軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1540話 新たな果樹と奇跡を呼び寄せたもの

砂の女王と水の女王、そして闇の女王のところにそれぞれ転移門を作るという怒涛の一日を過ごした翌日。

ライトは朝からカタポレンの畑弄りをしているラウルの手伝いをしていた。

「ラウル、すっごくたくさんの作物を作り始めたねぇ」

「おう、夏野菜は皆が大好きだからな。旬真っ盛りの今のうちに、たくさん作ってたくさん貯め込んでおかんとな」

「あー、確かにねぇ。天空島のヴィーちゃんやグリンちゃん、オーガ族の人達もラウルのお野菜大好きだもんねー」

「そゆこと」

ライトが水遣りのために水魔法で生み出した、各種回復剤入りの雲を器用に操りながら畑一面に広がる緑を眺める。

トウモロコシを始めとして、トマトやきゅうり、ゴーヤにズッキーニ、茄子やオクラ等々、カタポレンの家の周りの畑には様々な作物が植えられていた。

昨日の昼の時点では、何一つ植えられていなかったのに。午後にライト達と分かれて以降、ラウルがこれでもか!というくらいに様々な夏野菜を育て始めたらしい。

一方でラウルは何をしているかというと、林檎と桃の収穫をしていた。

林檎の次に植える果樹に、ラウルは桃を選んだ。

ライトは桃の種類なんて黄桃と白桃くらいしか分からないが、品種としては百五十種類以上あるらしい。

ラウルは今から二ヶ月程前に、三種類の桃を選んで畑での栽培を開始した。黄桃は『黄金桃』、白桃は『川中島白桃』、そしてもう一つ『白鳳』だ。

この三種類の桃の種を五個づつ植えて、毎日欠かさず植物魔法をかけて育て上げた。

その甲斐あって、今では計十五本の立派な桃の木に成長したのである。

ちなみに桃の収穫サイクルは、林檎とほぼ同じで約二週間に一度。つまり月に二回の収穫が得られる。

大きさも林檎と同じく巨大で、ラウルの頭より大きな果実が実る。

食べ方はもちろん生食が一番の王道だが、それ以外にもコンポートやジャム、ピューレ等々様々な方法がある。

収穫が安定してきたのはここ最近のことなので、まだ身内のみの試食に留まっている。

ラグナロッツァの屋敷で、皆で晩御飯を食べた後に初めてカタポレン産の桃を出した時には全員に大好評だった。

マキシなど「何コレ、すっごく美味しい!」と大興奮しながら頬張っていた程だ。

そして今朝も収穫した桃の一つをラーデに与えて、畑の隅にある四阿でラーデがご機嫌な様子で桃を食べている。

ラーデは林檎も好物だが、桃は特にそのジューシーさが気に入っているようだ。

「ラウル、この桃ももうそろそろオーガの里に持っていくの?」

「そうだなぁ、オーガの里に植えた林檎の木もぼちぼち実をつけ始めたしな。新しい果物を持ち込んでもいい頃合いかもしれん」

「フフフ、そしたらラウルのお料理教室が、今よりもっともっと賑やかになるかもね!」

「そうかもしれんな」

大きく育った桃の木の周りを、ラウルが慎重に飛びながら実を収穫する。

収穫した桃は、ラウルのすぐ横で常時展開している空間魔法陣にすぐに放り込んでいる。

食材に乏しいオーガの里のために、ラウルは料理教室と並行して野菜や果物の栽培の手解きも進めてきた。

オーガ族は魔法が使えない種族なので、ラウルが駆使するような植物魔法も使えない。

しかし、このカタポレンの森には膨大な魔力が常時満ちている。

それは植物魔法に勝るとも劣らない自然の恵みであり、魔法が使えないオーガの里であっても豊かな実りをもたらしてくれていた。

「今日は今からオーガの里に行く予定だが、ライトも行くか?」

「ンー……今日はちょっと出かけたいところがあるから、今回はパスかな。また次回に誘ってもらってもいい?」

「もちろんだ。ライトも何かと忙しいんだな、どこに出かけるんだ?」

「ディーノ村にある、父さんと母さんの家。窓を開けて空気の入れ替えしたり、草むしりしたりとかね。夏休みのうちに、一度は手入れをしておきたいんだよねー」

「ああ、ディーノ村に今でもあるという借家か」

「そそそ。父さんと母さんの思い出が詰まった家だからねー。レオ兄ちゃんだけでなく、ぼくもずっと大事にしていきたいんだ」

「良いことだ」

ラウルが今日出かけるというオーガの里にライトも誘うが、珍しく断られてしまった。

しかし、その行き先を聞けばラウルも納得である。

ラウルの出自であるプーリア族は、何事に対しても執着心を持たない傾向が強い。

だが、ラウルにしてみたら、故人との思い出を大事にする人族の習性こそ好ましいものに思える。

「じゃ、そろそろぼくはディーノ村にお出かけしてくるねー」

「おう、気をつけてな」

畑の水遣りを一通り終えたライト。

ラウルにお出かけの挨拶をしてから一旦家の中に入る。

アイギスのマントやアイテムリュック等の装備を整えてから、ライトは瞬間移動用の魔法陣で転移していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトが転移した先は、ディーノ村にある父母の借家のすぐ裏。

ここには本当に月に一度程度の割合で手入れに通っているので、ヴァレリアからもらった瞬間移動用の魔石を埋めて行き来しやすいようにしているのだ。

ライトは家の裏から表に周り、鍵を使って家の中に入る。

家の窓を全て開け放ち、換気してから再び外に出て草むしりを始めた。

月に一度は草むしりをしているのに、もう雑草があちこちに生えている。夏の暑い日差しを存分に浴びて、雑草も逞しく日々懸命に生きているのだろう。

草むしりを手早く終えて、ライトは水魔法で手を洗ってから家の中に入る。

居間や台所、風呂などの窓を一つ一つきちんと締めていく。

その途中で入った寝室で、ライトがふと足を留めた。

「ここに、レオ兄ちゃんが泊まっていったんだよね……」

ベッドの上に綺麗に敷き直された布団を眺めながら、ライトがぽつり、と呟く。

今から約半年前に、その事件―――ビースリー勃発未遂事件が起こった。

その時にライトはコヨルシャウキとともに異空間に去り、それらを食い止められなかったレオニスは激しい悔恨の末に四日間も彷徨った。

その行き着いた先にこの家があり、ここからグランとレミの墓参りをした、という話をライトはだいぶ後になってからレオニスから聞いた。

その後レオニスからは、旧教神殿跡地=転職神殿のことやヴァレリアの話は特に聞いていない。

ライトの方から突ついて藪蛇を招きたくないので、迂闊に聞くこともできない、というのが本音だ。

しかし、レオニスが疲れた身体を癒やすためにこの家に泊まったことが、彼とヴァレリアの邂逅という奇跡をもたらしたことは間違いない。

誰も住まないこんなボロ屋を何年も借り続けて、一体何の得があるのか―――陰でレオニスがそう嘲られたことも一度や二度ではない。

例えそこに嘲る悪意など無くても、金をドブに捨てていると言われても仕方がない、とライトも思う。

だがそれでも、この家の存在はあの時に役立ってくれた。

その事実があるだけで、ライトはこのディーノ村の家に感謝しかないし、今後も大事に守り続けていこう!と思う。

だからこそ、今日もこの家の手入れに来たのだ。

「……さて、そろそろ次に行きますか」

「父さん、母さん……ぼくのことを守ってくれて、本当にありがとうね」

「ぼくのことといっしょに、レオ兄ちゃんのことも見守ってあげてね。ほら、レオ兄ちゃんって何かと無茶する人だからさ」

ライトは窓の鍵やカーテンを締めながら、顔も知らぬ父母に感謝の言葉を言い続ける。

そして最後に玄関を出て、玄関の扉の鍵を締めた。

玄関の鍵をアイテムリュックに仕舞い、再びリュックを背負う。

そこからライトは家の裏に周り、裏山を登っていった。