軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1623話 玄武への贈り物・その四

氷の女王と玄武が昼寝をしている間、四人はそれぞれ行動していた。

レオニスとラウルは洞窟通路内で氷蟹他魔物狩りをし、ライトは玄武が生まれた場所である祭壇の間にジョシュアを連れていき案内したりしていた。

別行動を取ったのは最初の三十分間だけで、三十分以降は氷の女王達がいつ起きてもいいように再び最奥の間に集まった。

最奥の間のテーブルに着き、四人で昼食を食べながら何やらゴニョゴニョと話し合っている。

そんなことをしているうちに、クッションの上で寝ていた氷の女王と玄武がモゾモゾと動き始めた。

どうやらもうすぐ目を覚ましそうだ。

ライト達が静かに見守っていると、案の定玄武がのっそりと起き上がり、クァァァァ……という大きなあくびをした後頭を思いっきり上に上げて首を伸ばした。

その動きに氷の女王がつられて目を覚まし、ゆっくりと身体を起こした。

『ふぁぁぁぁ……玄武様、お起きになられましたか……?』

「モキュフェニャ……」

『いつになく、気持ちよいお昼寝でございましたねぇ……ふにぇぁ……』

「ニュイニュイ……」

氷の女王と玄武が何とも力の抜けきった会話をしている。

起き抜けの会話なのだから、ふにゃふにゃとした呂律になるのも致し方ないとはいえ、いつもの凛々しさや尊厳といったオーラの欠片もないのは実に珍しい。

そんな彼女達に、ライトやレオニスが声をかけた。

「氷の女王様、玄武、おはようございます!」

「よく眠れたか?」

『!?!?!? ……う、うむ……実に心地良い昼寝であった……』

「ンキェー……」

「そりゃ良かった。クッション十個分を繋げて一つにした甲斐があったってもんだ」

ライト達が声をかけたことで、自分達以外に客人がいたことを今更思い出した氷の女王。

何事もなかったかのように取り繕うも、頬を白く染めているあたり照れ臭く感じているようだ。

そして氷の女王達から好評を得たことに、ラウルが嬉しそうに微笑んでいる。

自分がプレゼントしたクッションが早速役立っているのだ、ラウルが喜ぶのも当然である。

『それにしても……確かにラウルの言う通りだった。これは人族どころか、精霊や神殿守護神ですらダメにしてしまう代物だな』

「だろう? とはいえ、良い睡眠は心身の健康に欠かせんものだ。このクッションで、適宜昼寝をして氷の女王と玄武の健康な生活に役立ててくれ」

『ありがとう。其方の気持ち、確と受け取った』

「モッキュッキャ!」

ラウルの心遣いに、氷の女王といつの間にか彼女の膝にちょこんと座った玄武が礼を言う。

氷の女王の眼差しが、いつものように熱さを帯びてラウルを見つめている。

相変わらずラウルのことが好き過ぎる女王である。

するとここで、今回も殿となったレオニスが席から立ち上がり、未だクッションの上で寛ぐ玄武達のもとに近寄った。

「そしたら最後は俺だな」

『うむ、レオニスは何を玄武様に捧げてくれるのだ?』

「俺からのプレゼントは、これだ」

レオニスが歩きながら開いていた空間魔法陣から取り出したのは、何かのアクセサリーっぽい。

それは白金色のチェーンに大粒の黒い宝石がついたペンダントだった。

『ほう……なかなかに美しい品だな。これは装飾品か?』

「ああ。プラチナという貴金属にヒヒイロカネを混ぜた特殊な金属でできた鎖に、黒水晶のペンダントトップをあしらったペンダントだ」

『どこに着ければいいのだ?』

「首でも手足でも、あるいは尾でも、どこでも玄武の好きなように着けたらいい」

『そうか。玄武様、どこに着けたいとかご希望の箇所はありますか?』

「キュアキュイ!」

氷の女王の問いかけに、玄武が尻尾を大きく振り続けている。

どうやら玄武は尻尾の蛇にお洒落をさせたいらしい。

尻尾の蛇もシャーシャーと鳴き声を上げていて、『ワタシよ、ワタシ!ワタシに着けて!』と主張しているように見える。

そうした玄武のリクエストを受けて、レオニスが玄武の尻尾の蛇の首元?にペンダントを巻きつけた。

するとそのペンダントは、ペンダントトップの大きさは変えずにチェーンだけが適宜な長さに変化したではないか。

レオニスの話によると、チェーンにヒヒイロカネを混ぜることで身に着けた者にぴったりフィットする仕組みになるのだという。

これもライトのマフラーと同じく、身体の大きさが自由に変えられる玄武に合わせて作られたものだった。

玄武の尻尾である濃緑色の蛇の鱗に、白金色のチェーンがよく映える。

とても綺麗なアクセサリーを身に着けたことで、玄武や尻尾の蛇だけでなく氷の女王の顔も花咲くような笑顔になっていく。

『まぁ、玄武様!いつにも増してとても素敵ですわ!』

「ンキャッキャ♪」

「やっぱ玄武も女の子だから、お洒落したいってライトの話は本当で正解だったな」

『うむ。乙女というものは、いくつであろうとも乙女なのだ』

「ムキェキェ」

珍しく女心を語るレオニスの言葉に、氷の女王と玄武がしたり顔で頷いている。

そんな彼女達に、レオニスがさらに解説を続けた。

「このペンダントには、二つの魔法を付与してある。鎖には物理防御上昇、黒水晶には魔法防御上昇。それぞれ玄武の身を守るのに役立つだろう」

『おお、それは素晴らしい!我が玄武様をお守りする故、玄武様に怪我を負わせるなど万に一つもないことではあるが……それでも備えておくに越したことはないからな』

「そゆこと」

プラチナと黒水晶のペンダントに付けられた防御上昇効果を聞き、特に氷の女王が喜んでいる。

もともと玄武は亀という形態上、防御力は四神の中でも随一の高さを誇る。

しかし、何事も備えあれば憂いなし。職業柄常に生き延びることを意識したレオニスならではのプレゼントである。

四人からの心尽くしのプレゼントをもらい、氷の女王が玄武に改めて進言した。

『玄武様、この者達に例のアレを下賜してもよろしいですか?』

「ンキャ!」

『ありがとうございます。……ラウル、頼みがあるのだが良いか?』

「ン? どうした?」

『向こうにある玉座の後ろにあるものを取ってきてもらいたい』

「了解ー」

氷の女王直々の指名を受けたラウル。

彼女の頼みを快諾し、最奥の間の一番奥にある玉座の後ろ側に回ってゴソゴソと動いてから出てきた。

ライト達のもとに再び戻ってきたラウルの手には、何か鱗のようなものがあった。

それはラウルの手のひら大ほどのサイズで、大小にばらつきがある。

色は玄武の甲羅の色と同じく青っぽい黒で、枚数は十枚ほどあるようだ。

「これは……鱗か?」

『そう。玄武様は成長の度に脱皮なさる。脱皮の時に出る抜け殻の中でも、特に強い力を持つ甲羅の頂点をとっておいたものだ』

「これを、俺達四人にくれるのか?」

『ああ。これを所持していれば、玄武様のより強い加護を得られるであろう』

「ありがとう!」

玄武の甲羅の鱗?をもらえることになったラウルが、真っ先に氷の女王に礼を言う。

そしてライト達のもとに駆け寄り、早速玄武の甲羅の鱗を分け合い始めた。

「皆はどれがいい?」

「ぼくは、この一番色が濃いやつ!」

「俺は一番大きいのがいいかなー」

「俺はこの色艶が一番良いのをいただくぞ。……ジョシュアは、どれがいいとかの希望はないのか?」

我先にとばかりに、欲しいものをあっという間に決めていくライト達。

一瞬でジョシュアが一番最後となってしまったが、ジョシュアはあまりの畏れ多さに慄いていた。

「わ、私までこのような品をいただいても良いのか……?」

「もちろんだ。氷の女王がそう言ってんだから、何の問題もないだろ?」

「そ、そうか……非常に畏れ多いことではあるが、ここは氷の女王様のお言葉に甘えさせていただくとしよう」

ラウルの勧めにより、ジョシュアも玄武の甲羅の鱗をもらう決心をした。

ラウルの手のひらの中に残る七枚のうち、ジョシュアは一番形が整った一枚を選びだした。

ジョシュアはその鱗を両手で持ちながら、感動に打ち震える。

「このような素晴らしい品をいただけるとは……我が生涯に於いてこれ程の栄誉はない……玄武様、氷の女王様、この鱗は我がスペンサー家の家宝とさせていただきます。我が一族の子々孫々、末代までこの宝を守り受け継ぐことをここに誓います」

『うむ、良い心がけだ。我もこの氷の洞窟から、其方達を見守ってるぞ』

「キュッキュ、キュアキュア!」

氷の女王達の前で恭しく傅き、誓いを立てるジョシュア。

もはや氷の洞窟教の信者と称しても差し支えない程である。

そんなジョシュアの真摯な態度に、氷の洞窟の主達も実に満足そうだ。

その一方で、ライト達は早速玄武の甲羅の鱗を摂取していた。

玄武の甲羅の鱗の端っこを、右手親指と人差し指で摘んでパキッ☆と折り取り、舌でペロッ☆と舐め取って口に含んでそのまま飲み込む。

これで玄武の力を身の内に取り込めたはずだ。

それを確かめるために、まずライトが玄武に向けて声をかけた。

「玄武、こんなに貴重なものをぼく達に譲ってくれて、ありがとうね!」

『どういたしまして♪ ライト君達はワタシの生みの親で大恩人だもの。これくらいのこと、して当然よねー♪』

「……うん!ぼく達も玄武とお話しができるようになって嬉しいよ!」

『ウフフ♪ これからもヨロシクね♪』

「うん!こちらこそよろしくね!」

ライトと玄武がキャッキャウフフ☆と楽しそうに会話をしている。

これまでと同じで、神殿守護神の身体の一部を取り込むことで玄武とも会話ができるようになった。

早速レオニスとラウルも玄武との会話に混ざる。

「おー、自分のことを『ワタシ』って言うってことは、やっぱ玄武は女の子なんだな!」

『そうよー。四神には見た目だけですぐに性別が分かるような特徴はないから、どっちなのか分かんないのも無理はないけどねー』

「じゃあこれからも、玄武に何かプレゼントをする時には女の子向けの物を用意しないとな」

『オシャレなものをくれると嬉しいなー♪ あ、でも皆がくれるものなら何でも嬉しいけどね♪』

ウキウキな様子で会話する玄武とライト達。

それを呆然とした顔で凝視している人がここに一人。

「な、何だと……玄武様のお言葉が分かる、のか?」

「あー、ジョシュアはこういうの初めてだから知らんか。実は神殿守護神からもらった物を一欠片でも飲み込むと、守護神達の言葉が理解できるようになるんだ」

「何と!それは私にも可能なことなのか!?」

「ぁー、ジョシュアはどうだろうなぁ……もともと俺達は全員魔力がバカ高いから、こういう特殊な代物を摂取しても特に問題が起こることはないんだが……普通の人間が飲んでいいもんかどうかは分からんな」

「そ、そんな殺生な……」

レオニスの解説と懸念に、ジョシュアが歓喜したり落胆したりと大忙しな反応をしている。

しかしレオニスの懸念も尤もなもので、ライト、レオニス、ラウルの三人は魔力が常人の何倍何十倍とあるからこそ、神殿守護神の身体の一部を取り込むことが可能だ。

しかし、魔力が少ない一般人も大丈夫という保証はない。これまでそういう前例は一度も見たことがないからだ。

ジョシュアがライト達のように玄武の甲羅の鱗の欠片を摂取したとして、万が一にも彼の身体に異変が起きては困る。

魔力が少ない体質の者に、いくら一欠片とはいえそもそもが強大な力を持つ神殿守護神の力は強力過ぎて合わない可能性もある。

まかり間違って魔力が暴走したり爆発など起きたら、それこそ洒落にならない。

するとここで、氷の女王がジョシュアの前に進み出た。

『ならば我がジョシュアの身体に力を与えよう。そうすれば、玄武様のお力を身に取り込んだとて違和感なく馴染めよう』

「それはありがたい!氷の女王様、不躾ではありますが今後とも玄武様と女王様のために尽くすためにも、是非ともよろしくお頼みいたします!」

『うむ、我に任せよ』

氷の女王の提案に、ジョシュアが一も二もなく乗る。

ジョシュアは再び氷の女王の前で傅き、頭を垂れる。

深く下げたジョシュアの頭に、氷の女王が右手を軽く乗せた。

氷の女王の身体から、ふわり……と白い蒸気のようなオーラが出てきて、ジョシュアの身体を包み込んだ。

そしてそのオーラは、ゆっくりとジョシュアの身体に吸い込まれるように入っていった。

『……これで大丈夫なはずだ』

「氷の女王様、ありがとうございます。……レオニス君、私が先程いただいたこちらの鱗から欠片を切り取ってくれるか?」

「はいよー」

玄武の力を受け入れる下準備ができたジョシュアが、早速レオニスに玄武の甲羅の鱗を折り取るよう依頼した。

ジョシュアから鱗を受け取ったレオニスが、右手親指と人差し指でペキッ☆と折り取って再びジョシュアに返す。

その欠片は、粗挽き胡椒の一粒分くらいの小ささ。

吹けば飛ぶような小ささなので、ジョシュアが急いで舌で舐め取って口に含んだ。

そんなジョシュアに、今度は玄武の方から声をかけた。

『どう? 気分が悪くなったりしてなぁい?』

「……おお……玄武様のお声が聞こえますぞ!」

『それは良かったわ♪ ……で、どうなの? 体調が悪くなったりはしてない?』

「大丈夫です!むしろ玄武様の愛らしいお声を聞けて、私の寿命が十年は伸びた気がいたします!」

『そっか、それならもう心配はないわね♪』

「はい!お心遣いをいただき、誠にありがとうございます!」

玄武の声を聞けたことに、ジョシュアが感動しながらはしゃいでいる。

まさか自分まで玄武の声を聞けるようになるとは、ジョシュアは思ってもいなかった。

天から降って湧いたような奇跡の幸運に、ジョシュアの眦にうっすらと光るものが滲んでいた。