軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1598話 サプライズパーティーの始まり

そうして迎えた八月二十六日。

この日ライトは、レオニスから昼間に冒険者ギルドのラグナロッツァ総本部に行くぞ、と誘われていた。

レオニス曰く「ディーノ村で登録したはいいが、あっちにゃ依頼書なんてろくにねぇからな!」とのこと。

故に首都ラグナロッツァにある総本部で、数多ある依頼書を実際に見て勉強するぞ!ということらしい。

実際レオ兄がそう言うのも仕方がないよね、とライトも思うし、サイサクス大陸屈指の大都市ラグナロッツァの冒険者ギルド総本部とディーノ出張所では比ぶべくもない。

しかし、レオニスがこんなことを言っていた、とクレアが知ったら激怒しそうだ。

こめかみにピキピキと青筋を立てて、怒りに身体を震わせながら「レオニスさんには、三回目の『冒険者のイロハ講座』を受講していただく必要がありそうですねぇ?」とか言い放つこと間違いなしである。

昼の少し前、ライトはレオニスとラウルとともに三人で冒険者ギルド総本部に向かった。

総本部の建物の中は、いつにも増してたくさんの冒険者達がいてかなり混雑している。

そんな中で、レオニスやラウルの姿を見た冒険者達が次々と声をかけてきた。

「お、レオニスじゃねぇか!いよいよ今日か!」

「ラウルの兄ちゃん、久しぶりだな!」

「俺、今日が楽しみ過ぎてよぅ、昨日の夜食も今朝の朝飯も抜いてきたんだぜ!」

あっという間に多数の冒険者達に取り囲まれたライト達。

いつもなら、ライトにも「お、坊っちゃんもいるのか、久しぶりだな!」とか言いながら皆気さくに話しかけてきてくれるのに、何故だか今日は誰一人ライトと目を合わすことなく、皆ひたすらレオニスやラウルに向かって声をかけていた。

ぇー、俺だってようやくこないだ冒険者に登録したのにー……

俺、このままシカトされてぼっちデビュー確定?

ぃゃ、別にそれでもいいけどさ? だって俺にはレオ兄やラウルがいるし。

でも……何だかちょっとだけ、寂しいな……

ライトが内心でもやもやしながら、見るからにしょんぼりとしている。

俯きがちに落ち込むライトに、レオニスが努めて明るい声で話しかける。

「ライト、今から依頼掲示板を見に行くぞ」

「うん……でも、この時間じゃもう大して良い依頼ってないんじゃないの?」

「まぁな。でも、ライトはまだ冒険者が本業じゃねぇし。依頼内容の当たり外れまで気にする必要はねぇさ。とりあえず、今どんな依頼が出されているかを見ておくだけでも十分勉強になる」

「……そうだね。今から仕事内容に理解を深めて、目を肥やしておくのも大事なことだよね」

「目を肥やす……お前、一体どこでそんな小難しい言葉覚えてくんの?」

レオニスの誘いに納得しながら応じるライト。

とても十歳の子供とは思えない言葉のチョイスに、レオニスが慄いている。

そうしてライトとレオニス、ラウルの三人で依頼掲示板のある場所に行く。

掲示板の前にもかなりの冒険者がいて、朝イチの美味しいとされる依頼がなくてもそれなりに繁盛しているようだ。

「ふーん、こっちは商隊の護衛が多いな」

「商隊の護衛って、仕事としてはどうなの?」

「ピンキリだな。行き先や距離によってかなり変わってくるし、依頼主にも当たり外れはある」

「レオ兄ちゃんは、今まで商隊の護衛の仕事をしたことあるの?」

「昔、二回か三回やったことがある程度だな。ライトといっしょに暮らすようになってからは、一度も請け負ったことはないが」

「そっか……」

レオニスの答えに、ライトが再び俯く。

レオニスが商隊の護衛を久しくしていないのは、自分がいたからだ、ということはライトにもすぐに分かったからだ。

幼い子供を抱えていては、日数のかかる依頼は絶対に受けられない。

レオ兄は独身なんだから、本当ならどんな仕事だってできたはずなのに……自分がいたせいで、レオ兄は仕事を選ばなくちゃならなかったんだ……

ライトはそんなことをつらつらと考え、レオニスに対して申し訳なく感じていた。

すると、それを察したレオニスがライトの肩に手をポン、と置きながら話しかけた。

「別にお前のせいじゃないから気にすんな。そもそも俺がお前を引き取った頃には、既にカタポレンの森の警邏も任されていたし」

「うん……」

「それにな? そうなる前に受けた、とある商会の護衛の仕事がまた酷いもんでな……今でもあん時のことは思い出したくもねぇが、それ以来俺は余程のことでもない限り商会の護衛系の依頼は一切受けん!と心に決めたんだ」

「そ、そうなの……?」

虚ろな目で遠くを見つめるレオニスに、ライトが若干慄きながらレオニスの顔を覗き込む。

基本的に感情表現は豊かな方のレオニスの表情を、ここまで失わせる事態とは一体何が起きたのであろうか。

是非ともその詳細を聞きたいところなのたが、今ここですぐに聞いてもいいものかどうか憚られる。

だがしかし、そんな空気を読まない者がここに一人。

「ご主人様よ、一体どんな酷い目に遭ったのか後で聞かせてくれ。俺とライトの後学のためにも、是非とも参考にしたい」

「ラウル、お前ってやつは人の心の傷を遠慮なく抉ってくるよね……」

「すまんな。だが、ライトを引き取る前というと、少なくとも十年以上は前のことなんだろう? ならばそろそろ傷も癒えている頃だろう。懐かしい思い出話として、傷を洗い流してはどうだ」

「……そうするか……」

レオニスにチクリと嫌味を言われるも、この程度の嫌味で凹むラウルではない。

今度はレオニスががっくりと項垂れながら、ラウルの要望に応じている。

相変わらずこの二人は主従関係が逆転しているような気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!

その後も様々な依頼書を見ては勉強に励むライト達。

中でも薬草採取の依頼が多数あり、日付が半年以上前のものもあった。以前から噂されていた薬草不足はかなり深刻なようだ。

そしてその原因に、いくつか心当たりがあるライト達。

三人とも黙して口には出さないものの、頬を引き攣らせながら苦笑いして掲示板から目を逸らすしかなかった。

また、薬草の他にも特殊素材の採取依頼も多く、乙女の雫を求める依頼も未だに数多く散見された。

今年の鑑競祭りでもレオニスが【光の乙女の雫】と【雷の乙女の雫】を出品したせいか、それらを求める依頼書も複数あった。

ただし、以前と違うのは成功報酬額が1000万Gにまで引き上げられていたことか。

もっとも、それとて鑑競祭りでの落札額の三割にも満たない激安価格なのだが。

そうした様々な依頼書を一通り見た後、ラウルがライトとレオニスに声をかけた。

「ご主人様達よ、そろそろ腹が減ってきてないか?」

「おう、そうだな。もうすぐ昼飯時だもんな」

「おうちに帰って昼御飯にする?」

「いや、今日は総本部の直営食堂で昼飯にしないか?」

「あ、それいいねー。昼間のうちなら、ぼくでも入ることが許されてるもんね」

「そゆこと。じゃ、早速行くか」

「はーい!」

いつもなら、ラグナロッツァの屋敷に帰って三人で昼御飯を食べるところなのだが。

珍しいことに、レオニスから外食しよう、と言うではないか。

実はライト、これまで総本部の直営食堂で食事をしたことは一度もない。

その必要性が全くなかった、というのが直接の理由なのだが、夏休みという長期休暇の間かつ昼間に出入りするなら、ライトが直営食堂に入ることも許されるはずだ。

夜は酒場に早変わりするので、未成年のライトにはご法度な場所だが、今はちょうど昼飯時。

ライトだけでなくレオニスとラウルも同行するので、ライトの直営食堂の出入りを咎める者などいるはずもない。

総本部の直営食堂には、どんなメニューがあるんだろ?

ランチメニューとかランチセットとかあるんかな?

もしランチメニューがなくても、冒険者向けのボリュームたっぷりなメニューは絶対にあるよね!

ワクテカ顔でウキウキしながら歩くライト。

自然と歩く順番もライトが先頭になっていて、ライトの後ろをレオニスとラウルがついていく格好になっていた。

そうしてライトが総本部の直営食堂の扉を開けると、そこにはたくさんの冒険者達がいた。

「ぁー、すっごく混雑してるね……これじゃ席は一つも開いてなさそうだから、別のお店に行く?」

「いや、このまま中に入るぞ」

「ぇー、でもー……これ、席が空くまですっごく待つよ?」

「問題ない」

予想以上に大勢の冒険者で混雑している直営食堂の中を見て、ライトは完全に怯んでいる。

だが、何故かレオニスはこのまま中に入れと言う。

すると、ライト達の存在に気づいた冒険者達。彼ら彼女らの全ての視線が一気にライトに向けられた。

ギロッ!という冒険者特有の鋭い視線を一身に浴びたライト。

思わずビクッ!と身体が跳ね上がった。

そして次の瞬間、ものすごい歓声が上がった。

「おお!今日の主役のお出ましだぜ!」

「坊っちゃん、ちぃと見ない間に大きくなったなぁ!」

「冒険者登録、おめでとう!」

「「「おめでとう!!」」」

うおおおおッ!という怒涛の歓声が、直営食堂の壁や天井をビリビリと震わせながら響き渡る。

ここにいるのは、レオニスの養い子であるライトが冒険者登録を無事済ませたことを聞きつけて、祝うために駆けつけた者達ばかり。

レオニスもラウルもこの歓迎会のことはライトには伏せていて、完全なるサプライズだった。

むさ苦しい強面の冒険者達に、一気に取り囲まれたライト。

ぇ、ぁ、え? え? と、しばらくは混乱していたが、冒険者達から次々と祝福の言葉をかけられて次第に理解していった。

「皆さん、もしかして……ぼくを祝うために集まってくれたんですか?」

「応ともよ!坊っちゃんが晴れて俺達の仲間になったんだ、こんな目出度いことを祝わずにいられるかってんだ!」

「そうそう!坊っちゃんの素晴らしさは、レオニスはもとよりラウルの兄ちゃんからもよーく聞いてるからな!」

「優秀な仲間が増えるってのは、俺達にとっても良いことだ!」

「坊っちゃん、いや、ライト、これからよろしくな!」

顔や態度はむさ苦しくても、心根は優しくて気の良い者達ばかり。

そんな素晴らしい仲間達に囲まれて、ライトの目が次第に潤んでいく。

「あ、ありがとうございます……」

「ライト、俺達の仲で敬語はなしだぜ!」

「てゆか、俺、敬語なんて使えねぇし!」

「……ありがとう!皆、ぼくの方こそこれからよろしくね!」

「おう!レオニスといっしょにまとめて面倒見てやるぜ!」

敬語をやめてフランクに話すライトに、冒険者達の顔がさらに緩む。

するとここで、多数の冒険者を掻き分けて一人の男がライトの前に出てきた。

それは、この歓迎会の幹事であるグライフだった。

「貴方方、聞き捨てなりませんね。今の言葉を訂正しなさい。レオニス含めて貴方方の面倒を最も見ているのは、間違いなくこの私ですよ?」

「おお、グライフ!今日も幹事の仕事、ご苦労さん!」

「我らがキング・オブ・幹事のお出ましだぜ!」

「何ですか、そのちっとも嬉しくない呼び方は」

「なら、幹事エンペラーでどうだ?」

「もっと酷いじゃないですか」

グライフの左右から冒険者達の腕が伸び、肩を組まれながら迎え入れられている。

グライフの新たな二つ名『キング・オブ・幹事』と『幹事エンペラー』、どちらも非常に嬉しくない呼ばれ方である。

ラグナロッツァの冒険者達は皆気の良い者達ばかりだが、二つ名のネーミングセンスだけはどうにも微妙なようだ。

グライフががっくりと肩を落とし、はぁ……と深いため息を一つついた後、気を取り直すように顔を上げてライトに話しかけた。

「お久しぶりですね、ライト。レオニスから聞きましたよ。冒険者登録を無事完了したそうですね。おめでとうございます」

「グライフ、ありがとうございます!グライフにまで祝ってもらえるなんて、すっごく嬉しいです!」

「ライト、敬語は抜きですよ? 私は本業が接客業なので、敬語を無くすことはできませんが」

「分かりまし……いえ、分かった!ありがとう、グライフ!」

「そうそう、その調子ですよ」

グライフに敬語の停止を示唆され、ライトも慌ててそれに応じる。

ライトは一番下っ端のペーペーで、先輩に対して敬語を使うのは当たり前だと思うのだが。先輩である冒険者達が、挙って敬語は無し!と言うのであればそれに従うしかない。

そう、『郷に入っては郷に従え』なのである。

「さぁさぁ、今日の主役も来たことですし。皆さん、これからライトの冒険者登録を祝う歓迎会を始めますよ!」

「「「おおおおおおおおッ!」」」

グライフの掛け声に、その場にいる全員が拳を高く掲げて歓声を上げる。

その後レオニスがグライフの横に立ち、今日の歓迎会の趣旨を伝えた。

「いいか、お前ら!酒は一番最初の乾杯の一杯目のみ!それ以降は水かお茶かジュースだけだぞ!」

「「「……(コクコク)……」」」

「これを破ったやつは、見つけ次第問答無用で外に放り出す!でもって、その後の交流は一切持たんからな!ライトだけでなく、俺やラウルとも縁切りとなると思え!」

「「「……(コクコク)……」」」

「それさえ守れれば、今日の費用は俺が全部出す!うちのライトの仲間入りだ、酒は出さんが美味い飯ならたらふく食ってくれ!」

「「「おおおおおおおおッ!!」」」

レオニスの気っ風のいい太っ腹なスポンサー宣言に、直営食堂内は先程以上の大歓声で沸き上がる。

そうしてライトの歓迎会は、いつになく熱い盛り上がりを見せながら始まっていった。