作品タイトル不明
第1654話 植樹作業のあれやこれや
その後のライト達、特にラウルは多忙な日々が続いた。
南の天空島に加え、不思議の森のファフニールやリンドブルムが住む中央の天空島にまで果樹の植樹が決まったのだから。
しかし、如何にラウルが辣腕農家であろうともさすがに三ヶ所同時に作業するのは不可能だ。
故にラウルとともに、レオニスまで果樹の植樹作業をガンガン手伝わされる羽目になった。
まず、一番最初に着手していた南の天空島。
こちらはある程度開墾作業が進んでいたので、然程問題はなかった。
水路は確保してあるし、果樹植える場所も既に土魔法で耕していたので、後は林檎と桃の苗木を植えて育てるだけ。
さらに言えば、苗木を植えた後に唐種招霊ら草木の精霊達が喜んで果樹の世話をしてくれた。
そのおかげで何と植樹から五日後には花が咲き、十日後には初めての林檎と桃が実ったのだ。
この迅速な成果には、レオニスやラウルだけでなく依頼主のサマエルも大満足だった。
サマエルが『うちの子達は、何と賢く素晴らしいのだろう!シャティエル、ファヌエル、ラティエル、でかした!』と大喜びしながら花の精霊達の頭や頬を撫でて大絶賛していた。
その一方で、苦戦したのは不思議の森と中央の天空島内部(修験者の迷宮)。
どちらも日光が当たらない場所なので、果たして果樹としてちゃんと育つかどうかも皆目分からなかった。
まずは、約束した順番通り不思議の森の植樹に着手したレオニス達。
彼らが一番最初に取り組んだ課題は『不思議の森への行き来をどうするか』ということ。
これまでは、サマエルやリンドブルムの協力のもと不思議の森を訪れていた。
しかし、果樹の植樹を行うとなるとかなりの頻度で行き来しなければならない。
そしてその都度リンドブルムやサマエルを引っ張り出すのは気が引けるし、かなりの手間がかかる。
そのため、レオニスやラウルが不思議の森に行きたいと思った時に気軽に行けるような手段が必要だった。
「ご主人様よ、中央の天空島や不思議の森にも転移門を設置できるのか?」
「ンーーー……中央の天空島の外側ならともかく、中にあるリンドブルムの部屋?や、不思議の森は転移門が設置できん可能性の方が高いんだよなぁ……」
「そうなのか?」
「ああ。その二ヶ所は、明らかに俺達の住むサイサクス大陸とは別の空間にあるだろ? 異空間同士を転移門で繋げられるなんて聞いたこともねぇし、設置できたとして冒険者ギルドにどう報告すりゃいいかさっぱり分からん」
「そりゃそうか……」
苦悶の表情で悩むレオニスに、問いかけた側のラウルも渋い顔で納得する。
レオニス達が暮らすサイサクス大陸、そこで日々当たり前のように使う魔法や技術が異空間でも使える保証などどこにもないし、むしろ使えないことの方が多いことを前提として考えて動かなければならない。
「……とりあえず、ダメ元で中央の天空島内部と不思議の森の両方に転移門を置いてみるか」
「そうだな。まずはその二ヶ所を転移門で繋げられるかどうか、その確認をしなきゃならんな」
「そゆこと」
レオニスはリンドブルムとファフニールの許可を得た上で、二つの世界に転移門を設置した。
それから様々な試行錯誤を経て、以下の結果を得た。
・天空島内部と不思議の森、この二ヶ所間での転移門は運用可。
・この二ヶ所をカタポレンの家の転移門と繋げようとしたがダメだった。
・カタポレンの家の転移門がダメだったので、南の天空島の転移門で繋げてみようとしたが、そちらもダメだった。
・このことから、やはり異空間とサイサクス大陸を直接繋ぐ転移門の設置は不可能である、と判断。
それらの結果を受けて、レオニスは中央の天空島外部に転移門を設置した。
設置場所は、内部への入口に通じる火口の縁。
そこから天空島内部に入り、天空島内部から不思議の森に転移門で移動する、という経路である。
これを図式にすると
『カタポレンの森 ⇆ 中央の天空島外部 ⇆ 中央の天空島内部 ⇆ 不思議の森』
となる。
乗り継ぎが計三回、まぁ結構な手間だがサマエルやリンドブルムの手を都度煩わせないだけかなりマシになった方である。
そしてこの運用方法が可能になった後、レオニスは一応冒険者ギルド総本部に転移門の新規設置を報告に行った。
話をしたのは受付嬢のクレナだったが、クレナに「はぁ……レオニスさんってば、相変わらずとんでもないところに設置なさいますよねぇ……」と、半ば呆れられながらも受理してくれた。
場所が場所だけに悪用される可能性はほぼ皆無(もし万が一、中央の天空島に無断侵入する輩がいたとしても、自力での飛行手段がなければそのまま墜落でお陀仏)だし、異空間への転移門新設に至っては『意味が分からない』としか言いようがないからだ。
こうして二ヶ所への移動手段が確保できた後は、異空間での植樹の経過観察に取り組んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
植物や樹木に日光が欠かせないのは、サイサクス世界においても常識だ。
そこに日光による光合成云々等の科学的根拠や見地などはないが、それでも経験則から『草木に日光は必要』ということだけはレオニス達も理解している。
しかし、中央の天空島内部と不思議の森には日光が全く当たらない。
一番最初にラウルが懸念していたように、『本当にこれで林檎や桃が実るのか?』『よしんば花くらいは咲いても、果実までは実らないんじゃないか?』と疑うのも当然である。
まずレオニス達は不思議の森のファフニール達の新居、洞窟最奥の入口付近を少しばかり切り拓いて、林檎の木と桃の木を各三本づつ植えた。
苗木を植えた直後と三日に一度、レオニスもしくはラウルが訪問して植物魔法をかけて強化する。
水遣りはファフニールに依頼した。
ファフニールは水属性の魔法が使えるというので、水遣りなどちょちょいのちょいー、の楽勝なのである。
その結果、植樹から半月後に花が咲き、開花から十日後に実が成った。
南の天空島に比べたら日数はかかったが、それでも果実が実るに至ったことは僥倖である。
そしてこれはレオニスもラウルも与り知らぬことだが、日光が射さない異空間での果樹植樹の成功の一端は『森のランタン』と呼ばれるものの存在が大きかった。
この森のランタン、これまでは『蛍のような光を発しながら浮遊するだけの無害な存在』という認識でしかなかった。
しかしその蛍のような光こそが、太陽光の代わりの役割を果たしていたのだ。
異世界からもたらされた林檎と桃の木が物珍しいのか、植樹直後から森のランタンが木の周りに多く集まった。
その結果、レオニス達の植物魔法だけでなく森のランタンの淡い光を得て開花や結実が大幅に促進されたのだ。
林檎や桃が実るまでに一ヶ月弱の日数を要したが、それでもサイサクス世界で普通の土地で栽培するよりはるかに早い。
そして果実の方も、十分に美味しいと思える出来だった。
もちろん厳密に言えば、カタポレンの森で作るもののほうが美味しさは上なのだが、大きさはカタポレン産のものと大差ないくらいに成長し、味だってちゃんと甘くて芳しい香りがする。
ここまで果実が大きく成長したのは、森のランタンが発する淡い光に加えてこの最奥の間がファフニールとフレア・ジャバウォックの魔力に満ちていたおかげである。
一方で中央の天空島内部での果樹植樹も無事成功した。
とはいえ、こちらは不思議の森での栽培よりもさらに日数を要した。
何しろリンドブルムが住む部屋は全てが石畳みでできていて、露地になっている地面など一欠片もない。
しかし、大量の蔦が生えているのだから、土が全く無いなどということはさすがにないだろう―――そうした思惑のもと、リンドブルムに協力してもらって地面の石畳みを一部剥ぎ取った。
多少のことでは剥ぎ取れない石畳みに、リンドブルムが『ンもー、何でこんなにクッソ硬いのよー!』とかキーキー言いながら、地面を蹴ったり炎を吐く。
そうして大苦戦の末に、ようやく露わになった土の地面。
そこにすかさずレオニスとラウルが林檎と桃の木を植樹し、一ヶ月強の月日を経て実が成った。
水遣りはファフニールと同じくリンドブルムの仕事。
彼女も水属性の魔法が使えたので、果樹への水遣りを任せたのだ。
そして日光の代わりは、唯一の光源である青白い線。
不思議の森にいる森のランタンじゃないが、せめて何かしら光の代わりになるものの近くに植樹しよう、とレオニスとラウルは事前に話し合っていた。
そのおかげか、多少時間はかかったもののリンドブルムのお膝元でも林檎と桃が実るようになったのである。
ちなみにリンドブルムは、サマエルのいる南の天空島で早々に林檎と桃が実ったことを聞きつけ、視察と称して南の天空島に乗り込んでいた。
たわわに実った林檎や桃の木を見て、リンドブルムが心底羨ましそうに感嘆していた。
『ンまぁぁぁぁ、こんなに美味しそうな林檎や桃がたくさん成るなんて!すごいわー、羨ましいわぁー!』
『そうでしょうとも、そうでしょうとも。我が南の天空島は、これからますます繁栄していくのです!』
『……てゆか、このちっこくて可愛いのは、ナぁニ?』
林檎や桃の木の周りにいる草木の精霊達を見て、リンドブルムが不思議そうに問うた。
リンドブルムもこれまで何回かサマエルのもとを訪ねに来たことがあるが、このような小さな生き物が南の天空島に存在していたことなど一度としてない。
見慣れぬ新人?の登場に、リンドブルムが気になるのも当然である。
『黄色いのはマグノリア・フィゴ、桃色はピオニー、白いのはクローバー、黄緑色はハドリー。四種とも草木の精霊で、地上にいる神樹ユグドラツィのところから貰い受けた養子にございます』
『こーんな可愛らしい養子を貰い受けた、ですってー!? 何ソレ聞き捨てならないわ、私にもちょっと分けてちょうだい!』
『如何にリン姉様の頼みと言えど、こればかりは聞けませんね。この子達は全員同じ日に生まれた家族。家族を引き離すような真似は絶対にさせませんよ?』
『ぐぬぬ……それなら仕方ないわね……』
草木の精霊を欲しがったリンドブルムに、サマエルがピシャリ!と断った。
いつもなら姉の言うことは喜んで聞き入れる弟なのに、珍しいこともあるものだ。
しかしサマエルの言い分は尤もで、皆同じ日に孵化した精霊達。
それを引き離すなど、どうしてそんな酷いことができようか。
するとここで、リンドブルムがはたとした顔でサマエルに問うた。
『てゆか、同じ日に生まれたって、どゆこと?』
『この子達は、神樹ユグドラツィのもとで暮らすハドリー達が拾ってきたという卵から孵化した者達なのです。ちなみに卵から孵化したのは精霊達だけでなく、あちらにいる白い狼のザフィエルや青い風の精霊ザドキエルもですよ』
『へーーー、卵からこんな可愛らしい精霊や狼が生まれるんだぁー……何とも不思議なことがあるものねぇ』
『ええ、私も地上に降りて初めて知ることがたくさんありましたよ』
サマエルが語る不思議な話に、リンドブルムがほとほと感心したように呟く。
『じゃあ、私も神樹ユグドラツィにお願いすれば、その卵を貰い受けることができるかしら?』
『正確に言うと、神樹ユグドラツィから卵を貰ったのではなく、そこに暮らすハドリー達から譲り受けました。そして先日私が彼らから卵をごっそりと譲り受けので、当分は貰えないだろうと思いますが』
『何ソレ、ズルッ!』
『でも、あの様子だとまたしばらくすれば彼らが卵を拾ってくると思いますよ?』
『じゃ、それを譲ってくれるように、先に神樹とハドリー達にお願いしとけばいいわね!』
『ですね』
未だに唐種招霊達を諦めきれないリンドブルムに、サマエルが代替案を出す。
確かにユグドラツィのところにいるハドリー達の卵の在庫はほぼ空だろう。
しかし、あのハドリーの里には十六体ものハドリーがいるのだ。そのうち彼ら彼女らが、どこからかまた茶色の卵を拾ってくるだろう。
そしてその譲渡先に、いち早くリンドブルムが名乗りを上げておけば、いずれは彼女が住む中央の天空島内部=修験者の迷宮にも使い魔達が暮らす日が来るはずだ。
その近い将来、リンドブルムと草木の精霊達が仲良く暮らす未来はもう少し先の話である。
そうして月日は瞬く間に過ぎていき、師走も半ばに近づいた頃。
久しぶりにカタポレンの畑の片隅にある焼却炉で、ラウルは殻焼き処理をしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁー……ここ最近、殻焼きが全然できてなかったからな。畑用の肥料が完全になくなる前に、少しでも補充しておかんとな」
巨大な焼却炉の前に座り込み、轟々と燃え盛る火の中に手を突っ込みながら焼いている最中の殻をひっくり返すラウル。
燃え盛る豪火の中に手を突っ込むなど、傍から見たら無謀以外の何物でもない。
しかし、ラウルには火の女王や炎の女王、そして朱雀のフラムの加護がある。
火属性の頂点たる三者の加護があれば、たとえ火の中どころかマグマの中でさえもラウルを害することなどあり得ない。
そのおかげで畑のための肥料作りも楽々こなせるので、ラウルはとうとう三つ目の焼却炉まで新居購入してしまったくらいだ。
そしてこの三つ目の新しい焼却炉がまたデカい。
従来品の十倍以上の容量があり、ガーディナー組に特注品として作ってもらったものだ。
そのお値段、何と30万G。これまでの煉瓦製ではなく、金属製の大型焼却炉である。
値段はかなり張るが、これで畑に使う殻肥料が素早く大量に作れるならば御の字だ。
欲しいものは何としても手に入れる、そのためには冒険者ギルドでの依頼も率先してこなす。さすがはラウル、常に己の物欲に忠実な妖精である。
そうして新しい焼却炉の前で、鼻歌交じりで殻焼きを進めていくラウル。
そんな彼の前に、豪火の中から何かが飛び出してきた。
それは、炎の中級精霊だった。