作品タイトル不明
第1773話 ラーデとシャーリィの邂逅
シャーリィがラグナロッツァのレオニス邸に泊まった翌日。
アクシーディア公国生誕祭の始まりである。
レオニスは朝の五時半に冒険者ギルド総本部に行くべく、四時に起きて身支度を整えた。
ライトもそれに合わせて朝の四時半に起きて、カタポレンの家で二人で朝食を食べた。
ラーデはまだ布団の中で寝ているので、ライトとレオニスの二人きりで朝食を摂るのは久しぶりのことだ。
「レオ兄ちゃん、今年もラウルといっしょに総本部に差し入れしに行くね」
「おう、ありがとうな。ライト達からの差し入れは、今や総本部に詰めている皆が全員楽しみにしてるんだ」
「二日目に冒険者ギルドで開催される腕相撲対決は、ジョゼ君といっしょにお昼過ぎに見に行くよ。すっごく楽しみ!」
公国生誕祭二日目の建国記念日当日に、冒険者ギルドが催す一日限りの限定イベント『金剛級冒険者レオニス・フィアと腕相撲大会!』。
そのチラシをラグーン学園で見せてもらったライトが、ジョゼから譲り受けて家に持ち帰った時のこと。
奇遇にもレオニスもその日に、冒険者ギルド総本部で公国生誕祭中の仕事として言い渡されていた。
レオニスがチラシを指で摘み、ピラピラと振りながら口を尖らせて文句を垂れる。
「あれなー……俺も知らん間にプログラムを組まれてたんだよなー……俺に一言の相談もなく事後報告とか、酷くね?」
「でもさー、絶対にレオ兄ちゃんの好きそうなイベントじゃん?」
「まぁなー。腕相撲はラキ達のところでよく勝負するから、かなり鍛えてるし。人族相手なら誰が来ても負ける気はしねぇな!」
突然降って湧いた特殊任務?に不満そうなレオニスだが、ライトの指摘にはニカッ!と笑う。
ライトが言うことは的を射ていて、レオニスは基本的に他者との競争や勝負するのが大好きだ。
例え女子供が相手であろうと勝負を挑まれれば全力を尽くし、容赦なく勝ちに行くのが信条である。
大人げないと言えば大人げないが、全力を尽くすことで相手に敬意を払うという点においてはレオニスのモットーもある意味正しい。
そして何より、レオニスはオーガの里でラキ達相手に何度も腕相撲をしては都度優勝を掻っ攫っている。
自分より倍以上は大きい鬼人族相手でも引けを取らないのだから、もはや向かうところ敵なしである。
そんな訳で、二日目の任務はレオニスにとって仕事というより遊びに近い内容だった。
ちなみにそのチラシには『赤いジャケットを着た金髪碧眼の筋骨隆々の男が、両手を握り前に向けて構えている絵』がドドン!と大々的に描かれている。
おそらくはというか、間違いなくそれはレオニスなのだろう。
だがしかし、何故か顔が極太釣り眉の横糸細目になっていて全然レオニスに似ていない。
これを見たラウルが「ギャハハハハ!誰だこれ!? ヒー、腹痛ぇー!」と涙目で大爆笑し、マキシはプルプルと身体を震わせて必死に笑いを堪えていた。
「三日目はラーデのお誕生日会もあるし、忙しいけど楽しみだね!」
「ああ。俺も三日目にきちんと休めるように、今日明日と仕事を頑張ってくるか」
「レオ兄ちゃんもお仕事頑張ってね!」
「ライトもラウルや友達たちとお祭りを楽しんで来いよ」
「うん!いってらっしゃい!」
ライトとレオニスは家の外に出て、レオニスだけ家の裏にある転移門でラグナロッツァの屋敷に移動した。
レオニスを見送ったライトは、その後魔石回収のルーティンワークを済ませてから、まだ薄暗い朝のうちに魔物の解体作業をご機嫌でこなしていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして朝の八時を少し回った頃。
転移門でラウルとマキシ、シャーリィの三人がカタポレンの家に移動してきた。
その時ライトはちょうど作物に水遣りをしていたところで、いっしょにいたラーデとともにラウル達を出迎えた。
「あ、ラウルにマキシ君、おはよう。シャルさんもおはようございます!」
「おはよう、水遣りありがとうな」
「ライト君、おはようございます!朝から畑仕事のお手伝いをしてて、ライト君は偉いですねぇ」
「ぃゃー、そんなことないよー。てゆか、ラウル、今日はこっちに来るのが遅かったね?」
「ン、シャーリィが寝坊してな。朝飯もさっき食ったばかりだ」
「そうなんだー。ま、たまにはのんびりとした朝を過ごすのもいいんじゃない?」
「まぁな」
和やかに朝の挨拶を交わすライト達。
いつものラウルなら、朝七時前にはこっちに来て野菜や果物を収穫しているのだが。そんな彼にしては珍しく遅い訪問となったのは、ラグナロッツァの屋敷に泊まった客人であるシャーリィの寝坊が原因らしい。
その一方で、何故かラーデとシャーリィは無言でお互いをガン見していた。
「『………………』」
ライトの真横にふよふよと浮いているラーデを、シャーリィが目を丸くして見つめている。
まだ互いに自己紹介も何もしていないのだが、シャーリィはラーデが発する尋常ならざる何かを感じ取っているようだ。
シャーリィは首をンギギギギ……と軋ませつつ、ゆっくりと90°向きを変えてラウルの立つ方向に向けた。
「ねぇ、ラウル……これは、ナニ?」
「これは何、とは失敬な。……って、そうか、そういやシャーリィはラーデと会うのは初めてか」
「初めてもへったくれもないわよ……こっちに移動した瞬間から、今まで感じたことのないものすごい圧が襲ってきたんだけど……そのとんでもない圧が、このちっこいのから出てるのは一体どういうこと?」
シャーリィが顔を青褪めさせながら、震える人差し指でラーデを指差しつつラウルを詰問している。
シャーリィはラウルと同じく魔力感知に長けたプーリア族。
ラーデが放つ高貴なオーラを『とんでもない圧』として捉えていたようだ。
そしてラーデの方もシャーリィに興味があるらしく、ラウルに問いかけた。
『ラウル、そこにいるは其方と同じ妖精か?』
「お、よく分かったな。こいつの名はシャーリィ、俺と同じプーリア族だ」
『やはりそうか。其方らがまとう氣はとてもよく似ているな』
「そういうもんか? 自分達のことはあまりよく分からんもんだな」
ラーデの質問に、ラウルが快く答える。
シャーリィは未だに固まったままだが、ラウルは話の流れに乗ってラーデの紹介をし始めた。
「こいつはラーデ、皇竜メシェ・イラーデだ。縁あって一年前にこの家に来た」
「皇竜!? そんなすごい存在が、何でこんなところでこんなちっこい姿でいるの!?」
「こんなところとか、お前、本当に失敬だな。……ま、お前が全国を旅している間にこっちはこっちでいろいろとあったのさ」
「意味分かんない……一体何をどうしたらこんなことになるの???」
終始驚愕しっぱなしのシャーリィに、ラウルが事も無げに受け答えしている。
ラウルはもうラーデの存在を当たり前のように受け入れているが、ラーデと初対面のシャーリィはそうはいかない。
去年と同じように、今年もラウルの野菜収穫を見学しようっと♪とか思いながら気軽についてきたのに、その先にとんでもない存在がいるとは誰が予想しようか。
青天の霹靂にも等しい衝撃に、シャーリィが狼狽えまくるのも致し方ない。
だが、ラーデの方はシャーリィの不躾な態度など全く気にすることなく近づいていった。
『シャーリィと申すか。我は皇竜メシェ・イラーデ。ここでは『ラーデ』という名で過ごしている。何、皇竜などと言ってもそんな大層なものではない。今はラウルやレオニス、ライトにマキシに世話になっている身だからな』
「そ、そうなのね……この家の居候さんなの?」
『うむ。我は居候で、レオニスは大家さんなのだ』
「大家さん……ププッ」
気さくに話してくるラーデに、シャーリィの警戒心が徐々に解けていく。
思ったよりもユーモラスなラーデに、シャーリィも次第に緊張が解けて笑顔を取り戻していった。
「私はシャーリィ、プーリア族だけどラウルと同じく今は人里で暮らしているわ。シャーリィというのはカタポレンの森での名前で、今は『シャル』という名で過ごしているの。だから貴方も私のことは『シャル』と呼んでちょうだいね」
『承知した。本来の名とは別の名があるのは、我と同じだな』
「……フフッ、そうね。私と貴方は似ているところがあるわね」
『うむ。其方も我のことは『ラーデ』もしくは『ラーデ君』と呼んでくれ』
「分かったわ!ラーデ君、私とも友達になってね♪」
『無論そのつもりだ』
ラーデの自己紹介に続き、シャーリィも自らの名を明かし人里での名が別にあることを告げる。
本来の名と人里での名、二つの呼び名があるのはラーデもシャーリィも同じ。
早々に共通点を見つけたことに、両者の間に一気に親近感が湧いたようだ。
シャーリィがラーデに向けて両手を広げながら伸ばし、ラーデもシャーリィの意図を汲んで彼女の腕の中にふよふよと飛んでいく。
グラマラスなボディにすっぽりと収まったラーデ。
美女がちびドラゴンのぬいぐるみを抱っこしている図そのものである。
「じゃあ、ラウルがお野菜や果物を収穫している間にいろいろとお話を聞かせてくれる?」
『うむ。ラウルよ、すまぬが今日は収穫の手伝いができなさそうだ』
「ああ、別にいいぞ。今日はライトとマキシもいるし、ラーデにはシャーリィの子守をしてもらった方がこっちとしても余程助かる」
「ンまッ!ラウルってば子守とか酷いわね!」
収穫の手伝いができないことを謝るラーデに、逆にシャーリィのお守りを頼むラウル。
子供扱いされたシャーリィがプンスコと怒っているが、実際にシャーリィはラウルより十歳くらい若い年下だったりする。
といっても、百歳を過ぎたプーリア族の十歳の年の差などほぼあってないようなものなのだが。
「さ、そしたらとっとと収穫を始めるぞ。九時半にはまたラグナロッツァの屋敷に戻らなきゃならんからな」
「「はーい!」」
「じゃ、私達は朝のデザートでも食べながらお話ししましょ。ラウル、一番最初に採った桃をちょうだいね♪」
「はいよー。ラーデ、どれでも好きな桃を採って持っていっていいぞ」
『うむ、承知した。我の桃に対する審美眼を発揮する時が来たようだ』
朝の収穫を始めるべく、まずは桃が植えてある畑に向かって歩き始めたラウル。
ラウルの後ろにライトとマキシが続き、シャーリィに抱っこされていたラーデが桃を穫るために腕から抜け出してラウル達の後をふよふよと飛んでいく。
そんなライト達の後ろ姿を、シャーリィが微笑みながら一頻り見つめた後、ルンルンステップで嬉しそうについていった。