作品タイトル不明
第1582話 主役達への贈り物・その六
ラウルのプレゼント進呈が無事済み、残りはレオニス一人となった。
ご近所さん達の視線がシゼントレオニスに集中する中、当のレオニスはバツが悪そうに左手で頭をガリガリと掻く。
「ぁー……さっきのラキじゃないが、これまでの皆のプレゼントがあまりにも素晴らし過ぎて、俺もここで出すのが恥ずかしくなってきたわ」
「角なしよ、何を言っておる? お主らしくもない。寝言は寝て言うものぞ?」
「うるせーよ。つーか、ニル爺までどこぞの受付嬢みたいなこと言ってんじゃねーよ。俺にだってなぁ、羞恥心くらいあるんだぞ?」
「何と!それは初耳ぞ!」
「ニル爺ェ……」
即座に突っ込んできたニルに、レオニスが口を尖らせつつ文句を言う。
レオニスの言うどこぞの受付嬢、某クレアの口癖がニルにまで移ってしまったかのようだ。
そんなレオニスとニルの賑やかな会話に、ラキが参戦した。
「レオニスよ、ニル爺の言う通りだぞ。お前の最も秀でたところは、何事に対しても臆することなく堂々としているところなのだから」
「ラキ……それ、褒めてんのか?」
「もちろん。我がお前に贈る最大級の賛辞だ」
「そ、そっか……」
ラキに自分の美点?を褒められたことで、レオニスが照れ臭そうな顔をしている。
親友の励ましが思いの外効いたのか、レオニスが顔を上げてキッ!と前を向いた。
「……そうだな。ここまできてビビるなんて、俺らしくねぇよな!」
『フフフ、いつものレオニスに戻ってくれて私も安心しました』
「ツィちゃんにも要らん心配かけてすまなかったな。そしたらまずは、ツィちゃんへのプレゼントから出すとするか」
ユグドラツィの安堵したような声に、レオニスが俄然やる気を取り戻す。
そして周囲にいるハドリー達に声をかけた。
「よーし、ハドリー達全員、こっちに集まれー!」
『『『はーい!』』』
レオニスの号令に、十六体のハドリーがわらわらと集まってきた。
レオニスの周りに集合したハドリー達に、レオニスはさらなる指示を与える。
「そしたら皆、今首にかけているアクセサリーを外して、それぞれ手に持って一列に並んでくれ」
『ライトお兄ちゃんがくれたヤツ?』
『分かったー』
『てゆか、これを外してどうするの?』
「そのアクセサリーについている宝石に、俺が付与魔法を施そう。そうだな……敏捷性はラウルの羽衣で上がっただろうから、俺は物理防御にするか」
レオニスの前に一列で並んだハドリー達。
彼ら彼女らは各々の首に着けている、識別用のアクセサリーを手に持った。
男の子ならループタイ、女の子ならネックレス。一人一人に異なる宝石を使っている。
この宝石に、レオニスは物理防御魔法を付与するつもりなのだ。
先頭に並んだドロシーからブレスレットを受け取ったレオニス。
左手にブレスレットを持ち、右手に小さなワンドを持って物理防御魔法の魔法陣を出し、それをブレスレットの宝石に吸収させていく。
これを繰り返すこと十六回。全てのハドリー達のアクセサリーに、物理防御魔法を付与した。
「……よし、これで全員分できたぞ」
『ありがとうございます。レオニス、貴方にも世話になってばかりですね』
「ンなこたぁないさ。本当ならツィちゃんに直接誕生日プレゼントを渡さなきゃならんところなのに、肝心の良いもんが思い浮かばなくて申し訳ない」
『そんなことはありません。うちの子達の身の安全は、私にとって何より嬉しいことなのですから』
「ツィちゃんなら、そう言ってくれると思った」
ユグドラツィに詫びるレオニスに、神樹が即座に否定する。
今のユグドラツィがいる場所には、以前レオニスがナヌス達と協力して強固な防御結界を作ってある。
この中に居さえすれば、ハドリー達の身の安全も必然的に保証される。
しかし、ハドリー達が大きくなれば結界の外に出る日が来るかもしれない。
あるいは防御結界内であっても、想定外の敵に出食わすことだって絶対に起きないとも限らない。
そう、何事も『備えあれば憂いなし』なのである。
ユグドラツィへのプレゼントを渡し終えたレオニス。
改めてライトの前まで移動し、空間魔法陣を開いた。
「さて、お待ちかね。今年のライトへのプレゼントは、ある意味超スペシャルだぞ?」
「……(ワクワク)……」
「つーか、これを誕生日プレゼントと称していいもんかどうかは分からんが…… この時が来たら(・・・・・・・) 、お前に渡そうとずっと思っていたものだ」
「……???」
レオニスが空間魔法陣から取り出して、ライトに渡した品物。
それは、一本の古びた短剣だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レオニスから手渡された短剣。
それは刃渡り30cm程で、いわゆるダガーと呼ばれる武器である。
華美な装飾などは一切なく、鞘もシンプルな黒の革製。
まだ小さなライトでも取り回しがしやすそうなダガーだが、何故レオニスがこれをプレゼントとしたのかが分からない。
有り余る財力を持つレオニスなら、いくらでもピカピカの新品武器を購入できるであろうはずなのに。
その理由は、レオニス自身の口から明かされた。
「これはな、お前の父さん、グラン兄が冒険者になって初めて武器屋で買ったダガーなんだ」
「えッ!? これ、父さんが使ってたものなの!?」
「そう。俺もそうだったが、冒険者になりたての頃は金がなくて剣なんて買えなくてな。それでもグラン兄は採取系や掃除、鉱山の採掘なんかの依頼をコツコツとこなして金を貯めて、これを買ったんだ」
「………………」
己の手の中にあるダガーを、ライトがレオニスの話を聞きながらじっと見つめている。
確かにそのダガーは使い込まれていて、お世辞にも性能がいい武器とは言えない。
しかし、これは実の父グランが生きていた時に実際に使っていたものだと思うと、ライトの胸に万感の思いが湧き上がる。
レオニスが先程言っていた『この時が来たら』と言う言葉。
これは『ライトが冒険者になる日が来たら』という意味だった。
レオニスの背を追うようにして冒険者になったライト。
そのレオニスだって、かつては尊敬するグランの背を追って冒険者になったのだ。
つまりライトは、レオニスを通して父グランの背をも追っていた、ということでもある。
こんな思い入れのある品をもらえるとは、ライトは全く予想していなかった。
父の形見とも言えるダガーを、冒険者登録した今日この日に譲り受けるのはものすごく嬉しい。
だが、それと同時に一つだけ、ライトが懸念したことがあった。
「レオ兄ちゃん、ぼくの父さんの形見をもらえるのはすっごく嬉しいんだけど……レオ兄ちゃんはいいの? レオ兄ちゃんにだって、このダガーは父さんの思い出の品で……とっても大事なものなんでしょ?」
「何だ、こんな時にもライトは俺の心配をしてくれるのか? 本当に優しい子だなぁ、そういうところはレミ姉にそっくりだ」
眉をハの字にして問いかけるライトに、レオニスが小さく微笑みながらライトの頭をくしゃくしゃと撫でる。
そして徐に再び空間魔法陣を開きながら、ライトの問いかけに答える。
「俺にはこれがあるから大丈夫」
レオニスが右手をライトの前にスッ……と出した。
彼の手のひらの上には、これまた少々古ぼけた一枚の金属製プレートがあった。
そのプレートには『グラン ディーノ支部 791/10/28』という文字が刻まれてある。
それは、グランが冒険者ギルドディーノ支部で冒険者登録した時にもらったタグプレートだった。
「これ……父さんが持っていたタグプレート?」
「ああ。グラン兄がレミ姉に宛てて書いた最後の手紙の中に、これが入っててな。そのダガーといっしょに、今まで俺が保管してたんだ。もしライトが望むなら、これもいっしょにお前に渡s」
「大丈夫!ぼくはこのダガーをもらうだけで十分だから!だからそのタグプレートは、レオ兄ちゃんがずっと持ってて!……ううん、むしろそのタグプレートはレオ兄ちゃんが一生持ってるべきだよ!」
「……そうか、ありがとうな」
グランのもう一つの形見、タグプレートまでライトに渡そうとするレオニスに、ライトが慌てて待ったをかける。
親の形見を持つ権利は実子にあるのは、誰にだって分かる道理だ。
だがしかし、ここでグランの形見の全てをレオニスから取り上げるのは、ライトとしても非常に心苦しい。
今でもグランのことを『グラン兄』と言って慕ってくれるレオニスに、そんな非情な仕打ちができる訳がないのだ。
ライトのそうした心遣いに、レオニスも嬉しそうに笑う。
「ライトの夢だった『冒険者になる』という目標は、今日無事に達成することができた。だが、これだけで終わりな訳じゃない。冒険者になってからが本番だ。そうだろう?」
「もちろん!ぼくの最終目標は『四十歳くらいまで冒険者として活動して、冒険者引退後は薬師か結界術師になって老後の資金を貯めて、百歳まで生きる』だからね!」
「その意気だ」
父の形見を胸に抱きしめながら、ライトが語るガッチガチの将来設計。
とても十歳になったばかりの子供が語るものではないが、レオニスはドン引きすることなく、本当に嬉しそうに笑う。
それは、短命だった父母の分まで長生きする!というライトの強い決意。
百歳まで生きて大往生できたら、これ程喜ばしいことはない。
人外ブラザーズの心温まるやり取りに、周囲で見守っていた者達も静かに微笑んでいた。