軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第184話 楽しい接待

その後ライトはラウルとともにしばらくヨンマルシェ市場で買い出しを続け、夕方頃にラグナロッツァの屋敷に戻った。

屋敷では既にフォルは起きていて、マキシとともにライトとラウルの帰りを出迎えてくれた。フォルも一眠りしたことで元気になったようだ。

「マキシ君、晩御飯に知り合いの冒険者さん達が五人来るんだけど、どうしよう?フォルといっしょに二階にいてもらった方がいいかな?」

「そうですね……まだフォルちゃんの存在はなるべく知られない方がいいと思うので、僕といっしょに二階にいてもらうことにしましょうか」

「フォル、マキシ君といっしょに上でお利口さんにしててね?」

「キュウ」

「俺もマキシとフォルといっしょに二階で留守番しt」

「ラウルは執事として晩餐のおもてなし、よろしくね?」

人見知りの激しいラウルも二階に篭りたそうにしたが、ライトがにこやかな笑顔で速攻却下する。

うぐっ、と声に詰まるラウルだったが、執事としての務めと言われればぐうの音も出ない。

そもそも込み入った話なら龍虎双星を屋敷に呼ぶように提案をしたのは他ならぬラウルだし、ましてや晩餐のおもてなしとなれば料理全般ラウルにお任せになるのは当然の流れである。

「おう、んじゃ今からぼちぼち支度してくるか……客は五人でいいんだな?」

「うん、男性二人に女性三人の五人組の冒険者パーティーの人達だよ。ラウルには手間かけさせちゃうけど、よろしくね」

「ああ、任せとけ」

そう言うと、ラウルは厨房に向かうために姿を消した。

ライトは18時の待ち合わせまで、一休みしながら脳内会議することにした。

今日はラウルとともにたくさんのお店を回り歩いたのも楽しかったが、何よりイグニスのいる鍛冶屋に行くことができたのがライトにとっては最も有意義な収穫だった。

『ようやくイグニスに会えた……』

『喋ってみると思っていたより普通で、性格も悪くないというか良さげだったのがまた何とも複雑なところだが』

『イヴリンさんやリリィさんとも幼馴染で仲が良いようだし……決して悪い子じゃないんだよな』

『……大鎚さえ持たなければ、な』

破壊神イグニス―――鍛冶屋を名乗るその少年は、勇者候補生達の武器防具強化を失敗し破壊しまくるという、悪魔にも等しいその所業によりかつてブレイブクライムオンライン中で最も憎悪されたNPCだった。

だが、この世界のイグニスは現時点ではライトと同じくまだ8歳の幼い子供だ。そして、実際に会って話をすれば気の良い快活な、ごくごく普通の男の子だった。

本当に、鍛冶さえ絡まなければ善良で心優しい少年なのだろう。

だが、彼は鍛冶屋の息子。いずれは家業を継ぐであろう。

イグニスが破壊神などと呼ばれる未来が来なければいいのに、何とか回避する方法はないだろうか?とライトは考える。

『ゲームの中では「今じいちゃんが体調崩しててよ、俺が代わりにやってんだ」という体で、イグニスが鍛冶屋やってたんだよな……』

『だったらこの世界で、イグニスのじいちゃんが体調崩さずに健康で長生きしてくれたら―――跡取り孫息子であるイグニスの鍛冶の腕も、もっとまともなものに鍛えられるんじゃないか?』

『しかもゲームの中では一度も見聞きしたことのない、イグニスのお父さんもいまは存在しているらしいし……この先どうなるかは全く分からんが』

『何にせよ、ペレ鍛冶屋の人々の健康を積極的にサポートしてあげればいいかもしれないな』

『よし、これからはイグニスとも積極的に仲良くしていこう!』

そんなことを考えていると、玄関から誰か入ってきた気配がした。どうやら外出していたレオニスが帰宅したようだ。

ライトが一休みしていた客間に、レオニスが入ってきた。

「ただいまー。ライト、具合の方はどうだ?」

「レオ兄ちゃん、おかえりー。うん、もうすっかり良くなったよ!」

「そうか、そりゃ良かったがあんまり無理すんなよ?」

顔色も機嫌も良いライトの様子を見て、レオニスは安堵したようだ。

ライトは続けて今日のことを話す。

「気分転換と散歩とラウルの買い出しを兼ねて、ラウルといっしょにヨンマルシェ市場にお出かけしたんだー」

「何っ、外に出かけたのか!?……まぁ、ラウルといっしょに出かけたってんならまだいいが」

「でね、お肉屋さんのところで龍虎双星の人達に出会ったの」

以下その流れで回復師のネヴァンにラグナ神殿の話を聞くために龍虎双星の五人をまとめて屋敷に招待したこと、彼らはこの屋敷の位置が分からないのでラグーン学園の貴族門で18時に待ち合わせをしたことなどをレオニスに話していく。

「そうか、確かに龍虎双星のネヴァンは回復師だったな……よく神殿に通ってるってんなら、聖遺物に関しても何か見聞きしてるかもしれんな」

「うん、そう思ってこの家に来てもらうことにしたの。神殿のことを根掘り葉掘り聞くのに、外だと何となく都合悪いというか落ち着かなさそうだし」

「じゃあ貴族門の待ち合わせには俺が行くから、お前は屋敷で待ってな」

「えっ、いいの?ぼくが約束したことなのに」

「お前は病み上がりなんだぞ?いくら気持ちの方は元気になったとしても、あまり出歩き過ぎるな」

「はぁい……ごめんなさい……」

レオニスに諭され、素直に謝るライト。

レオニスの提案に従い、待ち合わせと屋敷への案内はレオニスに任せることにした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「「「「「お邪魔しまぁーす……」」」」」

レオニスに連れられて、龍虎双星の五人がおそるおそる挨拶しながらレオニス邸に入ってきた。

ライトはその少し前から玄関ホールに待機していて、レオニスの帰宅と五人の出迎えをする。

「龍虎双星の皆さん、いらっしゃい!レオ兄ちゃんも待ち合わせから連れてきてくれて、ありがとうね!」

「おう、ただいま、ライト。さ、龍虎双星の皆も気を楽にして入ってくれ」

「「「「「………………」」」」」

龍虎双星の五人は、レオニス邸に入ってからずっと放心している。

「こ、これがレオニスさんのラグナロッツァの家……」

「はぁぁぁぁ……貴族街にあるお屋敷の中に入るのなんて、初めて……」

「金剛級って、やっぱりすごい……」

それぞれが口々に感想を洩らしている。

「お前ら、そんなに畏まらなくていいぞ?俺だってお前らと同じ平民だし、それどころか孤児院の出だからな?」

「だから余計にすごいんじゃないですか!」

「そうですよ!やっぱりレオニスさんは冒険者達の希望の星です!」

「僕達も、いつかレオニスさんと肩を並べられるように頑張らなくちゃね!」

若い冒険者達にとって、レオニスが希望の星というのはお世辞でも何でもなく、本当に嘘偽りのない事実である。

己の腕ひとつでここまでのし上がったレオニスは、アメリカンドリームならぬサイサクスドリームの体現者であり、冒険者が夢見る成功者の姿そのものなのだ。

「まぁな、夢を持って挑むのは俺達冒険者の特権でもあるからな」

「ですよね!」

「だが、一歩間違えればいとも簡単に命を落とす生業でもある。お前達も決して功を焦るなよ、焦って無理した奴は大抵碌な目に遭わん」

「はい……」

「ま、お前達は全員幼馴染で気心も知れてるし、パーティーのバランスも良い。焦らず着実に実績を積んでいけば、結果の方も自ずとついてくるさ」

「「「「「はい!」」」」」

話もきれいにまとまったところで、五人を客間に案内する。

客間には、ライトとレオニスの分も含めて七人分の食事が用意されていた。

「まずは晩飯にしようか。うちの執事のラウルの作る食事は絶品だぞ?」

「「「「「おおお…………」」」」」

五人はこれまた息の揃った感嘆の声を洩らす。

ラウルが作った絶品料理の豪華さに、全員目を奪われているようだ。

「ライトから聞いたが、お前ら三日後にはまた遠征出るんだってな?だったらここで美味いもん食って、英気を養っとけ」

「……はい!ありがとうございます!」

「さ、料理が冷めないうちに遠慮せずに食いな。何ならおかわりしてもいいぞ」

龍虎双星のリーダーであるクルトが代表して、レオニスに礼を言う。

レオニスの言葉を受けて、五人はそれぞれ料理を食べ始める。

「んまッ!」「美味しいいいい」「ほっぺたが落ちるぅぅぅぅ」といった声が、あちこちから聞こえてくる。

料理を一頻り食べた後、デザートのプリンと珈琲をラウルが全員に出す。

さぁ、ここからはライトの質問タイムである。

「今日は皆さん忙しいのに、急に来てもらってすみません」

「いえいえ、こちらこそ憧れのレオニスさんの家に招待してもらって光栄ですー」

「おまけにすっごく美味しい晩御飯もいただいちゃって」

「デザートまで出てきて……私もう本当に幸せ……」

数多振る舞われた美味しい料理に、それぞれの人生の中で最も舌鼓を打ちまくったであろう大満足の五人は、本当に幸せそうな顔つきである。

「ぼく、回復師のネヴァンさんにどうしても聞きたいことがあって……」

「ん?私?」

「はい。ネヴァンさんは、ラグナ神殿によく通ってらっしゃるんですよね?」

「うん。回復師は祈りの力が必要なジョブだし、神殿の清浄な力で自分の疲れを癒やすという目的もある」

「でも、そこまで敬虔な信徒って訳じゃないよな?」

「礼拝とかちょくちょくサボるもんねぇ」

「ガロンもヴァハも余計なこと言わない!」

茶々を入れてきたガロンやヴァハに、普段言葉少な目の無表情系キャラのネヴァンが少し慌てた様子で文句を言う。

「せっかく私の良いところを見せられる機会なんだから」

「ははは……でも、ラグナ神殿ってそこまで厳格というか厳しい訳ではないんですね」

「うん、まぁね。回復師や治癒師は、そのジョブの特性上どうしても神殿とは切っても切れない縁だから。大抵はラグナ教の信徒になる。その方が両方にとって利益あるし」

ネヴァン曰く、自分達回復師や治癒師にとっては一般信徒は入れない関係者限定の空間で神殿の浄化の力を享受でき、ラグナ教にとっては単純に信徒数を増やせる他に回復や治癒といった奇跡の御技を使える人員の確保にも繋がるのだという。

利害の一致で成り立つ宗教というのも何だか微妙に思えるが、熱狂的な信徒ばかりになってもそれはそれで空恐ろしい原理主義者教団となりそうなので、多少緩めのWin-Win関係くらいの方がいいのかもしれない。

「それで、ぼくがお聞きしたいのは水晶の壇の奥にある祭壇、そこに掲げられた大剣のことについてなんですが」

「ああ、あれ?聖遺物って呼ばれてるやつ?」

「ええ、それです。それについて、ネヴァンさんは何かご存知ですか?」

「んー……」

ネヴァンは口元に手を当てて、しばらく考え込む。

そして徐に口を開いた。

「あれは……『光と闇を行き来する狭間の剣』と言われてる」