軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第260話 シグニスとプテラナ

「お兄さん!翼竜のお世話係ですか?」

ライトは翼竜に向かう青年を呼び止めた。

先程の受付嬢と同じく、ショートの黒髪にピンと立った三角形の黒い猫耳と細く長い尻尾が作業ズボンからピコピコと出て揺れ動いている。年の頃は二十歳前後か。

黒髪に黒い猫耳だけでなく、面立ちも受付嬢と似ているように見える。もしかして兄妹だろうか?

「ん?オレのこと?」

「そう、黒い猫耳のカッコいいお兄さん!」

「カッコいい?よせよー、照れるじゃねぇか!」

「そう?ぼく本当のことしか言わないよ?」

「そうか、ならしゃあないな!オレ本当にカッコいいもんな!」

ライトも大概だが、この黒猫耳の獣人族の青年もなかなかに軽いノリである。

だが、親しみやすさも抜群ですんなりと世間話に入れた。

「お兄さん、翼竜のところに何を運んでいくんですか?」

「おう、これはこいつらの朝ごはんさ」

獣人族の青年が牽いていたリヤカーの荷台を、ライトがヒョイ、と見た。

するとそこには、翼竜に与えるであろう餌が山と積まれていた。主に巨大な昆虫系魔物、おそらくはビッグワームがてんこ盛りである。

それを見たライトの口から、思わず「うひょー!」という声が洩れた。

ライトは長らく森の中に住んでいるため、ビッグワーム程度では何とも思わないが。虫が苦手な人や女の子達がこれを見たら、間違いなく大絶叫からのマジモン失神コースだろうなー、とライトは思う。

「たくさん食べるんですねぇ」

「そうさ、こいつらにはいつも頑張ってもらってるからな。今日も朝ごはん食べてしっかり働いてもらわなくちゃな」

「このビッグワームが翼竜の好物なんですか?」

「んー、絶対にこれしか食わないって訳ではないがな。基本的に何でも食うが、虫系は好きみたいでよく食ってくれるんだ」

「へー、そうなんですねー。ぼく、翼竜を見るのも初めてなんです」

翼竜の前まで来た獣人族の青年は、荷台を翼竜の目の前に向けて置く。

ご飯を出された翼竜は、早速もっしゃもっしゃとビッグワームのぶつ切りをモリモリ食べている。

その食べるスピードの早さたるや、目を見張るものがある。翼竜の表情も、心なしか嬉しそうな満足しているような顔に見える。

「まぁあとは、魔物の肉の中ではビッグワームが一番調達しやすいってのもあるんだよな」

「あー、翼竜籠便で飼ってる翼竜は一頭だけじゃないみたいですもんねぇ。たくさん飼ってるなら、その分ご飯もたくさん用意しなきゃならないでしょうし」

「そゆこと。お前さん、ちっこいのに賢いねぇ」

ビッグワームは特定の生息地などなく、それこそ本当に至るところで発生するイモムシ型の魔物だ。

強さで言えば最弱の部類に入るし、冒険者になりたての新人初心者ですらちゃんとした武器防具を装備するだけで簡単に狩れる。

ただ、その分繁殖力が半端なく強いのだ。それ故に少し油断するとすぐに大発生し、数の暴力に至りやすい。

そうした問題を増やさぬように、冒険者ギルドでは年中ビッグワーム狩りの依頼が常時貼り出されているし、新人冒険者にも積極的に斡旋している。

あー、あのビッグワーム狩り依頼の成果?はこういうところで処理されているんだ。あんだけ大量のビッグワームを、一体どうやって処分しているのかと思ったけど。翼竜や家畜の餌にするって方法もあるんだなー。

冒険者ギルドは新人冒険者育成も兼ねて、ビッグワームの大量発生を事前に抑えられて一石二鳥。翼竜籠便のように大量の餌が欲しい業者にも、飼料が安く入手できて万々歳。

まさしく両者Win-Win完全勝利ってことだな!

獣人族の青年の話を聞き、社会の循環の一端を見たライトは内心で感心する。

ライトと獣人族の青年は、翼竜の食事を邪魔しないために少しだけ離れたところで声を控えめにしながら会話する。

「ところでお前さん達は、今日のお客さんかい?」

「はい。7時出発の巌流滝行きの便で、三人乗りの予約です」

「おっ、そうか。そいつはオレが担当の便だ。よろしくな!」

「あっ、そうなんですか?こちらこそよろしくお願いします!」

何とその獣人族の青年が、今からライト達が乗る翼竜籠の飛だ御者という。

「お兄さんのお名前は、何というんですか?」

「オレか?オレの名はシグニス。そして相棒の翼竜の名はプテラナだ」

「プテラナはオスとメス、どちらですか?」

「ん?プテラナの性別か?一応メスだが」

「じゃあプテラナちゃんですね!シグニスさん、プテラナちゃん、改めてよろしくお願いしますね」

そう言うと、シグニスだけでなく翼竜のプテラナにまでペコリと頭を下げるライト。

一体何でまた翼竜の性別なんかを聞くんだ?と不思議に思ったシグニスだったが、まさか敬称をつけて名を呼ぶために質問したとは思いもよらなかったようだ。

その面白くも不可思議なライトの感性に、シグニスは思わず笑ってしまう。

「プテラナちゃんって……翼竜にそんな気を遣わなくてもいいのに」

「いいえ!プテラナちゃんには、ぼく達三人を乗せた籠を巌流滝まで運んでもらうんですから!そこは敬意を払わないと!」

「敬意……お前さん、ホントに面白ぇ子だなwww」

シグニスは笑いを堪えきれず、くつくつと笑う。

そんなシグニスの様子に、ライトは「えー、そうですかー?」とか言いながら少しだけむくれている。

そして二人がのんびりと会話しているうちに、翼竜プテラナの食事が終わったようだ。

「……さ、プテラナの朝飯も済んだし。このリヤカーを片付けたらぼちぼち出発だ」

「分かりました!ぼく達はどこにいればいいですか?」

「案内所の横に、いくつか籠が見えるだろ?あの中の青色の籠、あれが今日お前さん達三人を運ぶ籠だ。そこの前で待っててくれ」

「はい!」

気がつけば、もうそろそろ出発時間が迫っていた。

翼竜籠ターミナル案内所に戻る道すがらでも、ライトとシグニスは話に花を咲かせている。

「そういやお客さん、お名前は何てんだ?オレ達だけ名乗ってお客さんの名は知らないってのも、何だか失礼な気もするから良ければ教えてくれ」

「ぼくはライト、あちらにいる背の高い方はラウル、もう一人はマキシ、といいます」

「そうか、ライトにラウルにマキシね。空の旅が良いものになるよう、オレ達も頑張るからよろしくな」

「はい!」

シグニスはそう言うとリヤカーを倉庫に仕舞いに行き、ライトはシグニスに言われた通りに翼竜籠ターミナル案内所の横にある青色の籠の前でラウル達とともに待つことにした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「まず、注意事項な。飛行中は籠の中での移動は極力控えてくれ。絶対にするなとは言わんが、間違っても飛び跳ねたりなんぞしないように。飛んでいる間に籠の重心やバランスが崩れまくると、翼竜が掴んでいる足からポロリと籠ごと落っことしかねないからな」

「次に、巌流滝までの移動時間は7時間を予定している。その間二回の休憩時間を挟む。10時に翼竜の休憩と乗客のトイレ休憩15分、12時に昼飯30分で休ませてもらう」

「籠内には御者のオレに連絡できるボタンがある。ボタンを押せば、オレの腕輪が振動して知らせてくれる。ボタンを押している間会話もできるスグレモノだ。何か緊急事態が起きたら、すぐに教えてくれ」

「ちなみにこの連絡ボタンでオレから籠内に連絡する場合もある。休憩時間で地面に降りる時や、あとは滅多にないが空中で他の飛行生物に遭遇した場合なんかだな」

「とりあえずオレからはこんなところだが。お客さん達は何か質問はあるか?」

シグニスからの注意事項説明が一通り済んだ。

ライトはラウルやマキシと顔を合わせつつ頷き合う。

「特にありません……あっ、ひとつだけあります」

「何だ?」

「籠の中での飲食はしてもいいんですか?」

「あー、酷く汚したりしない限りはいいぞ。ただし、水分は摂り過ぎないようにな。急激な腹痛とかでも起きない限り、トイレ休憩増やす予定はないからな」

「分かりましたー」

遠足にはおやつがつきものだ。籠という狭い空間で6時間も過ごす長旅ならば、おやつをつまみたくなるのも当然である。

それに対しシグニスは常識の範疇で許可するが、ふと何かを思いついたように追加の注意事項を加える。

「あと、そうだな……飲食に関してひとつだけ注意がある」

「何ですか?」

「あまり美味しそうな匂いをさせると、うちのプテラナが注意力散漫になっちまうかもしれんからそこだけは勘弁な」

「はい、気をつけます!」

シグニスがニカッと笑いながら話す。

若干ジョークっぽい雰囲気も混ざってはいるが、確かに仕事中に美味しそうな匂いが漂ってきたら翼竜の理性を掻き乱してしまうだろう。

それはさすがに忍びないというか、プテラナが可哀想なのでライトも極力注意することを誓う。

「他には質問ないか?なければ出発するが」

「大丈夫です!」

「よし、じゃあ行くか」

時刻は朝の7時少し前。ちょうど時間通りの出立だ。

ライト達はシグニスに指定された青色の籠に乗り込み、シグニスが御者を務めるプテラナの翼竜籠便が空に飛び立った。