作品タイトル不明
第1596話 交換所史上初の出来事
人生初のシュマルリ単独遠征を無事終えたライト。
ルディを転職神殿に送り、ウィカともカタポレンの家の風呂で見送った後、ライトは再び早々に外に出かけた。
その行き先はルティエンス商会。
クエストイベントに必要な『暴君竜の鋭爪』を入手したので、最後の強化素材と交換するためである。
カタポレンの家の自室から、瞬間移動魔法陣でルティエンス商会裏庭に移動したライト。
裏口の扉を開きながら中に入った。
「ごめんくださーい。ロレンツォさん、いらっしゃいますかー?」
いつものように、中にいるであろう店主のロレンツォに向けてライトが声をかける。
そうしてしばらく待っていると、店の方からロレンツォが現れた。
「ようこそいらっしゃいました。先日ぶりですね」
「はい!度々お手間を取らせてすみません」
「いえいえ、手間を取らせるだなんてとんでもない!ライトさんは勇者候補生というだけでなく、ルティエンス商会にとっても大事なお客様。誠心誠意おもてなしして当然でございます」
「いつも本当にありがとうございます」
いつも穏やかな笑みで真摯な態度を決して崩さないロレンツォに、ライトは頭が下がる思いだ。
本当に深々と頭を下げて礼を言うライトに、ロレンツォが早速話を切り出した。
「本日も交換のご用件でいらっしゃいますか?」
「はい!今日ようやくドラゴタイラントの爪をゲットしまして!『暴君竜の鋭爪』が入手できたので、 青生生魂(アポイタカラ) の交換に来ました!」
「おお、それは素晴らしい!マナクリスタルに続き、青生生魂の素材まで全て入手なさるとは、さすがはBCOの勇者候補生ですね!」
「ぃゃぁ、それほどでも……」
ライトの報告に、ロレンツォが手放しで大絶賛する。
マナクリスタルも青生生魂も、どちらも入手困難を極めるアイテムだ。
それをライトは、この短期間で立て続けに入手可能にした。ロレンツォが心の底から感嘆し、褒め称えるのも当然である。
「では、早速交換いたしましょう」
「はい!よろしくお願いします!」
ロレンツォがライトを建物の中に招き入れて、奥の応接間に二人で移動していく。
応接間の真ん中にあるソファにライトが座り、早々にマイページを開いてアイテムの交換手続きをし始めた。
マイページのトップにある【交換所】のボタンを押して、交換ラインナップの中にある『青生生魂』をタップする。
個数指定できるプルダウンメニューを押し、今現在交換可能な最大個数の二十個の半分、十個を選択して交換を実行した。
すぐに全部二十個交換せずに、とりあえず半分交換して様子見しよう、という考えである。
その様子をソファの後ろで見守っていたロレンツォが、驚いたような顔で口を開いた。
「おお……ライトさん、青生生魂を二十個も交換できるのですか?」
「はい!さっきまでシュマルリ山脈にいたんですけど、そこでやっと見つけたドラゴタイラントを電撃で気絶させて、その隙に両手両足の爪全部切り取っできたんです」
「両手両足の爪全部……それで一気に二十個も交換できる、という訳ですか」
「せっかくの採取チャンスですからねー。獲れるものは全部獲らないと!」
ニコニコ笑顔でサラッとすごいことを言ってのけるライトに、ロレンツォはただただ驚嘆するしかない。
十歳になったばかりの子供が、ドラゴタイラント相手に戦って生きて帰るだけでも奇跡的な出来事だというのに。
ライトは目当ての爪を切り取るという目標達成しただけでは満足せずに、絶好の機会を逃すことなく最大限活かす―――この強かさ、要領の用意周到さにはロレンツォも舌を巻くばかりだ。
もっともライトにしてみれば、それはただのもったいない精神と効率化を兼ねた策なのだが。
一回の遭遇で二十個分の素材を獲れるとか、超お得だよね!としか考えていなかったりする。
ビバ!もったいない精神、ここに極まれりである。
そうして青生生魂を無事入手したライト。
最後の仕上げにかかる。
ライトはそのまま交換所に留まり、ラインナップを変更して『神威鋼』を選択する。
難関だったマナクリスタルと青生生魂を入手した今なら、神威鋼を入手できるはずだ。
そして案の定、神威鋼の項目でプルダウンメニューが開き、最大個数十個まで交換可能なことを確認した。
「おお……あの神威鋼を交換可能にするとは……私も長年このルティエンス商会を任されてきましたが、神威鋼の実物を交換するのはこれが初めてのことです」
「やっと……やっとここまできました……」
感無量の面持ちで、神威鋼の交換実行したライト。
これでクエストイベントのエクストラクエストで出てきた『身代わりの実レシピA』の材料は全て揃った。
後はクエストイベントの54番目のお題をクリアし、『身代わりの実レシピB』を入手するのみ。
レシピAとレシピB、この二つを揃えることで身代わりの実の作り方、工程が判明するのだ。
ライトはソファから立ち上がり、後ろにいるロレンツォに話しかけた。
「やっと神威鋼を入手できたし、今日のところはこれで帰ります」
「ああ、私としたことがお茶も出さずにすみません」
「いえいえ、ロレンツォさんがいつも見守ってくださるおかげで、ぼくも安心してクエストイベントに挑めていますから!」
「そう仰っていただけると、交換所店主冥利に尽きます」
お茶の一つも出さなかった非礼を詫びるロレンツォだが、ライトは全く気にしていないようだ。
そもそもライトはお茶を飲むためにここに来たのではないし、ロレンツォはロレンツォで交換所史上初の神威鋼の交換の瞬間に立ち会えて内心では感動に打ち震えていた。
「ライトさん、クエストイベントの進行状況は如何ですか?」
「これからぼくがしなければならないのは、54番目のお題の『濃縮ギャラクシーエーテル10個』のクリアですね」
「濃縮ギャラクシーエーテル10個ですか……私は生産職スキル関連のことは全く分からないのですが、きっとそれはさぞかし厳しい道程なのでしょうね」
「はい……ギャラクシーエーテルという市販品にはない非売品の高性能回復剤を五百個作らなきゃならないんです……」
ロレンツォがこの先の予定を何気なく聞いたのだが、先の長さを思い出したライトはがっくりと項垂れる。
ここまで来たらクエストイベントを諦めるという選択肢はない。
しかしその道程の長さは、想像をはるかに絶する苦行だ。
はぁー……という長く大きいため息をついたライト。
しかしここで挫ける訳にはいかない。
必死に己を鼓舞するために、キッ!と顔を上げてロレンツォに宣言する。
「でも!ぼくはめげません!絶対に、絶対にエクストラクエストをクリアして、クエストイベントを完遂するんだ!」
「その意気です。この不肖ロレンツォ、微力ではありますがライトさんのお力になれることあらばいくらでも協力いたします故。いつでもお気軽にご相談くださいませ」
「ありがとうございます!ロレンツォさんにそう言ってもらえると、元気百倍もらった気がします!」
ロレンツォの励ましに、ライトの顔がパァッ!と明るくなる。
ロレンツォはライトがBCOのことを心置きなく話せる、数少ないBCO仲間。
ヴァレリアやミーア達転職神殿の仲間と同じく、ライトにとってとても心強い味方の一人だ。
そんなロレンツォの励ましは、ただの口約束であってもライトの心に十分な活力をもたらしてくれていた。
二人は応接間を出て、瞬間移動魔法陣がある裏口に移動した。
裏口に出て、ライトが瞬間移動魔法陣の中に入りホログラムパネルをピコピコと操作する。
「ロレンツォさん、また相談させてもらうこともあると思いますが、よろしくお願いしますね!」
「いつでもお越しくださいませ」
「さようなら!」
「勇者候補生のまたのお越しを、心よりお待ち申し上げております」
転移先の設定を終えたライトの身体が、フッ……と消えていく。
完全に消え去るまで、ライトはずっとロレンツォに向かって左手を大きく振っていた。
そんな律儀で礼儀正しい勇者候補生を、ロレンツォは温かい眼差しでずっと見送っていた。