軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第235話 兄弟の絆

その後、大教皇執務室での面談はラグナロッツァの日が暮れるまで続けられた。

面談という体で秘密裏に調査を行っている以上、入室して破邪の力の発動の有無を見るだけでは済まされない。

悪魔が出現すればその場で取り押さえるのは当然のことだが、何事もなくとも各地の運営の様子を聞いたり、嘆願があれば話を聞いたりもする。

リトマス試験紙のように、結果だけを見てさっさと分類するような訳にはいかないのだ。

何十という数多のラグナ教支部全てとの面談。

最後の一組が終わった時には、窓の外は夜の帳が下りようとしていた。

「今ので全部終了か?」

「はい、先程のプロステス支部で全支部との面談完了です。皆様お疲れ様でした」

「……はーーーっ、お疲れ様でしたぁ」

レオニスの確認とエンディの答えを聞き、ライトが緊張の糸が切れたかのように大きな吐息とともに姿勢を崩した。

と言っても、まだその首には秘匿の頸飾をかけたままなので、傍目からすると何もない空間から声がするようにしか見えないのだが。

「ライト君もお疲れ様でした。ここから先はもう誰も入ってきませんので、頸飾は外してもいいですよ?」

「あ、はい。すぐにお返ししますね」

己の首から秘匿の頸飾を外したライト、その頸飾をすぐにエンディのところに持っていき差し出した。

ライトから頸飾を受け取ったエンディ、それをすぐに執務机の引き出しにそっと仕舞う。

「結局見つかった侵入者は三ヶ所、計十三体か」

「ええ……侵入されていた支部の数こそ少ないですが、まさかその支部の幹部全員が魔の者で占められているとは……これは由々しき事態です」

今回の面談で、正体が露見した魔の者がいたのは三ヶ所。

港湾都市エンデアン、職人の街ファング、そして最後に入ってきた商業都市プロステス。いずれもアクシーディア公国内では名だたる街で、それらが担う役割はかなり重要だ。

そして場所柄以上に問題だったのが、それらの支部から来た上位聖職者全員が魔の者だったことである。

エンデアンの五人、ファングの三人、プロステスの五人。執務室に入ってきた者全てが破邪の力により、その正体が露わになったのだ。悪魔、邪鬼、凶獣等々、どれも人族とは相容れることのない種族である。

「商業都市プロステスは、歴代大教皇を最も多く排出してきた支部です」

「その名の通り商業が盛んで都市全体が高い財力を持ち、大陸内の貿易や物流の重要拠点としての地位を築いています」

「都市としての力は、首都ラグナロッツァに次ぐものがあるでしょう。そしてそれはラグナ教内部でも同じことが言えます」

エンディが侵入者のいた支部の街のひとつ、プロステスのことを解説してくれた。

それに乗るような形で、レオニスやオラシオンが他の街の分析も始める。

「職人の街ファングか……ここは英雄や賢者等の、名だたる偉人達の専用武具を生み出していることで有名だな。もちろんそれらは後々の世で聖剣とか聖鎧などと称えられる逸品ばかりだ」

「ふむ……そんな街のラグナ教支部を完全に乗っ取るとは……悪魔達の意図が透けて見えてくるようですね」

「ああ、そして最後のもうひとつ、エンデアンだが……」

これまでも険しい顔つきだったレオニスが、さらに険しい表情になる。

「ここは旧都ファウンディアに最も近い大都市だ」

「……!!レオ兄ちゃん、それって……」

「ああ。つまりは廃都の魔城に最も近い街だ。とはいえ、距離的にはかなり離れてはいるがな」

レオニスの言葉に、思わずライトが声を上げる。

こんなところで仇敵の名を聞くとは思わなかったからだ。

「しかもここは港湾都市ですからね、他国との貿易も盛んで物資の出入りも多く、あらゆる情報や物流が飛び交うところです」

「先程の商業都市プロステスと比肩するくらいの力はあるでしょうね」

オラシオンもエンデアンの重要性を裏付けるように語る。

そう、魔の者達が占拠していたラグナ教支部のある場所は、アクシーディア公国の中でもかなり重要性の高い都市や街だったのだ。

「この三ヶ所のラグナ教支部は、即時閉鎖します」

「今日ここに来ていない者達まで魔の者かどうかは分かりませんが、もしそうだとしても捕えたところで今まで同様口封じされて捕縛することは叶わないでしょう」

「ですが、このまま放置しておく訳にはいきません。一刻も早く対処せねば」

「私は今からその三ヶ所に直接出向き、閉鎖措置を伝えてきます。……兄上、元冒険者の賢者としての御力をお貸し願えないでしょうか」

エンディがオラシオンに向かって、深く頭を下げて願い出る。

そんなエンディの願いに、オラシオンが否やと言うはずもない。

「もちろん協力しますよ。可愛い弟の頼みです、聞き届けない訳がないでしょう?」

「ありがとうございます、兄上。……兄上に甘えるばかりで、不出来で不甲斐ない弟をどうぞお許しください」

「そんなことは気にしなくていいんですよ。私達は二人っきりの兄弟じゃないですか」

俯いて申し訳なさそうなエンディの肩に、ポン、とオラシオンが優しく手を置いた。

エンディの大教皇という今の地位から考えると、おそらくは何年ぶりかの再会なのだろう。

オラシオンの言葉を聞いたエンディは、俯いていた頭を上げて嬉しそうに微笑んだ。

「はい。いつも優しくて誰よりも強い兄上は、私の誇りです」

「私もだよ。いつでも思い遣りに満ちて、誰に対しても分け隔てなく接することのできるエンディ。君こそ私の誇りだ」

オラシオンとエンディ、二人の仲睦まじいやり取りをライトとレオニスは微笑ましく眺めていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ねぇ、レオ兄ちゃん。レオ兄ちゃんも理事長先生達についていってあげた方がいいんじゃない?」

「え?俺も行くの?」

ライトの提言に、レオニスが己の顔を指差しながら心底不思議そうな顔で問い返す。

その顔には『何で俺が?』という文字が今にも浮かび上がってきそうだ。

確かにここから先はラグナ教内部の問題である。

いや、今までの悪魔の炙り出しの協力だって本来ならラグナ教内部の問題だ。だが、今まではライトがエンディに頼まれたこともあって付き合ってきたのだ。

そもそもラグナ教内部の問題に信徒でもないレオニスが、これ以上首を突っ込むのもどうかと思われた。

オラシオンは大教皇エンディの兄という立場だから、弟のために協力するというのは分かる。

だが、レオニスにはラグナ教に対してその手の 柵(しがらみ) も義理も一切ない。

むしろ部外者に深く踏み込まれることを、ラグナ教側の方が疎ましく思うかもしれないのだ。

さらにはもう外は暗く、すっかり夜の闇に包まれている。

レオニスだけならともかく、ライトまで連れ回す訳にはいかない。

そこら辺の諸々を言おうとしたレオニスを、ライトが制する。

「うん。だって理事長先生は賢者で強いけど、もしまだそれらの拠点に悪魔がいたとしても多分見破るのは難しいでしょう?」

「だったらぼくのこのラペルピンをレオ兄ちゃんに預けて、いっしょに行ってもらった方がいいよね?」

「それに、エンデアンってところは……」

「廃都の魔城に一番近いところなんでしょう?もしかしたら四帝が何かしてるかもよ?」

ライトの思わぬ言葉に、レオニスは目を大きく見開いた。

言われてみれば確かにそうだ。怨敵の居城たる場所から最も近い都市が魔の手にかけられているとなれば、怨敵の関与は十分に疑うべきである。

「ぼくは足手まといになっちゃいけないから、先にラグナロッツァの家に送ってもらっておとなしくお留守番してるよ」

「もちろんこれはあくまでぼく達の思惑というか都合であって、ラグナ教の大教皇様からしたらこれ以上は余計な詮索になっちゃうかもしれない」

「だから、大教皇様がレオ兄ちゃんの協力は不要と仰ったら、ぼくといっしょにおうちに帰ろう。ね?」

周囲の大人達の困惑や懸念、思惑、それら一切合切全てを大人達が口に出さずとも汲み取ってしまうライト。

にっこりとした幼げな笑顔からは程遠い深謀遠慮ぶりに、大人達三人はただただ呆気にとられる他ない。

「ライト……お前、ホントにすげぇなぁ……さすがグラン兄とレミ姉の子だぁ」

「ライト君……貴方本当に一年生ですか?私と同い年くらいでもおかしくなさそうなんですが……」

レオニスは相変わらずのグラン兄命!なので、全く疑いもせずただただライトの聡明さに感動するのみだが、オラシオンはさすがに思うところがあるようだ。

しかもオラシオンと同い年とは、中身アラフォーのライトとほぼドンピシャの大正解である。

だが、ライトもここでハイソウデスヨとおとなしく認める訳にはいかない。

内心少しだけ焦りつつも、表面的には涼しい顔で何事もないかのように答える。

「え?それはいつもぼくの身近に、立派なお手本となってくれる格好いい大人がいてくれるからですよ?ね、レオ兄ちゃん!」

「……ン?何?え、俺?」

ライトからの唐突なパスを食らったレオニスが、またも己の顔を指差しながら問い返す。

「そう、レオ兄ちゃんのおかげ!レオ兄ちゃんはぼくのお手本で、大きな大きな目標なんだよ!」

「いつもぼくの傍にいてくれてありがとう!レオ兄ちゃん、大好き!!」

そう言うと、ライトはレオニスに思いっきり抱きついた。

最初こそオラシオンの疑惑の目を逸らすために並べ始めた言い訳だったが、レオニスへの言葉を口にしているうちに本当に感謝の念が溢れでてきたライト。

最後には誤魔化すどうのの損得勘定はどこかに消え失せて、ただただ大好きなレオニスに飛びついてしまった。

「うおっ!な、何だ、ライト、どうした急に!」

「……でも、そうだな!俺もライトがいつも傍にいてくれて嬉しいぞ!」

「ありがとうな!」

ライトからの思わぬ抱擁に戸惑ったのは最初だけで、すぐに素直な気持ちでライトに返すレオニス。

ありがとうの言葉とともに、久しぶりに高い高いされてキャッキャとはしゃぐライト。

笑顔に満ちた二人の姿は、本当に仲睦まじい兄弟そのものだ。

そんな二人の仲睦まじい姿を見せつけられた、オラシオンとエンディ。もはやオラシオンにライトを疑う気持ちなどとうに失せていた。

「フフフ……本当に、仲のよろしいことで」

「そうですね。私と兄上も、あのようにありたいものですね」

「全くです」

二組の兄弟が、改めて自分達の絆を再確認した日だった。