軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第172話 アイギスからの提案

「「「ふぁぁぁぁ……」」」

アイギスの奥の部屋で、ライトが大きな籠から出した幻獣カーバンクルのフォルと対面した時のアイギス三姉妹の、声にならない感嘆の声が木霊する。

「ラ、ライト君、これは……」

「ぼくが今日、カタポレンの森のとある場所で出会った子でして」

「すっ…………ごい可愛い子ねぇ」

「幻獣カーバンクルで、名前はフォルです」

「「「幻獣ッ!?」」」

目の前の可愛らしい小動物の正体を知り、驚きの声を上げるアイギス三姉妹。

思わず大きな声を出してしまった三人だったが、フォルをびっくりさせてはいけない!と思ったのか、各々慌てて咄嗟に口を抑える。

「……そ、そうね、言われてみれば確かにこの額の真紅の宝石は……」

「……カーバンクルの最大の特徴よね……」

「……ライト君、貴方、すっごい強運の持ち主なのねぇ……」

ライトの肩にちょこんと乗るカーバンクルをしげしげと見つめる三姉妹。

そして、次の話題は当然あれになる。

「ライト君、この子……フォルちゃん?に触ってもいいかしら?」

「もちろんいいですよ、レオ兄ちゃん達が撫でてもおとなしかったですから。優しく撫でてあげてくださいね」

「「「ありがとう!」」」

アイギス三姉妹の顔が一斉に、パァッ!と明るい輝きに満ちる。

フォルをまずカイの手のひらの上に乗せてみる。

ちょこんと座ったフォルの可愛いオーラが、後光のようにキラキラと射す。

「ふぃぃぃぃ……」 ←カイ

次に、カイの手のひらに乗せたままセイがフォルの背中をそっと指で撫でる。

フォルは鼻をスンスンと鳴らし、おとなしくお座りしている。

「ふぅぅぅぅ……」 ←セイ

最後に、メイがフォルのふわふわの耳の後ろをそっと撫でる。

つぶらな瞳を閉じて、フォルの顔が心なしか気持ち良さそうにうっとりとしているように見える。

「ふぇぇぇぇ……」 ←メイ

ラグナロッツァの屋敷の三人に続き、ここアイギスでも早速フォル信者が三人新たに誕生したようである。

アイギス三姉妹がフォルの愛らしさにすっかり骨抜きになったところで、ライトは本題に入る。

「今日は、このフォルのための魔導具を作ってもらいたいと思いまして」

「魔導具?どのようなものをお望みなのかしら?」

「ええ、実は……」

ライトが先程ラウルに話したように、フォルをカタポレンの森の中で自由にさせてあげたいこと、そのためにフォルの身を護るための強力な魔導具が欲しいと思ったこと、それがあればライトやレオニスがいない間も安心できることなどを話した。

「そうよねぇ。ライト君も平日は学園に通ってるし、レオだって森の警邏とか冒険者ギルドの依頼で不在にすることもあるものね」

「フォルちゃんだって、森の中を自由に駆け回りたいでしょうし」

「家の中に閉じ込めたら、魔物に襲われる心配はなくなるけど自由に動くこともできなくなっちゃうものね」

三姉妹は納得したように頷きながら、フォルの愛らしい顔を見つめる。

「分かったわ、フォルちゃんに似合うアクセサリーを作ってあげる!」

「魔法を付与できるパーツをいくつか入れて、レオちゃんに付与魔法を施してもらえばいいわね」

「パーツは多ければ多いほどいいけど、あまりゴテゴテにしても良くないわよね」

ライトのお願いに、速攻ノリノリで話を進めていく三姉妹。

このままではまた最高級素材とか使われそうです、ライトは慌てて三姉妹に声をかけた。

「それで、あの、報酬のことなんですが……」

「ん?報酬?ああ、そんなもんなくてもいいわよ」

「えっ、そんな訳には……」

「いいのいいの、気にしないで。前にレオにもらったヒヒイロカネ、あの時に貰い過ぎたくらいなんだから」

「で、でも……」

「……ああ!それならちょうどいいわ!ねぇ、ライト君。私達から貴方に提案があるんだけど……」

カイが明るい顔で両手を合わせてパン!と叩いたと思ったら、ライトに向かって何らかの提案がある、と言いだした。

突然のことに、ライトは少しだけ戸惑いながら聞き返す。

「提案、ですか?」

「そう、提案。ライト君、貴方の編む御守やその他の作品を、私達の店に置いて売ってみない?」

「えッ、ぼくがフェネぴょんに作ったあの御守のようなものを、ですか!?」

カイからの提案に、ライトは心底驚いた。

「ええ。ライト君が先日フェネセン閣下に贈ったあの御守。あれは実に素晴らしいものだったわ」

「一切ムラのない均一な編み目、流れるような端正なねじり模様、どこから見ても乱れや隙のない完璧な仕上がり」

「私達職人の目から見ても完成度の高い、超一流と呼べる極上の逸品ね」

あまりにもびっくりし過ぎたのか、言葉を失うライトにカイは話を続ける。

「ライト君が誤解したらいけないから、先にきちんと言っておくけれど」

「これは決して、ライト君が知り合いの大事な子だから、とか、施しだとか贔屓目などで言っていることではないのよ?」

「私達はね、服職業というこの仕事に誇りを持っているの」

「その服職業の製作や作品作りにおいて、身内贔屓という私情で質を落とすような真似は決してしないし、そんな濁った目も持ってはいないわ」

いつものように穏やかな表情ながらも、その目は凛とした強い意志を滾らせていた。

胸に手を当てながら己の仕事に誇りを持つと言い切ったカイ、その真剣な眼差しを受けてライトも真剣に話に聞き入る。

「だからね。ライト君の作品を置きたいというこの話は、貴方やレオちゃんの知り合いのカイ、セイ、メイではなく、アイギスというお店の看板を背負った職人としての正式な取引の話よ」

「ライト君さえ良ければ、御守だけでなく私達の作る服の装飾紐やブレスレット紐なども作ってほしいの」

「もちろん対価はちゃんとお支払いするわ。これはれっきとした商取引ですもの」

ここまで話すと、カイはいつものにっこりと柔らかな笑みを浮かべる。

「返事は今すぐでなくてもいいわ。レオちゃんと話し合ってからでもいいから、よく考えてちょうだいね」

「……いいえ。そのお話、ありがたく受けさせていただきます」

ライトは即決即断でカイからの提案を受け入れた。

「……いいの?レオちゃんに聞いてからでもいいのよ?」

「大丈夫です。レオ兄ちゃんに聞くまでもありません」

ライトは力強く返事をする。

「ぼくの技術がカイさん達に認めてもらえたことは、本当に素直に嬉しいことですし」

「ぼくが編んだ紐が、カイさん達の素敵な衣装をより華やかに、より美しく彩る。そう考えたら、もっと嬉しいですし」

「それに、何より……」

ライトは少しだけ口ごもりながら、それでも意を決したように言葉を発した。

「レオ兄ちゃんにばかり頼らずに、今から自分で自分のお小遣いを稼げるならその方がいいですから」

そう言い切った後、少しだけ照れ臭そうに頭を掻きながら、へへへ……と笑うライト。

そんなライトを見たアイギス三姉妹は、目をぱちくりさせた後笑いだした。

「……ふふっ。ライト君、やっぱり貴方はグラン君の子ね」

「そうね、本当にグラン君そっくりね!」

「よく『血は争えない』って言うけれど、ライト君は間違いなくグラン君の血を引いているわね!」

三姉妹は、それはそれは嬉しそうにライトを見つめながら笑い合う。

だがその眼差しは、優しいながらもどこか寂しげな愁いも含んでいる。きっと三人は、ライトの顔にグランの面影を見たのだろう。

「ぼく、そんなに父さんにそっくり、ですか……?」

「ええ!そりゃもうそっくりなんてもんじゃないわ!」

「まそっくりと言っても差し支えないわね!」

おずおずと尋ねるライトに、セイとメイがとても明るい声で答える。

「グラン君もね、孤児院時代は皆のために一生懸命外で働いて、お小遣いを稼いできては孤児院の年下の子供達におやつやご飯を食べさせてあげてたのよ」

「自分のものは何一つ買わずに、稼ぎの全てを他の子達のために使ってたわ」

「ええ。いつも誰かのために動く、そんな人だった。そんなグラン君のことが、皆大好きだったわ」

三人はかつてのグランのことを、その子であるライトに聞かせる。皆の口から語られるその立派な人物像は、レオニスがいつもライトに語って聞かせてくれた姿と全く同じだ。

普段レオニス以外から自分の父母の話を聞いたことがないライトは、父グランの立派な話が聞けてとても嬉しかった。

「そして、しっかり者のところはレミちゃんに似たのね」

「そうそう、グラン君の行き過ぎがちなところを宥めたり諌めたりするのは、レミちゃんの役割だったわね」

「お小遣いのことだって、すこしは自分のために使いなさい!って、他の子が言いたいことを代弁してくれたりね」

三人がライトをしっかり者と評したのは、ライトが「自分で自分のお小遣いを稼げたらその方がいい」と言ったことが原因なのだろう。

父グランだけでなく母レミのことも忘れることなく、良いところを思い出してライトに語り聞かせながら褒めてくれる。

ライトには、そのことがとても嬉しかった。

「皆さん、ありがとうございます……ぼく、父さんや母さんに負けないくらいに頑張ります」

「ぼくの作る作品のことは、また日を改めてきちんと前向きに進めていきたいと思ってます。……あ、一応レオ兄ちゃんにもぼくの方から話しておきますね」

「これからも……よろしくお願いします」

ライトはカイに向けて、そっと手を差し出す。

カイはそれを受けて、にっこり笑いながら握手を交わした。

女性ながら鍛冶仕事もこなすカイの手は、女性特有の柔らかさを持ちながらもところどころが硬く、指も節くれ立っている。

だが、ライトの手を優しく包み込むカイの手の温もりは、まるで慈愛に満ちた母の抱擁のようだ。

この日のカイの手の温もりを、ライトは一生忘れないだろう。