軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第267話 父母との再会

ラウルに背負われて登った大神樹ユグドラシア。

かなり上に登ったはずだが、未だに一番下の枝にさえ辿り着かない。ようやく枝の生い茂るエリアに入るも、枝の一つ一つが普段ライトが住むカタポレンの森の家の近くに生えている木々の幹よりも太く見える。

そしてその枝の太さが衰えることなく、どこまでも天に向かって続いている。

何と雄大な神樹なんだろう―――ライトはラウルの背で息を呑みながら感動していた。

「ラウルちゃん、ライトちゃん、こっちよ。ここに来て」

ミサキの案内で大きな鳥の巣に入ったライトとラウル。

ラウルの背から降りたライトは、あまり下を見ないようにしてその場所に座る。

すると、先程までは感じなかった温かいオーラのようなものに包まれていることに気づくライト。

これはあれか、先程大神樹ユグドラシアがライトにのみ言っていた『決して落ちないように支える』を実践してくれているのか。

「ここね、ワタシのお部屋なの。あ、ちなみにマキシ兄ちゃんのお部屋はすぐ右よ」

「ケリオン兄様のお部屋は左斜めにあるわ」

何とこの場所はミサキの部屋らしい。部屋といっても、人間が建てる家屋のような壁や間仕切りなどはない鳥の巣のだが。

そして周囲を見回すと、いくつもの同じような巣が見受けられる。その一つ一つが族長一族の部屋?なのだろう。

実際にミサキが言っていたマキシやケリオンの部屋?には、それぞれ既に部屋の主がちょこなんと座っていた。

「ここには他の兄様姉様達のお部屋もあってね、基本的に子供部屋がある層なの」

「父様と母様のお部屋は、ここよりもっと上にあるのよ」

「父様はさっき兄様姉様達を呼びに出たから、もう少ししたら帰ってくると思うけど」

「母様が先にこっちに来ると思うから、ライトちゃんもラウルちゃんももう少しここで待っててね!」

ミサキがニコニコ笑顔でライト達に解説してくれている。

だが、ライトとしては気が気ではない。

え、ここ、ミサキちゃんのお部屋なの?女の子のお部屋に、ぼくやラウルがお邪魔しちゃってもいいものなの?

これ、お父さんに見つかったら即絞め殺されるヤツじゃね?

ぃゃぃゃ、ここまで来て死亡フラグとその完成はご勘弁願いたいぞ……そうだ、今のうちにマキシ君のお部屋に移動した方が―――

そんなことを考えていたら、上空から突然声が聞こえてきた。

「マキシ!」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その声の主は、マキシやミサキの母にして族長の妻アラエルだった。

アラエルは真っ先にマキシのもとに向かい、両翼で思いっきりマキシを抱きしめた。

「マキシ、ああ、本当にマキシなのね!」

「マキシ、今までどこに行ってたの!私だけでなくお父様もそれはそれは心配してたのよ!?」

「でも……マキシが無事で本当に良かった……」

涙ながらに我が子を抱きしめるアラエル。

ミサキはもちろんマキシよりも大きいケリオンをもはるかに上回る、立派な体躯。『むっちり』『ムチムチ』『プリップリ』、これはマキシ達一族のデフォルト体型なのだろうか?

マキシ以上に豊満な体躯で、ギュッと抱きしめられるマキシ。いや、ギュッどころかギュウギュウのギッチギチと表現した方が正しいか。

「か、母様……く、く、苦しいれす…………キュウ」

身体とともにプルプルと震えるマキシの声音は、本当に窒息寸前のようだ。

それを見たケリオンとミサキが、慌ててマキシ達のもとに駆け寄る。

「母様!再会が嬉しいのは分かりますが!マキシが窒息してしまいます!」

「え!?窒息!?あらヤダ、私ったら何てことを」

「マキシ兄ちゃん、大丈夫!?」

「……ゥキュゥ」

半ばグロッキー状態のマキシ、その場にヘロヘロと倒れ込む。

「ああ、マキシ、ごめんなさい……母様が今すぐ治してあげるからね」

アラエルはそう言うと、今度は両翼でふんわりとマキシの身体を包み込んだ。

アラエルの両翼の内側から、淡く温かい光が輝いている。これは回復魔法の類いだろうか。

しばらくそうしていると、マキシの体調も良くなってきたのか何とか起き上がることができてきた。

「ふぅ……母様、ありがとうございます。そして……心配かけてしまってごめんなさい」

「マキシ、母様の方こそごめんなさい。貴方がこの里に帰ってきてくれたことが嬉しくて……本当に、もう二度と私達のもとには帰ってこないかもって思ってたの……」

「母様……」

アラエルがポロポロと涙を流しながら、マキシに対して謝る。

マキシがこの八咫烏の里を飛び出してから、思えば半年近くが経過していた。

その間ずっと、こうして母に心労を負わせていたのだと思うと、マキシも改めて申し訳ない気持ちになる。

二羽が無言のまま抱擁していると、今度はアラエルよりもさらに大きな体躯の八咫烏がマキシ達のもとに飛んできた。

「マキシ!」

「……父様……」

「ああ、その顔をよくみせておくれ。本当にマキシなんだね?」

「はい。僕は紛れもなくウルス父様とアラエル母様の四番目の息子、マキシです」

その八咫烏は、マキシの父親にして八咫烏一族族長のウルスだった。

その大きな翼の先端でマキシの頬をそっと撫でるウルス。

久方ぶりに顔を合わせた父と子、積もる話もたくさんあろう。だがウルスには、いつ何時であっても族長としての務めを果たさねばならない立場がある。

その責務としての一環なのか、マキシの隣にいたライト達に目を向けた。

「……そこの客人は、マキシが連れてきたのかね?」

「はい。二人とも僕の恩人です」

「そうか。マキシにも客人にもいろいろと話を聞かねばなるまい。ここは手狭だ、客人とともに議場の方においで」

「分かりました」

二羽はそう話すと、マキシはライト達に向かって話しかけた。

「ラウル、申し訳ないけどまたライト君を背負って連れてってくれる?」

「おう、任せろ」

「そしたら僕についてきてね」

そう言うと、マキシ達は議場のある方に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そこは、先程までライト達がいた子供部屋?から見て幹の向こう側、対角線上にあった。高度も子供部屋より議場の方が上にある。

先程の子供部屋エリアのように、八咫烏が翼を納めて座れる鳥の巣がたくさん設置されている。しかもそれらが多数密集して、扇形に広がっている。まるで本物の議場か裁判所のようだ。

議場と言うくらいだから、複数の八咫烏達を交えての話し合いや会議などをここで行うのだろう。

「客人達はこちらにお座りくだされ」

ウルスの言に従い、ライトとラウルはその議場の扇の要部分の巣に座る。

ラウルの「ライト、ほれ、こっち来い」という言葉にも素直に従うライト。ラウルの胡座の真ん中にすっぽりと収まって座る。

これなら大神樹ユグドラシアのサポートと合わせて、ライトが下に落ちる心配はさらになくなる安心安全の鉄壁ガードだ。

だがしかし。何というか『こたつで膝に抱えられながら、二人仲良くお正月のTVを観るおじいちゃんと孫』のような図である。

いや、そこはせめて父と子にしてやらねばあまりにもラウルが可哀想かもしれない。年齢的には祖父どころか、曽祖父や高祖父でも何ら問題はないのだが。

そしてライト達のすぐ右隣の巣にマキシも座る。

マキシの向こう側にはミサキ、後ろ側にはケリオンが座る。

マキシはライト達とともにこれまでの経緯を話すために隣に座り、ミサキはマキシを心配してマキシの横に座り、ケリオンはそんな二羽を見守るために後ろに座ったのだ。

父ウルスは議場の扇の先端部分に座る。そこが八咫烏一族の族長が座る指定席なのだろう。

そして位置的にはライト達のド真ん前、学校の教室に例えるとウルスが教壇でマキシ達は最前列中央の席だ。要はガッツリ尋問する気満々である。

ちなみに母アラエルは、父ウルスの真横より少し斜め後ろにいる。議長席は恰幅の良いウルスとアラエルがともに座れるくらいの、広々とした席なのだ。

おそらくは普段の会議でも、族長夫妻としてその席についているのだろう。

「今他の兄弟姉妹達もここに向かってきておる。皆が揃うまで待ちなさい」

聞けば他の兄弟姉妹達も、ケリオンのように里の警備に就いているのだという。

東西南北の四方向だけではなく、南北を軸に北西と北東、南西と南東の六方向で警備を振り分けているのだとか。

人族のように城壁や城塞を建てる訳ではないので、人族の言う警備とはだいぶ体制も違うようだ。

そんな話を聞いているうちに、マキシの兄弟姉妹であろう八咫烏達が続々と議場に集まってきた。

皆マキシのもとに一番に駆け寄ってきては「マキシ!」「心配したんだぞ!」と声をかける。マキシが語っていたように、本当に仲睦まじい家族のようだ。

そして最後にほぼ同時に議場に到着した、二羽の八咫烏。

体格的には父母に敵わないが、兄弟姉妹の中では最大級の大きさだ。おそらくは長兄フギンと長姉ムニンであると思われる。

二羽はとんでもなく鋭い視線を、それはもう容赦なくギロリとマキシに向ける。

そのあまりの圧に、マキシは涙目になりながらも視線は外さない。

「フギン兄様、ムニン姉様…………」

「この……大馬鹿者がッ!!」

「よくものこのこと戻って来れたわね!!」

特大の雷が二羽からマキシに向けて落とされる。

大神樹ユグドラシアの太い枝すらもビリビリと揺れる大喝に、マキシはビクン!と飛び上がった。

「我らに一言の相談もなく黙って里を出奔するとは、いい度胸だ!!」

「本来なら勘当されて、一族との縁を完全に切られても仕方のないことなのよ!?生きて再び里の地を訪れることなど到底許されないわ!!」

「父様母様はお優しい方々で言えないだろうから、私達が代わりに言うが」

「あんた、今すぐここから叩き出されても文句は言えないんだからね!?」

二羽のあまりの剣幕に、マキシはただただひたすら涙目のまま縮こまる。

フギンとムニンが一頻り怒鳴り終えた後、しばし静寂が横たわる。

そしてその静寂を破る言葉は、マキシの左隣から発せられた。

「おう、安心しろ。貴様らにとやかく言われずとも、今日を限りにマキシはもう二度とここには戻らん」

静かなる怒気を孕むその言葉を発したのは、誰あろうマキシの唯一無二の親友ラウルだった。