軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1595話 ドラゴタイラントとの戦い

ドラゴタイラント―――それはBCOにおけるレイドボスの一種。

茶色の鱗に覆われた強靭な皮膚と鋭い爪や牙を持つ、ティラノサウルス型のモンスター。

BCOの最初期に実装された討伐コンテンツで、当初はレベル2のボスだったが月日が経つにつれて他の強大なレイドボスがどんどん追加されるにつれ弱体化し、レベル1に格下げされた哀れな存在―――それがBCOユーザーのドラゴタイラントに対する一般的な見解だった。

しかし、現実としてドラゴタイラントの実物を目の当たりにすると、それはとんでもない間違いであることに気づく。

今ライトの目の前に現れたドラゴタイラントは、体高だけで5メートルくらいはありそうな巨躯だ。

如何にライトが普段からオーガ族や中位ドラゴン、白銀の君など数々の強大な者達を見慣ていても、初めて見るドラゴタイラントにはいつもとは違う恐怖を感じる。

それは、これまで出会ったどの知己達とも違う、ドラゴタイラントが持つ凶暴性や愛嬌の欠片もない粗暴さ故か。

ライトが思考する間もなく、ドラゴタイラントがライトに向かって襲いかかる。

思いの外素早き動きで鋭い爪を振り回してくるドラゴタイラントに、ライトは危険だと瞬時に判断して叫んだ。

「ルディ、飛んで逃げるよ!」

『はい!』

ライトの呼びかけに、ルディもライトと同時にすぐに空高くに飛んだ。

「ギャオオオォォォッ!」

獲物が自身の手の届かない空中に逃げたことに、ドラゴタイラントが咆哮し続ける。

ウィカはライトが抱っこしているし、ルディもライトとともに宙に逃げたのでドラゴタイラントは激怒しているのだ。

そしてこの咆哮、耳を 劈(つんざ) くような不快な音波を伴っていてライト達の顔が苦痛に歪む。

これは『暴君竜の咆哮』と呼ばれる、ドラゴタイラントが持つ固有スキルの一つだ。

不快な音波を敵に向かって放つことで、敵の物理防御力を10%ダウンさせるデバフ効果を持つ。

ここで一つ、BCOのデバフ効果について解説しよう。

BCOでは、デバフ効果を持つスキルは敵味方関係なく複数回かけることができる。その効力が100%を超えるまで、重ねがけが可能だ。

つまりこのドラゴタイラントの不快な咆哮をまともに十回食らえば、ライト達の物理防御力が0%にまで下げられてしまうことになるのだ。

ドラゴタイラントと敵対中に、物理防御力が0%になるのは冗談抜きで洒落にならない。

そこまで弱体化してしまうと、ドラゴタイラントの爪や尻尾の先が掠っただけで致命傷となり絶命してしまう。

それを回避するために、ライトは緊急措置として即時上空に退避したのである。

ドラゴタイラントの不快な咆哮が直撃しなくなる程度に、一気に上空に飛んだライト達。

はるか下に見える地上では、怒りが収まらぬドラゴタイラントが真上を見上げながらずっと咆哮し続けている。

『くッそー……ドラゴタイラントの実物、思ってた以上に怖ぇぇぇぇ!』

『でも、せっかくここまで来たんだから、ドラゴタイラントの爪の一つは獲って帰りたい……』

『とりあえず、ドラゴタイラントのステータスを見てみるか』

ライトは空中で思案しながら、真下にいるドラゴタイラントのステータスを【アナザーステータス】でチェックした。

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【名前】—

【種族】ドラゴタイラント

【レベル】135

【属性】土

【状態】通常

【特記事項】単独接触禁忌指定第一種

【HP】210495

【MP】1480

【力】1560

【体力】2710

【速度】541

【知力】15

【精神力】75

【運】21

【回避】581

【命中】337

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『うへぁー……何このステータス……いくらアレがレイドボスだからって、こんなんレベル1のレイドボスのステータスじゃないやろがえぃ!』

『てゆか、HP21万ちょいか……やってやれんこともないだろうけど……このサイサクス世界は、俺にとってリアルで現実だからな。ここで万が一にも死んだら一巻の終わりだ』

『……しゃあない、隙を突いてあの短い腕のどっちかだけでも斬り落とそう』

ライトはドラゴタイラントのステータスを眺めながら、頭の中で今後の作戦を練る。

ここはサイサクス世界、先日コヨルシャウキと戦った星海空間でのビースリーとは訳が違う。

あちらでは何度HP0になろうとも死ぬことはないが、ここはライトが生身の身体で生きている現実世界。一度でも死んでしまえば、そこで全てが終了となる。

ステータスで言えばコヨルシャウキの方が断然強いし、ドラゴタイラントだって倒そうと思えば何とか倒せるだろう。

しかし、一度の過ちで致命傷を負いかねない現状では、無理してまで完全殲滅を目指す必要はない。

とにかく爪の一個だけでも入手できればいいのだから、ここで命懸けの戦いなど挑まなくてもいいのだ。

そうしてとりあえず目標を定めたライト。まずは先程ドラゴタイラントにかけられたデバフを解除するために【僧侶】の一次職★8で得たスキル【プロテクト】を全員に一回づつかけた。

この【プロテクト】は、物理防御力を20%アップさせるバフスキルだ。

これをかけることにより、先程10%下げられた物理防御力のマイナスを打ち消して10%アップに書き換えた。

そしてライトは【プロテクト】をかけている間に、ルディ達に指示を出した。

「ルディ!ぼくがやつの腕を斬り落とすまで、やつの気を引いて!やつの咆哮が届かない上空から雷撃で攻撃するんだ!」

『分かりました!』

「ウィカはルディの後ろに控えながら、水魔法でやつの身体に水をかけて!水でずぶ濡れになれば、やつの硬い身体でもルディの雷撃がよく効くはず!」

『お任せあれ!』

ライトが飛ばした指示に従い、ルディとウィカが迅速に動いた。

ウィカがライトの腕の中から飛び出し、空を駆け上るようにしてルディの後ろに素早く移動した。

ウィカは黒猫の姿をしているが、その本質は水の精霊。

目には見えないが、水は大気中に含まれている。

そのためウィカは空中を飛ぶこともできるのだ。

そしてウィカがルディの後ろに陣取り、大気中の水を操り地上にいるドラゴタイラント目がけて放出した。

極太の水流がドラゴタイラントの身体を直撃し、「アギャッ!?」という喫驚の声を上げながらたじろぐドラゴタイラント。

その後すぐさまルディが雷撃をドラゴタイラントに向けて放った。

「アンギャアアアァァァッ!」

バチバチバチッ!というものすごい轟音を立てる。

ドラゴタイラントは土属性なので、本来雷撃は効きにくく相性が悪い。

しかし、ウィカの水魔法で大量の水を浴びせた後なら情勢は変わってくる。

鱗の間に入り込んだ水に強力な電撃が伝われば、さしもの暴君竜でも平然としてはいられない。

ドラゴタイラントの全身に、ビリビリとした強烈な衝撃が走る。

しかし、ドラゴタイラントはめげない。

身体が若干どころかかなり痺れつつも、何とかライトに一泡吹かせようと必死に堪えていた。

「よしッ!やっぱり水と雷の合わせ技は効くようだな!ルディ、やつが倒れるまでこのまま雷撃を維持して!」

『はいッ!』

「ウィカはやつの視界を奪うために、やつの頭を濃い靄で包んで!」

『うぃ!』

ライトの適切な指示通り動く使い魔達。

如何にドラゴタイラントが強力な力を持っていても、空中からの攻撃にはなす術もない。

ルディが五回目の雷撃を放った時に、ドラゴタイラントの巨体が傾いて、ズズン……という大きな音を立てて倒れ込んだ。

地面に横たわったドラゴタイラントは、白目を剥いてピク、ピク……と痙攣している。

この程度の攻撃では死なないが、麻痺を通り越して失神したようだ。

失神して気を失ってしまえば、もはやこっちのものだ。

ライトは様子を窺いながら地上に近づき、ドラゴタイラントの前に慎重に降り立った。

ライトが近くに寄っても、ドラゴタイラントは痙攣したままで地面から起き上がろうともしない。

これなら大丈夫そうだ、と判断したライト。

まずはマイページのアイテム欄を開いてから、腰に佩いていたオリハルコン製ペティナイフを取り出す。

そしてこのペティナイフで、爪切りよろしくドラゴタイラントの爪を切り取り始めた。

ラウルから誕生日プレゼントにもらったオリハルコン製ペティナイフ。

製作者はファングの包丁職人バーナード。

超一流の包丁職人の作だけあって、その切れ味はラウルが持つオリハルコン包丁同様に凄まじい。

まるでバターを切るかのように、サクッ☆とドラゴタイラントの爪が切れていく。

そしてもちろん爪を切り取るのは、何も一ヶ所だけではない。

右手と左手、そして右足と左足。何と四ヶ所の五本の指全ての爪を素早く切り取ったではないか。

ライトの頭程もある巨大な爪を、切り取った端からすぐさまポイ、ポイポイ、ポイー☆とアイテム欄に放り込んでいった。

全部で二十個分の爪を切り取ったライト。

大満足そうな顔で次の作業に取りかかる。

「さ、そしたらここに瞬間移動用の魔法陣を置かないとね!」

ライトはそう言うと、アイテムリュックから瞬間移動用の魔石を取り出して、未だ横たわるドラゴタイラントの背後から少し離れた平らな地面に移動した。

ライトが地面に向けて手を翳し、土魔法を発動して土を柔らかくする。

そこに手早く魔石を埋めて、移動用のホログラムパネルを起動して地点情報の入力を進めていく。

この一連の作業に要した時間およそ二十秒。実にテキパキとした流れに、ウィカもルディも惚れ惚れとするしかない。

するとここで、ピクピクと痙攣していたドラゴタイラントの動きがモゾモゾと大きくなった。

ルディの電撃の痺れが弱まってきていて、もうすぐ再起するサインである。

「おっと、もう動けるのか。ホンット、タフなやつだ」

『パパ様、コイツが目覚める前に移動しましょう!』

『早く早くー!』

「よし、皆で帰ろう!」

モゾモゾと動くドラゴタイラントを見て、慌ててライトの右肩に飛び乗るウィカと同じく身体を小さくしてライトの左肩に乗るルディ。

二体の使い魔を肩に乗せたライトが、瞬間移動用の魔法陣の中で素早くホログラムパネルを操作する。

そうしてドラゴタイラントがのっそりと起き上がった時には、既にライト達は転職神殿への瞬間移動を終えて姿を消していた。