作品タイトル不明
第1652話 ラーデの初孫の正体
ラーデ達の許可を得て、ライト達は超巨大ベッドの上に飛んだ。
フレア・ジャバウォックが抱っこする子供の近くまで飛び、ラーデの初孫を見てレオニスとラウルが「……おおお……」と感嘆している。。
ラーデの第一子であるファフニールが、フレア・ジャバウォックと番になり初めて生まれた卵から孵化した子供。
その子は父母のみならず、叔母のリンドブルムや叔父のサマエル、そして祖父であるラーデの特徴まで持って生まれてきた。
それは、子との対面を許されたライト達にも一目で見て取れた。
「おお……確かにラーデ達のいろんなところがよく似てるな!」
「しかも全てがバランスよく混ざってるよな。これぞまさに『いいとこ取り』ってやつだな!」
「しかし、これ……種族的にはどうなるんだ?」
「そういやそうだな……ラーデには分かるか?」
『……ふむ……』
初めて会うラーデの初孫に、レオニスとラウルが興奮気味に語り合う。
そしてすぐに湧いてきた疑問、それは『この子は一体何者なんだ?』ということ。
血統上は『皇竜メシェ・イラーデの直系の孫』であり『ファフニールとフレア・ジャバウォックの長子』、そして『リンドブルムとサマエルの甥もしくは姪』であることは分かる。
しかし、彼ら彼女らは名前及び存在そのものが種族名となっているのが人族の間に伝わる通説だ。
『ファフニール』と『ジャバウォック』はどちらも強力な力を持つ高位のドラゴン。
その間に生まれた子は、果たして何者になるのか―――レオニスとラウルには全く想像もつかないのも無理はなかった。
故にレオニスは、ラーデなら分かるんじゃないか?という期待を込めて問うたのだが。ラーデはしばし思案顔している。
そして、レオニスとラウルはそれまで気づかなかったのだが、ラーデのすぐ後ろにいたライトが何故か石のように固まったまま動かない。
ラーデに問いかけた拍子に、ライトの表情が強張っていることに気づいたレオニスが声をかけた。
「……ン? ライト、どうした?」
「………………」
レオニスの呼びかけにも全く気づかないライト。
目を大きく見開いたまま、フレア・ジャバウォックの腕の中にいる赤子をずっと凝視している。
するとここで、ラーデがレオニスの問いかけに対する答えを口にした。
そしてそれは、ライトの頭の中に渦巻く とある言葉(・・・・・) と一致していた。
『この子は……冥王龍、ヨトゥンガルズだ』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『冥王龍ヨトゥンガルズ』―――ライトはそれが何者なのかを知っている。
それはBCOの冒険ストーリーの中に出てくるイベントボスの名だ。
BCOの冒険ストーリーはRPG要素を多分に含むコンテンツで、物語を進める毎に行き来できる村や街が増えていき、ユーザーの行動範囲が広がる。
行き先が増えれば武器屋や防具屋で買える市販品の装備も増えるし、回復剤などのアイテム類も効果が高いものが買えるようになる。
そのためBCOユーザーは、冒険ストーリーが更新されて新しく行ける街が増える度に率先して攻略に動いていた。
その冒険ストーリーの中盤を過ぎたあたりで、『ティスア』という街が登場する。
ティスアはノーヴェ砂漠の最西端から約20kmほど離れたところにあり、サイサクス世界におけるネツァク程ではないが、ティスアもまたノーヴェ砂漠とは切っても切れない縁がある街として描かれていた。
そしてこのティスアで事件が起こる。
ノーヴェ砂漠西部で謎の空間の歪みが多数発生し、その歪みから三体の強力なモンスターが出現した。
その三体とは『黒暴竜ラヴォウィス【屍】』『蛇帝竜ディレイザー【屍】』『異貌竜フォビドゥルム【屍】』。
どれもHP10万を超えるイベントボスで、一体倒すだけでもユーザー達は相当苦労する羽目になるが、最大の問題はそこではない。
その三体の名前に【屍】がついていることからも分かるように、出現時点で既に屍化していて、ただそこにいるだけで大量の瘴気を発生して撒き散らすのだ。
この強大なモンスターの出現により、最寄りの街であるティスアは危機に陥った。
冒険者ギルドは勇者候補生であるユーザー達に『ティスアの街を救ってくれ!』という緊急依頼を出す―――これが冒険ストーリーの中盤に起こる一連の流れである。
その冒険ストーリーの流れに従い、勇者候補生達は三体の強大なモンスターをやっとの思いで討伐する。
そうすれば、ティスアにおける冒険ストーリーはクリアとなる、はずだった。
しかしこのストーリーにはさらに先があった。
それは『三体の中ボスを倒すことで、中盤最後のイベントボスが出現する』『このイベントボスを倒さなければ、先のストーリーに進むことはできない』というもの。
そしてこの中盤最後のイベントボスが『冥王龍ヨトゥンガルズ【屍】』であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『……ン? このビジュアル、どっかで見たことあるぞ……?』
ラーデの初孫を見たライトは、『可愛い』とか『すごい!』、『カッコいい!』とか思ったり感じるより前に、まず真っ先に奇妙な既視感に襲われていた。
青紫色の皮膚に赤紫色の長い髪、頭には大小一本づつの薄桃色の角が生えていて、下半身は鏃のように先が鋭く尖っている。
そして黄金色の双眸と金色の宝石?が額に輝く、明らかに異形の者。
絶対に見覚えのあるファフニール夫妻の子の正体を思い出すべく、ライトは必死に頭をフル回転させた。
このデジャヴ感は、絶対にBCO関連に違いない。
そう当たりをつけたライトは、期間限定イベントや冒険ストーリーの出来事などを片っ端から記憶をサルベージした。
そうしてやっと思い出したのだ。今自分の目の前にいるのが、冒険ストーリー中盤でストーリー内イベントボスとして登場し、自分達勇者候補生の前に立ちはだかる敵だということを。
『え、え、嘘、ナニ、ちょっと待て、ここでヨトゥンガルズが出てくるのか!? 嘘だろ!?』
『ぃゃ、もしかして俺の見間違いとか、記憶違い、かも?』
ライトは内心でプチパニックを起こしかけながら、それでも一縷の望みを賭けて改めてファフニール夫妻の子をじっと凝視する。
しかし、悲しいかな、何をどう見てもライトが前世でこよなく愛したソシャゲBCOに出てくる『冥王龍ヨトゥンガルズ【屍】』とほぼ同じビジュアルだった。
違う点と言えば身体の大きさと色合い、そして生死くらいか。
BCOに出てくるヨトゥンガルズは体長50メートルを越す巨大な身体で、屍化していたせいか身体のところどころが黒ずんでいて如何にも大量の瘴気を垂れ流していた。
しかし、今ライトの目の前にいるヨトゥンガルズは生まれたばかりの赤子で、体長も2メートル程度と小柄。
もちろん生きていて、屍化した状態ではない。
ライトの目の前でスヤスヤと眠るヨトゥンガルズを見て、パニックに陥りかけていたライトの思考は徐々に落ち着いていった。
『あれは冒険ストーリーに出てくる敵で、何をどうしたって戦闘は回避できなかったんだが……このサイサクス世界では、そうはならないかもしれん』
『だって、BCOではレイドボスだったアープやノワール・メデューサ、ディープシーサーペントに四神、ドラリシオ・マザーにジャッジ・ガベルだって、皆友達になれたし!』
『それだけじゃない、期間限定イベントボスだったコヨルシャウキとだって、今は友達になれたじゃないか!』
思いがけないところでストーリー内イベントボスと出くわしたことで、ライトは強い衝撃を受けてものすごく動揺していた。
しかし、これまでの数々の出会いを思い出すことでライトの心に立ち込めていた暗雲は徐々に消え去り、その代わりに明るい希望の光が差し込んでいく。
『さすがにストーリー内イベントボスと会うのは初めてのことだから、この先どうなるかなんて俺には全く分からんし想像もつかんが……レイドボスや期間限定イベントボスと仲良くなれて、ストーリー内イベントボスとは絶対に仲良くなれない、なんてことはないよな!』
『よーし、そしたらまずはこの子の両親のファフニールさんとフレア・ジャバウォックさんとももっともっと仲良くなっていこう!そして、俺がこのサイサクス世界で生きている間は、絶対にこの子の屍化を阻止する!だって、ヨトゥンガルズが屍化なんてことになったら、絶対にラーデ達が悲しむし』
頭の中の考えが次第にまとまり、少しづつ前向きになっていくライト。
レイドボスレベル5の父親と、期間限定イベントボスの母親の間に生まれた子が冒険ストーリー内イベントボスとは、何とも不可思議にして奇妙奇天烈な因縁だ。
奇跡にも等しい巡り合わせに、ライトの身の内に涌いていた不安や衝撃はもはや完全に消え去って感動に変わっていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうして一人百面相をしていたライトに、レオニスが心配そうに声をかけた。
「おい、ライト、どうした? 何か顔色悪いぞ?」
「……え"ッ!? あ、ごめんね、ラーデの初孫のこの子を見てたら、何かいろんなことを考えちゃって……」
「いや、具合が悪いんじゃなきゃいいが……さっきラーデが言っていた、この子の名前をもう一度聞くか?」
「ぁ、うん、一応念の為に教えて?」
ライトの体調を心配するレオニスに、ライトが慌てて体調不良説を否定する。
ライトは自分の顔を見れないが、先程まで必死に記憶の糸を手繰り寄せたりあれこれと思案していた時のライトの表情は、傍から見たらきっとものすごい形相をしていたに違いない。
「ラーデの初孫は『冥王龍』という種族で、名前は『ヨトゥンガルズ』だそうだ」
「冥王龍、ヨトゥンガルズ……うん、すっごくカッコよくて強そうな名前だね!」
「ああ、すんげー強そうだよな!てゆか、冥王龍とかいうと何だか冥界の神様のようにも思えるが……冥界樹のランガのことを思えば、冥の字が名前に入っていたからって別に気にすることでもないんだよな」
「だよね!ヨトゥン君はまだ生まれたばかりだもんね!……って、そういやヨトゥン君は『君』でいいの? それとも『ちゃん』?」
ヨトゥンガルズの名前の強者感に盛り上がるライトとレオニスだったが、ライトがはたと呼称に拘り始めた。
というのも、ヨトゥンガルズが男の子なのか女の子なのか、まだ性別を聞いていなかったからだ。
これについて、ラーデが答えを教えてくれた。
『ヨトゥンの性別はまだ確定していない。我もそうだしファフニールやリンドブルム、サマエルもだが、我らには性別などあってないようなものだからな』
「ぁー、確かラーデ達は基本的に男女の区別とかなくて、個人的に好きな方を選んで過ごしてるんだっけ?」
『うむ。故にファフニールとフレアの子であるヨトゥンも、我らと同じくある程度成長してから己の意思で決めるはずだ』
「そうなんだー。それって何年後くらいに決まるの?」
『それは我にも分からぬ。一年後か十年後か、あるいは百年以上かかるかもしれんが……何にせよ、生きていく上で様々な経験を積んでからであろうな』
「それもそっかー」
ラーデの的確かつ流れるような答えに、ライトだけでなくレオニスやラウルも小さく頷きながら納得している。
確かに言葉もままならないうちから男女の性別を選択するなど、如何にヨトゥンガルズが高位の竜族であろうとも無理難題だ。
「でもさ、男の子でも女の子でも、元気に育ってくれればどっちでもいいよね!」
『そうだな。まずはヨトゥンの健やかな成長が最優先だな。……ファフニール、フレア、子育ては大変だろうが頑張ってくれ。爺である我にもできることあらば、何でもしよう』
改めて息子夫婦を励ますラーデ。
高位の竜族が手ずから子育てをしたことがあるのかどうか、甚だ疑問ではあるが。もとより仲睦まじいファフニールとフレア・ジャバウォックならば、きっと我が子の成長のために惜しみない尽力と愛情と注ぐであろう。
『父上のありがたきお言葉……このファフニール、確と心に刻みましてございます』
『お義父様のそのお言葉だけで、十分でございます……』
父親からの励ましに、ファフニールとフレア・ジャバウォックが感激の面持ちでラーデに向けて頭を垂れる。
その横で、空気を読まない者がここに一人。
『というか、父上はまずご自身の身体の療養に専念すべきかと』
『サミー、アンタね……この良い空気を台無しにするんじゃありません!』
『 痛(イテ) ッ!』
思わずラーデにツッコミを入れたサマエルに、リンドブルムがすかさずサマエルの耳を引っ張ってお仕置きしている。
リンドブルムがその鋭い爪でサマエルの耳を引っ掴み、そのまま彼女の頭上でブンブンブブブン!と360°回転させている様は、何気に空恐ろしい図である。
『まぁまぁ……我がジャバウォック族の始祖たるサミー様であっても、リンリンちゃんには形無しですねぇ』
『サマエルよ、その要らぬ口を直さねばモテぬぞ?』
『わ、私は別段モテずとも良いのです!』
『サミーってば、強がっちゃってー。お姉ちゃんは悲しいわ!』
『リン姉様が、私の身の上を思って悲しんでくださっている!? ああ、何という光栄か!』
リンドブルムに物理的に振り回されるサマエルを見て、フレア・ジャバウォックがウフフ、と笑い、ファフニールが呆れたように忠告した。
サマエルはモテなくてもいい!と主張するが、兄夫婦の言葉に乗っかったリンドブルムが弟をからかい、弟が斜め上の感性を遺憾なく発揮している。
そんな我が子達を見て、ラーデが一瞬だけスーン……とした後にフフフ……と小さく笑う。
賑やか過ぎる子供達の姿に、ラーデも家族の温かさを噛みしめているようだ。
そしてそれを噛みしめているのはラーデだけではない。
とてもじゃないが、高位の竜族とは思えないファフニール達の言動に、ライトやレオニス、ラウルもまた必死に笑いを堪えながらも温かい気持ちに包まれていた。