軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1546話 不審な小洞窟の対処

ライトが転職神殿で皆と楽しく過ごしていた頃。

レオニスは明け方からずっとカタポレンの森の警邏をしていた。

カタポレンの家を出て、ひたすら東に向かって飛び続けるレオニス。

目指すは『東の里』と呼ばれるオーガ族の集落。

昨日暗黒の洞窟を訪ねた際に、闇の女王から『東のオーガの里の近くに不審な小洞窟がある』という話を聞いたためだ。

それを見つけたのはクロエの配下のマードンで、闇の女王もそれを異質なものだと認めた。

マードンはともかく、闇の女王が異質だと断言したのだからレオニスとしても放ってはおけない。一刻も早く確認しておくべきだ。

そうして東に向かって、時折アークエーテルを飲みながら猛スピードで飛び続けること約三時間半。

オーガ族の東の里が近くにある領域に差しかかった。

少し前までのレオニスなら、レオニスがこの東の里の近くに来るまで半日以上はかかった。

だが今のレオニスは、たくさんの高位の存在から複数の加護を授けられている。

そのおかげで飛行速度も見違えるくらい早くなり、こんな遠い距離でも余裕で日帰りで行き来できるようになったのである。

見渡す限り大きな木々が生い茂る森の中で、はるか遠くにぽつんと切り拓かれた場所が見える。

それこそが東のオーガの里である。

東のオーガの里が見えてきたところで、次に探すは闇の女王が話していた不審な小洞窟。

レオニスは、東のオーガの里に近づき過ぎない程度にゆっくりと飛んで周囲を警戒し続ける。

そうしてしばらく様子見をしていたレオニスだったが、とある地点で飛行を止めた。

レオニスが宙に浮いたまま、地面を見下ろしている。

その視線の先には、森の木々より少し低い高さを持つ大岩があった。

「……あれか?」

『そう、アレ』

レオニスの呟きに、ブローチの黒水晶の中に潜んでいる闇の上級精霊が答えた。

この闇の上級精霊は、昨晩のうちに闇の女王がレオニスのもとに遣わしたもの。

今回の不審な小洞窟の道案内として、昼間でもしっかり働いてくれている。

怪しい大岩を凝視しつつ、レオニスがゆっくりと降下して地面に降り立つ。

案の定その大岩には大きめの亀裂があり、その奥が洞窟になっているようだ。

しかし、その亀裂はレオニスの身長より低く、ライトの背丈分があるかどうかといったところか。

これではレオニス自身が中に入って探索することはできない。

さて、どうしたもんか……とレオニスはしばし考え込んでいた。

だが、それもほんの僅かな時間。レオニスはふいに後ろを振り返り、上を見上げながら大きな声で呼びかけた。

「おい、マードン。いるんだろ? 出てこいよ」

『…………』

「お前が闇の女王の命令で、ここを見張っていることは知ってんだぞ? 出てこいって」

『…………』

レオニスが 空(くう) に向けて呼びかけても、返事は全くない。

ぱっと見ではマードンの姿は見えないのだが、レオニスはマードンがここにいると確信しているようだ。

「……あ、そう。自分から出てこないってんなら、こっちから行くぞ」

ここにいるであろうマードンからの返事が一向に来ないことに業を煮やしたレオニス。

その姿がフッ……と消えたかと思うと、一本の木の上部に移動した。

その木の上には、必死で気配を殺していたマードンがいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「見ぃーつけた」

『ピエッ!? ななな 何故(なじ) ぇココに、我ェがいると気づいたのダ!?』

「お前の気配を感じ取れない程、俺は愚図じゃねぇぞ?」

『ピエェ……我、一生懸命隠れてたァのにィー……』

「そんなところだけ一生懸命になってんじゃねぇよ」

レオニスに背後を取られたマードン。

慌てて振り返るも、レオニスが発する鬼神の如き猛烈な圧に既に涙目である。

そしてレオニスが徐に空間魔法陣を開き、手袋を取り出して嵌めてからマードンの首の後ろをムンズ!と捕まえて持ち上げた。

『ピエッ!? ななな何をするゥーーー!?』

「なぁ、マードン。お前、本当にあの小洞窟の中に入って探りを入れる気はねぇの?」

『ナイッ!ナイッたらナイッ!我、アレに入ったら 死(チ) んじゃうロース!』

「ココや闇の女王の命令でも、か?」

『無理ィなもんは無理ッ!だッて我ェは、これからァもずゥーーーッと!ココしゃまや、闇の女王しゃまにお仕えしたァい!そのためェには、まず生きィていてこそ、なのダ!』

「お前……いつもはとんでもなくタフですんげー図々しいくせに、ホンット肝心なところで臆病だね……」

レオニスに鷲掴みにされたマードン、涙目のまま頑として小洞窟の探索を拒否し続けている。

マードンに、レオニスが呆れたようにため息をつく。

もともとマードンが臆病者なのはレオニスも承知しているが、それにしてもここまで怯えるのは尋常ではない。

それに、クロエから直々にかけられた洗脳と魅了の術は今でもマードンを支配し続けているはず。

なのに、クロエや闇の女王の命令でも首を縦に振らないというのは、本来ならばあり得ないことである。

この不可解な現象に、レオニスがマードンに問いかけた。

「つーか、あんなちっせぇ洞窟なのに、お前は一体何をそんなに怯えてるんだ?」

『大きさの問題じゃナーイ!だッてアレ!【愚帝】しゃまの気配すンだもン! 絶(じぇ) ーーーッ対無理ッ!』

「何ッ!? 【愚帝】だとッ!?」

涙目で怯えるマードンのとんでもない言葉に、それまで呆れ顔だったレオニスの顔が一瞬にして強張った。

一方でマードンは、レオニスの表情の変化など全くお構いなしにペラペラと喋りまくる。

『我、ゾルディスしゃまのおッ 供(とーも) で、何ー度か【愚帝】しゃまの近ァくまで、行ッたことがあンのダ……だかァら、我には分ッかるのダ……アレは、絶ェーッ対に【愚帝】しゃまが絡んでおる……』

「…………」

レオニスが詰問してもいないうちから、必死に喋り続けるマードン。

かつてマードンは、廃都の魔城の四帝の一角【愚帝】の配下である屍鬼将ゾルディスの手下だった。

直属の上司の更に上にいる上司が【愚帝】であり、ゾルディスの供で【愚帝】のもとを訪ねたという話は筋が通っている。

そして、さらに重要な証言がマードンの口から飛び出してきた。

『でもッて、昔おめーが邪魔しくさッた、オーガの里を乗ッ取ォーる作戦ナ? あの時ィにも、これと似たモンを奴らの里ォの近くに作ッて、単眼蝙蝠をアホほど送り込ンだァのダ……』

「ッ!! あの時の単眼蝙蝠の異常な多さは、それが原因だったのか!?」

『まァなー。ゾルディスしゃまはナ、超有ゥー能な魔術ゥー師だッたしィー!』

思いがけない新情報に、レオニスの目が大きく見開かれる。

そしてこの情報は、目の前にある小洞窟が廃都の魔城の四帝の策略であることを裏付ける証言となった。

かつてオーガの里を襲った単眼蝙蝠の群れと、それを率いたマードン、そして屍鬼将ゾルディス。

あの時と同じことを、東のオーガの里で再現しようと画策しているとしか思えない。

レオニスが頭の中であれこれと考えている間、マードンはなおもキーキーと吠える。

『だかァーら!我ェはあの洞窟には入れンの!【愚帝】しゃまに、我ェが生きてェることを知られたァら……ヌッ殺コロコロされちゃうやろがえぃ!』

「……この亀裂の奥に、【愚帝】が仕掛けた何かがあるのは間違いないんだな?」

『間ッ違いナーイッ!我ェの見立ては常にパーペキ!』

「分かった。お前はちょっと後ろに退いてろ」

『ヒャッハー!』

レオニスはマードンを後ろにポイー、と放り投げ、大岩の亀裂の前に近づいていく。

投げ捨てられたマードンは、ここぞとばかりに大喜びで一番近くにあった木の後ろに速攻で隠れる。

本当に現金な奴である。

レオニスが大岩の亀裂に近づくにつれて、ジャケットに着けてある黒水晶のブローチがカタカタ……と小刻みに震える。

どうやら黒水晶の中にいる闇の上級精霊が、小洞窟の異様さに怯えているようだ。

それに気づいたレオニスが、右手でブローチを包み込むようにして撫でる。

「怖い思いをさせてすまんな。すぐに済むから、ちょっとだけ我慢してくれ」

『……うん……』

レオニスの手の温かさに触れたおかげか、ブローチの震えが次第に収まっていく。

ブローチの中の闇の上級精霊の気持ちが落ち着いたところで、レオニスが大岩の亀裂に向けて右手を翳した。

「アースウォール」

レオニスが唱えたのは、中級土魔法。大きな岩の壁を作り出す魔法である。

それはかつてユグドラツィ襲撃事件が起きた時に、どこからか無限に涌き続ける首狩り蟲の転送用魔法陣を物理的に潰すために用いた魔法だ。

亀裂の中に生じたレオニスの土魔法の岩壁が、周囲の岩を突き破り完全に出入口を塞いだ格好となった。

「ひとまずは、これで出口らしきものを塞いだが……念の為にもう二、三枚追加しとくか」

レオニスはそう呟くと、中級土魔法アースウォールを立て続けに三回連続で唱えた。

レオニスが放った魔法により、先程大岩の中から生えてきた岩の周りから新たな岩壁が次々と出てきた。

これにより、大岩にあった亀裂の小洞窟は完全に潰れた。

これは、ユグドラツィ襲撃事件の時と同じく、この小洞窟の中に何らかの細工=転送用魔法陣があるなら、力技のゴリ押しで無理矢理にでも潰してしまえ!という理論からなる策である。

そうした一連の作業を終えたレオニスが、襟元の黒水晶のブローチに右手を添えながら問いかけた。

「闇の精霊、どうだ、あの岩からまだおかしな気配を感じるか?」

『……ううん、さっきまであった異質な気配は、もう感じない』

「そっか。ご苦労さん」

『どういたしまして』

闇の上級精霊の言葉に、レオニスが安堵しつつ労う。

そしてレオニスは、すぐさま後ろに避難していたマードンを呼びつけた。

「おい、マードン、こっちに来い」

『ハァーーーイ☆』

レオニスの不躾な呼びつけにも拘わらず、マードンがものすごくご機嫌な様子で応じる。

大きな皮膜型の翼をバッサバッサと動かして、ウキウキモードでレオニスの傍に駆け寄るマードン。

こいつのこの様子を見ただけで、レオニスの策は大成功したことが丸分かりである。

「とりあえず、お前がビビりまくっていた小洞窟の入口は塞いだ。だが、念の為もうしばらくは様子見が必要だろう」

『我、ビビッてなんていねぇーし!』

「嘘つけ、コノヤロー」

『知ィーらんぷいーん!』

「ッたく……このお調子者め」

目の前の脅威が取り去られた途端に、いつものお調子者に戻ったマードン。

あまりにも現金過ぎるが、これがマードンという奴の性根なのでどうしようもない。

「いいか、マードン、よく聞け。この大岩をしばらく見張れ。そして万が一何か起きたら、ココに知らせろ。これはココと闇の女王の命令だと思え」

『ぬぅー……我ェは、ココしゃまと闇の女王しゃまの忠ゥー実なる下僕であッて、おめーの下僕ではナイィのだガ……』

レオニスの指示に、マードンがあからさまに不満げに口答えしている。

実にふてぶてしいマードンに、レオニスが呆れ顔で諭す。

「お前なぁ……俺はココの父親だぞ? 前にもココに言われてただろ、ココが大事に思う全ての者達に従えってよ」

『まァな……しゃーナイ、おめーはココしゃまのパパ上だし? ここは我ェが大人になッて、おめーの命令にも従ッといてやるァ』

「だぁーからぁー、その『パパ上』はヤメロっての!」

レオニスの正論に、マードンは本当に渋々、不承不承、嫌々ながらといった感じでレオニスの指示を受け入れた。

レオニスがクロエの父親というのはマードンも知っている事実だし、クロエにも『ココが大事に思う全ての者達に従え』ときつく言い渡されている。

故にマードンは、レオニスの指示に従う他道はないのだ。

相変わらず図々しいマードンの態度に、レオニスは右手で頭を軽く押さえながら、はぁー……とため息をつくしかない。

「ここでのことは、ココと闇の女王にも報告するからな。見張りをサボろうなんて思うなよ?」

『サボるなンて、とんでもナァーイ!ココしゃま達に、我ェの有能ゥーさと働きぶりィを見てもらえる、絶ッ好ゥーの機会だもんぬェーい☆』

レオニスの忠告に、何故か一転してウッキウキでくるくると飛び回るマードン。

この見張りの任務を、マードンの額にある第三の目でクロエと闇の女王が見ることで、自分の有能さをアピールできる!と思っているようだ。

何とも能天気なことだが、見張りの任務をこなすモチベーションとなるならそれも良かろう。

『てゆか、我、いつまでこの岩を見張ればええのん?』

「そうだな……とりあえず十日は様子見してみてくれ。十日経っても何事もなければ、ここを去ってもいい。ただし、その後この近辺を通りかかることがあったら、一応この岩の様子を見るよう心がけておいてくれ」

『十日な、らじゃーン』

見張り任務期間を尋ねたマードンに、レオニスはひとまず十日と告げる。

本当は年単位で様子見を継続すべき案件なのだが、マードンにそんな長期間の大役が務まるとはとても思えない。

戦力的にアテにならない奴を信用して裏切られるくらいなら、最初からアテにせずに他の策を講じる方が余程マシというものだ。

巡回ならレオニスが月に一回か二回ここまで来ればいいし、夜限定なら闇の女王に頼んで闇の精霊達に見張ってもらうことも可能だろう。

そう、少しは使えるようでやっぱり使えないマードンをアテにしてはいけないのである。

そうしてやることを全てやり終えたレオニス。

思ったより早くに片がついたし、朝の五時にカタポレンの家を出たのでまだ時間に余裕がある。

ジャケットの内ポケットから懐中時計を取り出してみると、時刻は十時少し前。

帰りにまた三時間半かかるとしても、午後三時頃に出立すれば十分余裕だ。

今からあと五時間、何をして過ごそうか。

普段はここまで来ることなど滅多にないし、この近辺を散策するのもいいかもな―――

そう考えているうちに、レオニスはふとニルが言っていたことを思い出した。

『角なしの鬼よ……東の里に入れとまでは言わんが、もしその近くを通ったら……里の外からでいいから、様子を見てはくれまいか』

『孫が子を生んだと聞いてから久しいのに、なかなか顔を見せてくれんのがもどかしくてのぅ』

それは、レオニスが初めてニルの家を訪ねた時にした会話。

遠く離れて暮らす娘への心配、そして新たに生まれた孫に会いたい気持ちはレオニスにもよく分かる。

そして何より、普段のニルはレオニスに頼み事をするような性格ではない。

そんなニルが珍しくレオニスを頼ったのだ。これに応えないなど、男が廃るというものである。

「……よし、東のオーガの里にちょいと寄り道していくか。マードン、ここの見張りをしっかり頑張れよ!」

『万事我ェに、 任(まッか) せなすゎーい☆』

次の行き先を決めたレオニス。

ふわりと宙に浮き、マードンに叱咤の言葉をかけてから東のオーガの里に向かって飛んでいった。