作品タイトル不明
第1592話 目標達成とNPCの心遣い
ブリーキー島から転職神殿に帰還したライトとミーナ。
その後すぐに『呪われた聖廟』で得た固有魔物の解体を始めた。
何故そんなにも性急に事を進めるのかと言えば、二つの理由がある。
一つは『すぐにでもマナクリスタルを入手したい』、そしてもう一つは『夏休みも残り一週間と僅かになっているため』だった。
「さーて、そしたら今から『呪われた聖廟』の魔物を解体するぞー!ミーナ、ルディ、レア、お手伝いよろしくね!」
『『『はいッ!』』』
ライトが張り切りながら腕を捲り、ミーナ達も主の手伝いができることを喜んでいる。
ちなみにライトはミーアにだけは手伝いを要請していない。
彼女は転職神殿の専属巫女であり、ミーナ達使い魔とは立場も役割も全く違うからだ。
しかし、ミーアは決してそれを黙って良しとはしない。
ミーアは常にさり気なくミーナ達弟妹のサポートをこなしていた。
まずライトがアイテムリュックの蓋を開けて『呪われた聖廟』での様々な成果を取り出す。
一対の大きな山羊の角がついた頭蓋骨『クレイジーソウル』、赤い双眸が光る三身一体のデスマスク『エヴィルマスク』、巨大な左右一対の手『コアシャドウハンズ』、タコの足そっくりの触腕『テンタクルズ』、八本の触手脚と巨大な一つ目頭部と七本の触覚目玉を持つ陸上型蛸系魔物『ダストグランジー』。
どれもこれも初めて見る海系魔物に、転職神殿組の目は釘付けだ。
『うわぁ……主様、こんなのとお一人で戦って全てに勝つなんて……すごいですぅー』
『海にいる魔物って、陸にいる魔物とは全然違うんですね……』
『パパ、すっごく頑張ったのね!』
『ライトさん、よくぞご無事で……』
間違ってもこのディーノ村山中では決して見ることのない異形の魔物達に、転職神殿の面々が興味半分恐怖半分といった様子で遠巻きに眺めている。
その間にもライトはマイページを開き、解体専用特殊アイテム『解体千本刀』を取り出したり、スキル欄を開いて生産職スキル【解体新書】を発動させた。
「じゃ、今からガンガン解体していくから、解体したものを片っ端からぼくのマイページに入れていってね!」
『『『はいッ!』』』
ライトの気合いの入った掛け声に、ミーナ達も自然と力の篭った返事を返す。
その後ライトは宣言通りガンガン解体を進めていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ライトが解体を始めてから、約二時間半。
ようやく『呪われた聖廟』で狩った全ての魔物の解体が完了した。
解体した魔物の数と、得られた素材の詳細は以下の通り。
クレイジーソウル 53体
(死霊獣の大角 106個)
エヴィルマスク 37体
(仮面の欠片 138個)
コアシャドウハンズ 66体
(影手の核132個)
テンタクルズ 42体
(加虐の触手 210個)
ダストグランジー 28体
(不浄の眸 196個)
「はぁーーー!やーっと終わったー!」
『ライトさん、お疲れさまでした』
「ミーアさんまで手伝ってくれて、ありがとうございます!」
『どういたしまして。私も初めて見る魔物ばかりで、とても勉強になりました』
ミーアのいち早い労いの言葉に、ライトも破顔しつつ礼を言う。
解体した魔物の総数は二百を優に超えていて、十分間の魔物狩りの成果としては間違いなく大漁である。
ライトが大満足する一方で、ミーナとルディとレアは速攻で別の作業に取りかかっていた。
『主様ー、そしたら休憩のおやつにしましょうー!』
『テーブルや椅子、お菓子は僕とレアが用意するので、パパ様もミーナ姉様に浄化スキルをかけてもらってくださいねー』
『美味しいおやつで、気力体力回復するのです♪』
仕事終わりの休憩を準備する使い魔達。
確かにこれだけ働いた後だ、さぞかし甘いものが普段以上に身に沁みて美味しく味わえるに違いない。
おやつ好きの使い魔達の手際の早さは、解体の手伝いの時の動きをはるかに上回る。
あまりにもテキパキとした動きに、思わずライトもクスクスと笑う。
「うん、皆本当にお疲れさま。今日は皆がゲットしてきたくれたおやつ以外にも、うちのラウル特製スイーツもたくさん出すからね」
『『『ヤッターーー♪』』』
ライトの粋な計らいに、使い魔達が万歳しながら大喜びしている。
ライトがいつも振る舞ってくれるスイーツは、使い魔達にとっても大好物のご馳走なのだ。
時刻は午前十一時を少し回ったところ。
少し早めだが、このまま昼食を摂っても問題ないだろう。
ライトは皆の大好きなスイーツだけでなく、お昼ご飯にもなるサンドイッチやフライドポテト、唐揚げなどもいっしょに出す。
そうしてライト達は、楽しく賑やかなお昼を過ごした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昼食を摂り終えて、転職神殿を後にしたライト。
次に向かうはルティエンス商会。
そう、ライトは先程得たばかりの各種素材をルティエンス商会に持ち込んで、念願の最高級強化素材『マナクリスタル』を入手するつもりなのだ。
ヴァレリアから授かった瞬間移動用の魔法陣で、転職神殿からルティエンス商会裏口に移動したライト。
そこからルティエンス商会の中に入っていく。
「ごめんくださーい。ロレンツォさん、いらっしゃいますかー?」
中に向かってライトが大きめの声で呼びかける。
すると、しばらくして何者かの足音が聞こえてきた。
そうして現れたのは、ルティエンス商会の主ロレンツォだった。
「これはこれは、ライトさん、ようこそいらっしゃいました」
「ロレンツォさん、こんにちは!お昼時にお邪魔してしまってすみません、今大丈夫ですか?」
「もちろんですとも。私どもNPCの店員は、何をさて置いても勇者候補生達のご用命に応えるのが使命ですから」
「そんな……ぼくは勇者にはなりませんよ?」
「ええ、承知しておりますよ。ですが、ライトさんが勇者候補生であることに変わりはないのですから」
いつもの挨拶に、いつもの返しをするロレンツォ。
NPCにだって、日常生活やゲーム内で決められた役割以外にもしたいこと、やりたいこと、それぞれあるだろうに。
何があっても勇者候補生=ユーザー優先しなければならないとは、本当に因果な運命を背負った人達だ……とライトは思う。
しかし、当のロレンツォはそれが当たり前なので、全く苦にもならないようだが。
「して、本日はどのようなご用向きでいらっしゃいますか?」
「あ、それなんですが。今日ようやく『呪われた聖廟』で魔物狩りをしまして。マナクリスタルの交換に来たんです!」
「おお、それは素晴らしいですね!では早速交換とまいりましょうか。どうぞ中にお入りください」
「はい!」
ライトの来訪目的を聞いたロレンツォの顔が、いつになく明るく輝く。
そして早速中に招き入れるロレンツォの誘いに、ライトも弾む声で応じる。
二人は奥の応接間に移動し、取るものもとりあえず交換の手続きに入った。
ソファに座ったライトがマイページを開き、ソファの後ろからロレンツォがマイページを覗き込むようにして見ている。
「とりあえず、一番少ない素材が『死霊獣の大角』で、最大で106個交換できるんですが。今すぐ106個交換できますか?」
「もちろんですとも。当店において常時交換できる品々で、在庫切れを起こすことなど絶対にありません」
「ありがとうございます!では、交換よろしくお願いします!」
「承りました」
ロレンツォの頼もしい快諾に、ライトが破顔しつつマイページでの交換を実行した。
いや、本当は交換するだけなら何もルティエンス商会にわざわざ足を運ぶこともないのだが。そこは目的達成の喜びを誰かと分かち合いたいので、こういう時こそライトはロレンツォと直接会話を交わしながら交換するのが楽しみとなっていた。
マイページの画面上で交換手続きを終えて、アイテム欄にも『マナクリスタル 106個』という項目を確認したライト。
嬉しそうにロレンツォに礼を言う。
「ロレンツォさん、ありがとうございます!ロレンツォさんが交換のための素材一覧を教えてくれたおかげで、ぼくもスムーズに動くことができました!」
「いえいえ、あの程度のことでしたら礼には及びませんよ。私としても当然のことをしたまでですから」
ライトの礼に、ロレンツォが静かに微笑みながら応える。
ロレンツォはBCOの交換所店主というNPCだが、本当に紳士で優しい人だな、とライトは思う。
そしてライトはここではたとした顔でロレンツォに報告をした。
「あ、そういえばですね、ぼく、一週間ほど前に十歳の誕生日を迎えまして。早速その日に冒険者登録して、念願の冒険者になったんです!」
「おお、それは実に目出度いですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
サイサクス世界で冒険者になったことを、ロレンツォにも報告するライト。
ライトが冒険者になりたいという話は、ロレンツォも前々から聞いていた。
ライトは勇者候補生ではあるが、他の夢を持つことだって普通に許されるはずだ。
それはロレンツォにも理解できるし、ロレンツォだけでなくヴァレリアですらライトの思想や願いを止めることなどできやしない。
「では、きっとご家族の皆様方にライトさんの誕生日と冒険者登録を盛大に祝ってもらったでしょう」
「はい!皆ぼくのために、たくさんお祝いしてくれました!」
「実は私もライトさんのために、ささやかな品を用意しておりまして」
「え"ッ!? ロレンツォさんまでぼくに何かプレゼントをくれるんですか!?」
「はい。本当にささやかなものなのでお恥ずかしいですが、他ならぬライトさんのお誕生日、そして冒険者登録という目出度いことですので……僭越ながら祝いの品をご用意させていただきました」
「……ありがとうございます……」
ロレンツォの心配りに、ライトが感激している。
まさかロレンツォにまで誕生日プレゼントをもらえるとは、夢にも思っていなかったのだ。
ロレンツォが席を外し、応接間から一旦出た後しばらくして戻ってきた。
戻ってきたロレンツォは、その手に何か小さな箱のようなものを持っていた。
「ライトさん、こちらをどうぞお受け取りください」
「ありがとうございます。早速中を見てもいいですか?」
「もちろん。お気に召していただけると良いのですが……」
ロレンツォから小箱を受け取ったライト、早速箱の蓋を開けた。
するとそこには、一対のイヤーカフがあった。
「これは……イヤーカフ、ですか?」
「はい、そうです。こちらはBCO由来の品ではなく、サイサクス世界の職人が作った品でございます」
それは金色のシンプルなイヤーカフで、一つはルビー、もう一つにはサファイアが埋め込まれている。
大きさも然程大きくはなく、今のライトでも耳に着けられそうだ。
「本当なら、BCOのアイテムをプレゼントできれば一番良いのは分かっているのですが……私はBCOのNPCという立場故に、私の一存でBCO由来の品を規定の手順以外で勝手に動かすことは許されないのです。本当に申し訳ございません」
「そんな!謝らないでください!このイヤーカフだってすっごく素敵で、ぼくにはもったいないくらい素晴らしいプレゼントで嬉しいんですから!」
「そう仰っていただけると、私としても嬉しいです」
本当に申し訳なさそうに謝るロレンツォに、ライトが慌てて言い募る。
確かにロレンツォの言う通りで、NPCであるロレンツォがBCOのアイテムを勝手に融通するなどあり得ない。
いくらNPCの彼らに自由意志があろうとも、それが許されるのは日常生活の範疇のみ。
NPCが自由意志でBCOの規則に反する行動を取ったり、ましてや根幹システムに抗ったりすることなど絶対に許されないのだ。
故にロレンツォは、BCO由来ではないアイテムをライトへのプレゼントとして用意した。
ロレンツォが自分自身が持つ個人資産を使い、サイサクス世界の品を個人的に買ってプレゼントする分には何の問題もない、という訳だ。
「こちらのイヤーカフには宝石が使用されているので、魔法を付与することも可能です。ライトさんのこれからの冒険のお供に、是非ともお役立てくだされば幸いです」
「ロレンツォさん、本当にありがとうございます!一生大事にしますね!」
ロレンツォの心がこもったプレゼントに、ライトが満面の笑みで礼を言う。
ロレンツォやミーア、ヴァレリアなど、ゲームでは決して触れ合うことなどできなかったNPC達。
サイサクス世界で血の通った彼ら彼女らの温かい思い遣りに、ライトは『このサイサクス世界で生まれ変わって、本当に良かった!』と心から感謝するのだった。