軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1531話 ジャッジ・ガベルの内部探検・その一

さるぼぼガベリーナの指示する方向に、ライト達は素直に従い移動する。

一階の玄関ホールから右に入っていくと、ダンスホールのような作りの広い空間に出た。

そこは、かつてレオニスがガベリーナの手にとっ捕まって連れられてきた場所だ。

前方には上の階に上がるための階段が何十段と聳え、壁にはアーチ状の柱が何本も建っている、まるで演劇場のような豪奢な作り。

先程の玄関ホールとは打って変わった煌びやかな空間に、初めて見るライトとラウルは嘆息を漏らしつつキョロキョロと見回している。

「ここは……俺が一番最初に来た場所だな。何をする場所なんだ?」

『ここは音楽会や夜会などの、いわゆるパーティーなんかを催す場所だ』

「へー、確かにラグナ宮殿にもこれと似た大広間があって、そこで大公一族の誕生日を祝ったり、貴族相手の夜会を催したりしているらしいが……ガベリーナの中でも、夜会を開くことなんてあんのか?」

『もちろんない。外から招くような相手もおらぬしな』

「そっか……そりゃそうだよな」

レオニスの尤もな疑問に、ガベリーナが事も無げにきっぱりと否を告げる。

確かにガベリーナが言うように、外部から招くような招待客など皆無だろう。

しかし、多数の砲門を剥き出しにした要塞のようなジャッジ・ガベルの中に、こんな貴族的な場所が存在するとは意外だ。

何故レイドボスの中にこんなものが?と思わないこともないが、その真相を知る手段はライト達にはない。

その後もライト達は、一階の各設備を見て回った。

豪奢な大広間以外にも、一階には複数の部屋があった。

それは大広間に関連する部屋で、招待客が使えそうな休憩室や宿泊用などの部屋だった。

おそらくというか、間違いなく一度も使われたことがないであろう部屋。

しかし、ベッドやソファなどの調度品がきちんと 設(しつら) えられていて、寝具類もピシッと整えられている。

全ての部屋が埃一つない、完璧な状態が保たれているのが何とも不思議だ。

「へー、宿泊用の部屋もあるのか。俺達がここで寝泊まりすることも可能か?」

『もちろん可能だ。ただし、ここには厨房と呼べるような設備はないから、食事は各自で自炊してもらわねばならぬがな』

「何ッ!? こんなに大きな城なのに、厨房がないのか!? 嘘だろ!?」

レオニスの問いかけに応じたガベリーナの何気ない答えに、ラウルがガビーン!顔で絶叫する。

ラウルとしては、内心で『こんなに大きな城なんだから、さぞかし立派な厨房があるに違いない』と期待していたらしい。

それが思いっきり否定されたものだから、思わず絶叫してしまった訳だ。

『いや、嘘ではない。そもそも夜会やら何やら集会を催すことなどない、と先程も申したであろう』

「そりゃそうだが……そっか、厨房がないのか、そりゃ残念だ……」

期待が外れてがっくりと項垂れるラウル。

実際のところ、裁判所や法廷に厨房なんて不要だよねー……とライトも内心で思う。

しかしここで、さるぼぼガベリーナがはたとしたように手をポン、と叩いた。

『……ああ、今言われて思い出したが、『給湯室』という場所ならあるはずだ。湯沸かしや茶を淹れる程度の、ちょっとした設備だがな』

「給湯室があるのか!? 是非とも見せてくれ!」

『うむ、良いぞ』

給湯室の存在を思い出したガベリーナに、項垂れていたラウルがガバッ!と顔を上げて速攻で食いつく。

例えそれが湯沸かし程度の給湯室であっても、調理ができる場所であることに変わりはない。

そうとなれば、ラウルにしてみたら絶対に見逃せない!となるのは道理である。

さるぼぼガベリーナの指示により、給湯室に向かうライト達。

案内された給湯室は、ざっと見たところ三十畳くらいの広さがあった。

「……おお、思ったより広いな」

「そうだねー。割と大きめの調理台や流しもあるし、これなら料理をしようと思えばできそうだよねー」

『ここ、私でも初めて入るわぁー』

「ふむ……食器棚は空っぽだが、棚が完備されてるんだからここに食器を入れても問題はねぇよな」

流しや調理台、食器棚などの設備を、その手でそっと触れながら見て回るライト達。

意外なことに、砂の女王もこの給湯室にはこれまで一度も入ったことがないらしい。

ライト達に紛れて、砂の女王まで物珍しそうに給湯室内をあちこち見て回っている。

砂の女王は料理をする必要などないので、給湯室と無縁なのも当然といえば当然か。

そしてこの給湯室、食器類や包丁などの小物類こそ一つもないが、魔石を用いて火や水を出す簡易コンロや流し、調理台などの基本的な設備は揃っている。

これだけあれば、ラウルはもとよりライトやレオニスでも十分に調理することが可能だ。

この喜ばしい状況を見たラウルが、早速さるぼぼガベリーナに話しかける。

「ガベリーナ、今日はここを見せてもらえただけでありがたいが、次回俺達が来た時にここを使わせてもらってもいいか?」

『この給湯室で、何か料理をするのか?』

「そんな難しいことをするつもりはないがな。ただ、このまま殺風景なのも寂しいだろう? だから、食器や包丁、まな板なんかを充実させたいんだ」

『その食器類は、お前達が持ち込むのか?』

「ああ、俺の手持ちの道具を出すし、その代金などを要求することは絶対にない」

『ふむ……』

ラウルの申し出に、さるぼぼガベリーナがしばし考え込むような仕草をしている。

普通に考えれば、この先もライト達以外にここを訪れる者など現れないだろう。

だから食器類だって必要ない、と言ってしまえばそれまでだ。

しかし、ラウル達が無償でこの給湯室を充実させてくれるというのなら、固辞する必要もない。

そう考えたガベリーナは、ラウルに答えを告げた。

『相わかった。お前達が次に来た時に、ここを好きなように使うがよい』

「ありがとう!」

ガベリーナの許しを得られたことに、ラウルが破顔しつつ礼を言う。

ラウルが最も輝くのは、料理の腕を揮える場所。

ここジャッジ・ガベル内でも、自身が本領発揮できる場所が確保できたようで何よりである。

『さて、これで一階はだいたい案内し終えた。次は二階に行くか』

「はーい!」

「おう、よろしくな」

未だにレオニスの頭の上にちょこん、と乗っかっているさるぼぼガベリーナ。

右手をピッ!と上に上げて、二階に行くぞ!と気合いを入れているのが何とも可愛らしい。

そうしてライト達は給湯室を出て、二階に続く階段を上っていった。