軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第247話 オラ達ズッ友!

「オイラ達ね、ホントのホントに下っ端でさ。上の人達が普段何してっかなんて、全ッッッ然分かんねぇのよ」

「だいたい俺っち達って、上のえりぃと様達?と違って全員小さい頃にアイツらに拐われて、それ以来ずっと教会でこき使われてただよ」

「そーそー。オラ達の仕事ッてェ、掃除ィとか庭の手入れェとか飯ィ作るゥとか、そンなんばッかァだし。ぶッちゃけオラ達、タダの雑魚キャラなのねン!」

そう語るのは、上から順に『丘ゴブリン庭師A』『岩ゴーレム守衛B』『草原スライム清掃員C』である。

三人とも所属は職人の街ファングだ。

「んだんだ。上のおッかねぇ人達は、同じようなおッかねぇ人達としか話してなかったもんなぁ」

「たまぁーにわしらと同じように人に化けとる何かが外からきて、手紙みてぇなもん渡しとったけど」

「そゆのは毎回丁寧に火に 焼(く) べとったもんなぁ」

こちらは上から順に『影狼巡回員D』『水蜈蚣門番E』『血煙鷹大工F』。

こちらも全員同じ所属の商業都市プロステス組である。

「あッ、オレ何回かそーゆー手紙覗き見たことあるぜー!」

「え"ッ、お 前(めー) 何してんの? それ、バレたら速攻で首飛ぶヤツじゃん?」

「ホンット、あんたのそゆとこ無謀よねぇ……信じらンなァーい」

最後の三人は、港湾都市エンデアン所属である。

上から順に『高原小鬼調理師G』『陸蟹塔番人H』『包帯魔女売店店員I』、ここも全員ノリが軽い。

というか、これまで証言している魔の者全員が全員総じて軽い。とてもじゃないが、神殿側に捕らえられた魔の者達とは到底思えない有り様である。

だが、その軽いノリの中に聞き逃せない言葉があった。

その場にいた人間側全員の目が光り、思わず前のめりになる。

そんな中、いち早くレオニスが高原小鬼Gに問い質す。

「その手紙には何て書いてあったか、覚えてるか?」

「覚えてなーい!ンだってオイラ、あの文字読めねーし!」

レオニスに問われた高原小鬼G、何故かドヤ顔&思いっきり胸を張りながらババーン!と言い放った。

すわ重大証言来たか!?と思った人間側一同、思いっきり期待を裏切られてがっくりと項垂れる。

だが、次の瞬間さらなる驚愕が人間側一同を襲う。

「あれ、多分魔界文字ってヤツ?オイラはちっこい頃から教会にいるから、人族の使う文字なら普通に読めるんだけどさー。さすがに魔界文字はねー、見たことも習ったこともないから無理ッ!」

「そうなんだー。私も人族の文字は読めても魔界文字は無理だなー」

「でしょでしょ?えりぃと様達なら普通に読めるんだろうけどねー、えりぃと様宛の手紙ちょくちょく来てたし」

魔界文字とはその字面通り、魔界に住まう者が使う文字である。魔界に住まう者とはいわゆる『魔族』のことを指す。

確かに魔界文字を見たことのない者には、その手紙は読めないだろう。

だが、今ここで重要なのはそこではない。『魔界文字』という存在が出てきたことが問題なのだ。

「魔界文字……そんなもんでやり取りするってことは……」

「ああ。間違いなくその手紙は、廃都の魔城から送られてきたものだろうな」

レオニスとパレンが、眉を顰めながら小さな声で言葉を交わす。

「その怪しい手紙のやりとり?は、どれくらいの頻度で交わされてたんだ?」

「ンー、手紙は年に二回とか三回くらいだったかなー」

「俺っちとこもそんくらいかなー」

「わしらんとこもそれくらいじゃったのぅ」

エンデアンの陸蟹Hの答えに、ファングの岩ゴーレムBやプロステスの水蜈蚣Eが同様の回答をした。

それぞれ塔番人に守衛に門番という見張り系の役割だったため、外からの手紙が届けられるのを毎回目撃していたのだろう。

「それらの手紙に何が書いてあったのか、ほんの少しだけでも知ることができればいいのですが……」

「ああ。だが……手紙は毎回燃やしていたようだし、何も残ってはおらんだろうな」

「もし運良く手紙が残っていたとしても、書かれているのが魔界文字じゃ誰も読むことはできんしな……だが……」

オラシオンの言葉にパレンが否定的な意見を述べる。

その否定的な意見にレオニスも同意しつつも、何か思うところがあるようで改めて魔の者達に問い質した。

「本当にその手紙は何も残ってはいないのか?」

「うん。こないだ何か新しく手紙来てたっぽいけど、それも多分暖炉の火にポイー、だよねぇ?」

「多分ねェー」

魔の者達の話に、レオニスの眉がピクリと反応した。

「こないだって、それいつの話だ?一番最近手紙が来たのは何月何日か、覚えているか?」

「細かい日は覚えてないけど、えりぃと様達が神殿に呼ばれた日!」

「そーそー、うちとこもその日。手紙来た日はいつもバタバタするけど、同じ日にえりぃと達が神殿に呼ばれてさ。そりゃもう大騒ぎだったんだぜー?」

「オイラ達んとこもバタバタ騒がしかったなー。何か燃やすもんも多くてさー、えりぃと様が慌てて一気に火に放り込んだもんだから部屋中煤けて大変だったの覚えてるわー」

自称雑魚キャラの魔の者達があの日のことを思い出しつつ、うんうん、と頷きあっている。

この者達、一応拘留の身のはずなのだが。全員何とものほほんとしていて、どこまでも緊張感皆無な者達ばかりである。

「ふむ……あの日に燃やして隠滅したものがたくさんあるのか……」

レオニスが少しだけ考え込むような仕草をする。

その横で、オラシオンが魔の者達に向けて質問した。

「貴方達はその日、上の人達が神殿に呼び出されて向かった後、ここから一斉に去りましたよね?」

「んだ。おッかねぇ人達が全員まとめて教会から離れるなんてこと、今まで一度もなかっただ」

「俺達下っ端ってさ、実は教会の外に自由に出ることは許されてなかったのよ」

「それに、上のえりぃと様達ってホントおッかねぇし意地悪だし冷てぇし。アイツらモノホンの悪魔だから、オイラ達下っ端のことなんて石ころくらいにしか思ってねぇもん!」

プンスコと怒る高原小鬼Gに、他の魔の者達もうんうん、と深く頷く。

同じ魔の者達でも、組織を牛耳る幹部とそうでない下の者達には大きな溝があったようだ。

「そそそ!だからァー、ここから逃げて外に出るならァー、今が大・大・大チャーンス!とか思ッてェー」

「皆でウッキウキで外出ただ!」

そこにいる魔の者達全員が、花が咲いたかのようなパァッ!とした満面の笑みを浮かべる。

それはもう眩しいくらいの解放感に満ち満ちた、ウッキウキのニッコニコな笑顔だ。

「ならば、何故また教会に戻ってきたんです?」

間を置かずに飛んできた、オラシオンのもっとも至極な質問。

その切っ先の鋭さに心を抉られたのか、全員瞬時にズゥゥゥゥン……と沈み込む。

「勢いよく外に飛び出たはいいけどさ……」

「よくよく考えたら、わしら……」

「教会以外にどこにも行くとこねぇのよね……」

「「「「……はぁぁぁぁ……」」」」

先程までの花咲くような眩しいまでの満面の笑みはどこへやら、深海よりも深く暗いため息をつく魔の者達。

俯いて項垂れるその姿は、もはや憐憫の一言では言い表せないほどに哀れである。

「今更同族のところに戻ったところで、群れに迎え入れてもらえるかどうかも分からんし」

「迎えてもらうどころか、普通に襲われたで」

「えッ、同族ンとこ行ったん?」

「うん。近場にわしと同種族の溜まり場あるのは知ってたから、とりあえず行ってみた。したら普通に人間と間違われて、ガッツリ襲いかかられてもたわ」

「うそーン、それ悲しいヤツ」

「ま、俺達まだ見た目人間に擬態してっから、しゃあないっちゃしゃあないけどな」

水蜈蚣Eは実際に同族のもとを訪ねたらしい。

その結果が門前払いとは、何とも悲しい話である。

「……結局さ、オイラ達はもう同族のもとに戻ることもできんのよ。擬態が解けてからも、同族に受け入れてもらえる保証もねぇし」

「だからって、魔の森に潜むほどの力もねぇし……」

「俺達雑魚キャラが魔の森なんて入ったら、逆に魔物達の餌食になっちまうで」

「雑魚キャラって、ホンット辛いわよねェー……」

魔の者達の、悲しくも世知辛い話は留まることを知らない。

「そんな訳でさ、やっぱ住み慣れた教会が一番ってことで。皆自然と戻ってきちゃったのよ」

「教会に戻れば、また上のおッかねぇ人達に怒られていじめられる日々に戻るけど。それでも食うもん食えて、雨風凌げりゃいいかなって」

「魔の森じゃ、雨風凌ぐより先に魔物に食われちまう」

「それに……ほら、教会には下っ端仲間もいるし、な」

「んだんだ。オラ達ズッ友なのねン!」

しんみりとした表情の後に、長年苦楽を共にしてきたであろう仲間の顔を互いに見ては照れ臭そうに小さく笑う魔の者達。

その様子だけを見ていれば、とても魔の者とは思えない者達。いや、それどころか人間臭いと言ってもいいくらいだ。

これも長年ラグナ教の教会で数多の信者、つまりはごくごく普通の善良な人間達に接してきたせいだろうか。

そんな魔の者達の姿を見たレオニス達は、皆口にこそ出さないが内心ではこの先どうしたものかと思い悩んでいた。

ここにいる魔の者達は全員下っ端で、黒幕であろう廃都の魔城の手先として動いていた幹部達とは立場も違う。

現に幹部達は自爆やら強制服毒などで既に口封じされてしまったが、下っ端の自称雑魚キャラ達は未だに始末される気配はない。

ただし、それはまだ彼らが破邪魔法を受けておらず、正体が曝されていないからなだけかもしれないが。

だが、如何に今ここにいる魔の者達が非力で大した害にはならないとしても、無罪放免という訳にはいかない。

彼らが人ならざる者であることは、間違いのない事実なのだ。

そもそも人族は、現状では異種族との交流はほとんどない。あっても極一部、獣人族や竜人族、魔人族などの『人型に近しい種族』に限られている。

そしてここに捕らえられている魔の者達は、全員がいわゆる『魔族』由来の魔物である。

魔族は人族と相容れることはない。魔族とは、人族を見れば絶対に襲いかかるよう本能に刻まれた存在だからだ。

そして、人族の方も魔族を忌み嫌う。問答無用で襲いかかってくる危険な存在を、好意的に受け入れられるはずもない。

故に、人族も魔族も見つければ互いに即討伐、即殲滅!というくらいには双方敵対している。

そういった種族的背景を考えると、魔の者達に対する今後の対処は極刑となる可能性が極めて高かった。

そんなレオニス達の思案顔に、それまで騒がしいほどに賑やかだった魔の者達が次第に口を噤み始める。

大広間が完全に静寂に包まれた時、丘ゴブリンAがズイッと前に出た。

そのままずんずんと二、三歩進み、レオニス達の前に立つ。

その姿はまるで、後ろにいる仲間達を全力でその背に庇うかのようだ。

ゴブリン族特有のノコギリ刃のようなギザギザの歯を覗かせながら、丘ゴブリンAはその口を開いた。

「オイラ達、これからどうなるんだ?」