軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1487話 騒がしい姉弟

その後ライト達は北の天空島に皆で移動し、畑の島ではライトとレオニス、ラウルがテーブル等を出して話し合いの場を作り始めた。

その間にパラスが他の天使達を一時撤収させたり、二人の女王がそれぞれの相棒をユグドラエルのもとに送り休ませたりしている。

レオニスが空間魔法陣から六人掛けの大きな長方形テーブルを二つ出し、テーブル同士をくっつけてから椅子も次々と出しては置いていく。

ラウルはその横にワゴンを出し、お茶を淹れながら茶菓子の準備もしている。

そしてライトの役目は、ラウルが用意した茶菓子をテーブルに運ぶことだ。

ライト達があくせくと準備を整えている間、少し離れたところでラーデがリンドブルムやサマエルと話をしている。

『リンドブルムよ、ここで皆との会話に参加するなら今のうちに身体の大きさを合わせておいてくれ』

『はーい』

『サマエル、これは其方にとっても良い機会だ。竜族以外の異種族のことも理解できるよう努めよ』

『分かりました!』

ラーデの指示を受けて、リンドブルムがシュルシュル……と姿を変えていく。

そうしてものすごく大きかった赤紫色のドラゴンが、あっという間に人型になった。

背丈はレオニスより少し低いくらいで、サマエルとよく似た顔立ちはまさに『容姿端麗』という言葉が具現化したかのような美形だ。

長袖のチャイナ服のようなドレスを身にまとっていて、ボン・キュ・ボン!な流線型のグラマラスな身体も実に美しい。

ドレスの色はもちろん赤紫。シルクのような光沢のある生地に見えるそれは、実はリンドブルムの鱗が変化したもの。よくよく見ると、鱗状の地模様でビッシリと埋まっているのが分かる。

ドレスのスリットからちらりと見える足や、首から上の肌はほんのりとした薄桃色で、腰まである長いストレートヘアは青紫色だ。

『リン姉様のそのお姿、久しぶりに見ますねぇ……相変わらずお美しい』

『まぁねー、普段は身体を小さくしたり変身する必要なんて全くないからねー』

コピペレベルでそっくりな姉弟がのほほんと会話しているうちに、着々とテーブルが整えられていく。

そして二つのテーブルに次々と関係者が集まり、それぞれ着席していった。

今回ここにいるのは、ライト、レオニス、ラウル、ラーデ、光の女王、雷の女王、サマエル、リンドブルムの八者。

ちなみにパラスは光の女王と雷の女王の間の後ろで、直立不動の姿勢で立っている。もちろんこれは北の天空島の警備隊隊長としての職務であり、二人の女王の護衛を務めているのだ。

パラス以外が席に着き、最後にラウルが一人一人に淹れたてのお茶を出していく。

とてもじゃないが、今回はいつものような和気藹々としたお茶会ではない。

つい先程まで一触即発だった北の天空島と南の天空島、両陣営が一つのテーブルに着いているのだ。誰も口にはしないが、それでもどことなくひりついた空気が漂うのは否めない。

そんな中、一番最初に言葉を発したのはラーデだった。

『皆、今日は我のせいで迷惑をかけてしまい、誠にすまなかった。我が子の不始末は、全て親たる我に責がある。如何様にも罰を受ける所存故、どうかこの子―――サマエルを許してやってほしい』

二人の女王に向けて深々と頭を下げるラーデに、雷の女王が慌てて声をかけた。

『そんな!ラーデ様は何も悪くありませんわ!此度のことも、話を聞けばラーデ様を慕う子供が親の帰りを待ち侘びてたというだけのことでしたもの!』

『ええ、そうですとも。ラーデ様の御子が少しばかり過激なのは否定しませんが……だからといってラーデ様を罰するなどあり得ません』

『女王達……では、此度のサマエルの無礼を許してくれるだろうか?』

『はい。当人からの謝罪も先程いただきましたし』

『ありがとう……其方達の心遣いに、心から感謝する』

ラーデを宥める雷の女王に、光の女王もラーデ達を許すと公言した。

その表情は未だ若干硬いが、それでも精霊の長である彼女達の言葉に嘘偽りはない。

そしてここで、ラーデに続きリンドブルムもまた謝罪した。

『女王達の寛大なる許しに、私からも感謝いたします。愚弟にはこの後私からも、よくよく言い聞かせます』

『こちらこそ、リンリン様には感謝せねばなりません』

『そうですわ。貴女様が止めに来てくださらなければ、今頃私達は戦いの最中にいたことでしょう』

『そう言っていただけて、私もとても嬉しいです……本当にありがとうございます』

二人の女王の言葉に、リンドブルムがラーデ同様頭を深く下げた。

そして頭を上げた後、クルッ!とラーデの方に向いて問うた。

『ところでパパン。先程のお話、いろんな事情というのをお聞かせ願えますか?』

『うむ……まずはこの北の天空島で過日起きた、邪竜達との戦から話さねばなるまい……』

娘の問いかけに、ラーデがこれまでのことを話していった。

ラーデが長らく捕らわれていた邪竜の島で何者かの指示により北の天空島を襲撃したこと、その襲撃はあわよくば北の天空島を邪竜達で支配することを目指しつつ、本来の目的は邪皇竜メシェ・イラーザの完全覚醒と皇竜メシェ・イラーザの抹殺を兼ねたものだったこと、その企みは北の天空島の主である二人の女王と神鶏、レオニス、ディラン達人族の加勢、そして闇の女王とクロエの尽力によって潰えたこと等々。

それらの話を全く知らないリンドブルムとサマエルは、神妙な面持ちで静かに聞き入っていた。

そしてラーデの話を一通り聞き終え、リンドブルムがぽそり、と呟く。

『そうだったのですか……私達がこれまでずっと手を拱いていたパパンの救出を、ここにいる方々のご尽力により成し得たのですね』

『ああ。正直なところ、我ももう駄目だと諦めかけていたのだがな……光の女王や雷の女王、そしてレオニス達や闇の女王と闇の娘のおかげで、我はこうして今ここにいられるようになったのだ』

『パパンの恩人は、私にとっても恩人。もしこの先、北の天空島を脅かす者が現れたら私が蹴散らしてみせましょう』

リンドブルムの頼もしい言葉に、二人の女王が破顔しつつ『ありがとう!』と礼を言う。

そしてリンドブルムは間を置かずに、右隣にいるサマエルにも話しかけた。

『サミー、これからは貴方も北の天空島の善き隣竜でありなさい。パパンの恩人は貴方にとっても恩人なのだから』

『分かっております。このサマエル、受けた恩義は絶対に忘れませぬ』

『良い子ね。いつもそうあってほしいものだわ』

『はい!頑張ります!』

大好きな姉に『良い子ね』と褒められて、ニッコニコの糸目笑顔で元気よく返事をするサマエル。

空から現れた時の禍々しくも剣呑なオーラはどこへやら。リンドブルムの登場で、本来のサマエルの姿である姉大好きっ子にすっかり戻ってしまったようだ。

そして超ご機嫌なサマエルが、今度はラーデに話しかけた。

『して、父上。地上での療養は如何程かかるのですか? 私としては、一日も早く天空にお戻りいただきたいのですが……』

『それは我自身にも分からぬ。この通り、今の我は極限まで衰退してしまったからの……四季を一周二周するくらいでは足りぬかもしれん』

『そうですか……』

一年二年では天に戻れないかも、というラーデの言葉に、それまで上機嫌だったサマエルが途端にしょぼくれている。

サマエルは父であるラーデのことも大好きなので、すぐにはいっしょに暮らせないことに落胆を隠せないようだ。

しょんぼりとするサマエルに、ラーデが言葉をかけようとした瞬間。

俯き加減だったサマエルがパッ!と顔を上げた。

『ならば父上。私の方から父上のところに、お見舞いがてら遊びに行ってもよろしいですか?』

「ブフッ!?」

サマエルのお見舞い宣言に、それまで静観していたレオニスが思わず噴き出した。

ラーデのところに遊びに行くということは、つまりはカタポレンのレオニスの家を訪れるということだ。

これにはさすがのレオニスも驚くというものだ。

しかし、サマエルは何故レオニスが噴き出したのかが分からない。

サマエルが怪訝そうな顔でレオニスに問い質す。

『何だ、何がおかしいのだ?』

「ぃ、ぃゃ、ラーデのところに遊びに行くってのがな……」

『離れて暮らす親を子が訪ねて何が悪いというのだ?』

「悪いとは誰も言ってない。ただ、ラーデは今俺の家に住んでるんでな」

『何だとぅ!? 父上、それは真にございますか!?』

『うむ、本当のことだ』

それまで不服そうだったサマエルの顔が、レオニスの答えを聞いて驚愕に染まる。

そういえば、先程こいつは父上の面倒を見る後見人だ、とか吐かしていたな……とサマエルが頭の中でレオニスとのやり取りを思い返している。

皇竜の後見人とか、一体何の冗談だ? 大法螺を吹くのも大概にしとけ!とその時は全く取り合っていなかったサマエル。

よもやそれが事実で、レオニスが大家でラーデが居候などという関係があるとは夢にも思わなかった。

『ぬぅ……ならば、父上の療養環境が適切なものであるかどうかを、この私が直に見定めてやる!』

「あー、別にそれでも構わんぞ? ラーデとは積もる話もあるだろうしな」

『言ったな!? もし少しでも不備を見つけたら、その場で焼き払 痛(イテ) ッ!』

レオニスにつっかかるサマエルに、横にいたリンドブルムが彼の左脇腹に強烈な拳をめり込ませた。

『サミー、良い子にしてなさいって、さっきお姉ちゃんが言ったわよね? もう忘れたの?』

『うぐッ……け、決してリン姉様の言いつけを忘れたわけではありませぬが……この人族に関しては別問題です!父上の身の回りのお世話を、この人族がきちんとしているかどうかを一度見てみないと!』

『まぁね、確かにそれはそうなんだけど……でも、サミー一人で行かせる訳にはいかないわね。アンタ一人だと、また何をしでかすか分からないもの』

『リン姉様、ヒドい!』

リンドブルムの容赦ない横槍と鉄拳制裁に、サマエルが涙目で抗議している。

そしてレオニス宅訪問がサマエルだけでなくリンドブルムまで増えたことに、レオニスが再び「ブフッ!」と噴き出している。

サマエルの押しかけ訪問はともかく、そこにリンドブルムまで参戦してくるとは予想外にも程がある。

しかし、却ってその方がいいかも、と思うライト達。

この、何かと暴走しがちな末子サマエルを即時抑えられるのは、現状では彼の姉であるリンドブルムのみ。

リンドブルムがサマエルと同行してくれるならば、きっとサマエルの暴走も早期に抑えてくれるに違いない。

キャンキャンと話すリンドブルムとサマエルを尻目に、レオニスがラーデに向かって小声で話しかける。

「ラーデ……お前の子は、揃いも揃って元気過ぎるくらい元気だな?」

『うむ……面目ない……』

「ま、いいけどよ。家族の仲が良いってのは、何より素晴らしいことだからな」

小さく縮こまりながら詫びるラーデに、レオニスが小さく笑う。

そして少し冷めたお茶をクイッ、と飲み、ティーカップの横に個別で置かれた茶菓子=アップルパイを頬張り始めた。

「ほれ、ラーデも食え。こっち来てからいろんなことがあり過ぎて、飯も食ってねぇしな」

『そうだな、せっかく出してくれた茶菓子なのだからいただくとするか』

「光の女王に雷の女王、パラス、あんた達も食え。とりあえず北の天空島の平和が戻ってきたんだ、そのお祝い代わりだ」

『そうね、ラウルの美味しいお菓子ですもの、是非ともいただかなくっちゃね!』

ラーデだけでなく、二人の女王やパラスにもお茶と茶菓子を勧めるレオニス。

ここまでくれば、北の天空島の危機は完全に去ったと捉えて間違いないだろう。

騒がしい姉弟を他所に、周囲は美味しい茶菓子をおやつ代わりに食べて疲れを癒やすのだった。