軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1616話 モノクロから色づく世界

その後しばらくは平穏な日が続いた。

煮えるように暑かった夏の空気は徐々に穏やかになっていき、九月最後の日曜日にはラグーン学園で秋の大運動会が開催された。

昨年同様午前も午後も大いに盛り上がり、特にレオニスやラウルが参加した父兄競技はやんややんやの大喝采を浴びた。

もちろん二人に対するハンデは、前年に比べて相当マシマシにされたのは言うまでもない。

しかし、ハンデ五割増しになってもそれすら跳ねのけて、ぶっちぎりで優勝を掻っ攫っていくレオニスとラウル。

その凄まじいまでの雄姿は、子供達のみならず父兄達までもが完全に魅了されていた。

そうして時は過ぎ、十月になった。

十月に入ると、アクシーディア公国に存在する全ての街がハロウィンカラーに染まる。

十月の第一週の土曜日、十月五日にライトがレオニス、ラウルとともに出かけたツェリザークでも、橙や紫色の可愛らしいハロウィンモチーフがあちこちで見受けられた。

「うわぁー……ツェリザークでもハロウィンを楽しむんだねー」

「そりゃそうさ。乗っかれる祭りがあれば全力で乗っかる、それがアクシーディア公国の国民性だからな。つーか、ツェリザークは冬になる程気候もどんよりとしてくるからな。そのままだと街中が暗く鬱屈したもんになっちまうから、こうした祭りは他の街以上に気分高揚にもってこいなんだ」

「確かに……」

レオニスの解説に、ライトも納得している。

BCOでもツェリザークは『雪に閉ざされた城塞都市』という説明がなされていて、街の画像も空一面が灰色の雲で覆い尽くされていた。

しかし、今ライトが生きるサイサクス世界は全てがゲームのシステムでできている訳ではない。

そこにはNPC以外のたくさんの人々が日々懸命に生きていて、暦も一日、一週間、一ヶ月、そして一年と進んでいく。

サイサクス世界のアクシーディア公国にも、一年を通じて四季がある。春夏秋冬移ろいゆく季節の中で、様々な行事や祭りが繰り広げられる。

それらのイベントは、例えば春は花見、夏は海と山、秋はハロウィン、冬はクリスマスやお正月等々、ライトの前世である現代日本に準拠したものである。

そしてサイサクス世界の人々は、ハロウィンが何たるかをよく知らずとも『もともとそういうもんなのだ』と自然に受け入れている。

ライトが知る BCO(ゲーム) 内のツェリザークはモノクロに染まる一地方都市で、氷の洞窟に入るための前線基地という役割があった。

ゲームの序盤を過ぎたあたりで出てくる通過点でしかない、それがツェリザークという街だった。

しかしサイサクス世界では、日々生きる人達の努力や創意工夫によって彩り豊かに色づいていた。

そんな華やかな街の中を、のんびりと歩くライト達。

冒険者ギルドツェリザーク支部を出て、三人が真っ先に向かったのは領主邸だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

レオニス達が領主邸に向かったのには理由がある。

それは『ツェリザーク領主、ジョシュア・スペンサーを氷の洞窟に案内し、氷の洞窟の主達と引き合わせる』というミッションである。

ジョシュアは前々から氷の女王と玄武に会いたがっていたが、先日の氷の精霊拉致未遂事件以降その思いはさらに強くなった。

『氷の女王と玄武にお会いして、人族が犯した無礼を直接謝罪したい』

『それが叶わぬうちは、あまりにも申し訳なさすぎて夜も眠れない』

『ラウル殿、何とか氷の洞窟の主達に執り成してもらえないだろうか!?』

ラウルが氷蟹の殻処理仕事をしにツェリザークを訪れる度に、冒険者ギルドツェリザーク支部のクレハから上記の伝言を切々と伝えられていた。

これからどんどん冬になっていくし、もうとっくに郊外で初雪も観測されたんだから、時期的に冷晶石の生産でクッソ忙しくなるだろうに……と心配するラウル。

実際ラウルが殻処理依頼をこなした後に、領主邸に寄り道してそう進言したこともあった。

しかし、ジョシュア曰く「十一月に入ったら、私は領主邸から出られず缶詰状態になる!その前に、何としても……何としても!氷の洞窟の主達に、お詫びを申し上げたいのだ!」とのこと。

確かにそれもそうだよな……とラウルも思ったので、レオニスやライトも巻き込n、もとい、大小二人のご主人様を誘ってツェリザークを訪れた、という訳である。

そうして三人が領主邸の正門前に到着すると、そこには既にジョシュアがライト達を待ち構えていた。

遠くから近づいてくる深紅と漆黒の人物を見たジョシュア、顔を綻ばせながら駆け寄ってきた。

「おお!レオニス君にラウル君、そしてライト君も、ようこそツェリザークへ!」

「よう、ジョシュア、待たせたな」

「領主様、こんにちは!」

「おはよう、ジョシュア。……って、すんげー重装備だな?」

ひとまず挨拶をするレオニスとライトに、ラウルはジョシュアの姿を見て軽く驚く。

というのも、ジョシュアはもこもこに分厚い白のロングコートを着ていて、その下にも何枚かの衣服を重ね着しているらしく壮絶に着膨れしていたからだ。

確かに今から向かう氷の洞窟は万年氷点下なので、防寒対策は必須なのだが。

それにしたって、肉襦袢よろしくかなり着膨れしたジョシュアはまるで雪だるまそのもの。

もしこの格好で雪原を歩いたら、完全に保護色となってしまいそうだ。

「街の外は既に雪が降っているからな。しかも今回は氷の洞窟の中に入るのだから、防寒対策はしっかりしておかなければな!」

「そりゃそうだが……歩き難くないのか?」

「大丈夫だ!このジョシュア・スペンサー、氷の洞窟の主達に目通りが叶うならば!たとえ水の中氷の底であろうとも!這い 蹲(つくば) ってでも最奥の間に向かう所存だ!」

「いやいや、そんな着膨れ状態でまともに匍匐前進できる訳ねぇだろ……」

天高く掲げた拳にグッと力を込めて握りしめながら、並々ならぬ意欲を燃やすジョシュア。その姿はまるで、どこぞの覇王もしくは拳王を彷彿とさせる世紀末的オーラを感じさせる。

しかし悲しいかな、今のジョシュアは雪だるまそのもの。とてもじゃないが、そのまん丸な格好で這いずったところで一歩も前に進めないであろう。

レオニスの冷静なツッコミは至極真っ当である。

しかし、ジョシュアの意気込みは空回り気味であろうとも本物だ。

敬愛してやまない氷の女王や玄武に対し、無礼な輩が迷惑をかけて彼女達を困らせて悲しませたことを真摯に謝りたい。

そして願わくば、再び人族全てを嫌うことなく交流を保ち続けていただきたい。

そうしたジョシュアの強い願いは、本当に本物だからこそレオニスやラウルを動かしたのだ。

「……ま、いいか。とりあえず、今から皆で氷の洞窟に行くぞ」

「はーい!」

「俺が先頭を歩くから、ライトとラウルはジョシュアの横について護衛な」

「了解」

「??? ラウル君はともかく、ライト君まで私の護衛なのか?」

レオニスが出した適切な指示に、ジョシュア一人だけが首を傾げているる。

確かに十歳の子供が大の男を護衛するなど、意味不明以外の何物でもないだろう。

明らかに訝しがるジョシュアに、レオニスがニヤリ、と笑いながら応じる。

「ライトも今年の夏に冒険者登録をしたんでな。こう見えて、ライトだって正式な冒険者なんだぜ?」

「おお、そうなのか!それはすごい!ライト君、今日はよろしく頼む!」

「はい!お任せください!」

レオニスの説明に、ジョシュアが破顔しつつ改めてライトに挨拶をする。

そんなジョシュアの言葉に、ライトも満面の笑みで応える。

実際のところ、ライトの実力はレオニスも認めるほどのものだ。

護衛の実戦経験こそ皆無だが、ライトが持つ力は普通の十歳児のそれとは比較にならない。

もしツェリザーク郊外で魔物に襲われたとしても、ライトならジョシュアの傍でしっかりと彼を守りつつ魔物を返り討ちにするだろう。

しかし、そんな実情まで馬鹿正直にジョシュアに明かす必要はない。『ライトは既に正式な冒険者である』と伝えるだけでいい。

そうすれば、ジョシュアは『ライト君に冒険者としての研鑽を積ませるための、レオニス君なりの配慮と激励なのだな!』と勝手に勘違いしてくれるだろうから。

そしてそうしたレオニスの思惑は、見事に嵌ったようだ。

その後ライト達四人はツェリザークを囲む外壁を出て、氷の洞窟を目指してツェリザーク郊外を歩いていった。