軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第156話 最後の仕上げ

カタポレンの森の家のお風呂で、さっぱりしたライトとフェネセン。

いつものように、生きたドライヤーレオニスの温かい風魔法で濡れた髪の毛を乾かしてもらうライト。

その横で、フェネセンは羨ましそうにその光景を眺めている。

「ねぇねぇレオぽん、吾輩にもその風魔法してほしいなー」

「ん?……しゃあないな、やってやるからタオルでよく頭拭っとけよ」

「ホント?わーい、やったぁ!」

ダメ元で言ってみたおねだりが叶えられて、フェネセンは大喜びだ。

しばらくしてライトの乾かしが完了してから、席を入れ替わりレオニスに髪を乾かしてもらうフェネセン。

ライト同様に、実に気持ち良さそうだ。

「ふぃー、だれかにこうして髪の毛乾かしてもらうのなんて吾輩初めてだけど、気持ち良いもんなんだねーぃ……」

うっとり上機嫌なフェネセンに、レオニスが話しかける。

「風呂上がりで寛ぎたいところをすまんが、この後例の品の出来や仕上がりを見てもらえるか?」

例の品とは、レオニスとフェネセンが共同開発しているアイテムバッグのことである。

風呂上がりの気持ち良い余韻の最中に仕事の話をするなど、無粋もいいところだ。

だが、レオニスもその無粋を重々承知の上でフェネセンに頼んでいるのだ。

「例の品?あー、アレね、うんうん、いいよー」

意外なことに、フェネセンの方もレオニスの申し出に快諾する。

余韻に浸る間も与えず仕事をさせるのだから、文句のひとつも出るかと思っていたレオニスにしてみれば、フェネセンが素直に頷いたのは意外なことだった。

しかし、レオニスだけでなくフェネセンも分かっているのだ。今滞在中にアイテムバッグ作りのことを二人で話し合える時間は、これが最後の機会だということを。

「じゃあぼくは、自分の部屋で御守作りをしてるね」

「おう、そうしてくれ。19時になったら、ラグナロッツァの家に三人で行こうな」

「そだねー、19時までにはまだ結構時間あるもんねーぃ」

「19時少し前になったら、レオ兄ちゃんの書斎に行くね。二人とも、もし服を着替えるならそれまでにちゃんと着替えといてね?」

「「うぃー」」

窓の外は夕焼け空が次第に暮れていく頃。ラグナロッツァに行く時間まで、あと二時間弱程度は猶予がある。

三人はそれぞれに分かれていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

自室に戻ったライトは、一息つきながらまずは机の上を片付け始める。今からフェネセンに贈るための御守を作成するためだ。

アイギスで仕立ててもらった銀碧狼の毛糸を、改めて一本の状態にして手のひらに乗せて眺める。ほっそりとした白銀の糸はしなやかで美しく、その艷やかな輝きは間違いなく万人を虜にするだろう。

編み方やスタイルはもう決めてある。片側輪っかのねじり結びだ。

糸の長さをさほど必要とせず、ねじり模様が見た目にもシンプルで美しい編み方だ。それに、線の細い小柄なフェネセンならば長さも女性用のサイズで十分足りるだろう、というライトの見立てもあった。

何度も糸の長さを計り、慎重に鋏を入れて切り分ける。

毛糸を揃えて束ねて、後は編み込みを開始するばかりとなったところで、ライトは否が応でも緊張を増していく己の精神を落ち着かせるために一息つく。

銀碧狼の毛糸の総量は、失敗したらやり直すような余地はない。

絶対に失敗できない戦いが、今この時、この瞬間、ライトの目の前にある。そう、これは己との闘いだ。

糸を持つ手が自然と震える。だが、震えたままの手で作業すれば手元がぶれて均一な編み目など到底作れない。

ライトは一旦手を止めて、深呼吸を繰り返しながらフェネセンの顔を思い浮かべる。

レオニスの知己で、世界屈指の稀代の天才大魔導師フェネセン。

その肩書に似合わず、威厳など全く感じられない幼げな風貌。

そして、凡人には理解し難い天才故の破天荒な行動。

喜怒哀楽の表情が誰よりも豊かで、茶目っ気たっぷり元気いっぱいに飛び回る姿。

それでいて、やはりその芯には肩書に相応しい大魔導師としての確かな腕と才能を持つ鬼才。

ライトとは知り合ってまだ間もないが、それでも目を閉じてフェネセンのことを思うと彼と過ごした様々なシーンがいくらでも頭の中に浮かんでくる。

たくさんの笑顔、泣き顔、喜ぶ顔、拗ねた顔―――

短期間のうちに、これほどたくさんの思い出をライトに与えてくれたフェネセン。

それだけに、今回の長き旅に出る別れは辛く、そのことを思うだけで自然とライトの眦に涙が滲む。

だが、深呼吸とともに思い浮かべた思い出の数々は、フェネセンの旅の無事を思う心をも強く思い起こさせてくれる。

ライトは大きく吸い込んだ息を吐ききった後、意を決して銀碧狼の毛糸を静かに編み込み始める。

ゆっくりと、丁寧に、均一な編み目になるように、小さなその手を動かしていく。

フェネセンの旅の無事と再会。ひと編み毎に、その思いや願いを真摯に込めながら―――

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

一方レオニスの書斎では、レオニスとフェネセンがアイテムバッグの最終確認を行っていた。

「フェネセン、これなんだが」

「ふむふむ」

「中の空間の容量は100リットル程度、使用者権限は最大三人までの登録、動力は袋の表に埋め込んだ極小の魔石、持ち主の魔力以外にも日光を取り込んで魔力を貯められる構造にしてある」

「へむへむ」

「それから全般的に術式の改竄防止、特に容量の部分は並の術士では改竄どころかその容量指定箇所がどこにあるかすら分からんように、隠蔽に隠蔽を重ねてある」

「ほむほむ」

レオニスの解説を聞きながら、フェネセンがアイテムバッグを手に取り謎の相槌とともに繁繁と眺めている。

バッグ型の袋の表面や内側はもちろんのこと、太陽光システム?の魔石を触ったり手近なものを出し入れしてみたり、術式が埋め込まれた箇所や袋の縁なども入念に見ている。

もともと全体的に改竄できないように複雑な仕様にしてあるが、特に容量の部分は念入りに隠蔽処理を施している。

何故レオニス達は、そこまで容量を気にするのか?と問われれば、それはひとえにアイテムバッグが悪用される際のリスクを少しでも低くするためである。

理論上、供給する魔力さえあればその容量はいくらでも拡大できる。それこそレオニスやフェネセンが使う空間魔法陣のように、無限にも近い容量を得ることだって可か不可でいえば可能だ。

だがそれは、悪用された時のリスクも格段に跳ね上がることを意味する。

純粋に物流の貢献にだけ使われれば良いが、絶対にそうはならないこともレオニス達は理解していた。

転移門と同様、強盗や戦争で荒稼ぎしたいような悪い連中にとってもこのアイテムバッグは便利この上ない必需品になることは間違いない。

物流の貢献とは、戦争物資の扱いの軽減化や盗人達の身軽さを助ける側面をも持ち合わせてしまうのだ。

空間魔法陣の恩恵を世に広く普及させるからには、そうした使われ方を完全に防ぐことは不可能だ。

だがそれでも、いずれはこの恩恵を誰もが手にすることができるように、世に広めたい。その方が絶対に、世の発展に貢献するはずだから。

そうした考えから、容量を日常的に実用性のある範囲ギリギリまで小さくして、術式もそう簡単に改竄されないように徹底的に複雑化した。

そうすることで、悪党に悪用された時のリスクを極限まで低くすることを試みたのだ。

そうした理念のもとにレオニスが作り上げたアイテムバッグを、それこそ隅から隅まで念入りにチェックしたフェネセン。

一通り気が済んだのか、フェネセンはアイテムバッグをレオニスに渡し、静かに口を開いた。

「うん、いいんじゃないかな」

「これだけの出来なら、高位の魔術師でもそうおいそれとは弄れないっしょ」

「できて術式の書き写しが精一杯ってところかな、その先の改良とか改竄改悪とかまず無理だねーぃ」

「あ、一応我輩にもこの術式を書き写しさせてねーぃ。口裏合わせるにしても、我輩もこの術式の知識持っておかないとね」

フェネセンからのお墨付きをもらい、ホッとするレオニス。

それまでずっと、緊張の面持ちでフェネセンの回答を待っていたレオニスだったが、普段何事にも動じないレオニスがこんなに緊張することなど滅多にないことだ。

「これ、材質は天空竜の革だよね?」

「ああ。天空島の遺跡から出土したってことにするなら、材質もそれに見合うものにした方がいいと思ってな」

「うんうん、この革の古めかしい感じもいいね。さっすがレオぽん!」

術式の書き写しをしながら、アイテムバッグの袋の素材を一目で見抜くフェネセンに、あっさりと肯定するレオニス。

二人ともそれが当たり前のように口にしているが、天空竜の革などという素材はそんじょそこらで手に入るものではない。

そもそも天空竜など天空島と同じくそう簡単に見つけられるものではないし、ましてやそれを狩ることなど本来ならば至難の業なのだ。

だが、レオニス達の目指すところは空間魔法陣の術式を広めることであって、その契機となる出土品の素材などは基本何でもいいのだ。後年その術式が広まれば、空間魔法陣を付与する材質などいくらでも別のもので代用できるのだから。

今回超貴重な天空竜の革を使用したのは、天空島由来の出土品という設定の信憑性を高めるためだけに用いられたのだ。何とも贅沢な話である。

「じゃあ、このアイテムバッグはフェネセン、お前に預ける。近いうちにどこかのギルドでこれを天空島の遺跡出土品として提出してくれ」

「うぃうぃ、了解ー」

「くれぐれも俺の名は出すなよ?発見者はあくまでもお前一人だからな?旅の途中で見つけたって設定、絶対に忘れんなよ?」

「分かってるってー!ンもー、レオぽんてば心配症だなぁ。万事この偉大なる大魔導師フェネぴょん様に 任(まッか) せなさーい!」

フェネセンがいつものように、確たる根拠のない自信で胸を張りながらその拳で己の胸をドン!と叩く。

そのあまりにも満ち溢れた自信満々ぶりに、レオニスが実に不安そうな顔でフェネセンの顔を覗き込む。

「いや、あの、だからね?そういう時のお前が一番危ないんだからね?分かってる?」

「え、ナニそのしどい言い方」

「いいか、これは俺の勘とかそういうんじゃないぞ?これまでの経験則から言ってんだ」

「え、ナニそれ余計にしどい」

不安げにフェネセンの顔を見つめるレオニスに、ショックを受けた顔のフェネセンがレオニスを見つめ返す。

二人の視線はしばし互いを見つめながら、シーーーン……とした微妙な空気が静寂とともに流れる。

「「……ぷぷッwww」」

どちらからともなく、ほぼ同時に笑い声が漏れる。

「「アハハハハ!!」」

一度漏れだした笑いは、堰を切ったように止まらなくなる。

「……まぁいいさ、もし万が一口が滑って俺の名を出したとしても、そこら辺は適当に誤魔化しといてくれやwww」

「うぃうぃ、そもそも何か疑念を抱いたとしても我輩相手にツッコミ入れてくるような猛者なんてほとんどいないからねwww」

「「アヒャハハハ!!」」

「そうだよなぁ、お前にツッコミ入れる命知らずなんざいねぇよなぁwww」

「レオぽん、今すぐ鏡見るべきでしょwww」

「「ギャハハハハ!!」」

「お前ね、俺に鏡なんぞ見せてどうすんだ?んなもん見たところで超絶級の男前が映ってるだけだろwww」

「「うひゃひゃひゃひゃwww」」

「ひー、ヒー、く、苦ちいいいい、レオぽんもうやめてぇぇぇぇwww」

互いの顔を指差しながら、腹を抱えて大笑いするレオニスとフェネセン。

部屋から見える窓の外の景色は、もう空もだいぶ薄暗くなり日も暮れてきている。

静かに暮れゆくカタポレンの森全てを包み込むような、二人の楽しげな笑い声が響き渡っていた。