軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第258話 小さな策士と正義の人たらし

その日の晩は、ラグナロッツァの家に泊まることにしたライト。

翌日からラウルとともにマキシの八咫烏の里への里帰りに同行するので、その打ち合わせもしておかなければならないのだ。

また、八咫烏の里へ行くための翼竜籠もラグナロッツァの郊外から発着するという都合もある。

「マキシ君、家族へのお土産はもう十分に買えた?」

「はい、おかげ様でアイギスで良い物をたくさん買えました!」

「そっか、それは良かったね!忘れ物のないように、ラウルの空間魔法陣に入れてもらった?」

「おう、そこら辺も抜かりなく済ませてあるぜ」

三時のおやつをのんびりと食べながら、あれこれと話に花を咲かせるライト達。

本日のおやつは『小豆と栗たっぷりお汁粉』である。

「あ、そういえばラウルにお願いがあるんだ」

「ん?何だ?」

「今日ね、ハリエットさんにラウルのアップルパイをお土産に欲しいって言われたんだー」

「ウォーベック家からの依頼か?」

「うん、ハリエットさん達は一家でお正月をプロステスで過ごすんだって。何でもプロステスがウォーベック家の本家領地で、伯父さんが領主らしいよ」

「ほう、そうなのか。領主への手土産に俺のアップルパイをご指名とは光栄だな」

ライトが事情を話すと、ラウルもまんざらでもなさそうだ。

「今から何個作れる?領主のお家に持っていく手土産だから、さすがに1個じゃ済まないと思うんだよね」

「そうだな……空間魔法陣に入れてあるやつで良ければ、ホールで10個はあるが」

「じゃあ、それ全部もらえる?材料費は後でレオ兄ちゃんからももらっておいていいよ」

「了解」

ハリエットのリクエストに応えることができそうなことに、ライトはひとまず安堵する。

そんな話をしていると、ちょうどレオニスが食堂に入ってきた。

「おー、俺の分のおやつはあるかー?」

「おう、ご主人様の分くらいいつでも出せるぞ」

「さすがだラウル、んじゃよろしく頼む。俺はまたこれから冒険者ギルドに行かなきゃならんから、あまりゆっくりしてもいられんが」

そう言うと、レオニスはライトの横の席にドカッと座る。

どうやら今回はおやつのためにちょっと寄り道したようだ。

ラウルは空間魔法陣から熱々の栗ぜんざいを一膳出し、箸とともにレオニスの前に置く。

「レオ兄ちゃん、ちょうどいいところに帰ってきてくれたね!」

「ん?何だ?どうした?」

「実はレオ兄ちゃんに話しておきたいことがあってさ」

ライトは絶好のタイミングで帰宅したレオニスを褒める。

突然褒められて何のことだか分からないが、とりあえずぜんざいを頬張りながらライトの話を聞くレオニス。

ライトは先程ラウルに話したアップルパイの話をレオニスにも伝え、その先の密かな案を話しだした。

「でね、ハリエットさんがお正月を過ごすのって、プロステスなんだって」

「ほほう、プロステスか……」

「しかもね、ハリエットさんの伯父さんはプロステスの領主なんだって」

「何!?本当か!?」

ライトの話を聞き、レオニスは驚きの声を上げる。

ウォーベック家はレオニス邸のご近所さんだし、プロステスの領主の名もウォーベックだからそれくらいレオニスも知っていて当然、と考えてはいけない。

レオニス達は普段プロステスに一切縁もなく、レオニス自身貴族のあれこれなどよほどの事情に迫られなければ絶対に近寄らないのだ。

「今日ハリエットさんから、ラウルのアップルパイを手土産にしたいから欲しいって聞いて、これは良い機会だと思って」

「レオ兄ちゃんが近いうちにお仕事でプロステスに行くから、ぼくとレオ兄ちゃんがハリエットさんのところにお届けに行こうか?ってお話しといたの」

「ハリエットさんも喜んでくれたよ。これでぼく達も、堂々と領主様の住む館に入れるよね?」

ライトは満面の笑みでレオニスに話す。

今の会話でライトはその身の内に抱える思惑の全てを語った訳ではない。だがレオニスは、ライトの言わんとしていることを瞬時に理解した。

ライトは神殿の例の件で浮かび上がった魔の者の拠点のひとつであるプロステス、そのプロステスの領主を密かに直接調査する絶好の機会を作りレオニスに与えたのだ。

「でかした、ライト!よし、そうとなったら早速マスターパレンに伝えてくるわ!」

「あっ、レオ兄ちゃん!ハリエットさん一家がプロステスにいるのは29日から1月4日までって言ってたから、ぼく達が手土産を持って訪問するなら29日か30日がいいと思うよ!」

レオニスが急いでお汁粉を口に掻き込んでいる間に、ライトがハリエット達のプロステス到着予定日などの日にちを伝える。

「29日か30日な、分かった、ありがとうな!ラウルもごちそうさん、お汁粉美味かった!」

「おう、ご主人様も仕事の続き頑張れよ」

「レオ兄ちゃん、いってらっしゃい!」

バタバタと慌ただしくしながらも、ライトやラウルに礼を言うことを忘れないレオニス。

そんな律儀なレオニスの背中を見守りながら、ライト達は見送っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「―――という訳でな。29日か30日のどちらかに、プロステスの領主邸に直接訪問できることになった」

「ほほう、それは素晴らしい。ラグナ大公の密命とはいえ、ひとつの街を治める領主に直接会って密かに調べるとなるとそう簡単にはいかないからな」

ここはラグナロッツァの冒険者ギルド総本部。

レオニスはライトのもたらしてくれた機会をマスターパレンに報告していた。

本日のマスターパレンは、真っ赤なサンタクロース服に身を包んでいる。そう、今日は12月25日、クリスマス当日である。

昨日のクリスマスイブに続き、二日連続でサンタクロースの赤い服をまとうマスターパレン。

その姿で孤児院に大量のプレゼントを寄付したり、夜は夜で息子が経営する超有名スイーツ店【Love the Palen】で限定ケーキの売り子をしたりしている。

正義の人マスターパレンは、いつでもどこでも全身全霊全力投球なのだ。

「そうなると、エンデアンやファングの方はどうする?これから誰か派遣する予定はあるのか?」

「今はまだ選定段階でな。もう年の瀬も押し迫っていることだし、どの道年越しになってしまうのは確定なんだが」

「だなぁ。でもまぁプロステスの領主の方は任せてくれ」

「そうだな。一ヶ所だけでも進展が望めるのはありがたい」

するとここで、パレンがふと何かを思いついたような顔になる。

「ふむ……ならばレオニス君達がプロステスに行く日に、ラグナ教のプロステス支部の再調査も合わせて行なえれば尚良いかもしれんな」

「ん?……まぁそうだな。もし29日にプロステス領主のもとに行くにしても、ライトの同級生一家が領主邸に到着してからでないと挨拶にもならんからな。その場合は午後に訪れるのが最適だろうとは思うが」

「ならば午前中にラグナ教プロステス支部の再調査、午後にプロステス領主邸訪問。もちろんラグナ教プロステス支部の再調査にはレオニス君も同行してもらうぞ」

「え?俺も行くの?」

「よし、これでいこう!ラグナ教への連絡および日程調整はレオニス君に任せる、よろしく頼んだぞ」

ライトの策のおかげで、話がとんとん拍子に進んでいく。

プロステス領主の調査だけでなく、ついでにラグナ教プロステス支部の再調査までサクッと捩じ込んでしまうあたり、パレンの辣腕ぶりが伺える。

「……にしても、マスターパレン。また俺達をこき使う気満々だな?」

「ンフォ?そんなことはないぞ?私にはレオニス君をこき使う気など毛頭ない。毛頭どころか毛根すらないがな!ハッハッハ!」

「…………」

「そしてこき使う気などなくとも、頼る気は満々だがな!ハッハッハ!」

赤いとんがり帽子をカパッ、と外し、太陽の如く燦々と光り輝くスキンヘッドを披露するパレン。毛頭どころか毛根すらない!とか、あまりにもデリケート過ぎてツッコミを入れるのも憚られる恐ろしいジョークを平気でかましてくる。

その手のジョークは下手に触って火傷でもしたら洒落にならないので、そこは瞬時にスルー一択したレオニスの選択に間違いはない。

その眩いまでの光線を放つ頭頂部を己の手で撫でながら、頼る気満々!と明朗に言い放つパレン。頭頂部だけでなく、新雪よりも白く輝く歯もまたキラリと眩しく光る。

その屈託のない笑顔は、チクリとしたレオニスの物言いなどいとも簡単に跳ね飛ばし、毒気をも瞬時に抜いてしまう。

しかもパレン曰く『こき使う』のではなく『頼る気満々』だと言う。物は言いよう、とはよく言ったものだが、そんなふうに言われれば誰だって悪い気はしない。

このマスターパレンという男、冒険者ギルド総本部マスターを務めるだけあって人心掌握にも長けているようだ。

そんな憎めない笑顔の人たらしなマスターパレンに、レオニスはフフッ、という苦笑いにも近い笑顔を浮かべる。

あー、今年もマスターパレンは正義のサンタクロースしてるのか。孤児院にたくさんプレゼント持っていったり、本当にすごい人だよな。

俺が子供の頃に、あんな人が孤児院に来てくれていたら―――何か変わっていたんだろうか?……いや、何も変わらんな。マスターパレンもグラン兄と同じ、偉大なる冒険者なんだから。

今以上に冒険者に恋焦がれて、その背を追うようにして冒険者の道に入っていただろう。

結局俺は―――何をどうしたって冒険者になる以外の道はなかったんだな。

マスターパレンの爽やかな笑顔と真っ赤なサンタクロース姿を眺めながら、レオニスは様々な思いを巡らせていた。