軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1513話 特別な誕生日ケーキ

炎の洞窟の最奥の間で、フラムの誕生日パーティーが始まった。

といっても、基本的に普段のお茶会と同じセッティングなのだが。

それでも誕生日パーティーを意識してか、いつもは置かない花瓶に花束、そして二本のポールを使って『お誕生日おめでとう!』という横断幕まで掛けられている。

ちなみにこの横断幕、炎の洞窟内部で行う誕生日パーティーということで燃えないように耐火耐熱魔法が施されている。

そしてテーブルの上には、皆の飲み物や取り皿の他に巨大なクロカンブッシュがデデーン!と中央に置かれている。

その高さ何と約150cm。幅も50cmはあろうかという超大作である。

本当はバースデーケーキを用意したいところなのだが、普通の生クリームを用いたデコレーションケーキでは熱気ですぐに溶けてしまう。

なので、誕生日他お祝い事に用いられるクロカンブッシュにした、という訳だ。

「うわー……これ、クロカンブッシュだよね? ぼく、クロカンブッシュって名前だけは知ってたけど、実物は初めて見た!」

「ほう、この洒落たのはクロカンブッシュって名前なのか。見た目だけでなく名前まですんげーオシャレだな!」

「こんな素敵なシュークリームケーキを作れるなんて、ラウル、ホントすごいね!」

「お褒めに与り光栄だ」

いつものシュークリームが木の実のように積み重なったクロカンブッシュを見て、炎の女王やフラムだけでなくライトやマキシ、さらにはレオニスの目までキラキラに輝いている。

この超大作をライト達に大絶賛されたラウル、エッヘン☆とばかりに誇らしげである。

『これは……シュークリームというのは、本当は木から成る実だったのか?』

「いやいや、それはない。これは『クロカンブッシュ』といって、シュークリームをたくさん積み重ねた特別なケーキだ」

『ボクね、ライト君やレオニス君がご馳走してくれるシュークリーム、すーっごく大好き!』

「今日はフラムの誕生日のお祝いとして、このクロカンブッシュを作ったんだ。だから、今日の主役であるフラムが一番たくさん食べていいんだぞ」

『ホント!? ヤッターーー!』

ラウルの解説と言葉に、フラムが飛び上がらんばかりに大喜びしている。

そんなフラムに、炎の女王も嬉しそうに話しかける。

『フラム様、良うございましたねぇ』

『うん!ねぇ、早速食べていい!?』

「あ、フラム、ちょっとだけ待ってね。誕生日ケーキを食べる前に、やらなければならない儀式があるんだ」

『『儀式???』』

すぐにでもクロカンブッシュを食べたいフラムを、ライトが一旦制止する。

まずレオニスが、クロカンブッシュの天辺に刺してあった一本の細いろうそくに火を灯す。

それからライトが音頭を取り、誕生日の歌を歌い始めた。

「「「「♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」」」」

ライトの歌に合わせて、レオニスにラウル、マキシもノリノリで手拍子しながら合唱している。

これらは全て人族の慣習だが、ラウルもマキシもすっかり馴染んで受け入れている。

そして炎の女王と当のフラムは、何から何まで初めてのことなので、ぽかーん……とした顔でライト達のなすがままに手拍子をしていた。

「ハッピーバースデー、ディア、フラム……♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」」」」

「フラム、お誕生日おめでとう!」

「「「おめでとう!!」」」

誕生日を祝う歌が終わり、盛大な拍手でフラムの生まれた日を寿ぐライト達。

最初は慣れないことにぽけーっ……としていたフラムだったが、その顔はみるみるうちに歓喜に染まっていった。

『皆、ありがとう!』

「フラム、そしたらケーキの天辺にあるろうそくの火を吹き消して」

『うん、分かった!』

ろうそくの火を吹き消すよう促すライトに、フラムが笑顔で応じる。

着席していたフラムがふわり、と宙に浮き、ろうそくの火に向かって息を吹きかけた。

すると、フラムの息とろうそくの火が合わさって、あろうことかボウッ!という音とともに巨大な炎になってしまったではないか。

まるで火炎放射器が出すような猛烈な炎に、その場にいた全員が慌てだした。

「おわッ!」

「フラム、大丈夫!?」

『う、うん、大丈夫!……ボクのことより、ケーキの方が……』

「……ン、この程度の焦げなら問題ない、風味の内だ」

巨大な火炎の出現に、ラウルが慌てて宙に浮きクロカンブッシュの天辺を検める。

細いろうそくは瞬時に蒸発してしまったようで、影も形も残っていなかった。

しかしクロカンブッシュの方は大丈夫で、天辺のシュークリームの二つ三つが少し黒焦げになった程度で済んでいた。

思わぬアクシデントと大失敗に、フラムがしょんぼりと呟く。

『ぅぅぅ……ごめんなさい……』

「大丈夫だよ、フラム。これくらいのこと、全然問題ないし!」

『そうですとも。フラム様、もしよろしければあの天辺のシュークリームを妾にいただけますか?』

『炎の女王ちゃん……あんな焦げたシュークリームなんて、無理して食べなくていいんだよ?』

懸命にフォローするライトや炎の女王に、フラムが涙目になっている。

しかし、炎の女王の申し出は単なる慰めなどではなく、正真正銘本気の願いだった。

『無理してなどと、とんでもない!あれはフラム様の炎の祝福を受けた、特別なシュークリームなのです!』

『そ、そうなの……?』

『そうなのです!そしてその特別は、決して誰にも渡しません!例えライトやレオニスであろうとも、絶対に渡しません!』

握りしめた両手を上下に小さく振りながら、鼻息荒く焦げたシュークリームの所有権を主張する炎の女王。

フラムのことが大好き過ぎる故の必死の主張であり、あの焦げたシュークリームが欲しい!というのは炎の女王の本心からの願いだ。

しかしそれは、傍から見たらなかなかに滑稽な図である。

いつもクールビューティーなイメージの炎の女王の、あまりにも面白おかしい言動に、フラムが堪らず笑いだした。

『……ププッ……炎の女王ちゃん、面白ーい……』

『フラム様!これは冗談や戯れではありません!』

『うん、炎の女王ちゃんはいつでも本気で真面目だもんね』

『お分かりいただけたようで何よりです。……と、いう訳で。ライト、レオニス、ラウル、マキシ。あの極上シュークリームは、妾がいただくぞ? 異論は認めぬ』

いつも以上にギラギラと燃え盛る炎の女王が、ライト達に言い迫る。

何しろ彼女の目の圧がすごく、ライト達に拒否権などない。

全員が無言のまま、コクコクコクコク!と首を縦に振り続けた。

ラウルが天辺の焦げたシュークリームを取り、炎の女王の取り皿に分けた。

念願の祝福済みシュークリーム?を手に入れて、炎の女王はワクテカ顔で大満足である。

その後もラウルが全員分のシュークリームを取り皿に乗せていき、やっとバースデーケーキを食べられる段階になった。

「じゃ、皆でフラムのバースデーケーキを食べるか!いッただッきまーーーす!」

「「「『『いッただッきまーーーす!』』」」」

レオニスの食事の挨拶を皮切りに、全員でクロカンブッシュのシュークリームを食べ始めた。

シュークリームを繋ぎ止めるための飴が適度に溶けて、香ばしさがより一層増したシュークリームはいくらでも食べられる。

そうして約300個はあったクロカンブッシュのシュークリームは、あっという間に一個残らず食べ尽くされていった。