軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第208話 嫌な予感

「豪雷斬撃!」

その後はレオニスの無双が炸裂した。

飛行種族の最大の弱点である雷魔法を連発して、単眼蝙蝠をバサバサと撃ち落としていくレオニス。

空から無数の雷撃が容赦なく降り注ぐ。一回では仕留めきれない数の単眼蝙蝠も、何回も広域雷撃魔法を撃ち続けていくうちにその数がみるみる減っていく。

レオニスが単眼蝙蝠を撃破している間に、ライトはジャンとともに怪我をしたオーガの治療にあたる。

まずは多数の怪我人が収容されている議場に向かうが、その道すがら怪我を負いながらも戦い続けているオーガにハイポーションを2本か3本手渡していく。

「あとでまたちゃんと治しますので!まずはこれを飲んでおいてください!」

「戦いが終わったら議場に来てくださいね!」

ライトは大声で叫びながら走り議場に向かう。

辿り着いた議場の中には、重軽傷を負った多数のオーガが所狭しとなりながら治療を受けていた。

手当てをしているのは、主にオーガの女性陣。子供達も包帯を用意したり傷薬を持ち運んだりと様々な手伝いをしている。

「こんな……何て酷い……」

まるで本物の野戦病院のような光景に、ライトは震え上がる。

だが、こんなところで怖気づいている暇はない。目の前で怪我を負い苦しんでいるオーガを救うため、そしてライトのことを一冒険者として扱ってくれたレオニスの信頼に応えるため、ライトは奮起した。

「あの!ぼく!レオ兄ちゃんといっしょに皆さんの手助けに来ました!」

「今からぼくが出す回復剤を、怪我の重い人達から順番に飲ませてあげてください!」

勇気を振り絞ったライトが、オーガ達に向けて大きな声で宣言した。

最初のうちは「誰だ?」「オーガじゃねぇな」「ありゃ何だ、人の子か?」など、オーガ達の間で疑惑や困惑の声が挙がっていた。

オーガ達が戸惑うのも無理もない。ライトとは初対面同士の、しかも異種族同士なのだから。

だが、そんな戸惑う空気を切り裂き払う一際大きな声が響き渡った。

「皆、聞いてくれ!ここにいるのはライト、人族の子だ!」

「族長や長老とも親しいレオニスという人間の弟分だそうだ!」

「レオニスが今外で蝙蝠達を追い払ってくれている!」

「だから皆、もう大丈夫だ!ライトの薬を受け取ってくれ!」

オーガの大人達を説得したのは、誰あろうジャンであった。

ジャンの言葉に、オーガの大人達はさらにざわめく。

「レオニス!?ジャンのやつ、今レオニスって言ったか?」

「レオニスってあの【角持たぬ鬼】と呼ばれる、人族のあれか!?」

「……やったぞ!俺達助かったんだ!!」

オーガ族達が歓喜の雄叫びを上げた。

やはりオーガ族の大人達はレオニスのことを知っているようだ。しかも助かったことを確信するあたり、レオニスの強さを十分承知していると思われる。

それにしても、だ。レオニスよ、鬼の本家本元たる鬼人族のオーガにまで【角持たぬ鬼】と呼ばれているとは、一体どういうことだ。本当にそのうち人族をやめてしまうのではなかろうか?

ライトもその聞き覚えのある二つ名に苦笑いするしかないが、今はそんな悠長なことはしていられない。

まずはアイテムリュックからハイポーションを出し、オーガ族の女性陣にどんどん渡す。怪我人の傷の深さや具合が分かっている彼女達に優先順位を判断してもらうのと、人族のライトが直接飲ませるよりも同族の女性達に飲ませてもらった方が患者側も安心するだろう、とライトは考えたからだ。

ライトの思惑通り、女性陣が持っていったハイポーションを素直に飲むオーガ族の戦士達。

飲んだ瞬間から傷の痛みが薄れていくのを実感しているのか、あちこちで驚愕の表情と声に満ちる。

「おおお、痛みが引いていくぞ……」

「何とありがたい……これでまた戦えそうだ」

喜びの声が上がる中、ライトは今度はオーガ族の子供達に集まってもらっていた。

「こっちのポーションは直接飲んでも効果が薄いと思うので、怪我をした部分に直接かけてみて」

「特に蝙蝠の光線で目を負傷した人には、目薬のようにかけてあげてね。洗い流すように何回かかければ、よく見えるようになると思うよ」

「皆で手分けして、怪我をした大人の人達を助けてあげて!」

「「「うん!!」」」

それまで大人達がどんどん治っていくのを見て、子供達も素直にライトの指示に従う。

ライトがアイテムリュックからどんどん出してくるポーションを手に、負傷した大人達のもとに駆けていくオーガの子供達。

こちらも同族の子供達からの看病なので、怪我人であるオーガ族の戦士達もおとなしく受け入れている。

次々と回復剤を求めてライトのもとに押し寄せる、オーガ族の女性陣や子供達。

彼ら彼女らの求めに応じ、ありったけのポーションやハイポーションを出し続けるライト。

そこにはもはや人族と鬼人族という異種族の壁などなくなっていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『ええぇぇぃ、忌々ッしいぃぃぃ……何ッでこんなことになッとんのだ……』

数多の単眼蝙蝠達がレオニスの雷撃魔法によって、バッタバッタと倒されていく。その凄惨な有様を、大樹の高いところから眺め慄く影がひとつ。

他の単眼蝙蝠と違い、一際大きな胴体を持つ全身真っ黒な三つ目の蝙蝠の魔物。それこそが『マードン』と名乗った、今回の襲撃者の首領だ。

『さッきまで優勢だッたァのに……もうちょッとでこのオーガ族の里を落とせるところだッたァのに……』

『だいたい何なのあの人族め、あれ 絶(ゼェ) ッッッ 対(テ) ェー人間じゃねぇヤツッしょ?あんなん人族の皮被ッたバケモンやろがえぃ!』

『……しゃあない、今は勇気ある撤退一択。今日はこのッくらいで勘弁しといたるぁ!』

何やらブツブツと独り言を呟いていたかと思うと、敗北を悟ったのかその場から立ち去ろうとするマードン。

だが、そうは問屋が下ろさない。マードンの背後に何者かが立っていた。

「おい。そんな簡単に逃げられると思ってんのか?」

マードンの首根っこを捕まえてから両脚を片手で同時に握りしめ、逆さ吊りにするレオニス。

今にも 射殺(いころ) されそうな鋭い視線と『ズギャギャギャドゴゴゴ……』という地の底から沸き上がるようなドス黒いオーラが陽炎のように揺らめき立ち上る。

レオニスから発せられるそのあまりにも凄まじい圧に、蝙蝠の魔物は涙目で震え上がる。

『ピエッ……ききき貴様何者ダッ!!わわわ我をゾルディス様一の配下マードン様と知ッてェの狼藉かッ!!』

『我に手出ァしするとはいい度胸ぞ、我の身に害を加えェればゾルディス様が黙ッてはおらーンぬ!』

『ゾルディス様に殺されッたくなけェれば、早よ我を解放せよーぃッ!』

レオニスにとっ捕まったまま大樹の上から引きずり降ろされ、広場のような拓けた場所に連行されるマードン。

バッサバッサと翼をバタつかせて暴れてうるさいので、レオニスが無言で空間魔法陣から麻紐を取り出す。その麻紐であっという間にガッツリみっちりギッチリのぐるぐる巻きにされたマードン。

手も足も翼も出ない、完璧なるイモムシ状態になってしまっている。

「マードン、だったっけ?このオーガの里を襲った目的は何だ?」

『…………』

「何の目的もなくオーガ族を襲う訳などなかろう。貴様らの目的は何だ?」

『…………知ィーらんぷいーん!』

レオニスの尋問に対し、イモムシ状態のマードンは知らぬ存ぜぬを通すつもりのようだ。

ぷいーん、とそっぽを向くマードンに、レオニスのこめかみに井桁に似た血管が浮かぶ。

「そうか……しかしお前はゾルディスの一の配下なんだろう?」

『うむッ!我こそは!偉ッ大なる屍鬼将ゾルディス様の!一の配下にして右腕ッ!側近中の側近ッ!マードン様であーる!』

レオニスは尋問の仕方というか方向を変えたようだ。

ゾルディスの名を出した途端に、何故か上機嫌になるマードン。フンスフンスと鼻息も荒く、まるで己が持ち上げられたかのようなご機嫌さだ。

「そのゾルディス様は、お前の失敗にさぞ失望するだろうなぁ?」

『そそそそンなことはないッ!わわわ我は、我はまだ負けてはおらンぬッ!!』

「お前ね……イモムシ状態に縛り上げられといて、よくそんな強がりが言えるね?」

とんでもない負け惜しみを吐くマードンに、レオニスが呆れながらマードンの顔を見遣る。

対するマードンは、陸に揚げられた魚のようにピッチピチに跳ねて抵抗の意を示す。

「でも、この状態じゃゾルディスの指令は達成できんだろ?」

『いンにゃ。そーンなことはないもんぬェーィ!我の作戦は完ッ璧にして既に達成目前ッ!』

「……何だと?お前以外の単眼蝙蝠は全て殲滅済みだってのにか?」

『ヌッフフフフ…………』

それまで捕虜も同然のイモムシ状態のマードンが、邪悪な笑みを浮かべながら勝ち誇ったように笑い声を洩らす。

マードンのその醜悪な笑みを見たレオニスは、それが嘘やハッタリ、虚勢の類いではないことを瞬時に感じ取る。

「一体どういうことだ?この状態で何故お前の作戦や目的が達成目前だと言い切れる?」

『それは……我が手下ッ達と交戦したオーガ族をよォーッく観察するがイイ。早ッければ今頃にも 第一号(・・・) が誕生する頃ダ』

クックック……とニヤついた笑みを浮かべ続けるマードン。

その勝ち誇る姿を見たレオニスに、強烈なまでの嫌な予感が走る。

レオニスは怪我人が多数いる議場に向かうべく、その場にマードンを放り出したまま駆け出していった。