軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1505話 不思議世界からの帰還

ファフニールとフレア・ジャバウォックの新居を後にしたライト達。

新居の洞窟を出て入口まで戻り、チュシャ猫の案内で不思議の森の中を進んでいく。

しかし、チュシャ猫は最初に不思議の森に降り立った場所には行かず、全く違う方向に進んでいくではないか。

このことにいち早く気づいたレオニスが、チュシャ猫に声をかけた。

「チュシャ猫、来た時と方向が違うよな?」

『そうにゃよー。入口と出口は 必(かにゃら) ずしも同じではにゃいし、そもそも入口と出口が同じ場所に出ることはほぼ 無(にゃ) いのにゃ』

「何? この森への出入り口は、その都度場所が変わるのか?」

『そそそ。故にボクのような優秀な案内役がついていにゃい迷子は、永遠にこの森の中を彷徨う羽目になるにゃ』

「「「『………………』」」」

レオニスの質問に、事も無げに答えるチュシャ猫。

だがその答えは何気に恐ろしいものだ。

出入り口が毎回毎度変わるなら、前に来た時の場所を覚えておいても全く意味を成さない。

右も左も分からない鬱蒼とした広大な森の中で、元の世界に戻るための出口を求めて宛もなく彷徨うなど『ここで野垂れ死ね!』と言われているも同然である。

しかし、チュシャ猫自身にそのつもりは全くないので、カラカラと笑いながら話を続ける。

『でもボクは優しいから、迷子を見つけたらなるべく地上に返してあげてるにゃ!』

「そ、そうなのか……」

『そうにゃよ? これまでだって、何度も迷子の人族を返してあげてるにゃからね? 人族の間で、そういう話は伝わってにゃいにゃか?』

「…………次に冒険者ギルドに行った時に、改めて不思議の森関連の資料を読んでくるわ」

糸目笑顔でニヨニヨと笑うチュシャ猫の話に、レオニスもしばし考え込みつつ答える。

余談だが、後日レオニスが冒険者ギルドのラグナロッツァ総本部に出かけた時に、ここでの宣言通り不思議の森のことをクレナに調べてもらった。

その結果、不思議の森に関わる全ての事件において『不気味な笑顔の猫頭に助けられた』という記述があったことが分かった。

つまり、チュシャ猫が誇らしげに言っていた話は全て本当のことだったのだ。

これを知った時のレオニスは、チュシャ猫の有能さに感心することしきりだった。

そしてレオニスとチュシャ猫の話を聞いていたライトがチュシャ猫に問うた。

「チュシャさん以外にも、案内役っているんですか?」

『一応いるにゃよー。チャシャ兄ちゃんと妹のチョシャも、ボクと同じ案内役をしてるにゃ』

「そうなんですね!いつかチュシャさんのお兄さんや妹さんにも会ってみたいな!」

『縁があればそのうちねー』

チュシャ猫に兄と妹がいると聞き、ライトの目が輝く。

この先ライト達がチャシャ猫やチョシャ猫に会えるかどうかは分からないが、ライト達が不思議の森を再訪することは確定している。

ラーデの初孫が孵化したら皆で会いに来る、とファフニール夫婦に約束したからだ。

その時に会えたらいいなぁ、と思うライト。

そうしているうちに、リンドブルムの横を浮遊していたチュシャ猫がピタリ、と止まった。

『あ、リンリンちゃん、止まってー。ここがリンリンちゃんのおうちに繋がる出口にゃ』

『はーい』

チュシャ猫の声に従い、リンドブルムがすぐにその場に立ち止まる。

そしてチュシャ猫と向かい合う形になり、リンドブルムがチュシャ猫に挨拶をした。

『チュシャ、今日もありがとう。おかげで無事パパンとファフ兄を会わせることができたし、フレジャちゃんにも会えてとっても楽しかったわ』

『どういたしまして!ボクも久しぶりにリンリン嬢に会えて楽しかったにゃ!』

『ファフ兄のところに卵が生まれたから、そのうちまたここに来る予定よ。その時もよろしくね』

『にゃんと!ファフ君達に子供ができたのん!? それは目出度いにゃねぇ!』

ファフニールのところに子が生まれたと聞き、チュシャ猫が驚きつつも破顔する。

『そっかー、ファフ君が旅行先から早くに帰ってきたのは子供ができたからにゃんだねー』

『ええ。だからチュシャも、ファフ兄達のことをこれからも見守ってやってね』

『もちろんにゃ!不思議の森に新しく生まれる仲間だもの、大歓迎にゃ!』

新たな仲間の誕生に、チュシャ猫の糸目がますます細まり口角も上がりまくる。

傍から見たら相当不気味な笑顔なのだが、それでもチュシャ猫が心から喜んでいるのがライト達にも分かる。

ちなみにチュシャ猫はリンドブルムの案内役だが、ファフニールの案内役はチュシャ猫の兄チャシャ猫なのだという。

ファフニール達が不思議の森の外に出る時には、それこそ専属ツアーガイドのようにチャシャ猫が付き添っているのだとか。

その理由は今のところ不明だが、ジャバウォック一族とチュシャ猫達は強い絆で結ばれているらしい。

とある場所で立ち止まった後、リンドブルムがチュシャ猫に頬ずりをし、チュシャ猫もまたリンドブルムに頬ずりをする。

これが彼女と彼の別れの挨拶のようだ。

そしてリンドブルムとチュシャ猫が身体を離し、チュシャ猫がふよふよと浮遊しながらライト達と離れた。

『じゃ、またね』

『うん、またね!』

リンドブルムの別れの言葉に、チュシャ猫も白くて長い髭をピコピコと動かしながら応える。

チュシャ猫には胴体及び手足がないので、手の代わりに髭を動かして手を振っているつもりなのだ。

そして次の瞬間、地面がフッ……と消えてリンドブルムの身体が下に落下していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

行きと同じように、地面の下をリンドブルムが急降下していく。

行きで落下したのだから、本来なら帰りは上に昇っていかなければならないところなのだが。何故か再び下に落下している。

しかし、これこそが不思議世界の真髄というものなのだろう。

常識など何一つ通用しない、これという形に当て嵌めることなどできない。それがサイサクス世界における不思議世界なのだ。

リンドブルムが両翼を使い、ふわりふわりとゆっくり降下していく。

ライト達を背に乗せたリンドブルムが落下している穴は、これまた行きと同じく岩石に囲まれた洞窟状の縦穴。

上下の方向が全く違うことを除けば、不思議の森に通じる穴は同じもののようだ。

そうしてしばらくすると、リンドブルムが地面に着陸した。

そこは青黒い石の壁に囲まれた、修験者の迷宮内だった。

『はーい、私のおうちに到着したわよー。皆お疲れさまー』

「リンリンさん、お疲れさまです!」

「俺達をずっと乗せてくれてありがとうな」

『どういたしましてー。パパンを乗っけるついでだし、何の問題もないわよー』

不思議の森から中央の天空島内にある修験者の迷宮に無事帰還したライト達。

リンドブルムの背中から降りて、改めて労い礼を言う。

そしてレオニスがリンドブルムに問うた。

「なぁ、リンドブルムよ。ここは中央の天空島なんだよな?」

『そうよー。あの扉の向こうに行けば、外に出られるわよー』

「さて、そしたら俺達はどうやってカタポレンの森に帰ろうか……全員飛べるは飛べるが、この天空島が今地上のどの辺りを飛んでいるか全く分からんし」

レオニスが右手を顎に当てながら、しばし考え込む。

不思議世界から帰還したはいいが、そこからカタポレンの森にどうやって帰ればいいのかが分からない。

中央の天空島には北の天空島のように転移門はないし、迷宮の外側は急峻な山で平地など全くないので新たに転移門を設置するのも難しい。

(転移門は移動後の安全性のため、なるべく平らな地面に設置することが推奨されている。)

一か八かでライト達だけで地上に降りてもいいが、降りた先が何もない荒野やノーヴェ砂漠のド真ん中だったりしたら目も当てられない。

そんなことになるくらいなら、リンドブルムにカタポレンの家に送ってもらう方が余程安全というものである。

「リンドブルム、すまんが俺達をカタポレンの家まで送ってもらえるか?」

『え、それは無理。だって私、アナタ達のあの家の場所をよく知らないし』

「ああ、それもそうか……」

レオニスがリンドブルムに帰りを送ってもらおうと打診するも、素気無く却下されてしまった。

だが断られるのも尤もで、そもそもリンドブルムはカタポレンの森にあるレオニスの家の位置など全く知らない。

コテージに二泊したのは北の天空島から転移門を利用して移動しただけだし、今日だってカタポレンの家から中央の天空島に移動できたのは、リンドブルムの帰巣本能があったからこそ。

つまりその逆、リンドブルムが中央の天空島からカタポレンの家に行くのは到底無理だというのも当然のことだった。

そうなると、もはやレオニス達に取れる手段は一つしかない。

『遭難覚悟で地上に降りる』である。

とりあえず地上に降りて、どこでもいいからとにかく人が住む街を見つける。

人が住んでいる街には大抵冒険者ギルドの支部があり、険者ギルドさえ見つけられれば転移門を使ってラグナロッツァの屋敷に戻れる。

この結論に至ったレオニスが、ふぅ……と小さくため息をつき、諦めたように呟いた。

「しゃあない、一旦地上に降りて最寄りの街を探すとするか」

『ああ、その必要はないわよ。サミーが送っていけばいいだけのことだから』

「ン? サマエルに送ってもらえってか?」

『そうそう。サミーはね、一度訪れた場所や配下の天空竜がいる場所なら、いつでも自由に行き来できるのよ』

「何ッ!? そんなすげー能力を持ってんのか!?」

『ええ。ただしそれは こっちの世界(・・・・・・) だけで、ファフ兄達がいる不思議の森には通用しないんだけどね』

一度はカタポレンの家への直帰を諦めたレオニスだったが、リンドブルムの提案に目を丸くして驚いている。

しかし、それと同時にレオニスはその話に心当たりがあり得心していた。

それは、北の天空島に向かって天空竜の大群が押し寄せてきた時のこと。

天空竜達と対峙していたレオニス達の前に、突如上空に出現した魔法陣からサマエルが舞い降りてきた。

あれはサマエル自身が展開した転移門と同質の魔法陣で、あの場に配下の天空竜がいたからサマエルが割り入るように現れることができたのだ、と考えれば腑に落ちる。

もっとも、地面ではなく空中に瞬間移動の魔法陣を展開できるなど、レオニスであっても未だに信じ難い奇跡の御業なのだが。

そして、一度訪れた場所ならいつでも自由に行き来できるというのも驚きだ。

転移門を必要とせず、自らの意思一つだけで瞬間移動能力を発揮できるとは、驚愕以外の何物でもない。

リンドブルムが残念そうに呟いた『不思議世界には通用しない』というマイナス点を差し引いても羨ましい能力だ。

レオニスだけでなく、ライトやラウルもその驚愕の能力に度肝を抜かれているが、リンドブルムは全く気にも留めずにサマエルに話しかけた。

『そんな訳で。サミー、パパンを療養先まで送っていきなさい。もちろんパパン以外のレオニスとラウル、そしてライトも全員送っていくのよ、いいわね?』

『うぬぅ、私もこのまま南の天空島に帰還したかったのですが……リン姉様のたっての願い、そして父上のためとあらば致し方ありますまい』

姉からの命令に、サマエルが否やは言えずに渋々応じる。

『ラーデだけでなくライト達全員を送っていけ』と先んじて釘を刺すあたり、リンドブルムの有能さがよく分かる。

先にそう言っておかなければ、サマエルはシレッとした顔でラーデだけを連れていきかねないからだ。

不承不承ではあるが、父と姉のために任務遂行する気になったサマエル。

そのためにサマエルは、ライト達に声をかけた。

『レオニス、ラウル、ライト。こっちに来い』

「はーい」

サマエルの指示に、ライト達が素直に従いサマエルのもとに寄っていく。

一方でサマエルは、リンドブルムから離れるように部屋の中央に歩いていく。

瞬間移動の魔法陣を展開するにあたり、ここに残るリンドブルムまで巻き込まないように離れた場所に移動しているのだ。

ある程度離れたところでサマエルが足を止め、リンドブルムに挨拶をした。

『では、私は父上をお送りしてきます』

『うん、よろしくねー』

『リン姉様、またお会いできる日を楽しみにしております』

『私も楽しみにしてるわ。てゆか、サミーももうこれ以上変な騒ぎを起こさないでね?』

『鋭意努力いたします。……では、父上、まいりましょうか』

『うむ。リンドブルムよ、また会おう』

中央の天空島に残るリンドブルムに向けて、ラーデとサマエルが再会を誓う。

そんな彼らの横で、ライトも「リンリンさん、さようなら!またお会いしましょうねー!」と元気に挨拶をし、レオニスとラウルも右手を小さく振りながら挨拶をしている。

そしてライト達の足元から白い光が湧き出し、サマエルが無詠唱で展開した魔法陣の中に吸い込まれるようにしてライト達は消えていった。