軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1618話 氷の洞窟でのサプライズパーティー

氷の洞窟の主達と会う決心がついたジョシュア。

ライト達とともに、静々と最奥の間に入っていった。

すると、玄武を胸に抱いた氷の女王が既に入口すぐの近くまで駆け寄って来ている真っ最中だった。

『ラウル、レオニス、ライト、よくぞ参った!』

「よ、氷の女王。こないだぶりだな」

「氷の女王様、こんにちは!ご無沙汰してます!玄武も元気そうでよかった!」

「おいおい、慌てて走って転ぶなよ?」

氷の女王が胸に抱いていた玄武を素早く己の頭の上に乗っけたかと思うと、ラウルの胸に思いっきり飛び込んだ。

主にラウルの顔を真っ直ぐに見つめながらも、一応レオニスとライトの名前もきちんと呼んで歓迎の意を表すあたり、氷の女王もそれなりに気遣ってはいるようだ。

しかし、文字通りクールビューティーな氷の女王なのに、玄武を頭の上に乗っけているせいでどうにも締まらない。

玄武は亀の姿をしているので、ぶっちゃけ亀の甲羅がヘルメットにしか見えないのだ。

ラウルは氷の女王を受けとめるので精一杯だが、ライトとレオニスはヘルメットを被っている状態の氷の女王の面白おかしい姿に、ひたすら笑いを堪えるので精一杯である。

しかし、ジョシュアだけは違った。

彼は氷の女王の見目麗しさに、ただただ圧倒されて息を呑みつつずっと凝視していた。

そんなジョシュアの熱い視線に、氷の女王もすぐに気づいた。

ラウルの身体から少しだけ離れて、ジョシュアに向けて声をかけた。

『ン? 其方、初めて見る顔だな? ラウル達の知己か?』

「……ハッ!私としたことが、氷の女王様のあまりの美しさに見入ってしまいました。ご無礼をお許しください」

『別に構わぬ。ラウル達がここまで連れてくるということは、其方はラウル達の信頼を得ているということ。我と玄武様の恩人であるラウル達が認めし者ならば、我も其方のことを歓迎しよう』

「ご厚情、心より御礼申し上げます」

憧れの氷の女王を前にしたジョシュアが即座に跪き、頭を深く下げて恭しく挨拶をする。

ヘルメット姿の氷の女王を見ても大真面目かつ真摯に挨拶ができるとは、ジョシュアもなかなかに大したものだ。

そんなジョシュアを見て、氷の女王も満足そうに頷いている。

『時に、其方の名は何という?』

「畏れ多くも氷の女王様の拝顔に浴せるだけでなく、御前にて名乗れますこと、我が生涯における最高の栄誉と存じます。我が名はジョシュア・スペンサー、氷の洞窟に最も近い人里にて領主を務めております」

『おお、其方がジョシュアか!いつも玄武様にたくさんの野菜を届けてくれておること、我も其方にはとても感謝している』

「ンキェ!」

「ありがたき幸せに存じます!」

ジョシュアの名を聞いた氷の女王の顔が、パァッ!と明るくなる。

いつも氷の洞窟に新鮮な野菜をたくさん届けてくれる者の名前は、ラウルやレオニスから聞いていて氷の女王も覚えていた。

さらには氷の女王の頭の上にいる玄武も、ジョシュアに向けて右前肢をピッ!と上げている。

玄武の愛らしい笑顔、そして自分に声をかけてくれたことにジョシュアは目を潤ませながら感激していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後ライト達は、最奥の間のド真ん中でお茶会を始めた。

レオニスとラウルがいそいそとテーブル等をセッティングしている間、他の面々は最奥の間の玉座付近で和やかに談笑している。

ちなみにライトは氷の洞窟の主達とジョシュアの仲を取り持ち、緩衝材になる役割を任された。

確かにジョシュア一人きりでは、氷の女王と玄武を目の前にして緊張のあまり心臓が保たないかもしれない。

『五日に一度、其方が差し入れてくれる野菜を、玄武様がそれはもう楽しみにしておられるのだ』

「そんなにも喜んでいただけるとは、光栄の極みに存じます。……時に、玄武様が一番好きなお野菜は何ですかな?」

『そうさなぁ……玄武様は何でも好き嫌いなくお食べになられるが、中でもキャベツやニンジン、林檎などを特に好んでおられる』

「ほほぅ、キャベツにニンジンですか……というか、林檎はどこから……もしかして、レオニス君やラウル君の差し入れですか?」

『うむ。我が愛しのラウルが、カタポレンの森で林檎や苺、桃などの果実を栽培していてな。玄武様のために持ってきてくれるのだ』

「なるほど、玄武様はお野菜だけでなく果物類も好まれるのですな!」

ジョシュアが熱心にメモを取りながら、玄武の食べ物について氷の女王と話をしている。

これからも氷の女王や玄武と親交を深めていきたいジョシュア。そのためにも、玄武の食の好みを知っておきたいらしい。

すぐさま玄武の好きな食べ物をリサーチするとは、かなりできる男だ。

さすがはツェリザーク領主、城塞都市という二つ名を持つ街を治めるに相応しい有能さである。

そしてライトは玄武と話をしている。

「玄武、今日ぼく達が皆でここに来たのはいくつか理由があるんだけど。一つは君に関するとても重要なことなんだ」

「モキュェ?」

「気になる?」

「キュエァ!」

「今レオ兄ちゃん達がお茶会の準備をしてくれてるから、そこでお話しするね。とてもいいことだから、期待しててね!」

「ンキャ!」

ぬいぐるみサイズの玄武を抱っこしながら、嬉しそうに話すライト。

幼子がぬいぐるみに話しかけるようなキャッキャウフフ☆な姿は実に和む。

するとここで、レオニスがライト達に声をかけた。

「おーい、準備できたぞー。皆でこっちに来ーい」

「はーい!」

レオニスの呼びかけに、ライト達はすぐに応じてテーブルのもとに集った。

大きな長方形のテーブルが二つ並べられていて、その上には所狭しとたくさんのご馳走が用意されている。

特にテーブルの中央に置かれた、直径50cmはありそうな巨大なケーキが鎮座ましましていて一際目立っている。

このケーキを見た氷の女王や玄武が、それはもう目をキラキラに輝かせている。

今回はジョシュアという特別ゲストがいるが、それを加味しても過剰なくらいな豪華さは、もはやお茶会レベルではない。

それはさながら宮殿主催の晩餐会のようだ。

今回のお茶会がいつもより一段と気合いが入っているのには、実は訳がある。

それは、昨日の十月七日は玄武の誕生日だったからだ。

本来ならば誕生日当日にお祝いをするべきところなのだが、生憎と前日は金曜日で平日。

レオニスやラウルはともかく、ライトはラグーン学園に通う身であり学校をサボる訳にはいかない。

故に翌日の土曜日、週末になるのを待ってツェリザークを訪れたのである。

そんなサプライズなど露知らぬ氷の女王と玄武。

ラウルに案内された席にちょこん、と座りながらお茶会の開始を今か今かと待っている。

すると、ラウルが巨大ケーキの中央に一本のろうそくを立てて、右手人差し指で火魔法を使って火を着けた。

そしてレオニスが席から立ち上がり、今回のお茶会の趣旨を明かし始めた。

「えー、今回のお茶会はいつものものとはちょっと、いや、だいぶ違う。それは、今日は玄武の誕生日を祝う会だからだ」

『ぬ? 誕生日とは、どういうことだ?』

「玄武は去年の昨日、人族の暦で言うところの十月七日に生まれた。人族はこの誕生日という日をずっと覚えていて、この世に生まれてきたこと、そして一年を無事過ごせてきたことへの喜びと感謝を分かち合うために盛大なお祝いをするんだ」

『玄武様の誕生日、か……玄武様がこの氷の洞窟に降臨なされてから、もう一年が経ったのか……』

レオニスの解説に、氷の女王が感無量の面持ちで呟く。

この氷の洞窟は、他の洞窟同様四季を感じられる要素や移ろいが全くないので、暦の細かい詳細はもちろん年月の移り変わりすら把握し難い。

故に氷の女王が玄武の誕生日に気づけなかったのも無理はなかった。

氷の女王が、隣の席にいる玄武に向かって声をかける。

『玄武様……我の住処であるこの氷の洞窟に生まれてきてくださって、本当にありがとうございます。この一年、我は我が生涯の中で最も―――いいえ、歴代の氷の女王の生きてきた歴史全ての中でも一番幸せな日々でした』

「モッキェッキェ、ンッキャッキャ!」

『玄武様……ありがとうございます……ありがとうございますぅ……』

玄武がテーブルの上にちょこん、と乗っかり、氷の女王の前に進み出て右前肢で彼女の頬を優しく撫でる。

それは『自分も同じ思いだよ』『いっしょにいてくれてありがとうね!』と言っているかのようだ。

玄武の心優しい仕草に触れて、氷の女王の瞳があっという間に潤み、涙がホロホロと溢れる。

彼女の涙は【氷の乙女の雫】となり、女王の膝や足元に零れ落ちていった。