軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1533話 給湯室でのお茶会と様々な問題

ジャッジ・ガベル内部見学ツアーが一段落し、ライト達は三階から一階へ移動した。

先程立ち寄った給湯室で、皆でお茶を飲みながら休憩するためだ。

給湯室に入り、ラウルを筆頭にお茶の準備を始めた。

まずラウルが流しに赴き、蛇口から水を出して手のひらに取って一口二口、口に含んでいる。

この流しにある蛇口は、ハンドルの中央に魔石が嵌め込まれていて、その魔力を水に変換して出す仕組みだ。

蛇口から出た水は、本当に極々普通の水。特に癖もなく、飲用に適した軟水と思われる。

「……よし、これなら普通にそのまま使えるな」

給湯室の水の味を確認し、これに満足したラウルが空間魔法陣から手持ちのやかんを取り出した。

そして流しの蛇口から水を出して、中を満たしてコンロにかけて湯を沸かす。

いつものラウルなら、ここでツェリザークの雪融け水なり使うところだが。この給湯室で出る水を直接使ってみたいようだ。

ラウルが湯を沸かしている間に、ライトとレオニスは他の支度を進める。

椅子は備え付けが四脚あるので、ライト、レオニス、ラウル、砂の女王の四人でそれを使うことにする。

ガベリーナの分体であるさるぼぼガベリーナには、ライトが用意した手のひらサイズの小さなクッションを出して、砂の女王の左斜め前に置いて座らせた。

小さなクッションを座布団代わりに、ちょこんと座るさるぼぼガベリーナは何とも可愛らしい。

やかんからピーーー!という湯が沸いた合図が出る頃には、調理台の上に様々なスイーツが用意されていた。

四人分のマグカップに、熱々の湯で淹れた紅茶やコーヒーがラウルの手で注がれていく。

このマグカップの中には氷の女王の氷槍が入れられていて、熱い紅茶やコーヒーがあっという間にアイスティーやアイスコーヒーに早変わりするのだ。

全ての準備が瞬く間に整い、全員で合掌しながら挨拶をする。

「「「いッただッきまーーーす!」」」

挨拶の後、思い思いに好きなスイーツを取っていく。

といっても、砂の女王とガベリーナはこの手のお茶会はまだ二回目なので、勝手が分からず隣に座ったライトがあれこれと世話を焼いていた。

「おお、このアイスコーヒー、スッキリしていて美味いな」

「水はここの蛇口から出たものを沸かしたが、冷やすための氷は氷の女王の槍を使ったからな」

「道理で美味い訳だ」

ノーヴェ砂漠の地下深くで飲むアイスコーヒーは、場所の特殊性もあって乙な味のようだ。

一方ライト達は、和菓子を中心に食べていた。

『私、この『みたらし団子』というのが気に入ったわぁー』

『うむ、私もこの団子なるものは美味であると思う』

「お団子、美味しいですよねー。ぼくも大好きです!……あ、こっちの大福も美味しいですよー」

『ホント? どれどれ………… 美味(ンま) ッ!』

『おお、甘味と塩味が絶妙に入り混じって美味だな』

串に刺さったみたらし団子を、それはそれは美味しそうに食べる砂の女王。

さるぼぼガベリーナも、ライトが串から外して皿の上に乗せて二つに切り分けた団子を美味しそうに食べている。

そして砂の女王が、時折お冷やをクーーーッ!と飲み干しては、プハーッ!と一息つく。

『やーっぱり美味しいお水が一番よねー♪ てゆか、貴方達がくれるお水を飲むとお肌がスベスベのツヤツヤになる気がするわぁー♪』

『うむ。私のこの分体も、水を飲むと肌がモチモチのむちむちになる気がする』

美味しい水をグイグイ飲んでは、砂の女王が満足そうに自分の頬を撫でている。

ライト達のお茶には流しの水を使ったが、砂の女王とさるぼぼガベリーナには氷の女王の氷槍で冷やしたツェリザークの雪融け水を出している。

水と氷槍、どちらも高品質な魔力を含んでいるので、味はもちろんのこと美肌効果もあるのかもしれない。

とはいえ、身体が砂でできている砂の女王達相手に、果たして美肌効果が発揮されるのかどうかは定かではない。

だが、当人達が『スベスベ!』『モチモチ!』と感じるのであれば、きっとそれは正しいのだろう。

プラシーボ効果で乙女達のお肌に幸あれ!と思わずにはいられない。

美味しいお菓子や飲み物で、人心地ついたライト達。

そしてここで、レオニスが砂の女王に話しかけた。

「ところで砂の女王、一つ頼みというか相談があるんだが」

『ン? なぁに?』

「俺達が炎の女王に頼まれて、全ての属性の女王達の安否を確認して回っていたって話はしたよな?」

『ええ、前に来た時に聞いたわ。そして私達が最後の一組だというのもね』

「そう、俺達は全ての女王達に会うことができた。そしてこれからは、全ての女王達のもとに転移門を作っていこうという話になっててな」

『『……転移門???』』

レオニスが砂の女王達に持ちかけた話、それは転移門の設置。

先日炎の洞窟の神殿守護神、朱雀のフラムへの誕生日プレゼントに伝えたレオニスの計画だ。

その後レオニスは砂の女王達に、転移門とは何か、その転移門を設置することでどんなことができるかを話していった。

『へぇー、人族にはそんな便利な魔術があるのねぇー』

『うむ、話を聞く限りではかなり高度な魔術に思える』

「だろう? これを設置すれば、基本的にそこから動くことが難しい女王や神殿守護神達も、瞬時にして互いを行き来できるようになるんだ」

『そしたら、私でも他の姉妹に会いに行くことができるの?』

「もちろん」

『何ソレ、スゴイ!』

転移門がもたらす多大なメリットに、砂の女王の目が大きく見開かれる。

砂の女王は、ノーヴェ砂漠内ならどこへでも移動できる分、他の属性の女王達に比べたら比較的自由な方だ。

だがそれでも、さすがにノーヴェ砂漠の外に出たことは一度もない。それは当代のみならず、歴代の砂の女王全てにおいて共通することだった。

「ただし、属性毎の相性はきちんと考えなきゃならんがな。例えばの話、砂の女王が海の女王にいきなり会うのは厳しいと思う」

『それは当然よぅ。すぐに会える姉妹と、すぐには会えない姉妹がいることくらいは私にも分かるわぁ』

「ならいい。そこら辺は追々試していくとして……どうだろう、できればこのガベリーナのどこかに転移門を設置したい。許可をもらえるだろうか?」

レオニスが、さるぼぼガベリーナの顔を真っ直ぐに見つめながら問いかける。

砂の女王の神殿と守護神を兼任するジャッジ・ガベルのガベリーナ。その存在は他とは違い、一つ所に固定されていない。

ノーヴェ砂漠の中を縦横無尽どころか砂の下にまで潜り、まさに神出鬼没を体現する。

故に、属性の女王達を繋ぐネットワークを構築するには、砂の女王の場合はガベリーナのどこかに転移門を直接設置する必要があるのだ。

それらの話を静かに聞いていたガベリーナが、徐に口を開いた。

『私の身体のどこかに転移門を設置するのは、吝かではないが……一つ聞きたいことがある』

「ン? 何だ?」

『私の身体に転移門を設置したとして、私自身がその転移門とやらを使えるのか? 使えなければ話にならないのだが』

「…………ぁ」

ガベリーナの問いかけに、レオニスが思わず固まる。

確かにガベリーナの言う通りで、ガベリーナは砂の女王を守護する存在なのだから、彼女達が常に行動をともにするのが当たり前で離れ離れになることなど考えられない。

しかし、ガベリーナの身体に転移門を設置した場合、砂の女王は使うことができてもガベリーナそのものを転移させることは不可能だ。

この盲点に、レオニスが思わず唸る。

「ぁー、確かにそうだよなぁ……ガベリーナも神殿守護神なんだから、他の女王や神殿守護神に会いに行く場合は別の転移門が必要だよなぁ……」

「でも、ガベリーナさんは居場所が固定されてないし、あのだだっ広いノーヴェ砂漠には目印になりそうなものもないもんね……」

「そうなんだよな……」

腕組みをしながら、目を閉じ天を仰ぎつつうんうんと唸るレオニス。

他の神殿守護神達と同じように、ガベリーナも転移門で自由に行き来させようと思ったら、ガベリーナの身体に設置するものとは別の転移門も用意しなければならない。

しかし、その設置場所がまた問題だ。

広大なノーヴェ砂漠の中に、意味なく適当に設置する訳にはいかない。

レオニスが設置した転移門は、冒険者ギルドにきちんと報告して正式に登録しなければならないし、設置した当人が正確な場所を把握できないようでは話にならない。

するとここで、それまで皆の話を静かに聞いていたラウルが口を開いた。

「それなら、ワカチコナの近くに設置すりゃいいんじゃね?」

「ワカチコナか……うん、それなら少なくとも設置した場所が分からなくなった、なんてことにはならなさそうだな」

「えー、でもワカチコナって、ノーヴェ砂漠を行き来する商隊や旅人も多く立ち寄る場所でしょ? そんなところにガベリーナさんが行き来したら、パニックにならない?」

「それもそうか……」

妙案と思われたラウルの策だが、ライトの懸念も尤もなものだ。

ワカチコナはノーヴェ砂漠唯一のオアシスで、ノーヴェ砂漠を行き来する者達には必要不可欠にして必ず立ち寄る場所。

多くの人族が集う場所に、ジャッジ・ガベルが頻繁に出没したとあっては大騒ぎになること必至である。

「……じゃあ、ワカチコナから1km離れた辺りとかはどうだろう?」

「そうだねー、1kmも離れればワカチコナに滞在する人達からはあまり見えなさそうだよね」

「よし、それで決まりだな。とりあえず、ワカチコナの西に1km離れたところに作るか」

「ぁー、そしたらパネル用の石柱も、いつもより長いものにしなくちゃね」

「そうだな……土の地面のように固定し難いし、砂に埋もれて使えなくなったら困るもんな……後で専用の石柱を作らなきゃならんか」

場所は何とか決まったものの、他にもしなければならないことがライトの指摘によって出てくる。

転移門一つ設置するのに、ここまで手間暇がかかるとは想定外だ。

しかし、ここで頑張っておけば後々で必ず役に立つであろう。

レオニスにもそれが分かっているので、ここは手抜きせずにしっかりと構築していくつもりである。

そしてレオニスが、改めてさるぼぼガベリーナに話しかけた。

「話が少し逸れたが……ガベリーナが使う転移門の目処はついた。ついてはさっきの話、ガベリーナの身体のどこかに転移門を設置するという話を進めていいか?」

『もちろん。他の属性の女王や神殿守護神達は、私の身体に直接移動してもらった方が何かと安全だろうからな』

「理解してもらえて助かる」

ガベリーナの快諾を得られたことに、レオニスが礼を言う。

ワカチコナの西1kmのところに転移門を設置するなら、その一つで十分じゃないの?と思われがちだが、それだとその転移門から砂の女王達を探したり呼び寄せなければならない。

そんなことをするよりは、建物であるガベリーナに直接移動した方がいろんな面で安心安全である。

「そしたら、転移門の設置にはどこが一番適しているだろうか? 魔法陣の大きさは、この給湯室の大きさ程度を想定しているが」

『ふむ……それなら、最上階の屋上が無難であろう』

「屋上か。屋上があるなら、確かにそこが一番良さそうだな」

だいたいの話が決まったところで、レオニスがアイスコーヒーをクイッ、と飲み干した。

そんなレオニスに、ライトが声をかけた。

「あ、レオ兄ちゃん、今から屋上に転移門を設置しに行くの?」

「おう、今日ここでやれることは全部やっておかんとな」

「そしたらぼくも行く!」

「おう、いいぞ。ラウルはどうする?」

「俺か? 俺は、この給湯室に食器や調理器具を揃えたりいろいろとしておきたいから、このままここに残るわ」

「そっか。そしたら転移門の設置が終わったら、またここに戻ってくるわ。それまで好きなだけ食器選びとかしててくれ」

「了解ー」

アイスコーヒーを飲み終えて席から立ち上がるレオニスに、ライトも席を立つ。

ラウルはこのまま給湯室に残り、空の食器棚を満たしたり等のカスタマイズをしておきたいらしい。

実に料理バカらしい選択である。

一方で砂の女王とさるぼぼガベリーナも、水やお菓子を急いで口に含み席を立つ。

二人にはライト達を最上階の屋上まで案内するという役割があるが、それだけでなく転移門の設置自体に興味があるようだ。

さるぼぼガベリーナが調理台からピョーン!とジャンプし、レオニスの頭上に飛び乗る。

先程の内部見学ツアー同様、建物内の移動時には絶対にレオニスの頭上に座る!という決意がガベリーナの中にあるらしい。

そして乗り物扱いされた当のレオニスも、抵抗する素振りは一切ない。

こりゃもう何言っても無駄だよな……と諦めたようだ。

「じゃ、屋上に行くか。ガベリーナ、案内よろしくな」

『うむ、任せよ』

「ラウルもまた後でな」

「はいよー」

さるぼぼガベリーナを頭に乗せたレオニスが、ライトや砂の女王とともに給湯室を出ていく。

給湯室を後にした四人は、屋上に続く階段を上っていった。