軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第287話 聖遺物の変貌

停止した時間が再び動き出し、レオニスの目に映る景色にも鮮明さが戻ってきた。

どうやら【賢帝】の意識と対峙していた空間は、完全に消え去ったようだ。

だが、オラシオンとエンディの顔が時間が停止する前よりさらなる驚愕に染まっていく。

「……!!」

「これは一体……何が起きたというのですか!?」

オラシオン達の驚愕の声に、レオニスが何事かと周囲を見回す。そしてその驚愕の声の原因を即座に理解した。

第二の聖遺物である司祭杖が、全くの別物かの如く変貌していたのだ。

先程までは銀色の杖と、その天辺にオレンジ色の巨大な宝玉が設えられていた。

だが、レオニスが【賢帝】との対峙から戻り時間が再び動き出した今、杖は形こそ同じだがその色は淡い黄金色に輝き、宝玉は一回りサイズが小さくなって鮮やかな赤紅色に変わっている。

オラシオンやエンディにしてみれば、一瞬にして司祭杖の色や宝玉の大きさまで変わった訳だから驚くのも無理はない。

その一方でレオニスは、この司祭杖の変化はおそらく宝玉に宿っていた【賢帝】の意識が完全に抜けた故の事象であろうことに気づいていた。

「オラシオン、大教皇。話がある」

レオニスはそう言うと、先程まで己の身に起きていたことを二人に話して聞かせた。

時間が停止し、亜空間のような場所で司教杖と対峙したこと。

その司教杖は人語を語り【賢帝】と名乗ったこと。

来れるものなら来い、と言いながら司教杖を通行手形兼餞別としてくれてやると言われたことなど。

それらの話をした後、レオニスは神妙な顔つきになる。

「時間が停止した空間で【賢帝】と対峙したなんて、荒唐無稽な戯言や妄言だと思われてもおかしくないと我ながら思うが……」

「ご心配は要りませんよ、レオニス卿。現にこの司祭杖が瞬時にして変貌しているところを、兄上も私も直にこの目で見ておりますし」

「そうですよ。それに……レオニス卿の仰ることを、私達が疑うはずもありません」

「そうか……ありがとう」

元同業者としてレオニスに全幅の信頼を寄せるオラシオンはもちろんのこと、エンディもレオニスの言を全く疑うことなく信用している。

それは司祭杖の変貌を実際に目にしていることもあるが、それ以上にレオニスという個人に対しての大きな信頼があってこそだ。

レオニスにもそれが伝わってきて、ただただ二人に感謝した。

「さて、そうなると……この司祭杖はどうしましょうね?」

「大教皇、この司祭杖はラグナ教の方ではどういう扱いになっている?こんな部屋に適当に放り込んでおくなんざ、とても聖遺物の扱いとは思えんが……」

「ええ、私もこのプロステス支部にこのような重大な物品があるとは全く知りませんでした」

「ということは……悪魔幹部のみがその存在を知り、今まで秘匿してきたということですかね?」

「多分そういうことだろうな」

三人が司祭杖の扱いについて考えあぐねていると、エンディがぽん、と手を叩いて二人に話しかけた。

「でしたら、このままレオニス卿に預かっていただけば良いのでは?」

「……ラグナ教っつか、大教皇、あんたはそれでいいのか?」

「ええ、そもそも当代の大教皇である私ですら把握していない品ですからね。プロステス支部の者達も、悪魔幹部は既におりませんし」

「他の魔の者達も、この聖具室に一切入ったことはない、中を見るだけで怒鳴られる、と言ってはいたが……」

「つまり。この司祭杖のことを知る者は、ここにいる三人だけ、ということになりますね」

「兄上大正解!」

オラシオンに向けて明るく言い放ったエンディ、黄金色に輝く司祭杖の方に歩み寄り己の手に取る。

「この司祭杖からは、無限に溢れんばかりの大いなる聖なる気を感じます。これはおそらく、ラグナロッツァの神殿に祀られている聖遺物と同じ類いのものでしょう」

「あの【深淵の魂喰い】と呼ばれる魔剣か……『光と闇を行き来する狭間の剣』、だったか?」

「ええ、そうです。先程までの悍ましい状態が闇の魔杖で、今のこの神々しくも光り輝く様は光の聖杖に間違いありません」

変貌した司祭杖を、エンディは光の聖杖であると断言した。

確かにエンディの言う通り、その司祭杖はその色艶や形状だけでなく性質も様変わりしている。

レオニス達が聖具室に入った時、いや、入る以前から禍々しい邪気を放ちレオニスの魔力を喰らい続けていたが、今はそれが全く起きていない。

それどころか、エンディだけでなく賢者であるオラシオンや魔力の高いレオニスにも感じ取れるくらいに、黄金色の司祭杖からは聖なるオーラが溢れ出ていた。

「そんな代物を、俺が預かってもいいのか?」

「もちろんです。幸いにしてラグナ教はこの司祭杖の存在を全く把握しておりませんし、わざわざ新たな聖遺物の存在を明らかにすることもないでしょう」

「そうですね。知らなきゃ知らないでその方が好都合ですね」

「でしょう?兄上もそう思いますよね?」

「ええ。そもそも四帝の【賢帝】がこの司祭杖をレオニス卿にくれてやると言ったのならば、レオニス卿が持つべきでしょう」

オラシオンとエンディが、涼しい顔をしながらシレッと隠蔽方向に向かって話を進めている。

いや、確かに【賢帝】は俺にこの杖をくれてやる、と言ってはいたが……これ、一応聖遺物だろ?そこはラグナ教がガッツリ管理します!とか言い出すところじゃねぇの?二人とも、本当にそれでいいの?

などとレオニスは頭の中で考えつつ、二人の顔を交互に見ながら躊躇している。

そんなレオニスに、オラシオンが身体を向き直し改めて語りかける。

「この司祭杖は通行手形だ、と【賢帝】は言ったのですよね?」

「あ、ああ。通行手形で餞別だと奴は吐かしやがった」

「そして、来れるものならば我がもとに来よ、其の方が我が眼前に現れ辿り着く日を心より待ち望もう、とも言った」

「その通りだ」

「ならばこの杖は、ますます貴方が持っていなければなりません。いつの日か【賢帝】のもとに辿り着くためには、この司祭杖が通行手形として必要になるということです」

そう、この司祭杖をくれてやると言った【賢帝】は、確かに通行手形とも言っていた。

その言葉を額面通りに受け取れば、この司祭杖を所持していることが【賢帝】のもとに辿り着く条件、いわゆるフラグということになる。

「【賢帝】の目や意思を有した司祭杖が聖遺物ならば、おそらく他の四帝に対応した聖遺物も存在するはずです」

「それらも司祭杖同様、四帝のもとに辿り着くための通行手形の役割を持っている、と考えるべきでしょう」

「そして、この司祭杖がプロステスに存在していたのは偶然ではないでしょう。ここプロステス以外に悪魔幹部が潜んでいた拠点、エンデアン、ファング、そしてラグナロッツァの合わせて四ヶ所。四帝と数が合います」

「ラグナロッツァの神殿にも【深淵の魂喰い】という大剣の聖遺物がありますが、おそらくはこれも【賢帝】以外の四帝が操っている可能性が高い」

オラシオンが名探偵ばりの推理を次々と展開する。

その展開の早さに、呆気にとられながら聞き入るレオニス。

だが、オラシオンの言っていることは全て筋が通っており、聞いてて納得のいくものばかりだった。

「レオニス卿。貴方はこれから全ての聖遺物をその手中に収めねばなりません。しかも、魔の状態ではなく聖の状態で」

「そうなる、のか?」

「ええ。エンデアンやファングの聖遺物はこれから探し出すことになりますし、ラグナロッツァの神殿にある【深淵の魂喰い】をどのような方法で聖剣の状態にするのかもまだ分かりませんが」

「そこら辺は、これから改めて調査しなきゃならんな……」

ラグナ教に潜んでいた悪魔の調査が思わぬ方向に展開し、戸惑いを隠せないレオニス。

そんなレオニスに発破をかけるようにオラシオンが言い放つ。

「やらねばならぬことが山積みで、道は果てしなく長いものになるかもしれませんが……それでも私達はやり遂げねばなりません」

「今回遭遇した【賢帝】のみならず、廃都の魔城の四帝全てを斃し殲滅する―――それができるのは、レオニス卿。貴方をおいて他にはおりますまい」

「……!!」

オラシオンの放つ檄に、レオニスはハッ!とした表情になる。

8年前の廃都の魔城の反乱。あの悲劇が起きた時から、レオニスは己の生涯をかけて奴等を殲滅する、そう心に誓った。

そのための道のりが、少しづつではあるが目に見える形となって出てきている。

今回判明した聖遺物の正体のみならず、八咫烏のマキシに植え付けられた穢れによって世界中から魔力を搾取することで幾度も復活してきたことなど、廃都の魔城のからくりが徐々に露わになってきているのだ。

そのことに改めて気づかされたレオニスは、しばしの沈黙の後徐に口を開いた。

「……ああ、そうだな。廃都の魔城の奴等は俺が必ず殲滅する。だが……」

「俺一人じゃとても手が足らん。オラシオンも手伝ってくれるよな?」

無意識のうちにずっと握りしめていた拳を、レオニスはオラシオンの前に突き出す。

ニカッと笑いながら突き出されたレオニスの拳を、間髪置かずに同じく拳を突き出して応えるオラシオン。

「もちろんですとも。その時にはラグーン学園理事長の座を退いてでもお供しましょう」

「約束だぞ?」

「ええ、私も元がつくとはいえ冒険者の端くれです。男に二言はありませんよ」

レオニスとオラシオンの突き合わさった拳、それは冒険者同士の絆。

廃都の魔城の殲滅に向けて、思いを新たにしたレオニスだった。