軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1662話 倒れた炎の女王と慟哭するフラム

転移門を使い、フラクタル峡谷の辻風神殿から炎の洞窟最奥の間に移動したレオニス達。

彼らの目に真っ先に飛び込んできたのは、部屋中に充満したどす黒く渦巻く炎だった。

「ッ!?!?!?」

「これは、一体……」

『キャッ!? 何これ!?』

『………………』

予想外の大惨事に、誰もが驚きを隠せない。

燃え盛る黒炎による視界の悪さもさることながら、室内の温度もとんでもないことになっている。

風の女王や青龍のゼスはともかく、普通の人間ならば転移門で移動してきたその瞬間に全身が蒸発してしまってもおかしくない温度だ。

しかしレオニスやラウルは、炎の女王や火の女王、そして朱雀のフラムからも加護を得ている。

エリトナ山の煮え滾るマグマですら彼らを害することなどできないのだから、今のこの炎の洞窟の異常事態であってもレオニス達は全く平気だった。

とはいえ、室内がものすごく熱くなっていることはその肌で理解できる。

現に最奥の間の壁や天井の一部が変質し、融け始めていた。

これは相当マズい事態になっている。早急に収めなければ、最悪炎の洞窟の崩壊に繋がる―――

そのことを瞬時に察したレオニスが、大きな声で呼びかけた。

「炎の女王!フラム!ここにいるのか!? いたら返事をしてくれ!」

「炎の女王!フラム!どこだ!!どこにいる!?」

「ラウル!風の女王、バルト!お前達も炎の女王とフラムを探してくれ!」

「『『分かった!』』」

レオニスの指示に、ラウルと風の女王、ゼスがすぐさま応じて手分けして探すべく四方に散っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

明らかに異常事態に見舞われている、炎の洞窟の最奥の間。

室内は異常な炎の熱気による息苦しさだけでなく、何かが焼け焦げたような臭いがする。

その不快な臭いが果たして何なのか、冒険者歴の浅いラウルはもとより風の女王もゼスも分からなかった。

しかし、冒険者を長く続けてきたレオニスだけは気づいていた。それが『人が火に巻かれて焼けた時に出る臭い』であることを。

そして室内では、耳障りな謎の音が常時聞こえている。

それはとても甲高い音で、絹を引き裂くような耳鳴りにも似ていて、聞く者にかなりの不快さを与える。

人差し指で両耳を塞ぎたくなる音なのだが、どこか胸が張り裂けそうな悲しみをも帯びていた。

この謎の音がずっと部屋中に反響して続けていて、一体どこの何が音源なのかさっぱり分からない。

視界の悪さと耳障りな怪音が響く中、炎の洞窟の主達を探すレオニス達。

程なくしてラウルと風の女王がほぼ同時に声を上げた。

「……おい!こっちにフラムがいたぞ!!」

『えッ!? 炎のお姉ちゃん!?!?!?』

二人同時に声が上がり、どちらに先に行くかレオニスは一瞬だけ迷ったが、より悲痛な響きを伴う風の女王がいる方に駆け出していた。

そうしてレオニスが目にしたのは、地面に仰向けで倒れている炎の女王の憐れな姿だった。

『炎のお姉ちゃん!炎のお姉ちゃん!……何で……どうしてこんなことに……うわああああぁぁぁぁん!』

「これは……何てこった……」

無惨な姿で倒れている炎の女王の身体に、風の女王が号泣しながら縋りついている。

炎の女王の胸には大きな穴が開いていて、彼女の全身から溢れ出る炎もいつもの半分以下にまで弱っていた。

しかし、風の女王が号泣しながら縋りついたことで炎の女王の炎が僅かに勢いを増した。

これは、風の女王の号泣で彼女達の周囲にブワッ!と大きな風が巻き起こったためである。

弱りきった炎に強風は逆効果のように思えるが、炎の女王と風の女王に限ってはそんなことにはならない。

彼女達は属性の女王であり、互いに姉妹同士。

もちろん属性によって相性の良し悪しはそれぞれあるが、炎にとって風は燃え盛る勢いを助けてくれる好相性の相手。

風の女王の魔力をふんだんに含む風が、炎の女王の生む炎にも良い影響を与えていた。

だがそれでも、炎の女王の胸に開いた大きな穴は実に痛ましく、風の女王の好影響を以てしても塞がる様子はない。

炎の女王の痛々しい姿に、レオニスもその端正な顔を苦痛に歪めている。

しかしそれと同時に、頭の中では冷静に状況分析をしていた。

炎の女王が倒れているのは、胸に空いた大きな穴が原因だろう。

そしてこの最奥の間での異常事態は、ここに倒れている炎の女王の仕業ではない。こんな状態の炎の女王に、ここまでの異変を起こし続ける力などある訳ないからな。

だとすると、この赤黒い炎を起こしているのは朱雀のフラムで―――その原因は、炎の女王が凶弾に倒れたことによるもので、今のフラムは怒りで狂気に飲み込まれているのか……

事の真相にいち早く気づいたレオニス。

ガバッ!と振り返り、すぐにラウルの声がした方に駆け出した。

そこではフラムを先に見つけたラウルが、懸命にフラムに呼びかけていた。

「フラム!フラム!俺だ、ラウルだ!フラム、俺のことが分からないのか!?」

『キャアアアアァァァァッッッ!!』

ラウルの必死の呼びかけも、フラムは全く気づく様子がない。

目から滂沱の炎の涙を流し、極限まで縦に開かれた嘴からは声にならない悲痛な叫び声だけが出続ける。

フラムのあまりにも痛ましい姿に、ラウルの黄金色の瞳には涙が滲んでいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

この惨状を目にしたレオニスが、必死に考えを巡らせる。

いつも優しくて穏やかなフラムがこんなことになっているのは、炎の女王が何者かによって害されたせいなのは間違いない。

その何者かってのは、おそらく炎の中級精霊が言っていた侵入者なんだろうが……今はその検証をしている暇などない。

兎にも角にも、まずは一刻も早く炎の女王の回復を最優先にしなければならん。

暴走したフラムを食い止めて正気に戻すことができるのは、炎の女王だけだろうから―――

そう考えたレオニスは、再び炎の女王のもとに駆け寄った。

そこでは横たわる炎の女王の身体に縋りつく風の女王と、二人の女王を心配しながら見守るゼスがいた。

レオニスは風の女王の向かい側に回り込み、炎の女王の容態を確認するべく彼女に声をかけた。

「炎の女王!俺だ、レオニスだ!俺の声が聞こえるか!?」

『………………』

レオニスの呼びかけに、炎の女王が薄目を開けて応えた。

薄目を開ける動作はとてもゆっくりで、今の彼女には瞬き一つすることすらもかなりしんどいことが分かる。

このままでは、炎の女王の命が本当に危ないのは明白だった。

レオニスは急ぎ空間魔法陣を開き、何かを取り出した。

それは、神樹ユグドラツィや大神樹ユグドラシア、天空樹ユグドラエルの小枝だった。

「炎の女王、これを食え!そうすりゃ、ちったぁ回復するはずだ!」

レオニスはそう言いながら、神樹の小枝を炎の女王の胸の上に置いた。

いつものレオニスなら、回復剤=エクスポーションやアークエーテルなのだが。炎の化身相手に、水を含む液体様のものを与えるのはさすがにマズい。

ならばどうするか。その答えは『火を燃やすための燃料を与える』であり、さらには『魔力をたっぷり含む神樹の枝なら、なお良し!』である。

ちなみにこの小枝、これまで幾度となく神樹達から分け与えてもらった枝から出た細切れの端材だ。

端材とはいえ、サイサクス世界に六本しかない貴重な神樹達の枝。小指程度の小枝や葉っぱ一枚とて絶対に疎かにはできない。

ドライフラワーや押し花みたく乾燥させて飾りつけに使うも良し、あるいは栞にしたり香木みたく焚いて香りを楽しむのも良し。

もともと霊験 灼(あらた) かな神樹の枝だ、いつか何かの役には立つだろ!

そんなことを考えながら、レオニスは神樹達からもらった枝をその都度後生大事にとっておいてきた。

まさか今日ここで、それが役に立つとは夢にも思わなかったが。

炎の女王の胸の穴の上に置いた神樹の小枝が、ゆっくりと燃えていく。

瀕死の重傷を負った炎の女王にとって、この小枝は逆に好都合だった。

いきなり大きな枝を燃やして身体に一気に負担をかけるより、小さな枝を少量づつ燃やし続けた方がかかる負担は少なく抑えられるはずだ。

レオニスのそうした予想は当たっていて、小枝を二本、三本と燃やしていくうちに炎の女王の身体の炎が少しづつ煌めきを増していった。

何とか打開策を見い出したレオニス。

次の行動に移るべく、風の女王達に声をかけた。

「風の女王、今から俺が渡す小枝を炎の女王に一本づつ、ゆっくりと与えてやってくれるか。そうすれば、本当に少しづつだが炎の女王の体力が回復していくはずだ」

『わ、分かったわ……炎のお姉ちゃんのために、ワタシも頑張る!』

「頼んだぞ。バルトは俺といっしょに、フラムのところに行ってくれ。今のフラムは、炎の女王がこんなことになっちまって完全に正気を失っている。フラムが正気に戻らんことには、この状況は収まらん」

『分かった!』

レオニスが空間魔法陣から様々な神樹の小枝を取り出し、風の女王に手渡ししていく。

ただ風の女王の横にポン、と置くだけだと、彼女が発する風で小枝がバラバラに飛んでいってしまいそうだったので、風の女王自身に直接持たせることにしたのだ。

そうして数十本の小枝を風の女王に渡したところで、レオニスはゼスを連れて再びフラムのもとに駆けつけた。