軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第169話 初めてのイベント

ライトは震える手で、マイページの新しい項目『イベント』をスクロールしていく。

ぱっと見たところ、イベント名が明記されているものと『???』で隠されているものの二種類がある。

試しに『???』の方を先に押してみたが、指でタッチしても何の反応も起きない。これは季節限定とか地域限定、あるいは何らかのイベント開始フラグの成立を要するものだろうか?

次に『???』以外の、何らかの文字が書かれてある方を見る。

【無人島調査ミッション】

【妖精の里探訪】

【公国宰相の悪事を暴け!】

この他にもいくつか並んでいるが、どれも覚えのあるイベント名だ。名前からして季節感や固有の土地名は一切皆無なので、いつでも開始できるイベントとして常時表示されているのだろう。

無人島調査ミッション、これはさすがに今の俺じゃまだ無理だろうな……年齢や身体も成長していろいろと経験を積んでから挑んだ方が良さそうだ。

妖精の里探訪、これはラウルの生まれた里だろうか?いや、妖精と一口に言っても複数の種族があるから必ずしもラウルの故郷とは限らないか。今度ラウルに聞いてみよう。

公国宰相の悪事を暴け、これ最も触っちゃいけない案件じゃねぇか……平民の子供の俺にできることなんぞないわ、とりあえず数年は放置だ放置!

そんなことをライトは考えながら、イベント欄を一通りチェックしていく。

季節限定で伏せられているものが多いのか、『???』の項目が数多続く中に飛び飛びで即時開始できるイベントが出てくる。

どんどん下にスクロールしていくと、ついに目的の『荊棘の果実』という名のイベントを発見した。

ちょうどその時、レオニスが寝室に入ってきたのでライトは慌ててマイページを終了させた。

「お、ライト、まだ寝てなかったのか?」

「うん、夕方に寝ちゃったからね……でももう眠たくなってきたから寝るー」

「そっか、おやすみー」

会話をしながら布団に潜り込んだレオニス、ものの数分もしないうちに寝息を立て始めた。

この眠りの早さというのも、野外で寝食を行うことの多い冒険者に必須の能力というか体質なのだろう。

ライトも寝付きは悪い方じゃないが、それでもレオニスの寝付きの良さには負ける。

そしてライトも先程までずっと思考の海に沈み、マイページの新たな発見などの驚愕を経て本当に眠くなってきたようだ。

レオニスが寝息を立ててから数分後には、ライトも眠りの海に沈んでいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日の日曜日。

ライトは自室でマイページをじーっと眺め、朝からうんうんと唸っていた。

昨夜発見したマイページの新項目『イベント』、これをどうすべきか悩んでいるのだ。

『うーーーん……これはどういう順番でこなしていくべきか』

『あっちでは基本的に複数のイベントが同時進行することは一度もなかったからなぁ……』

『普通に考えたら、ひとつのイベントを完全クリアしてから次の新しいクエストに着手するべき、なんだろうなぁ』

『何にせよ【荊棘の果実】は今はまだ手をつけられないな……あれ、確かクリアしなきゃならないお題が十個以上はあったはずだし』

そう、ライト的には欲ばってあれもこれも同時にイベント発動させて失敗したくないのだ。

また、クエストにも当然のことながら難易度が存在する。比較的容易なものからとんでもなく厳しい条件つきのものまで、その難度は様々だ。

そうした状況を鑑みるに、ライトとしては『多少時間はかかってもいいから戦闘リスクが無い、もしくはあってもハードルが相当低めのもの』が理想であった。

まだ子供の身で戦闘能力が低いライトにとっては必然の選択であり、それ故に最も優先的にこなしたいはずの『荊棘の果実イベント』も難易度的に考えて当面は見送らざるを得なかった。

『そうなると、今選べるのは【使い魔の卵を育成しよう!】か【湖の畔に住む小人達の願いを叶えよ】くらいか……』

『……湖の小人はかなり時間かかるやつだから後回しにして、まずは使い魔の卵にしてみるか……』

ライトが一番最初に選んだ、記念すべき初のイベント【使い魔の卵を育成しよう!】。そりゃもう読んで字の如くの内容である。

運営からのお知らせ『使い魔システム実装!』というお知らせとともに全員配布で配られた卵を孵化させて、出てきた使い魔を育てる、というものだった。

これなら冒険フィールドで魔物を狩る必要もないし、今の貧弱なライトでもクリアできそうな内容というのが選択した理由である。

ちなみに孵化方法は、【ドラゴンの卵を育成しよう!】で孵化したクー太と同じく『とにかくたくさんの餌を与える』というものだ。

雛ならともかく、卵でも餌やりするの?それ、どうやって食わせるの?という、真っ当至極な疑問を抱いてはいけない。

何故ならばここは、かつてユーザー達から褒め言葉として『頭おかしいだろ!』と数多の罵倒と絶賛を浴びてきたサイサクス世界なのだから。

ライトは意を決して、イベント欄の【使い魔の卵を育成しよう!】の文頭にある丸いアイコンをタッチした。

すると、それまで白い丸だったアイコンがピンク色に変化し、ライトの目の間に別ウィンドウが開いた。

その別窓にはイベントの内容詳細が書かれている。

====================

【配布された卵に、餌を与えることで卵が成長します】

【よりたくさんの餌を与えて、卵を大きく育てましょう】

【大きく成長した卵は、一定量を超えると孵化します】

【孵化した卵からは、使い魔が出てきます】

【使い魔は様々な種族があり、どれが出るかはお楽しみ!】

【孵化した使い魔に餌を与えたり、旅に出させることでさらに成長、進化します】

【旅に出た使い魔は、様々なアイテムを持ち帰ってきてくれます】

【使い魔システムを駆使して、勇者を目指す候補生であるあなたの冒険者ライフにより鮮やかな彩りを!】

====================

一通り読み終えた瞬間、ライトの手のひらの中に突如卵が現れた。

突然の出来事に、ライトは思わず「うわッ!」と声を上げてしまったが、キョロキョロと周りを見回して誰にも聞かれていないことに安堵する。

手のひらの中に唐突に現れたその卵を、そっと手を開きながら見てみる。

大きさはウズラの卵よりも少し小さいくらいで、焦茶の鱗のような殻は指で撫でるとザラザラとした感触が伝わってくる。

爪でそっと突っついてみると、殻は案外硬いようだ。

そしてチョンチョンと突っつく度に、卵がそれに応えるかのようにピコピコと動くのが何とも可愛らしい。

ライトの記憶では、この卵に与える餌によって孵化後に誕生する種族が変化する。

肉を多く与えれば中型から大型の肉食獣系、魚を多く与えれば海や湖に関係した水棲動物、野菜や草を多く与えれば森林や植物に関連した精霊などが出てきたはずだ。

そうなると、ライトが選ぶ道は唯一つ。非力なライトでも採取しやすく、森に住まうという利点を最も活かすことができ、更には人気の高かった精霊が出やすくなる草系一択である。

「よし、早速家の周りの草を与えてみよう!」

ライトは使い魔の卵を手に、勢い良く家を飛び出していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトはまず、足元に生えている名も無き雑草を手に取り、卵の上に乗せてみる。

するとその草は、瞬時にして霧のように消えていく。卵がその身の内に取り込んだのだろう。

その摩訶不思議な光景に、ライトは思わず「おおお……」と感嘆の声を洩らす。

基本的にこの使い魔の卵は、人間が普通に食べるものなら何でも食する傾向にある。

もしかしたら食べられない石ころや毒物なども問答無用で吸収するのかもしれないが、それが原因で毒や有害物質を撒き散らすような使い魔が出来上がっても非常に困る。故にその手の危険な真似は試せないし、やらない方が無難である。

草や野菜の類いなども、魔力が豊富そうなものを与えた方がいいのだろうか?と考えるライト。

とはいえ、このカタポレンの森自体が魔の森と称されているくらいなので、ここに自生している植物類は全て魔力豊富と言えるのだが。

しかし、それならばなおのこと与える餌を厳選して与えてみたくなるのが人の性というもの。

ライトはしばらく考え込み、とある場所を思いつく。

それは、ライトが住む家から駆け足で30分ほどの場所にある一際大きい立派な樹。

ライトは前世で屋久杉というものをTV画面や写真画像などでしか見たことはなかった。だが、その大樹を初めて見た時にライトは、かつての世界でその名を馳せた屋久杉もこんな荘厳な感じなんだろうか、と思わせるような神々しさを覚えたものだ。

魔の森と呼ばれるカタポレンの中で、珍しく光属性を備えたその木の名は『神樹ユグドラツィ』。

どっかりと大地に根を下ろし、その太い幹は力強く、常緑で枯れることのない葉はいつ見ても瑞々しい輝きを湛えている。

神樹と呼ばれるユグドラツィの葉や枝を、この使い魔の卵に与えたらどうなるだろう?考えただけでもワクワクしてくる。

問題は、その神々しい神樹ユグドラツィの枝葉を使い魔の餌として与えられるのか、使ってもいいもんなのかどうかだが。

可か不可かはまだ何とも分からないが、ともかくライトは神樹ユグドラツィのもとに行ってみることにした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「こんにちはー」

ユグドラツィのもとに着いたライトは、ユグドラツィに向かって一言声をかける。初めてこの神樹を見た時に、その神々しさ、崇高な佇まいに感動したライトは、それ以来ここに来る時に必ず挨拶をするようになった。

先日などは、氷の洞窟周辺に行った際の土産として手のひらサイズの雪だるまを捧げながら、神樹に向かってその時の出来事を面白おかしく語って聞かせたくらいだ。

傍から見たら、誰もいないところで独り言を呟く危ない人?と思われかねないが、そう思われても構わないくらいに神樹ユグドラツィが醸し出す清らかなこの空間がライトは好きだった。

午前中の爽やかな空気と清々しい神気を纏う神樹の、何とも気高くいと尊き姿よ。ここに来る度に、ライトは心が洗われるような気持ちになる。

カタポレンという魔の森の中にありながら、この神樹の周囲は一味も二味も違う神気に満ちていた。

ライトはウエストポーチに仕舞っておいた使い魔の卵を、大事そうに取り出す。

そして、神樹の根元まで近寄ってから上を見上げた。

「さて、ここまで来たはいいが……うーん」

「枝や葉っぱはいただけそうにないなぁ……」

「まさか、土足でよじ登る訳にもいかないし……」

そう、この神樹はライトがかつていた前世の世界での屋久杉を彷彿としたことからも分かるように、かなりの巨木であった。

その幹は大の大人が何人も手を繋いでも囲いきれないほどに太く、枝葉はかなり高いところから生い茂り、ライトの手が届くような低い場所には全くない。

よじ登って上に行こうにもライトはそこまで木登りが得意ではないし、登った後に下りるのも怖そうだ。だが、そんなことよりも神樹に土足でよじ登るなどという罰当たりな方法は、ライトにとってはあり得ないことだった。

「枯葉の一枚でもあれば御の字だけど、常緑樹のようだから枯葉どころか落ち葉も全くないし」

「んー……仕方ないから、この周辺の草だけでも食べさせておこうかな。神樹の近くなら、それだけでも光属性の魔力高そうだし」

ライトはブツブツと呟きつつ、神樹の周辺に目を向け始める。

するとその時、ライトの頭に何かが落ちてきた感触があった。

頭上から落ちてきたそれを手に取ってみると、何と神樹ユグドラツィの葉だった。

まだ瑞々しく輝く緑の大きな葉が、はらはらと上からゆっくりと舞い降りてきてはライトの足元に落ちる。

「……!!」

ライトは思わず上空を見上げた。

大きな鳥や獣がユグドラツィの上に登ったり止まったりして葉が落ちた、というような気配は全くない。

辺りは変わらず静けさに包まれ、時折吹いてくるそよ風が揺らす葉擦れの音が心地良く響く。

「これは……」

「神樹がぼくに、分けてくれた、のか、な……?」

ひとまずライトは足元に落ちた十枚の緑葉を拾い集めた後、改めて神樹を見上げた。

「ありがとうございます、早速この子にあげますね!」

ライトは大きな声で神樹に礼を言った後、早速その場で使い魔の卵に神樹の緑葉を一枚づつ与えていった。