軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1502話 卵の孵化方法

洞窟の中に生い茂る木々、その間に出来た道を進んでいくライト達。

ライト達にとっては幅広の道だが、ファフニールやリンドブルムにはジャストフィットな幅。きっとファフニールやフレア・ジャバウォックが日常的に使う道なのだろう。

そこを進んでいくと、木々のない開けた場所に出た。

開けた場所の中央には、丸太で作った鳥の巣のようなものがある。

その中には、巨大な卵があった。

『おお……あれが、我の初孫か?』

『はい。私とフレアの初めての子になる卵です』

卵を見たラーデが、感動の面持ちでじっと見つめている。

その卵は高さ約3メートル、幅2メートルくらいあり、形状は一般的な卵と同じ形をしている。

ファフニール達の巨躯と比べるとかなり小さな卵に見えるが、ここから雛が生まれると思えば妥当な大きさではあるか。

色は全体的に鮮やかな紅色で、卵の下部に蔦の模様が浮き出ている。

蔦模様の色は黒に近い赤と青紫の二種類があって、それはあたかもラーデとファフニールを象徴しているかのようだ。

ライトがラーデを抱っこしながら「うわぁー……でっかい卵だねー……」と嘆息している横で、レオニスとラウルは別のことを心配していた。

「なぁ、ご主人様よ……あの卵、まさか餅や肉を直接食わせなきゃ孵化しない、とかじゃないよな?」

「さすがにそりゃねぇだろう……一応出処がはっきりしてるっつーか、卵の両親がここにちゃんと揃っている訳だし」

「そりゃそうか……」

ゴニョゴニョと小声で話をするレオニスとラウル。

この二人が心配していたのは、卵の孵化方法。

レオニスもラウルも、これまで何度もBCO由来の特殊な卵の孵化に立ち会ってきた。

そのせいで、もしかして今目の前にある紅い卵も、殻に直接食べ物を触れさせて大量の栄養を与えてやらないと孵化しないんじゃないか?とラウルは一瞬疑ったのだ。

しかしレオニスの言う通りで、これまで彼らが見てきた出処不明の謎の卵———使い魔の卵や神殿守護神の卵と違い、紅い卵にはファフニールとフレア・ジャバウォックという立派な両親がいる。

故に、決して謎の卵のように中から何が生まれるか分からない、などということにはなり得ない。

ファフニールもしくはフレア・ジャバウォックに似た子が生まれるはずであり、孵化方法もちゃんとした手段があるはずなのである。

紅い卵が安置されている巣に、フレア・ジャバウォックが徐に近づいていき、卵にそっと息を吹きかける。

フレア・ジャバウォックが吐く黄緑色の息、それは彼女の魔力そのもの。

洞窟の外で補充してきた魔力を体内で凝縮し、息に魔力を込めて吐き出しているのだ。

卵に濃密な魔力が込められた息が吹きかけられる度に、卵がふるふる……と震えているように見える。

そうして計五回、息を吹きかけ終えたところでフレア・ジャバウォックが卵から一旦離れた。

そこにすぐさまファフニールが寄っていき、フレア・ジャバウォックを労った。

『フレア、お疲れさま』

『……ファフ、次はお願いね』

『ああ、任せてくれ。君はここで少し休むといい』

『そうさせていただくわ』

草臥れたフレア・ジャバウォックがその場に伏せ寝し、ファフニールがそっと頬ずりをする。

互いを思い遣り寄り添う夫婦の姿に、ライト達は感動することしきりだ。

そしてリンドブルムが、大親友の疲れきった様子に心配しながら声をかける。

『フレジャちゃん、すっごく疲れているようだけど大丈夫?』

『大丈夫よー……今は卵を育てるために、ファフと交代で卵に魔力を分け与えているの。この子、何気に大食いでね? 無事孵化させるためには、たくさんの魔力を私達が与えてあげないといけないの……』

『そうなのね。子育てって、とっても大変なことなのね』

『ええ、とっても大変なことなのよ。だけど、それ以上に卵がすくすくと育ってくれる喜びは何物にも替え難いの』

大親友の気遣いに、フレア・ジャバウォックの疲れた顔が微かに和らぎ微笑む。

リンドブルムにはまだ番がいないので、ファフニールやフレア・ジャバウォックが行っている子育ての苦労はまだよく理解できていない。

しかし、自身の魔力を凝縮して分け与える、これがどれだけ大変なことなのかくらいはリンドブルムにも容易に想像がついた。

そんなリンドブルムの労いに、フレア・ジャバウォックが嬉しそうに紅い卵を眺めている。

青い目を細めて我が子を見つめるその顔は、まさに母性に溢れていた。

『ほら、リンリンちゃん、この卵をよく見て。さっきよりほんの少しだけ、この模様が広がっているでしょう?』

『???……そう言われてみると、確かに蔦の模様が僅かに増えている、ような、気が、する……わね?』

『卵全体にこの模様がびっしりと埋まるくらいに行き渡れば、中から私達の子が出てくるわ』

『そうなの!? それは楽しみね!』

フレア・ジャバウォックの話に、リンドブルムが嬉々とした顔で卵を改めて見つめている。

卵の下部に浮き出ている蔦模様は、先程までは下部の一割くらいの範囲だった。

それが、フレア・ジャバウォックが魔力の息を五回吹きかけたことで、蔦の模様の先端が上に向かって若干伸びていた。

その伸び幅は約2cm程度の、本当に極々僅かなもの。

これを高さ3メートルある卵全体に、しかもびっしりと埋め尽くすに至るまでは相当の日数がかかりそうだ。

しかし、いつの世もどんな出来事も、始まりと道のりは小さな一歩一歩の積み重ね。

そう、『千里の道も一歩から』『ローマは一日にして成らず』なのである。

『さて、では次は私が魔力集めに行ってこよう。リン、サミー、フレアと父上のことを頼んだぞ』

『任せてー』

『お任せください!』

ファフニールが巨大な身体をのっそりと起こし、弟妹に留守を託した。

先程フレア・ジャバウォックが言っていたように、今度はファフニールが卵に与えるための魔力を集めに外に出かける番だ。

『父上、私はしばしここを離れますが、どうかお許しください。そして、ここでお待ちいただく間に我が妻と親睦を深めていてくださると嬉しいのですが』

『うむ。我も皆とともにフレアを守る故、其方も我が子のために励めよ』

『はい!』

最後にラーデにも出かける挨拶をするファフニール。

敬愛する父の心からの励ましを受けて、ファフニールも満足そうな顔で洞窟の外に向かっていった。