軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第264話 マキシの兄と妹

「ケリオン兄様……」

己の名を呼んだ新手の八咫烏を見て、マキシが呟いた。どうやらその八咫烏は、ケリオンという名でマキシの兄らしい。

その八咫烏は、治安部隊の兵達が転がっているあたりに近づきふわりと着地した。

そして兵達の様子を見ながら、ぽつりと呟いた。

「これは……マキシがやったのか?」

「……はい。僕はマキシだとちゃんと名乗ったんですが、信じてもらえなくて……それどころか他所者と判断されて「侵入者は排除する」とまで言われて襲いかかってこられたので、迎撃したまでです」

「……そうか」

ふぅ、と小さなため息をついた後、ケリオンはマキシのもとに近づいてきた。

「マキシ……今までどこに行ってたんだい?私達兄弟姉妹はもとより、父様や母様だってそれはもうずっと心配していたんだよ?」

「ケリオン兄様……ごめんなさい」

ケリオンと呼ばれた八咫烏の艶やかな漆黒の羽根が、マキシの頬をそっと撫でる。体格的にはケリオンの方がマキシより若干大きいようだ。

久しぶりに会えた兄弟からの優しい出迎えに、マキシは申し訳なさそうに俯いた。

「私よりもまず先に、父様と母様に無事を知らせて謝りなさい」

「はい……」

「そしてフギン兄様とムニン姉様にも、こってり絞られてゲンコツを頂いてきなさい」

「……ッ……はいぃ……」

ケリオンはマキシに優しく諭す。

マキシも父母に無事を知らせて謝れというところでは神妙な顔つきで頷いていたが、兄と姉に絞られゲンコツをもらえというところで瞬時に涙目になりプルプルと震える。

よほど厳格な兄姉なのだろうか。

「そして……いっしょに連れてきたこの者達は?」

ケリオンがライトとラウルの方を、ちろりと見遣る。

「黒髪の青年の方はラウル、妖精族のひとつプーリア族出身の妖精です。もともと僕のカタポレンでの唯一無二の友達で、今は僕といっしょに人族の街のとあるお屋敷に住んでいます」

「小さい人族の子供の方はライト君といって、僕がラウルとともに人族の街で過ごしているお屋敷の子で、いつもとてもお世話になっています」

「二人とも今回僕が八咫烏の里に帰るにあたり、とても心配していっしょについてきてくれたんです」

「彼らは僕の恩人です。僕自身は何と言われようと構いませんが……彼らに危害を加えたり侮辱することだけは、絶対に許しません」

マキシはケリオンの質問に、丁寧に答える。

マキシの口から紹介されたライトは、その場でペコリと頭を下げた。ちなみにラウルは仏頂面で棒立ちのままである。

マキシの答えを聞いたケリオンは、ふむ……と言いながら改めてマキシの方に向いた。

「お前が恩人だと言うならば、私達家族にとっても大事な客人だ。粗末な扱いは決してしないと誓おう」

「ケリオン兄様、ありがとうございます」

「ただし。こんな騒ぎを起こしたからには、その対処に全員きちんと付き合ってもらうよ?」

「はい、分かってます」

「では、マキシは彼らとともに先に家に帰って父様と母様のところに行きなさい。私達は治安部隊の兵達の手当の応援などを呼んでくる」

「分かりました。ラウル、ライト君、僕についてきてください」

マキシとケリオン、二羽同士の会話が済むとそれぞれ別方向に動いていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

里の中をマキシの案内で進んでいくライト達。

初っ端が先程のあれだったので、キャイキャイとはしゃぎながら歩ける雰囲気は毛ほどもなく、皆無言のまま歩く。

里の中は異様なまでの静けさに包まれていて、時折そよ風に揺らされる木々の葉擦れの音が微かに聞こえてくる程度だ。

だが、その静けさの中を歩くライト達に強烈な視線が多数向けられていた。

大きくて立派な木々から発せられる、ライト達をじっと見つめる数多の不躾な視線。木々の深い緑でぱっと見には分からないが、おそらくは他の八咫烏族達からの視線なのだろう。

全く隠そうともしないそれは、子供のライトにすらありありと感じ取れるほどのものだった。

しばらくいくと、一際立派な巨木が見えてきた。

遠目からでもはっきりと分かるその大きさは、おそらくこの八咫烏の里で最も高く、大きく、全てにおいて最上位に君臨する大樹なのだろう。

そこに辿り着くよりだいぶ前の地点で、巨木から一羽の八咫烏が飛び出してきた。

「マキシ兄ちゃん!」

一目散でマキシに抱きついてきた八咫烏。

それは、マキシの双子の妹ミサキだった。

ミサキはマキシの名を大声で呼ぶなり、ガバッ!と抱きついた。

「ミサキ、久しぶりだね」

「マキシ兄ちゃんの馬鹿バカ馬鹿ッ!どこ行ってたの!?ずっとずっと心配してたんだよッ!?」

「……ごめんね。皆に心配ばかりさせて、迷惑かけて……」

「違う!家族なんだから、迷惑じゃなくて心配するの!」

「そっか……ありがとう」

翼をゲンコツのように丸めてポコポコとマキシの胸元を叩く、双子の妹ミサキ。目をギュッと閉じ涙を流しながら叩くその様は、まるで擬人化されたゆるキャラのようで何とも微笑ましい。

いや、怒っている方からしたら、微笑ましいなんて思われたと知れば余計に怒り狂いそうだが。

「マキシ兄ちゃんが帰って来たこと、早く父様や母様にもお知らせしないと!!……ッて、ん?後ろにいるのは、ヒト?誰?」

ミサキがライトとラウルの存在にようやく気づき、マキシに問うた。

「大きい方は妖精族のラウル。小さい方は人族のライト君。どちらも僕の大事な友達で、恩人だよ」

「そうなのね!マキシ兄ちゃんの恩人でお友達なら、ワタシにとってもお友達ね!」

「そう、だからミサキもラウルやライト君と仲良くしてね」

「もちろんよ!ラウルちゃん、ライトちゃん、ワタシはマキシの妹でミサキっていうの。よろしくねッ!」

ニッコニコの笑顔でライト達に近づいて、両の羽根をライト達に向けてそれぞれ出す。

これは、握手を求めているようなもんかな?と思ったライトは、ひとまず羽根をそっと握り話しかけた。

「ぼくはライトといいます。先程マキシ君が言っていたように、お友達として良くしてもらってます」

「もともとマキシ君はラウルの親友で、ラウルがぼくのいるおうちで執事として働いてて。マキシ君はラウルを探して、カタポレンの森を飛び出したって聞いてます」

「で、マキシ君もやっとラウルを探し出せたはいいけど、ずっと具合が悪くて……ここら辺は後でマキシ君自身が皆に説明すると思うけど」

「今はだいぶ具合も良くなり、ラウルといっしょにぼくのいるおうちに住んでいます」

そこまでライトが話すと、それまでじっと静かに話を聞いていたミサキはペコリと頭を下げた。

「ライトちゃんはマキシ兄ちゃんを助けてくれたんだね。ありがとう」

「そこのお兄さん、ヒツジのラウルちゃん?もありがとう。ラウルちゃんのことは、以前からマキシ兄ちゃんの話でよく聞いてたよ。マキシ兄ちゃんの一番のお友達だって!」

頭を上げてニコニコとお礼を言うミサキ。言動は若干幼めだが、それでも礼儀正しくきちんとお礼が言えるところはマキシによく似ている。

「ん……俺はヒツジじゃない、妖精だ。シツジという仕事をしているんだ」

「ン?そなの?ヒツジさんじゃないの?」

「それは全く別の生き物だろう……」

「そうかな?黒い巻き髪のヒツジさん、可愛いと思うよ!」

これまたニコニコとしながら宣うミサキに、がっくりと項垂れるラウル。

マキシの双子の妹で女の子のミサキには、普段レオニスに接する時のような強い態度には出られないのだろう。紳士なラウルと言えばラウルらしい。

「でもね……ワタシもいつかラウルちゃんに会いたいって、ずっと思ってたんだ!だってマキシ兄ちゃんのお友達だもん!」

「それにね、ラウルちゃんと外で遊んだ時のことを聞かせてくれるマキシ兄ちゃんはね、それはもうとっても楽しそうにお話してくれるの!」

「だからね、いつかお礼を言いたかったの。ラウルちゃん、本当にありがとう」

実妹にラウルとのことを楽しそうに語っていたことを暴露されたマキシ。だが、マキシにとってそれは単なる事実なので痛くも痒くもないのだ。

故にマキシはミサキ同様にニコニコと笑顔を浮かべているし、それを横で聞いていたライトもほのぼのと微笑んでいる。が、何故かラウルだけがほんのりと赤面している。

「マキシ、お前……俺のいないところで何をそんな楽しそうに話すことがあるんだ?」

「お前、まさか俺のことで何か変なこと言ってないだろうな?」

突如挙動不審になるラウルに、マキシはきょとんとした顔になる。

「え?僕、ラウルのことで変なことなんて言ってないよ。ねぇ、ミサキ?」

「うん!聞いているワタシも楽しくなって嬉しかったことくらいしか覚えてない!」

「だよねぇ。僕が話せるラウルとの思い出なんて……ラウルが木の実目当てに大木のてっぺんまで登って下りられなくなって、僕が下りる手伝いしたとか、巌流滝で水遊びしてたら服全部流されちゃって素っ裸で家帰ったとか……それくらい?あ、あとは」

「わーーーッ!マキシ、そのくらいでやめろ!俺が恥ずか死してもいいのか!?」

「ンガムゴゴ……」

過去の思い出話をつらつらと語るマキシの嘴を、慌てて両手でガッシリと押さえ込むラウル。

そこまで慌てふためくほどの黒歴史ではなさそうに思うのだが、そこら辺は暴露された側の感性にもよるか。

そして、そんなわちゃわちゃした光景をライトはとても嬉しそうに眺めていた。

「マキシ君の思い出話、ぼくも聞きたいな!今度聞かせてくれる?」

「え?もちろんいいですよ!僕の失敗談もたくさんありますし、早速今晩にでも……」

「話すならマキシ、お前の失敗談だけにしとけ!俺を巻き込むな!」

ラウルがなおも抵抗する。だがライトとマキシは、数秒だけラウルの顔をじーっと眺めてからフィッと同時に互いの顔を見合わせつつ、ニコニコ笑顔で話はさらに盛り上がる。

ラウルの抵抗はどうやら無駄なようだ。

「じゃあ今晩は、僕達のカタポレンの森での思い出話大会といきましょうか!」

「うわー、すっごく楽しみ!ぼくまだマキシ君やラウルの小さい頃のお話とか、全然聞いたことないし」

「そうですねー、改めてお話したことはまだなかったですかねー」

「マキシ、頼む、お前の話だけにしといてくれ……」

「え?僕の失敗談のほとんどにラウルも出てくるよ?というか、僕の思い出話にラウルが絡まないことなんてほぼないんじゃないかな?」

「…………」

マキシにそう言われてみれば思い当たる節しかないことに、ラウルもがっくり四つん這いで項垂れる。

「ねぇねぇ、マキシ兄ちゃん!その思い出話大会、ワタシも聞きたい!今夜は皆といっしょに寝ていい?」

「もちろん!……あ、でも父様と母様のお許しが出たら、ね?」

「うん!ちゃんとお願いして、きちんとお許しもらってくる!」

ミサキも思い出話大会参加希望のようだ。

確かに実兄の失敗談を聞きたがらない実妹などいないだろう。仲の良い兄妹ならば、なおのことである。

「ラウルの格好良い活躍話とかもあるよ!だからラウル、そんなに心配しないで、ね?」

「……俺様の格好良い活躍話だけで頼む……」

今まで見たこともないラウルの姿に、ライトは二人の絆の深さを改めて感じ嬉しくなるのだった。