軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1548話 レオニスに残された手立て

カタポレンの森の中で、レオニス達四人が佇みながら対峙する。

レオニスの周囲を三人のオーガが取り囲んだ状態で、『 不審者(レオニス) を絶対にボコッてやる!』という臨戦態勢バリバリの三人が発する圧が何しろ凄まじい。

一方でレオニスは、オーガ達の圧に屈することなく悠々と構えている。

レオニスにはやましいことなど何一つないし、中央のオーガがここに来れば自身の潔白を証明してくれるだろう、という確信にも近い目算があるからだ。

そうして五分、あるいは十分くらい経っただろうか。

東の里にすっ飛んでいったオーガが、他のオーガを連れてレオニス達のもとに戻ってきた。

年若いオーガの後ろには、レオニスもよく知る顔のオーガが三人いる。

「チェスワフさん!連れてきました!」

「ご苦労。早速だが、ガイ、こいつに見覚えはあるか?」

年若いオーガを労うリーダー、チェスワフが東の里から出てきたガイに早速質問した。

一方のガイは、詳しい事情も聞かされずに急ぎ連れてこられたようで、肩で息をしながらふとレオニスに目を留めた。

「何だ何だ、どうした? ……って、レオニス?」

「よう、ガイ。……って、テオとノアもいるのか」

「おおー、レオニスじゃないか!どうしてこんなところに?」

チェスワフが連れてこいと言ったのは、中央のオーガの里の若者三人、ガイとテオとノアだった。

この三人の若者は、以前ラキが率いる狩りでレオニスも同行したことがある。

顔見知り同士なので、思わぬところで再会できたことにガイ達三人の顔が思わず綻ぶ。

「いや何、前にニル爺から『東の里の様子を見てきてくれ』って頼まれててな。今日は別件でこの近辺に来たんだが、せっかく東のオーガの里の近くに来たことだし寄ってみようと思ったら、この有り様でな」

「そうか……そりゃ災難っつーか、まぁ東の里相手じゃな、ガッツリ警戒されて当然だよな」

「そうそう、俺達中央の里のような訳にはいかんわな」

「「「ワーッハッハッハッハ!!」」」

ガイ達三人が腰に手を当てながら、ふんぞり返って高笑いしている。

何とも陽気なガイ達だが、これが中央の里のオーガ達の気質であり、それが故にレオニスのことも容易に受け入れられるのだろう。

そんな能天気な高笑いに、レオニスが速攻で文句をつける。

「お前らなぁ……他人事だと思って笑いやがって。ニル爺やラキに言いつけるぞ?」

「おう、いくらでも言いつけろ。族長や長老だって、その場で大笑いして終わりだろ」

「それもそうか」

「「「「ワーッハッハッハッハ!!」」」」

自分の扱いがどこまでも軽いことに、今度はレオニスまでいっしょになってガイ達と高笑いをしている。

確かにラキやニルに言いつけたところで「そりゃ仕方ない」の一言で済まされて終了だろう。

そのくらいのことはレオニスも容易に想像できるし、本当に言いつける気もない。ただ単に軽口を叩き合って笑っているだけのことである。

そんなレオニス達四人の様子に、チェスワフ他東の里のオーガ達が目を丸くしながら驚いている。

まさか 人族(レオニス) がここまで中央のオーガ達と懇意にしているとは、夢にも思わなかったようだ。

口をポカーン……と開けたまま呆然としているチェスワフ達に気づいたテオが、東のオーガ達に話しかけた。

「あー、この人族の男、レオニスが俺達中央のオーガと親しくしているってのは見ての通りだ」

「そ、そうなのか……」

「俺達もレオニスのことは知っているし、うちの族長や長老とも親交がある。つーか、親交どころかこのレオニスはうちの里の大恩人なんだ」

「大恩人!? それは一体どういうことだ!?」

「ぁー……そこら辺はまた話せば長くなるんだが……」

テオに続き、ガイとノアもレオニスを擁護する。

レオニスのことを大恩人として扱うのは、中央の里のオーガ達全員に共通する認識だ。

それは、かつて中央のオーガの里を襲った単眼蝙蝠の群れの襲撃事件のことを指している。

あの時、目覚めの湖に住む水の精霊ウィカの知らせにより、レオニスはライトとともに中央のオーガの里の危機に駆けつけた。

魔法を使えないラキ達オーガは、飛び回る単眼蝙蝠の群れを退治できずに追い詰められていた。

それをレオニスは魔法で薙ぎ払ってくれただけでなく、屍鬼化の呪いを受けた族長ラキの生命まで救ってくれたのだ。

レオニスと中央の里のオーガ達は、いつもは気軽に軽口を叩き合う仲だし、表向きでは結構失敬なことも口にする。

だが中央の里のオーガ達は、心の中では常にレオニスに対して感謝しているし、彼によって里全体が救われた恩義を生涯忘れることなどないのである。

するとここで、ノアがレオニスに声をかけた。

「つーか、レオニス、何でまた長老に東の里の様子を見てきてくれなんて言われたんだ?」

「あー、確か何年か前にニル爺の玄孫が生まれたけど? 東の里に嫁いだ娘がなかなか里帰りしてくれないもんだから、ニル爺も心配っつーか寂しいらしい」

「やっぱりそれか……」

レオニスの答えに、ノアが手を口元に当てながら得心している。

「いやな、実は俺達も今回行商に出るに当たり、東の里に立ち寄ってベスさん……あ、これ、ニル爺様の娘さんの名前な? ベスさん達の様子も見てきてくれって、族長からも頼まれてんだよな」

「そうなんか? じゃあ、わざわざ俺が立ち寄ることもなかったか」

「いや、そんなことはないさ。せっかくならレオニス、お前もベスさん達に会っていけばいい。きっと喜ぶぞ」

「そうだといいんだが」

ノアの話に、レオニスが安堵しつつ頷く。

そして今度はチェスワフに声をかけた。

「……で? 俺がただの不審者じゃないってことは、ガイ達の証言で明白になったはずだが。そこんところはどうなんだ?」

「むぅ……確かに貴様は我らの同胞の知己のようだ。それは認める」

「なら俺も、ガイ達といっしょにニル爺の孫や曾孫、玄孫に会っていきたいんだが」

「それはならぬ。部外者が前族長一族に会う必要などない」

「……(こりゃ話にならんな)……」

けんもほろろなチェスワフの対応に、レオニスは内心で早々に見切りをつける。

ここまで話に応じないなら、残る手立ては一つしかない。

「なら、力尽くで通してもらうことになるが。いいか?」

「力尽く、だと? 脆弱な人族が何を吐かす」

「だってお前らオーガは、強い者に従う種族だろ? だったら俺とも勝負しろってだけの話だ」

「ハッ、話にならん」

レオニスの申し出に、チェスワフが一笑に付す。

リーダーのチェスワフだけでなく、他の三人も鼻で笑っている。しかし、ガイ達中央のオーガ達はこの事態に慄いていた。

「ぉ、ぉぃ、チェスワフさん……悪いこた言わん、それだけはやめとけ」

「何を言っている?」

「ぃゃ、だからな? あんた達も『森の番人』の噂くらい耳にしたことがあるだろう?」

「……ああ、この森をうろちょろと飛び回っているという人族のことか?」

「うろちょろ……この際それはひとまず置いといてだな……その人族こそが、このレオニスなんだよ」

「だから何だと言うのだ? 所詮は人族、我らオーガの前では非力で無力な生き物であることに違いはない」

「ぃゃぃゃ、その認識は危険過ぎるって!」

何とかチェスワフを止めようと、必死に説得にかかるガイ達。

しかし、チェスワフを始めとする東の里の者達はレオニスの実力など全く知らないので、人族だというだけで舐めてかかるのも無理はない。

そんな命知らずなチェスワフに、ガイ達は必死に言い募る。

「このレオニスってのはな? うちの里では【角持たぬ鬼】と呼ばれるくらいに強ぇんだよ!」

「しかも、俺達相手に腕相撲で勝っちまうんだぜ? そんなんおかしい、嘘だ!と思うだろ? 俺もおかしいとは思うが、これは決して嘘なんかじゃない。本当にあったことなんだ!」

「レオニスのおかしいところはな、それだけじゃないんだ。人族なのに空をビュンビュン飛ぶし、魔法だって何十発、何百発と平気な顔してバンバン撃ちまくる、それはもう空恐ろしいヤツなんだぞ!?」

「「「「…………」」」」

身振り手振りでレオニスとの対決の危険性?を訴えるガイ達。

それらは全て本当にあった出来事なのだが、改めて聞くとなかなかに酷い言われようである。

レオニスがスーン……とした顔で「お前らな……ホンット、失敬だな」と呟いている。

そして、ガイ達の必死の説得を聞いていたチェスワフ達も、最初のうちこそ鼻で笑っていたが。ガイ達三人の真剣な顔つきに、次第に顔が曇っていった。

一方でレオニスは、ガイ達が説得に尽力している間に身体強化魔法を複数回かけてスタンバイしている。

物理攻撃力、物理防御力、魔法攻撃力、敏捷、これらの身体強化魔法を重ねがけした後に、空間魔法陣からアークエーテルを取り出してすぐにグビグビと飲み始めた。

オーガ達の会議中に、レオニスはバフの重ねがけとMP回復をちゃちゃっと済ませてしまったのである。

「おーい、こっちはいつでも準備OKだぞー」

「ぃゃ、だからな、レオニス、ちょっと待ってくれって!」

「お前が本気出して攻撃に移ったら、冗談抜きで洒落にならん!」

「ここは一つ、穏便に頼む……俺達だって、同胞をむざむざ死なせる訳にはいかねぇんだ!」

「お前ら、どこまでも失敬だな……本気で殺しにかかる訳ねぇだろう……」

絶賛 殺(ヤ) る気満々風のレオニスに、ガイ達が大慌てで懇願する。

レオニスとて無闇な殺生などしないし、東の里のオーガ達を殺すつもりなどさらさらないのだが。ガイ達の言い分だけだと、まるでレオニスが無差別大量殺人鬼のようにしか聞こえない。

しかし、レオニスの実力を知る者ほど危機感を正しく働かせることができるのも事実である。

「じゃあ、お前らの望み通り、穏便な方法で決着をつけようじゃないか」

「と、いうと?」

「ここにいる東の里の四人全員を、腕相撲で負かしたら俺の勝ちってのはどうだ?」

「!!それなら死人は出ねぇな!」

レオニスの妥協案に、ガイ達三人の顔がパァッ!と明るくなる。

確かにその方法———腕相撲なら、ガイ達が危惧するような惨事には至らないだろう。

誰一人大怪我を負うことなく、純粋に力の強さだけで勝負する―――最も平和的な交渉であることは間違いない。

「よし、じゃあ早速ここでやるか!」

「ちょっと待てよ、そういやここから少し離れた場所に大きな切り株があったよな? そこで腕相撲をすりゃいい!」

「皆、こっちに来ーい!」

ようやく活路を見い出した三人の中央のオーガ達が、善は急げ!とばかりにレオニス達に声をかける。

そして意外なことに、チェスワフが異論を唱えることはなかった。

チェスワフとて無益な殺生は好まないし、腕相撲一つで不審者を追い出せるならば吝かではない。

大きな切り株を見つけたらしいノアの呼びかけに、無言のままそちらの方に歩いていく。

そうしてレオニスと東のオーガ達の真剣勝負が始まっていった。