軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第282話 『素』と『源』と『極み』

「ここが室内飼いの施設だ。水を好むアクアにブルー、クリアにモスグリーンがいる」

別棟の室内飼い施設に来たライト達。

心なしか声のトーンが明るくなったロルフの解説に、ライトはふむふむと相槌を打ちながら窓越しに室内飼いのスライムを眺める。

建物の中には大小様々な池のような作りの水場があり、そこでもスライム達は色ごとに固まって集まっているように見える。

ここにも見えない結界で居住の区分けをしているのだろう。

「これ、水は真水とか海水とかあるんですか?」

「アクアとクリアは真水、ブルーは海水、モスグリーンはヘドロ入りがそれぞれ好みだ」

「ヘドロ……確かに色はそっち系ですねぇ」

「ちなみにモスグリーンは、ヘドロやアオコで汚れた湖や河川の浄化作業に派遣したりもするんだ」

「水質浄化にもいいんですか!?スライムって本当に様々な種類がいるんだなぁ……」

スライムの色によって水の好みも変わるとは、なかなかに興味深い話だ。

しかも驚くことに、ぬるぬるやねばねばべたべたの生産だけでなく、モスグリーンスライムは水質浄化の働きまでするという。

人族側は水質浄化をスライムに任せることで費用を抑え、モスグリーンスライムも大好物のヘドロやアオコを存分に食せる。まさしく一挙両得にして素晴らしいWin-Win関係である。

水まんじゅうのようなぷるぷる感たっぷりのクリアスライム、真水の中ででろーんと伸びながら寛いでいるアクアスライム、見た目真水とほぼ変わらない海水の中でふよふよと浮いているブルースライム。

ちなみにモスグリーンスライムは現在水質浄化作業に貸し出されている最中だそうで、小さなサイズのスライムしかいなかった。もしかしてあの小さなサイズは、スライムの子供に該当するのだろうか?

どこを見てもそれぞれ個性があって、全く飽きることなく見続けていられるライト。

「あとは地下室だが、地下室も見ていくか?そっちも窓越しだが」

「もちろん見たいです!窓越しでも全然構いません!」

「そうか、ならば行こうか。こっちだ」

ロルフの言葉に、ライトは一も二もなくコクコクと頷く。

地下室への階段はターミナル本館?にあるため、一度本館に戻るという。

その道中、ロルフは地下室にいるスライムの解説をしていた。

「地下室で飼育されているのは、日光を好まないブラック、グレー、ブラウン、パープル、ホワイトがいる」

「ブラックやグレーが日光苦手なのは何となく分かりますが、ブラウンやパープルにホワイトも苦手なんですね」

「暗い色系のスライムは総じて日光嫌いだな。濃い色は日光を浴び過ぎると色焼けして、身体の色が抜けやすいんだ。ホワイトの場合は日光を反射する性質があって、他のスライムに影響を及ぼすことがあるから地下室での飼育になったらしい」

それぞれの特性の解説を聞いているうちに、ライト達は本館に到着した。

本館出入り口から本館に入り、地下室への通路がある扉を開くロルフ。

地下室への階段を幾度も曲がり、最低限の灯りしか灯されていない暗い中を下に降りていく。かなり深いところまで潜るようだ。

そうしてようやく辿り着いた地下室は、ほぼほぼ暗闇に包まれていた。

「スライム達の観察には、これを使うんだ」

階段を降りる前に、ロルフから事前に渡されていたゴーグルのようなものを目にかけるライト。

それをかけると、先程まで真っ暗だった目の前のものがくっきりと見えるではないか。

さすがに日光下のような天然フルカラーな視界ではないが、暗視カメラのようなものか、とライトは内心で納得する。

「おおお、ブラックスライムやホワイトスライムがいる……!」

ライトは小声で感動を洩らす。暗闇の中ではちょっとした音でもかなり大きく響いて聞こえるので、二人とも声を極力抑えつつの会話にしているのだ。

「ここにも区分けの結界が張られているんですか?」

「もちろん。どのスライムも混ざると大変なことになるからな。それに、地下室のスライムはホワイト以外は総じて短気で攻撃的なやつが多いんだ」

「そうなんですか……スライムの性格もいろいろあるんですねぇ」

確かに、のんびりと日光を浴びながらふよふよもっちゃり動いている外飼いのスライム達は実にのほほんとして見える。

ちなみに先程見たアクア等の室内飼いスライムは、水場の水質保持のためというのもあるが気性は外飼いのスライムよりも若干荒い方らしい。

なので、室内飼いスライムと外飼いスライムがトラブルを起こさないように、それぞれ隔離して防ぐ意味合いもあるのだそうだ。

「これでスライムは一通り見終えたが、本館に戻っていいか?」

「はい、ありがとうございます」

二人は階段を昇り、地上の本館に戻った。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「はーーーっ!楽しかったぁー!」

音の響く地下階段から出て本館に入ったライトは、背伸びしながら全身で喜びを表す。

「お疲れさま。楽しんでもらえたなら何よりだ」

「はい!ロルフさんの説明もとっても分かりやすくて良かったです!」

ニコニコ笑顔で答えるライトに、ロルフも小さく微笑む。

「あちらの売店では、スライム素材のぬるぬるやべたべたを使った製品を売っている。いろんなものが土産物として並んでて人気も高い。良かったら見ていくか?」

「!!……はい!!」

ロルフから土産物屋見学を勧められて、そういえば今日はねばねば系アイテムを探しに来たんだった!と本日の目的を思い出したライト。

早速ロルフとともに土産物屋の方に向かっていった。

「うわぁ……本当にたくさんの品物があるんだぁ」

ライトがこの飼育場の本館に一番最初に入ってきた入口からもちらっと見えた、土産物屋エリア。

見えたのは土産物屋の入口で、その奥行きはかなり広く様々な品が置かれていた。

「うちは基本的に業者向けに素材を卸しているが、こうした個人向けの商品も作っていてかなり人気が高いんだ」

「ぬるぬるの他にも、ねばねばやべたべたを使った品があるって聞きました」

「そっちは主に美容用品だな。ご婦人方には大変な人気だ」

ロルフの視線を追うと、そこでは数人の女性が品物を手に取り見比べている。その辺りが美容用品を置いてあるエリアなのだろう。

ライトにはなかなかに敷居が高く、すぐには行く勇気が出なかったので他の商品をぼちぼちと見て歩く。

ぬるぬるドリンクのノーマルタイプ全種類がずらりと並ぶコーナーや、ぬるぬる饅頭、ぬるぬるシャンプー&トリートメントなんてものもある。やはり一番採取できるぬるぬるの関連商品が多いようだ。

それらを眺めていくうちに、ライトにとって見逃せないものを発見した。

「ロルフさん!これって、どうやって使うんですか!?」

「ぬるぬる粉末にねばねば粉末か?それらは自分で好みのドリンクや化粧水なんかを作れるんだ」

「!!!!!」

その商品名は『ぬるぬるの素』『ねばねばの源』『べたべたの極み』、何とも微妙なネーミングセンスである。

だが、これこそが今のライトが最も必要としているものであり、今日この飼育場に来た目的でもあるのだ。

ぬるぬるはドリンクの素になることもあって、ノーマルカラーが多数並べられている。オレンジ味の橙、レモン味の黄色、ソーダ味のアクア、珈琲味のブラウン等々ずらりと並ぶぬるぬる粉末ラインナップ。その豊富さに、ライトは内心歓喜する。

ねばねばの方も各色取り揃えてあるようだ。

そして気になるお値段の方もチェックする。

ぬるぬるの素は大きめの袋入りで一袋100G、ねばねばはこぶし大サイズの袋入りで一袋250G、べたべたは親指の爪サイズの小瓶入りで一瓶500Gと表記されている。

商品の横の壁に張られている宣伝用の広告レシピを見ると、ぬるぬるの素一袋でドリンク20杯作れる、と書いてある。ねばねばやべたべたも、加える水の調整によって様々な濃度で作れてカスタマイズ性が非常に高いようだ。

それらの利点を考えると、値段もかなりお手頃価格のように感じる。

そして何よりライトにとってありがたいのは、化粧品エリアで化粧品漁りをせずとも目的の品物が買える!ということであった。

よーし、今後他のイベントでぬるぬるやねばねばを要求されてもこれで全部対応できるぞ!でもって、ナヌスやオーガの皆への良い土産にもなりそうだ。今度お土産にこれを持っていこう!などとライトは考えながら、各種ラインナップをじっくりと眺めていた。

そんなライトの熱心な様子に、ロルフが不思議そうに声をかける。

「何か買いたいものがあるのか?」

「はい!えーと、まずは緑のねばねばの源と、ぬるぬるの素の黄色や水色、赤色なんかが欲しいなー、と」

「まぁぬるぬるドリンク好きには必須アイテムらしいからな。粉末状態で売っているのもここだけだし」

ぬるぬるドリンクとしては数多出回っていても、粉末状態での販売はこの飼育場のみの限定販売らしい。直売所限定品というやつか。

目当ての品を買い物カゴに入れ、会計所の先客が三人ほど並ぶ列の最後尾につき会計の順番を待つライト。

その間に、ふとあることを思いついたライトがロルフに向かって質問をした。

「そういえば、スライムってノーマルだけじゃなくて特殊なのもいますよね?例えば氷の洞窟のアイスライムや、火山の火口付近に住むボルケーノスライムとか」

「そういった特殊スライムは飼育してるんですか?」

ライトに問われたロルフは、少しだけ驚いたような顔をした。

「小さいのにスライムの生態に詳しいんだな。冒険者を目指しているから、そういうのも事前に勉強しているのか?」

「あ、ええ、まぁ、そんなところです」

「先程ライトが挙げたものの他にも、サンダースライムやダークスライムなんかがいるが。そうした属性を強く持つものは人の手による飼育は難しい」

「あー、やっぱりそうですよねぇ」

「いや、多分やろうとしてできないこともないとは思うんだが。それらの属性を保つ環境作りにとんでもない費用がかかるんだ」

やはりそうだろうな、とライトは内心考える。

例えばアイスライムを飼育場で飼おうと思ったら、氷の洞窟の極寒を再現しなければならないだろう。

冷凍技術もないこの世界で、氷の洞窟の環境を再現かつ永続的に保つのはコスト面でも技術面でも現実的ではないのだ。

会話をしているうちに会計の順番がきて、買い物の精算を終えて無事目的のものを買えたライト。その顔も自然と綻んでくる。

「ロルフさん、今日は案内してくれてありがとうございました!とっても楽しかったです!」

「ああ、こちらこそ今日は良い一日だった。心から感謝する」

「もっとスライム達を観察したいので、また来ますね!」

「ああ、いつでも歓迎する」

ロルフに丁寧な挨拶をもらい、戸惑いながらも念願のねばねばゲットでホクホクのライトは上機嫌のままスライム飼育場を後にした。