軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1566話 懐かしい思い出

ライトの攻撃力測定のため、一旦会議室に入ったライト達。

そこには、測定用のマリオネットタイプの人形や様々な武器が用意されていた。

「レオニスさん、この人形を裏庭の真ん中あたりに運んでください」

「はいよー」

「ライト君は、ここで武器を選びましょう。さすがに素手で挑むのはちょっと厳しいでしょうし」

「分かりました!」

クレアの指示に従い、レオニスが部屋の中央から窓寄りに置かれていた人形を「よいしょっと」という掛け声とともに右肩に担ぎ上げた。

総重量300kgあるという人形を、苦もなく持ち上げてスタスタと歩いていくレオニス。今日も人外パワーを発揮して、クレアやライトの役に立てているようで何よりである。

レオニスが人形を運んでいる間に、ライトはクレアとともに攻撃力測定で使う武器を選択する。

棚や壁に立てかけられている様々な武器は、まだ自分の武器を持たない新人冒険者に向けて冒険者ギルドがこの場限りで貸し出すためのものだ。

短剣や長剣、槍に爪、斧や大鎌といった多種多様な武器が並ぶ。

それらを眺めながら、ライトがクレアに問うた。

「この中から選べばいいんですか?」

「ええ、気に入ったものがあればお選びください。もし既にご愛用の武器があれば、そちらを使用しても構いませんが」

「一応シルバーダガーなら持ってるんですが……せっかくなら違う武器も触ってみたいし、でも攻撃力の測定ならいつもの武器を使う方が良い気もするし……」

「そうですねぇ、でしたらまずは手持ちのシルバーダガーで挑んでみては如何でしょう? その上で、使ってみたい武器があれば後からそちらで挑んでもいいですよ」

「何回かチャレンジしていいなら、是非そうしてみたいです!」

どの武器で測定に挑むべきか悩むライトに、クレアが適切なアドバイスをしている。

ライトの本当の得物はガンメタルソードなのだが、まさかこの場でBCO由来の武器を出して使う訳にもいかない。

故に普段使いのシルバーダガーを挙げたのだが、目の前にあるレンタル用の様々な武器を見たらそれも使いたくなってきた。

「とはいえ、ライト君に長槍や長剣、斧などはまだ扱い難いでしょうし、使うとしても短剣や爪くらいですかねぇ」

「そしたら、爪を使ってみたいです!」

「爪ですね、分かりました。ではこの鉤爪を持っていきましょう」

ライトの希望を受けて、クレアが一組の鉤爪を手に取った。

本当は戦斧や大鎌も一度は使ってみたいと思うライト。

ライトにとって、戦斧や大鎌はある種のロマンを感じさせるからだ。

しかし、いきなりそんなものを使いこなしてしまったらクレアにドン引きされるかもしれない。

なのでここはグッと堪えて、より現実に則した爪武器を選んだのである。

「クレアさんが使う武器は、ハルバードですよね。ぼくもクレアさんのように、大きくて強い武器を使いこなせるようになりたいです!」

「まぁ、ライト君ってば嬉しいことを言ってくださいますねぇ」

「そういえば、クレアさん達は姉妹全員がハルバードを使ってるんですか?」

裏庭に向かう道すがら、ライトがふと長年疑問に思っていたことを口にした。

それは、『クレア十二姉妹は、全員同じ武器を使っているのか?』ということ。

クレアの得物がハルバードであることは、BCOにおいて常識中の常識でありライトもよく知っている。

しかし、BCOで冒険者ギルドの受付嬢とは本来ならクレア一人を指す。

だがこのサイサクス世界には、ライトも知らないクレアの妹が十一人もいる。しかもその妹達は、皆が皆コピペレベルのそっくりさんと来た。

見た目も着るものもコピペレベルの彼女達のこと、もしかして使用する武器も全部同じなのか?という素朴な疑問が、ライトの中に常にあったのだ。

そしてその答えは、実に意外なものだった。

「いいえ、ハルバードを使うのは私だけです」

「そしたら、エンデアンのクレエさんやラグナロッツァのクレナさんは違う武器を使うんですか?」

「ええ。例えばクレエはウィップ、クレナはモーニングスターを愛用していますね。どれもラベンダー色の、オリジナル武器なんですよー」

「ウィップ……モーニングスター……」

クレアの意外過ぎる答えに、ライトは思わず頭の中でラベンダー色の鞭や棘付き球体を想像してしまった。

なかなかに奇天烈な図だが、クレアにそっくりな彼女の妹達がそうした独自の武器を持つのも案外似合うな……とライトは思う。

「へー、そうなんですね!ウィップとかモーニングスターとか、意外な気もするけど……それぞれ独自の武器があるというのは、とても素敵でカッコいいと思います!」

「フフフ、ありがとうございますぅ。そんな嬉しいことを言ってくださるのなんて、ライト君くらいのものですよぅー」

ここでもクレアの答えを大絶賛するライトに、クレアが嬉しそうに微笑む。

常に淑女であれ、と教育されてきたクレア達。

本来なら不必要であろう、彼女達十二姉妹一人一人の独自の武器を肯定してもらえるというのは、存外嬉しいことのようだ。

そんな話をしているうちに、裏庭に出たライトとクレア。

裏庭と呼ぶにはかなり広々としたエリアの真ん中には、レオニスが運んで設置した人形が置かれていた。

「おーい、クレア、ここら辺でいいかー?」

「はーい、ありがとうございますぅー」

レオニスの位置確認と、それをOKするクレア。

ライトも人形の前に到着し、いよいよ攻撃力測定開始である。

「では、説明いたしますね。こちらにある人形を、武器を用いて攻撃してください。こちらは物理攻撃の資質を判定するためのものですので、魔法攻撃は一切無しです」

「分かりました!」

ライトは腰に佩いていたシルバーダガーを鞘から取り出し、人形に向けて構えた。

そして「やーーーッ!」という気合い十分の掛け声を発しながら人形に斬りかかった。

その結果、人形の右側の腰に長さ10cm、深さ5cm程の傷を負わせることができた。

この成果に、クレアが「ぉぉ……」と感心している。

「ライト君、すごいですねぇ」

「え? そうなんですか?」

「そうですとも!この人形はすっごく頑丈に出来ていて、ちょっとやそっとのことでは傷一つつかないんですよー」

「へー……この人形って、そんなにすごいものなんですねー」

ライトが出した成果を手放しで絶賛するクレア。

以前ラウルがラグナロッツァ総本部で同様の測定をした時には、拳で殴りつけて人形を粉々にしていた。

本来なら、ライトもラウルと同じような道を辿りそうなものだが、そうならなかったのには理由がある。

それは、普段使いのシルバーダガーを用いたから。

このシルバーダガー、本当に極々普通のダガーで特殊機能やステータスが爆上がりするようなものではない。

もしライトが今ここで、ガンメタルソードやオリハルコン系の武器を使っていたら、間違いなく人形を真っ二つにしていただろう。

さらに言えば、もし素手で挑んでいたらラウルと同じくライトもまた人形を木っ端微塵に砕いていたはずだ。

そう、ここで極々普通の武器を使用したからこそ、ライトはそこそこの出力に抑えられたのだ。

クレアがベレー帽の中からスチャッ!とメジャーを取り出し、ライトが人形に負わせた傷の大きさを素早く測り、数値をボードに留めてある用紙に書き込んでいく。

あのベレー帽、メモ帳とペンを入れてるだけじゃねぇのか…………などとレオニスが壮絶に失敬なことを密かに考えている。

「先程あれだけ強い魔力が測定されたから、ライト君はてっきり魔法職向きなのかと思いきや。物理職でも十分やっていけますねぇ」

「ホントですか!?」

「ええ、本当ですとも。そしたら、先程選んだ爪武器でも攻撃力測定してみますか?」

「はい!」

クレアから手渡された一対の鉤爪を、ライトが手に嵌めてみる。

それは『手甲鉤』と呼ばれるタイプの鉤爪武器で、手の甲側に長く鋭い四本の爪がつけられている。

手首部分にあるベルトで武器を装着および固定しつつ、爪の内側にある把手に親指以外の四本を通して握りしめる。これが鉤爪の基本的な使い方である。

そしてこの鉤爪型の武器。今のライトでも決して使えないことはないが、まだ子供で手が小さいライトには把手やベルトが大きく、少々安定性に欠けるのは否めないところだ。

実際に鉤爪で人形に斬りつけてみたが、先程のシルバーダガーの時よりも人形に与えた傷は小さかった。

ちなみにそれらの傷は、ラウルの時同様に一分もしないうちに自動修復された。

先程クレアが人形の傷を手早く計測したのは、もたもたしていると傷がどんどん修復されていってしまうからである。

そして、シルバーダガーに続き鉤爪でも人形にダメージを与えられたことに、クレアが惜しみない絶賛を送る。

「鉤爪でも人形に傷を与えられるなんて、本当にすごいことです!これならきっと、いえ、間違いなくどんなジョブが出ても、ライト君は素晴らしい冒険者に成長していけると思いますよ」

「……ジョブ……」

クレアの絶賛に大喜びしていたライトだったが、クレアが何気なく言った『ジョブ』という言葉に一気に萎んでいく。

このサイサクス世界では、人々はラグナ教で行うジョブ適性判断という儀式を経て、それぞれにもたらされたジョブを獲得して生きていくのが常だ。

しかし、埒外の魂を持つライトがジョブを得られるかどうかは分からない。

埒内の者達のためにあるシステムが、ライトにまで適用されるかどうかが全く不明だからだ。

埒内の人達ならば、最低でも一つは提示されるというジョブ候補。

もし一つも出なかったらどうしよう……そりゃ俺には職業システムがあるから、ジョブが一つも得られなくたって大丈夫だけどさ。

でも、全く出てこないとなったら、それはそれできっと前代未聞の大問題だよね……うううう、不安だーーー……

ライトが鬱々と考えていると、レオニスがクレアに話しかけた。

「ああ、そういやライトのジョブのことで、あんたにも言っておかなきゃならんことがある」

「ン? 何ですか?」

「実はライトは以前、ラグナ神殿でちょっとしたいざこざに遭ったことがあってな。ラグナ神殿ではジョブ適性判断は行わず、前大教皇であるエンディに直々に執り行ってもらうことになってるんだ」

「まぁ、そうなんですか?」

レオニスが話す内容に、クレアがびっくりしている。

ジョブ適性判断も、冒険者登録同様にどこの街で行ってもいいとされている。

しかし、ジョブ適性判断は司祭が行うのが一般的であり、それより上の役職が執り行うのは珍しい。

しかもそれが大教皇ともなれば、クレアが驚くのも当然だった。

「先代とはいえ大教皇様に直々に執り行ってもらうとは、すごいですねぇ。……あ、もしかしてレオニスさんの時のように、ライト君もジョブ適性判断で体調を崩してしまうかもしれないから、ラグナ神殿では直接行いたくない、ということですか?」

「そんなところだ」

「レオニスさんも、かつてジョブ適性判断を受けた直後に高熱を出して寝込んでいましたもんねぇ」

「あんた、そんな昔のことをよく覚えてるな?」

クレアの名推理が炸裂する中、レオニスはクレアの記憶力の良さに驚愕している。

レオニスもその昔、このディーノ村にまだラグナ教支部があった頃、同世代の子供達にジョブ適性判断を受けさせるための『無料首都観光ツアー』が年に一度催されていて、そのツアーに参加してラグナ神殿に行った。

その時にレオニスはラグナ神殿にある【深淵の魂喰い】に魔力を食われていたのだが、そのせいで高熱を出して寝込む羽目になったのだ。

「ええ、あの時のことはよーく覚えていますよ。だって、レオニスさん達がラグナロッツァツアーから帰ってきたと思ったら、レオニスさんが高熱を出して倒れてしまったでしょう? その後も高熱がなかなか下がらなくて、マイラさんが懸命に手を尽くしておられましたもの」

「そっか……シスターマイラには、昔から世話になってばかりだからな」

クレアがレオニスの体調不良、それも十年以上前のことを鮮明に覚えていた理由。

それは、孤児院で子供達の世話をしていたシスターであるマイラの懸命の看病にあった。

「ホントですよ。あの時マイラさんは『あのレオ坊が夏風邪だなんて、天変地異が起こるんじゃないかねぇ?』とか言いながら、なかなか目覚めないレオニスさんを心配して近隣の街にまで毎日薬を買いに行ってましたもの」

「……ン、なかなかに酷ぇ言われようだな」

当時のことを懐かしそうに語るクレアに、レオニスが若干頬を引き攣らせている。

しかしレオニスも、そりゃ仕方ねぇよな……とも思う。

レオニス自身も当時は『あー、夏風邪引いちまったぜ、チクショー』と思っていたし、マイラも同じく夏風邪としか考えていなかっただろう。

それが実はラグナ神殿に祀られていた【深淵の魂喰い】のせいだとは、当時は誰一人として知る由もないのだから。

「……ま、そんな訳で。さっきも言った通り、ライトのジョブ適性判断はラグナ神殿外でエンディにやってもらう予定だ」

「どこでやるか、もう決まってるんですか?」

「いや、今のエンディは大教皇の座を降りてから全国を旅して回っていてな。向こうがもう少し落ち着いたら、そのうちやってもらうつもりだ」

「そうでしたか。まぁ、ジョブ適性判断自体は年齢制限などありませんしね」

「そゆこと。だからライトも、ラグーン学園を卒業するまでに受ければいいと考えてるんだ」

レオニスの説明に、クレアもうんうん、と頷きながら同意している。

ライトが今ここで冒険者登録をしたからといって、何もジョブまですぐに得なければならないという訳ではない。

特に今のライトやかつてのレオニスのように、十歳になってすぐに冒険者登録に来るような子供達は、ジョブを得ずにやってくるのがほとんどだ。

もちろんその大多数は、その後ジョブを得たら冒険者ギルドの方にも報告することになっている。

身分証明証も兼ねた冒険者ギルドカードに、新しく情報を追加するためだ。

「分かりましたぁ。そしたらライト君がジョブを得た暁には、当出張所にもご連絡くださいねぇー」

「了解」

レオニスの説明に納得したクレア。

そして改めてライトの方に向き直り、笑顔で話しかけた。

「ライト君にも素晴らしいジョブが出ることを、私も心より願っておりますぅー」

「……ありがとうございます!」

ライトの諸々の特殊な事情を聞きつつも、クレアはなおも笑顔でライトのことを快く受け入れてくれる。

そんな彼女の優しさ、そして心の広さにライトは救われる思いだった。

「さて、攻撃力測定も無事済んだところで。最後の仕上げといきましょうか」

「最後の仕上げって、何ですか?」

「それはですねぇ……」

「……(ゴクリ)……」

とても真剣な顔つきで意味深な言葉を繰り出すクレアに、ライトが思わず唾を飲み込む。

「ライト君のギルドカード発行です!」

「ッ!!!」

天高く掲げた拳にグッと力を込めて握りしめながら、ライトに対する大歓迎の意を表すクレア。その姿はまるで、どこぞの覇王もしくは拳王を彷彿とさせる世紀末的オーラを感じさせる。

十年ぶりの冒険者新規登録は、どこまでもクレアを熱く滾らせるようだ。

本日二度目のクレアの覇王オーラに、ライトは目を大きく見開きながら感激している。

「今日中にギルドカードをもらえるんですか!?」

「もちろんですとも。今日のこの日のために、ギルドカードだけでなくタグプレートもご用意してありますからね」

「タグプレートまで!? ヤッターーー!……クレアさん、ありがとうございます!」

今日中にギルドカードとタグプレートを受け取れるという話に、ライトが飛び上がらんばかりに大喜びしている。

冒険者ギルドから発行される、ギルドカードとタグプレート。

これを受け取れば、ライトは晴れて冒険者ギルドディーノ村出張所所属の冒険者になれるのだ。

「クレアさん、早く行きましょう!」

「はい、行きましょう。……あ、レオニスさんは測定用の人形を先程の会議室に運んでおいてくださいねぇー」

「はいよー」

大はしゃぎしながらクレアを促すライトに、クレアが微笑みながら応える。

クレアはライトに手を引かれながら小走りするが、一方でクッソ重たい測定用の人形の運搬をレオニスに頼むことも忘れない。

この要領の良さ、さすがは何でもできるスーパーウルトラファンタスティックパーフェクトレディー!である。

レオニスが再び会議室に戻すべく、人形を右肩に担ぎ上げ歩き出す。

その頃には、ライトとクレアははるか先を小走りで走っている。

もうすぐ正式な冒険者になれる喜びに満ちたライト。それはかつての自分を思い出させる懐かしい姿だ。

レオニスは懐かしい思い出に浸りながら、ライトとクレアの後ろ姿を見つめていた。