軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1734話 ラグナロッツァでの『冒険者のイロハ講座』

冒険者ギルドラグナロッツァ総本部で、『冒険者のイロハ講座』を受講するべく二階の大会議室に移動したライト達。

既に大会議室の扉が開放されていて、中には結構な人数の人達が集まっていた。

「おー、これ全部新人の冒険者か?」

「結構たくさんいるんだねー」

「そりゃそうさ。だってここはラグナロッツァ、大陸一の大都市だもん!」

大会議室の中に設えられた、何列もある長テーブル。

席数にすると百以上はありそうだが、半分以上が埋まっている。

参加者の年齢層は幅広く、ライトやジョゼと同じくらいの幼い子もいれば二十歳くらいの女性、三十路はいってそうな青年などもいた。

ちなみにこの幅広い受講者層は、全てが完全な新人冒険者ではない。

中には軽微なルール違反などで冒険者ギルドから注意勧告を受けた者も含まれている。

それは『初心に帰れ』という懲罰的な強制受講である。

しかしやはり大半は冒険者になりたての新人初心者のようで、年齢にして十歳から十五歳くらいの若い男女が参加していた。

そしてその参加者の中にジョゼの知り合いが何人かいて、声をかけられていた。

「あ、ジョゼ!ジョゼもイロハ講座を受けるのか?」

「やあ、コルド!夏のキャンプ以来だね!そうそう、僕も冬休みのうちに講座を済ませておきたくてさ、友達といっしょに受けに来たんだ」

「なら皆でここに座れよ、席を詰めれば三つ確保できるし」

「ありがとう。ライト君、ラウルさん、こっち来てー!」

ジョゼの顔見知りと思しき男の子がジョゼを呼び寄せ、ライト達もその提案にありがたく乗ることにした。

三人して席に着き、ジョゼが双方の紹介を始めた。

「両方の紹介をしておくね。こちらはコルド、僕とはキャンプ講習会で度々いっしょになって仲良くなったんだ」

「こっちはライト君とラウルさん。ライト君は僕のラグーン学園の同級生で、ラウルさんはライト君のおうちの執事さんだけど現役冒険者でもあるんだ」

間を取り持つジョゼの紹介に、コルドは「よろしくな!」と答え、ライトも「初めまして、よろしくね!」と言いラウルは「よろしく」と一言だけ答えた。

コルドはライト達の一つ上で、現在はラグーン学園中等部一年生。

焦茶色のショートヘアに黄褐色の瞳で薄いそばかすがあり、ジョゼと話す時の屈託のない笑顔は彼の人懐っこさを伺わせる。

苗字のない平民で、ジョゼと同じく将来冒険者になるための準備としてキャンプ講習会に積極的に参加していたという。

「いやー、うちは父ちゃんが御者をしててさ。商隊に雇われて長旅で家を空けることも多くてな。でもって、俺には弟が二人、妹が三人もいるからうちはマジ貧乏なの。だから一番上の俺が早くに社会に出て、弟や妹達を食わせてやんないと」

「一応母ちゃんも働いてはいるよ? けど、一昨年双子の妹を産んでから体調を崩すことが多くてさ。最近じゃ近所の食堂に週一で働きに行くくらいしかできないんだ」

「だから俺、ラグーン学園の初等部を卒業したらすぐに冒険者になるつもりだったんだ。でも、父ちゃんと母ちゃんに猛反対されてよ。『冒険者になるにしても、絶対に学が要る。せめて中等部を卒業するくらいは学べ。でなきゃ早死にして終わりだ』って言われてさ。それもそうだと思ったから、中等部に通いながらキャンプ講習会に出たりして今から準備してんの」

コルドが語る身の上話に、ライトは感心しながら聞き入っている。

自分は実の父グランや養い親のレオニスが冒険者だったから、その背を追うように当然の選択肢として冒険者になることを選んだ。

しかし、大多数の人々はそうではないのだろう。

コルドのように、生活苦から仕方なしに冒険者になる者だって多いはずだ。

世の中にはいろんな人がいるよなぁ……とライトは改めてしみじみと思う。

そんな世間話をしているうちに、大会議室の扉が開きギルド職員が入ってきた。

イロハ講座の座学を担当する四十代の男性職員だ。

教官が入ってきたことで、大会議室にいた受講者達は一斉に私語を止めた。

そうしてラグナロッツァ総本部での『冒険者のイロハ講座』が粛々と進められていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

午前中の座学が終わり、四人で昼食を摂ることにした。

場所はもちろんギルド直営食堂。昼間だし、保護者代わりのラウルもいるから安心して出入りできる。

ここでもライトやラウルに強面冒険者達からの声かけがたくさんかかる。

それを見て、ジョゼやコルドは「二人とも、すごいなぁ」と感心することしきりだ。

昼食を摂った後は、午後の解体所見学。

午後の講師は五十代の男性職員で、受講者達相手に丁寧な解説をしてくれた。

そこでは冒険者達が持ち込んだ成果物、魔物の死骸や採取した植物類などが解体処理及び査定される。

ライト達が『冒険者のイロハ講座』を受けている間にも様々な成果物が持ち込まれ、解体所の中は解体師や鑑定士が目まぐるしく動いていた。

「うわぁ……すっごい大きな魔物が解体されてるね……あれは何だろう、ドラゴン?」

「そうだね。あれはシュマルリ山脈にいるドラゴンの一種で、サンダードラゴンだね」

「ライト君、ひと目見ただけでドラゴンの種類が分かるんだ? すごいね!」

「サンダードラゴン……俺、本物のドラゴンなんて初めて見た……」

解体所の中で、今まさに解体している真っ最中の獲物、サンダードラゴン。

ライトはシュマルリ山脈によく出入りしているので、それがサンダードラゴンだと一目で看破したが、ドラゴンの実物を初めて見たジョゼとコルドは度肝を抜かれていた。

「このサンダードラゴンは、ラグナロッツァ所属のとある聖銀級パーティーが午前中に持ち込んできたものだ。これだけの大物が丸ごと持ち込まれるのは、総本部でも滅多にお目にかかれないことだ。良い機会だから、受講者の皆もよく見ておくといい」

「「「……ぉぉぉ……」」」

講師の職員の勧めに、講座受講者達がおそるおそる解体現場の近くに寄っていく。

このサンダードラゴンは、空間魔法陣持ちが丸ごと収納して持ち帰ってきた戦利品だという。

サンダードラゴンの首と胴体は既に切り離されていて、血抜き処理を済ませた後のようだ。

そこから爪を切り取ったり皮を剥いだり、内臓を取り出して肉や骨などにバラしていくのだが、そのサンダードラゴンは通常よりも大きめで体長4メートルはあり、解体師五人がかりでもそこそこ苦戦していた。

ギルド職員の講師の話によると、近年はドラゴンなどの大物が持ち込まれることも増えてきたらしい。

これも全て、レオニスとフェネセンが作って魔術師ギルドに渡るようにしたアイテムバッグの普及のおかげだ。

普及といってもまだ200万G前後の値段はするのだが、それでもいくつかの有力パーティーはもう既にアイテムバッグを複数購入して活用しているのだとか。

獲物の大きさによっては丸ごと一頭の収納は無理だが、首や腕、脚、胴体を小分けにするなどして全てを持ち帰ることが可能になったのだ。

空間魔法陣持ちがいれば問題ないが、いないパーティーはそれまで魔物を倒しても全てを持ち帰ることができなかった。

持ち帰りは討伐証明部位が最優先で、他は小さめの牙や稀少性の高い魔核くらい。他は諦めて捨て置くしかなかった。

それらの持ち帰りを泣く泣く諦めていたものが、アイテムバッグがあれば余すところなく手に入れることができる。

200万Gというお高い値段も先行投資と思えば妥当だし、その後の稼ぎ次第ですぐに元を取れることだろう。

現にライト達の目の前で、サンダードラゴンの解体が行われている。

サンダードラゴンは竜族の中では下位だが、それでも普通一般の脆弱な人族にとっては強大な敵だ。

その強敵と戦い、勝って全ての素材を持ち帰ることができるようになった。これは人族にとって画期的かつ大いなる進歩であった。

するとここで、コルドが手を挙げながら質問をした。

「先生ー!このサンダードラゴン一匹で、いくらくらいの報酬になるんですかー!?」

「そうだな……丸々一頭の持ち込みだと、解体費用を差し引いても50万Gくらいにはなるんじゃないかな。ただし、損傷箇所が多いとその分買取価格は下がるがな」

「50万Gかぁ……そしたら、これよりもっと大きいドラゴンならもっと高値ってことですよね!?」

「そりゃもちろんそうなるさ。ただし、サンダードラゴンだって立派なドラゴンの一種だ。狩る側の冒険者だって命がけだし、ましてやそれより上位のドラゴンともなれば危険度はもっと跳ね上がる。他にも、シュマルリ山脈への遠征費用なんかもかなり嵩むがな」

コルドの果敢な質問に、講師の男性職員が淡々と応じている。

サンダードラゴン一頭で50万G、日本円にして500万円はとても魅力的な数字だ。

しかし講師の言う通りで、何も良いことばかりではない。

ラグナロッツァからシュマルリ山脈までの往復の遠征費用はかなりかかるし、下位とはいえドラゴン相手となると冒険者側だって命がけの戦いとなる。

一攫千金を夢見てシュマルリ山脈に向かうのはいいが、敗れてパーティーが全滅してしまっては元も子もない。

ラウルはシュマルリの竜族達を知っているので、サンダードラゴンを見てもピンとこないらしいが、ライトは知っている。

いつでもシュマルリ山脈に行き来できて、竜王樹ユグドラグスや白銀の君、獄炎竜他中位ドラゴン達と懇意にしている自分達の境遇の方がおかしいのだ、ということを。

するとここで、ライトがはたとした顔でコルドに続き質問をした。

「先生ー、質問いいですかー?」

「ええ、どうぞ」

「僕、前に黄金週間の鑑競祭り第一部でドラゴタイラントの爪を見たんですが……もしドラゴタイラントを一頭丸ごと狩って持ち込んだら、買取価格や貢献度はどうなるんですか?」

「ドラゴタイラント、か……あれは何年かに一度は人里に降りてきて、暴れ回る厄介者なんだよねぇ。……そういや昔、マスターパレンが大量にドラゴタイラントを仕留めたことがあったな。その時は大量過ぎてゲブラー支部では手に負えないってことで、ラグナロッツァ総本部で買い取ったんだよね。買取記録があるはずだから、次の講座までに調べておくよ」

「お手数おかけしてすみません、よろしくお願いします」

ライトの何気ない質問にも丁寧に答える講師の職員。

ライトがふと考えたのは、その爪が素材対象になっているドラゴタイラントの買取価格。

今はまだ爪の採取だけで済ませているが、将来的にはドラゴタイラントをも余裕で倒せる日が来るだろう。

その時に備えて、一頭丸ごとの買取価格や昇級のための貢献度が知りたかったのだ。

しかし、ドラゴタイラントの買取実績が少ない現状ではすぐに答えは出ないらしい。

それでも次回までに調べてくれるというので、その答えが聞けるのは楽しみである。

サンダードラゴンの解体の他にも、部屋の隅の方では薬草や毒草、キノコなどの選別や査定が行われている。

薬草一つ取っても疎かにはできない。

万が一にも類似した毒草が混ざり込んでいては、それを材料として作るポーション類やエーテル類にも多大な影響が出るからだ。

冒険者とは、たくさんの人々に支えられているのだ、ということをまざまざと実感できたライト達だった。