家の本拠地でもあるからな、それなりに広大なんだ」

「スヴェン、スヴェンはいるか?」

「お呼びでしょうか、旦那様」

アレクシスが大きめの声で執務室の扉に向けて呼びかけると、扉の外で待機していた執事スヴェンがすぐに入室してきた。

「スヴェン。晩餐の時間が来るまでの間、お客人方にこの屋敷の見どころや庭園を案内してやってくれ。くれぐれも粗相のないようにな」

「畏まりました」

先程レオニス達にお茶を運んできた歳若い執事が、恭しく一礼しつつ主の命を受ける。

「執事任せですまないね。本当なら私が君達を案内したいところなのだが、あいにくとまだ仕事が残っていてな」

「領主って仕事も大変なんですねぇ」

「そうなんだよ、ライト君。君はよく分かってるねぇ」

心底残念そうに項垂れるアレクシスに、思わずライトが同情の声をかけてしまう。

「でもまぁ明日が仕事納めだからね、もう少し踏ん張れば気持ち良く新年を迎えられるというものさ」

「ではお客人方、また晩餐時にお会いしよう。それまでこのプロステスの暖かい空気を心ゆくまで堪能しながら寛いでくれたまえ」

まだこれから仕事に励むというアレクシスに見送られつつ、レオニス達は執務室を後にした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

スヴェンの案内で、一階に下りていくライト達。

執務室は二階中央に位置していたが、それ以外のエリアはプロステス領主とその一族のプライベートルームなのだろう。

一階と二階を繋ぐ階段も対外的に見せる意味合いがあるのか、手摺や支柱などどれもかなり豪奢な作りだ。

こうした高位貴族の本格的な邸宅内を一度も見たことがないライトは、物珍しさについキョロキョロとあちこちを見てしまう。

「外が暗くなる前に、先に庭園の方に参りましょう」

スヴェンはそう言うと、領主邸の正面玄関の扉を開いた。ライト達はスヴェンの導きに従い、扉を潜り外に出る。

先程の市場散策でもそうだったが、もういくつどころか三回寝れば正月が来るというのに外は小春日和でとても過ごしやすい陽気だ。

庭園にも緑や花がそこかしこに溢れ、冬という季節を全く感じさせない。

「ぼく、プロステスに初めて来ましたが。とても温かいですねぇ」

「ええ。ですが、これでも今日の気温は低い方なのですよ」

「えッ、こんなに温かいのに!?」

「はい。炎の洞窟のおかげで冬でも暖かく過ごせるので、冬になるほどこのプロステスは人が集まり賑やかになるんです」

ライト達にとっては温暖に感じる今日のこの陽気は、驚くことに現地の人に言わせれば冷え込んでいる方、らしい。

何とも羨ましい限りだが、さてそうなると俄然気になってくるのは冬ではなくその逆、夏の気候だ。

「そしたら、プロステスの夏はどんな感じになるんですか?」

「それはもう灼熱地獄ですね」

「うへぁ……」

やはりライトの想像通り、夏は地獄のように暑くなるようだ。

冬にこれだけ暖かく過ごせるのだ、その分夏はとんでもなく酷暑になるに違いない。

「ですが、それもまた一興にして冬に向けての準備期間ともなるのです」

「準備期間、ですか?」

「ええ。この街には夏の熱気を結晶化させる技術があるのです。夏の熱気を結晶化したものは『熱晶石』という名で呼ばれています」

庭園の花々を眺めながら散策の案内を続けるスヴェンによると、灼熱地獄の如き猛烈な熱気を圧縮して結晶化し貯め込む技術があるのだという。

「私は技術者ではないので、そこら辺の構造や仕組み、理論などはさっぱり分かりませんが。プロステスの重要な産業資源にして、門外不出の最重要機密だそうです」

「おそらくは魔石の生成技術の一端だろうな」

「ふーん、そうなんだー」

「おや、貴方方は魔石というものをご存知なので?」

「まぁな」

レオニスがふと口にした言葉に、スヴェンが目敏く反応する。

レオニス達は普段から何気なく魔石を使っているが、実は魔石を直接目にする一般人はかなり少ない。

魔石を普段から扱うのは、レオニスやライトを除けば魔術師ギルドで働く研究者や各種ギルドに備え付けられている転移門に携わる者達くらいなのだ。

「我がプロステスの姉妹都市ツェリザークにも、同様の技術がありましてね。あちらは冷気を貯め込んで結晶化するんです」

「その結晶化したものは『冷晶石』と呼ばれ、我がプロステスの熱晶石と交換しているんです。いわゆる物々交換ですね」

「ツェリザークは我々の住むプロステスとは真逆で、氷の洞窟による影響で寒冷地です。寒暖こそ逆ですが、洞窟の脅威だけでなく恩恵をも受けるという地域的環境は全く同じ。それ故に姉妹都市条約を締結しています」

「気候そのものを足して二で割るようなことはできませんが、晶石を利用することでこの過酷な環境に生きる人々の暮らしを少しでも快適にできるよう、旦那様は努力しておられるのです」

プロステス産の熱晶石はツェリザークで冬の暖房や温泉施設その他に使われ、ツェリザーク産の冷晶石はプロステスで夏の冷房や食糧保存などに使われるのだという。

そういえば二度ほどツェリザークに行ったことがあるけど、冒険者ギルドやルティエンス商会も建物の中は温かかったな、と思い出すライト。

そして先程ライトがプロステスの市場で買った肉。その時に入った御用達店、そこでもガラスケースに肉の塊が入れられて展示されていた。

氷の魔石ってものすごく高価だから市場にはほぼ出回っていないはずだけど、どうやってこんな冷蔵庫みたいに運用しているんだろう?とライトは疑問に思っていたのだが。どうやらその答えは『ツェリザーク産の冷晶石を用いていた』ものだったようだ。

サイサクス世界の経済や仕組みの一端を垣間見るようで、なかなか興味深い。ライトも熱心にスヴェンの話を聞いている。

だがその一方で、二人とも例の極秘調査を忘れてはいない。

ライトのウエストポーチにつけている、八咫烏の羽根のラペルピン。スヴェンと会話をしながら時折ラペルピンを見るも、特にこれといった反応は示さない。

執事との当たり障りのない会話は主にライトに任せて、レオニスも庭園をじっくりと眺めつつ気配を探っているが、どうやら庭園の方には悪魔の痕跡は見受けられないようだ。

広大な庭園をのんびりと散策しているうちに、プロステスの空が茜色に染まり始める。

案内役のスヴェンは、ライト達に向かって話しかけた。

「日もかなり傾いてまいりましたし、そろそろ邸内に戻りましょうか」

「はい、庭園の案内ありがとうございました!冬でもこんなにたくさんの花が見れて、とても楽しかったです!」

「お客様方に喜んでいただけましたら、私どもとしましても光栄に存じます」

「お屋敷の中の案内も、よろしくお願いしますね!」

「畏まりました」

ライトはスヴェンに礼を言いつつ、スヴェンも執事らしい所作で応える。

三人は再び領主邸に戻っていった。