軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1506話 乗り越えなければならない壁

中央の天空島や不思議世界で怒涛の一日を過ごした翌日。

ライトはこの日から三日間、特に目新しい場所などに出かけることなく家で過ごした。

というのも、天空島間での戦争勃発未遂からリンドブルムやサマエルのお宅訪問等々、夏休みの初っ端からいろいろとあり過ぎてかなり疲れたためだ。

また、その三日の間に夏休みの宿題をできるだけ進めておこう!というのもある。

宿題を早く済ませておけば、その後安心して夏休みを満喫できるというもの。

特にライトは、今年の夏休み中に十歳の誕生日を迎える。そう、冒険者登録をするというビッグイベントを目前に控えているのだ。

ディーノ村で冒険者登録をしたら、その後新人冒険者を対象とした『冒険者のイロハ講座』がある。

このイロハ講座、一週間みっちり行われるらしいが、何しろ講師がクレアなのでライトは今からやる気満々なのである。

数ある夏休みの宿題のうち、まずは簡単な計算ドリルや書き取りを済ませ、ポスターもちゃちゃっと仕上げた。

そうやってだんだんと難易度の高い宿題に取り組んでいく訳だが、最難関はやはり『自由研究』だった。

去年の夏休みには、『デッドリーソーンローズ観察日記』という絵日記を提出したことで、ライトの知らないところで結構な騒ぎになった。

そしてそのことは、ラグーン学園理事長オラシオンを通してレオニスにも知られてしまったため、レオニスからは「ライト、いいか? くれぐれも普通の題材を選べよ?」「間違ってもデッドリーソーンローズのような魔物を選ぶんじゃないぞ、分かったか?」と、それはもう繰り返し口を酸っぱくして言い含められている。

更にはレオニスから「とりあえず、その自由研究でライトが何をしたいか考えて、それを実行する前にまず俺に一言相談しろ」とも言われている。

ライトが宿題に取り組む前に、自分が前もって審査しておけば諸々の懸念は回避しやすい、ということだろう。

なので、ライトが考えた『土魔法と水魔法を用いた家庭菜園の実践と成果』『おがくずの再利用方法』を早速レオニスに伝えてみたのだが。速攻で却下されてしまった。

「あのな? ライト君よ……うちでやってる野菜作りは、絶対に家庭菜園の範疇じゃねぇからな?」

「つーか、今から既に土魔法と水魔法がガンガン使えるなんて周囲にバレてみろ、面倒事しか起きんぞ?」

「今度は『おがくずの再利用』か? ほーん、なかなか使えそうなお役立ち情報じゃねぇか。……ン? 何? おがくずの出処はツィちゃん達神樹の枝から出たもの、だとぅ? ンなもん却下だ、却下!!」

このように、都度レオニスに相談しては容赦なく却下されてしまったライト。

一学期最終日に、担任のフレデリクが生徒達に向けて『身近なものを題材にして取り組むように』と言っていたので、それを受けてライトも先生の指導に従っただけだというのに。

「ンーーー、そしたら今回は何をテーマにしよう?」

「要はもうカタポレンの森に関わるものは取り上げちゃダメってことだよな? でも、ラグーン学園以外の俺の日常生活って、ほぼほぼカタポレンの森中心なんだが……どうすりゃいいんだ?」

「……ぬーーーん……」

目を閉じ眉間に深い皺を寄せつつ、うんうん唸りながら懸命に思案するライト。

ライトにとって最も身近なものとは、基本的にカタポレンの森とBCO関連が占める。

さすがにBCO関連を宿題に取り上げることは絶対にしないが、カタポレンの森に関わるものも全て封印するとなると、正直お手上げになってしまう。

「そしたら、ラグナロッツァの屋敷の方でできることを考えればいいのか?」

「ラグナロッツァでできることって、何だろう……何があったっけ……」

「…………よし、ラウルに相談してみるか」

散々悩んだ挙句、ライトが出した答えは『ラウルに相談する』だった。

何故ならラウルは、ラグナロッツァにあるレオニス邸の執事。

ラグナロッツァの屋敷のことなら何でも知っているラウルなら、きっと相談に乗ってくれるだろう!という算段である。

ちなみにライトが決意したこの時、ラウルはカタポレンの家におらずラグナロッツァの屋敷の方にいた。

今のラウルは、朝からお昼くらいまではカタポレンの畑で何かと作業していることが多いのだが、お昼過ぎにはラグナロッツァの屋敷に戻って料理をしている。

カタポレンで収穫したての野菜や林檎を、ラグナロッツァの屋敷で様々な調理法を用いて美味しい食べ物にしていく。

ラウルの人生ならぬ妖精生は、日々充実していっているようで何よりだ。

ライトは早速転移門を使い、カタポレンの家からラグナロッツァの屋敷に移動した。

そしてラウルがいるであろう厨房に行くと、案の定そこには何らかの調理をしているラウルがいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

厨房に立つラウルが、包丁で何かを切っている音が聞こえる。

トントントン、と軽やかな音を立てているまな板の横や、ラウルの後ろにある大きな作業台の上に巨大な林檎が置かれているところを見ると、林檎を使った何かを作っている最中なのだろう。

ライトがラウルに声をかけようとすると、それより先にラウルがクルッ!と振り返ってライトに話しかけてきた。

ラウルはその優れた魔力感知能力で、この屋敷の敷地内全てを把握していて外から誰かが入ってくるとすぐに分かるのだ。

「ライト、どうした。おやつでも食いに来たか?」

「あー、うん、おやつも食べたいけど、ラウルに相談したいことがあるんだー」

「俺に相談したいこと? 何だ?」

ライトの思いがけない言葉に、ラウルが小首を傾げながら不思議そうな顔をしている。

今の時刻は午後二時半、少しばかり早いおやつをしに来たのだと思いきや、それとは全然違う答えが返ってきたことに、ラウルが僅かながらも動揺している。

ラウルがライトに相談事を持ちかけることは珍しくないが、その逆は実はあまりない。

子供にあれこれ相談する大人なんてみっともない、と思うことなかれ。

人族ではない妖精のラウルは、人族の習慣や機微に疎かったり未だに不慣れなことも多いのだから。

アップルパイのフィリング作りのために、カタポレンの畑で収穫した林檎を細かく切っていた手を止めて乾いたタオルで手を拭くラウル。

そんなラウルに、ライトがニコニコ笑顔で答えた。

「それは、おやつを食べながらゆっくり話していい?」

「そうだな、そしたらここをちょっと片付けてからおやつの支度をするから、席に座って待っててくれ」

「はーい」

ライトの提案に、ラウルもすぐに頷きながら快諾する。

普段は何かと頼ってばかりいる小さなご主人様が、今度は自分を頼ってくれるというのは何気に嬉しいものだ。

ライトの相談事を一刻も早く聞くべく、ラウルが猛烈な勢いで厨房の片付けを始めた。

カット中の林檎は一旦ボウルに入れて空間魔法陣に放り込み、まな板や包丁をササッと洗いでこれまた空間魔法陣に仕舞い込む。

それからテーブルにシュークリーム、プリン、チョコクッキーを出して、飲み物も出した。

ライトにはぬるぬるドリンク紫、自分にはアイスコーヒー。

あっという間におやつタイムが整い、二人して「「いッただッきまーーーす!」」の挨拶の後、それぞれおやつを食べ始めた。

「で? 俺に相談したいことってのは何だ?」

「えっとね、ぼくがこのラグナロッツァの家でできることって、何があるかな?」

「?????」

何とも漠然とした相談に、ラウルは全く理解できない。

もちろんそれはライトにも分かるので、夏休みの宿題のことを順を追ってラウルに聞かせていった。

「あー、そういうことか……」

「うん。夏休みとか冬休みとか、ラグーン学園で長い休みがある時にはたくさんの宿題が出るんだけど。ぼくの場合、フレデリク先生が言う『身近なもの』って殆どがカタポレンの森のものなんだよね……」

「だよなぁ」

もくもくとシュークリームを頬張りながら、しょんもりとするライト。

ラウルはカタポレンの森出身だからこそ分かるが、あの森の中と外では何から何まで違う。

そして、人族の子供であるライトが他の子供達同様に平穏な日々を過ごそうと思ったら、カタポレンの森でのことは極力伏せておいた方が絶対にいいに決まっている。

「だからね、ぼく、このラグナロッツァの家でできることを何かしようと思ったんだけどね? 何をすればいいか、なかなか思いつかなかったんだよね……」

「そうか、それで俺に相談しにきたって訳か」

「そゆこと……ラウル、何か良い案はないかな?」

ライトの意図を理解したラウルを、ライトが縋るような眼差しで見つめている。

そんな小さなご主人様の期待に添うべく、ラウルも懸命に思案していた。

「ンーーー……俺がライトにしてやれることと言えば、料理を教えるか家庭菜園のノウハウを伝授してやるくらいしかないんだが……これって、その夏休みの宿題の題材になるのか?」

「ンーーー……料理は個人的に教えてもらいたいけど、自由研究の題材にはちょっと厳しいかなぁ……」

「じゃあ、家庭菜園の方はどうだ? こっちのガラス温室の野菜なら、カタポレンの畑のようにバカデカくなることもないぞ」

「そうだねー……うん、それなら去年の宿題のように驚かれることもない、かな?」

ラウルの提案に、ライトも思案しつつ答える。

確かに普通サイズの野菜を作る家庭菜園なら、カタポレンの畑の野菜と比べて平凡が感じはする。

ただし、ラウルが植物魔法を駆使したりポーションやエーテルを惜しみなく与えているので、そこだけが異質と言えば異質なのだが。

「……よし、じゃあラウル、ガラス温室の一つをぼくに貸してくれる?」

「いいとも。ちょうど今二つの温室が、土を休ませるために何も植えていないんだ。ライトにはその二つを貸してやろう」

「ホント!? ありがとう、ラウル!」

ラグナロッツァの屋敷の敷地内にある、四つのガラス温室。

そのうち二つが空いていて、それをライトのために貸してくれるというのだ。

これ程ありがたい提案はない!とばかりに、ライトが大喜びしつつ礼を言う。

「そしたら、おやつを食い終わったら温室の方を見に行くか」

「うん!ラウル先生、よろしくね!」

「おう、任せとけ」

ラウルのことを先生と呼び、輝かんばかりの笑顔でラウルの提案に乗るライト。

今日ほどラウルが執事をしてくれて良かった!と思ったことはないライトだった。