軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1588話 ライトの対戦相手

その後も冒険者ギルドディーノ出張所で行われた『冒険者のイロハ講座』は順調に進んでいった。

午後に会議室で行われる座学では、すぐにうたた寝してしまうレオニスに向けて五分に一回はクレアからチョークを飛ばされたり、午後三時半からの解体所での魔物解体の実践では逆に生き生きとしたレオニスが張り切って様々な魔物を解体して見せたり。

お昼休みや三時のおやつタイムには、ラウル特製のランチボックスやスイーツで大盛り上がり。

お昼は野外の木陰でクー太も交えてピクニック風を楽しみ、午後三時は解体所にある大きなテーブルでたくさんのケーキと飲み物で至福の時を過ごす。

こんな平和な時間が、永遠に続いたらいいのに―――ライトは真剣にそう思うくらいだった。

そうして三日が過ぎ、冒険者のイロハ講座四日目のこと。

この日の天気は曇りで、野外実習も若干ながら過ごしやすそうな気温だ。

この日もクレアは野外活動用にジャージに着替え、ライトとレオニスを従えて外に出た。

しかし、いつもと違う点が一つだけあった。

それは、クレアがクー太をお供に野外演習場に連れて出たことだ。

野外演習場のド真ん中に立つクレア。

その横にはクー太がいて、グルルルル……と喉を鳴らしながらクレアに頬ずりしている。

そんな甘えん坊のクー太に、クレアが愛おしそうにクー太の頬を撫でる。

本当に仲の良い主従である。

「では、改めまして……ライト君、レオニスさん、おはようございます」

「「おはようございます!」」

「さて、この『冒険者のイロハ講座』も四日目、折り返し地点となった訳ですが。今日からは戦闘実践を行います」

「「ッ!!!」」

クレアの口から出てきた『戦闘実践』という言葉に、ライトの目は瞬時に輝き、レオニスの目には驚きが広がる。

「クレアさん、戦闘実践とはどのようなことをするんですか!?」

「本来なら、冒険者登録したばかりの新人さんにはグリーンスライム辺りと戦ってもらうのが適当なのですが……これまで伺ったお話ですと、ライト君にグリーンスライムは役不足過ぎるようですので。ここは特別授業にしようと思っています」

「……特別授業……」

戦闘実践というからには、対魔物戦であることは容易に推察できる。

そして、今のライトの実力ではグリーンスライム如きでは相手にもならない、というクレアの論も正しい。

これまでのイロハ講座で過ごした三日間で、ライトはクレアとたくさんの話をした。

世界各地にいる属性の女王達神殿守護神、神樹族や竜族との出会い等々、数えきれないほどの冒険譚。

それらの話を聞くクレアはその都度目を輝かせ、時には驚愕したり青褪めたり、終いにはあまりの衝撃に魂が半分くらい口から抜け出していた。

中でもクレアが最も驚いたのは、ライトが青龍の鱗を身の内に取り込み飛行能力を得たことだった。

これにはさすがのクレアも想定外過ぎて、思わず「ライト君……育ての親のレオニスさんを見習い過ぎちゃったんですね……」という身も蓋もない本音を零していた。

そして、ライトの予想以上の成長ぶりにクレアは決意する。

これ程の不世出の天才を相手に、生半可な講座は相応しくない。ライト君の持つ才能を、最大限に引き出さなくては!と。

覚悟を決めたクレアは、横にいるクー太の頬を撫でながら『特別授業』の内容を明かした。

「ライト君には、うちのクー太ちゃんがお相手します」

「「!?!?!?」」

これまた想定外の特別授業内容に、ライトの目はますます輝く。

一方でレオニスは、目が点&まん丸にして絶句している。

冒険者登録して一週間にも満たない新人初心者に、如何に幼体と言えどドラゴンの相手をしろ!とは狂気の沙汰にも程がある。

しばし呆気にとられていたレオニスだったが、はたとした顔で正気に戻りクレアに抗議する。

「え、ちょ、待、クレア、それ本気か!?」

「ええ、本気ですとも。何か問題でも?」

「問題大アリっつーか、問題しかねぇだろう!ライトはまだ冒険者登録したばかりだぞ!?」

「またまたぁ、金剛級冒険者ともあろうお人が何を寝言吐いてるんです? 寝言は寝て言うものですよ? 既にレオニスさんとともに世界中を冒険しまくっているライト君に、今更グリーンスライムを 嗾(けしか) けたところで一体何の役に立つんです?」

「ぐぬぬ」

「とはいえ、何事も経験しておくに越したことはないですから? 講座最終日には、一応グリーンスライムも含めたディーノ村固有の魔物達との戦闘実践も、ちゃーんと予定していますけど」

「ぐぬぬぬ」

「それに、クー太ちゃんはとても賢い子なので。決してライト君に大怪我を負わせることはしません。小さなかすり傷くらいは負うかもしれませんが、そこはまぁ全ての冒険者が背負うリスクの範疇ですし。万が一にも結構な怪我が発生してしまった場合でも、当ギルドで常備しているグランドポーションやコズミックエーテルで迅速対応いたしますので」

「ぐぬぬぬぬ」

クレアの完璧な理論に、今日もレオニスはぐうの音も出ない。

実際のところ、レオニスも反射的に抗議してしまったが、ライトがクー太と戦ったとしても一方的に負けるとは思っていない。

むしろ全力でぶつかり合ったら、クー太の方がライトにやられて負ける可能性だってそれなりにある。

そして、何事も経験というのはレオニスも大いに同意するところだし、何よりここにはレオニスとクレアがいる。

万が一にもどちらかが大怪我を負ったとしても、この二人がいれば各種回復剤や回復魔法で即座に治療してやることができる。

そう、レオニスが心配する必要などないのだ。

そのことに思い至ったレオニス。

眉間に皺を寄せて思いっきりしかめっ面をしながら、ふぅ……と大きなため息をついた。

「……しゃあない。クレア教官が直々に組んだ授業だ、ちゃんとした安全対策もされてるんだよな?」

「もちろんです。クー太ちゃんにはドラゴンブレス等の攻撃魔法は一切禁止を言い渡しますし、ライト君にも魔法攻撃は禁止とします。そして、ライト君とクー太ちゃんにしてもらうのは、この野外演習場内での追いかけっこのみ。空中戦でももちろんOKですが、野外演習場外に出たら負けです」

「攻撃無しの追いかけっこか……ならまだいいか」

クレアの説明に、ようやくレオニスも落ち着きを取り戻し安堵する。

レオニスとしても、ただ無闇矢鱈に勉強漬けにするよりも、クー太という気の許せる友達相手に遊びながら学べるなら、ライトにとってもその方がいいだろう、と考えたのだ。

ただし、普通に考えたらドラゴンの幼体との追いかけっこなんて、間違っても普通の人間にはできない芸当なのだが。

そこら辺の常識は、レオニスもクレアもすっぽりと抜け落ちてしまっているらしい。

レオニスがライトの方に身体を向け直し、徐に口を開いた。

「ライト、今聞いた通り、クー太との追いかけっこが今日の野外実習のようだが……大丈夫か?」

「もちろん!ぼく、クー太ちゃんと追いかけっこするのが夢だったんだ!」

「ぉ、ぉぅ、そうか……ライトの夢の一つがここで叶うってんなら、それは良いことだ」

ドラゴンとの追いかけっこに臆するどころか、飛び上がらんばかりに大喜びするライト。

その豪胆さには、ただただ脱帽するしかない。

そしてクレアの方でも、クー太に向けて「ライト君との追いかけっこでは、ブレスやカッターの発射は禁止ですよ?」「まずはライト君に鬼になってもらって、クー太ちゃんが追っかけられる側です」等々言い含めている。

クレアが注意事項を伝える度に、クー太は首を縦に振りながら「グルァ!」「キエッ!」と答えていた。

「さぁ、では今から十分間の追いかけっこをしていただきます。先攻はライト君、クー太ちゃんを捕まえられるよう頑張ってくださいねぇ」

「はい!クー太ちゃん、よろしくね!」

「ギャオオオオッ!」

追いかけっこの対戦相手であるクー太に、嬉しそうに挨拶するライト。

対するクー太もやる気満々!といった様子で張り切っている。

そして間を置かずにクー太が空に飛び出した。

そこからクレアが「十、九、八、七……」とカウントダウンしていく。

クレアのカウントダウンがゼロになった瞬間に、ライトがバビューン!と猛烈な勢いで空を飛んだ。

あっという間に空高く飛んでいったクー太とライトを、レオニスとクレアがぽけーっ……とした顔で見上げながら呟く。

「ンまぁぁぁぁ、ライト君ってば本当に空を飛べるようになったんですねぇー。つい先日、十歳になったばかりだというのに」

「全くだ。俺が十歳の頃なんて、水魔法を使った洗濯に風魔法の乾燥くらいしかできなかったわ」

ため息混じりで上空を見上げ続けるレオニス。

そんなレオニスに、クレアが小さく笑いながら話しかける。

「フフフ、それだってディーノ孤児院では十分役立っていたようですよ? シスターマイラがいつも嬉しそうに『レオ坊が手伝ってくれるんだよ』と話しておられましたもの」

「え、そうなのか? そんなこと、シスターマイラからは一度も言われたことねぇんだが……」

「シスターマイラも、面と向かってレオニスさんを褒めるのは照れ臭かったのかもしれませんね。……あ、そういえば『レオ坊を褒めると調子に乗るから言わない』とも言っておられた気が」

「何だそれ、酷ぇな!?」

ディーノ村孤児院時代の話に花が咲くレオニスとクレア。

レオニスの知らないところで、実はシスターマイラから褒められていた―――今まで知らなかった事実にレオニスが照れ臭そうに笑うも、その直後に蹴落とされてしまった。

『天国から地獄』の即座実現である。

しかし、クレアのプチ暴露話?にレオニスが本気で憤ることはない。

今は無きディーノ孤児院の話ができる人物は、極少数しかいない。

そしてクレアはその数少ない人物の一人であり、昔話をともに懐かしめる貴重な相手。

昔話を肴に軽口を叩き合うことはあっても、本気で怒るなどという無粋な真似は決してしないのである。

「ま、昔から『子は親に似る』と言いますし。ライト君がレオニスさんに似るのも道理だし、レオニスさんが育ての親のシスターマイラに似るのだって道理ですよ」

「どうせなら、もっと良いところが似ればいいのに」

「もっと良いところって、具体的にはどんなところなんです?」

「…………分からん!」

クレアの質問に、レオニスが照れ臭そうにそっぽを向く。

耳を赤くしながら顔を背けるレオニスに、クレアが堪らずクスクスと笑う。

ディーノ村の青々とした蒼穹の下で、ライトがクー太と飛び回る楽しさにキャハハ!と笑い声を上げる中、平和で穏やかな時間を噛みしめるレオニスだった。