軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1485話 怒れる光の女王

時は少し遡り、ライト達が中央の天空島に向かって飛び立った以降のこと。

レオニスとサマエルがバチバチの火花を散らしながら睨み合っていた。

「テメー、子が親を殺すだとぅ? ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」

『蟻の分際で、竜の始祖たる我ら一族の問題に口出しするとは……余程命が惜しくないと見える』

ラーデを殺してしまえ!と宣うサマエルに、レオニスは怒りを隠さない。

レオニスにとって家族、特に親という存在は特別な意味を持つ。

幼い頃に両親と死に別れたレオニスは、どんなに望んでも両親からの愛情を得られなかった。

他の人達が普通に享受していた親子の絆。ディーノ村で手を繋ぎながら仲睦まじく歩く親子を見る度に、レオニスは羨ましく思いながら眺めていたものだ。

それを思うと、目の前にいるサマエルの言動がレオニスは腹立たしくて仕方がなかった。

だが、サマエルはそんなことを知る由もないし、知ったところで関心すら示さないだろう。

むしろ、うちの家族の問題に口出しすんじゃねぇ!といったところか。

しかし、サマエルの威嚇にレオニスが怯むことはない。

むしろフフン☆といった顔で反論した。

「今の俺は口出しするぞ? 俺はラーデが地上で療養している間、ラーデの面倒を見る後見人だからな。今はラーデといっしょに暮らしているし、ラーデはもう俺達にとっても立派な家族だ!」

『……その、ラーデというのは誰のことだ。よもや我が父上のことではあるまいな?』

「ラーデはラーデ、メシェ・イラーデの愛称だ。その方が呼びやすいし、愛嬌があっていいだろ?」

『やはり父上のことか……竜の祖たる父上に、愛嬌だのなんだのと下らぬ。というか、何故に父上が蟻の家族になぞならねばならんのだ』

「俺は蟻じゃねぇ!」

どこまでも不遜な態度のサマエルに、レオニスがプンスコと怒る。

するとそこに、ラーデが割って入ってきた。

『サマエル、その者は蟻ではない。我が地上での療養で世話になっている、レオニスという人族だ』

『父上!何故に地上などで療養をしておられるのです!療養ならば天空島でもできますでしょう!?』

『いや、天空島では駄目なのだ。我が失った力はあまりにも膨大過ぎて、天空島の限りある魔力では到底賄いきれぬ。地上の龍脈やカタポレンの森などの、莫大な魔力が溢れる場所でなければならぬのだ』

『………………』

ラーデが語る地上での療養理由に、サマエルが黙り込む。

実際天空島は魔力を用いて空中浮遊を為しているのだが、もしそこでラーデが療養をしたら浮遊のための魔力まで吸い取ってしまい、自力での浮遊が危うくなる。

一方地上での療養ならば、そうした心配はない。

このことはサマエルにも理解できたので、黙り込んでしまったのだ。

黙り込んだサマエルに、ラーデがここぞとばかりに話しかけ続ける。

『そういえば、ファフニールやリンドブルムは元気にしておるのか? 我も自分の身体がもう少し何とかなったら、我の方から会いに行こうと思っておったのだが』

『ファフ兄様は、長年お付き合いしてたフレアジャバウォック嬢と婚姻を結び、今は不思議の森に新婚旅行にお出かけになられました。リン姉様は、中央の天空島にてお昼寝の真っ最中です』

『おお、ファフニールは伴侶を得たのか!それはめでたい!』

何気なくラーデが問うた、他の子供達の消息。

ファフニールは新婚旅行中、リンドブルムは昼寝中だというではないか。

リンドブルムの昼寝はともかく、ファフニールに彼女がいたことなど知る由もなかったラーデ。

我が子が生涯をともにする伴侶を得ていたことに、心から大喜びしている。

それに、リンドブルムは現在も中央の天空島にいることが分かった。

ライト達のファフニールやリンドブルム探しが無駄足にならなさそうで、このことにもラーデは内心で安堵していた。

『サマエルは、これまでどう過ごしていたのだ? 良ければこの父に聞かせてはくれまいか』

『私は……南の天空島で、日がなのんびりと過ごしておりました。だからこそ、父上の復活をいち早く知ることができたのです』

『そうか……ならば、せめてサマエル、お前だけでも先に我の方から会いに行くべきだったな。不甲斐ない父ですまぬ』

『……父上……』

ラーデとの会話で少しだけおとなしくなったサマエルに、ラーデがゆっくりと近づいていく。

一方のサマエルは、父であるラーデと再会できたことをより強く実感してきたのか、赤黒い双眸からひと粒、またひと粒と涙の雫が零れ落ちる。

そしてついに両手を伸ばし、小さなラーデをギュッ……と抱きしめた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

サマエルがラーデを抱きしめながら、嗚咽を漏らす。

『父上……父上ぇ……』

『長い間、寂しい思いをさせてすまなかったな』

『……うッ、うッ……』

腕の中に抱いたラーデに、短い腕で頬をそっと撫でられるサマエル。

時折ヒック、ヒック、としゃっくりを繰り返しながら泣きじゃくる姿は、まるで幼子のようだ。

先程までの剣呑とした空気が一転し、サマエルと敵対していたレオニスもスン、スン、と鼻を鳴らしつつ涙を堪えている。

親子の感動の対面、レオニスはこういった家族の絆を表す場面にとんと弱いのだ。

それまでの努力が何とか実り、ようやくおとなしくなったサマエルにラーデが優しい声で語りかける。

『我も本来の姿を完全に取り戻したら―――必ずや、其方達の住む天空島に行くと約束しよう。だから、もう少し待っていてはくれまいか』

それまで感無量の面持ちで抱いていたラーデを、何故かサマエルが突如ガバッ!と離した。

そしてサマエルが両手でラーデの両脇を持ち、腕を前に真っ直ぐ伸ばして真正面に据えた。

『ならば父上、あのレオニスとかいう蟻が本当に父上の世話役に値するかどうかを、この私が直々に見定めてまいります!』

『ン? その必要はないぞ? 現に我は、地上で何不自由なく過ごしておる』

『父上はお優しい故に、周囲に気遣ってそう言っておられるのでしょう? 私には分かりますとも!』

『ぃゃ、そうではなくてだな……』

これまた唐突に話の流れの雲行きが怪しくなってきたことに、ラーデは戸惑いを隠せない。

ラーデの懸命の努力で、何とかサマエルをおとなしくさせて和解することができたと思ったのに。

このヤンデレ末子がレオニスを見定めてやる!などと言い出したら、どう考えても危険な未来しか思い浮かばない。

焦ったラーデが、何とかサマエルを宥めるべく懸命に言い募る。

『其方が危惧するようなことなど、本当に何一つないから心配は無用だ。それに、何よりあのレオニスという者は、闇の女王と光の女王の両者から推薦を受けておる』

『何ですって!? おい、光の女王!これはどういうことだ!』

何かと暴走しがちなサマエルを、何とか止めようとラーデが説得し続ける。

しかしそんな努力も虚しく、サマエルは今度は光の女王に食ってかかった。

それまで少し離れた後方で、レオニスやラーデのやり取りをグリンカムビとともに静かに見守っていた光の女王。

ラーデを小脇に抱え、右手人差し指でビシッ!と光の女王を指差しながら、突如彼女を糾弾しだしたサマエル。

サマエルの矛先が突如自分に向かったことに『え、私?』とびっくりした顔をしている。

『父上は御身の療養のために致し方なく地上に向かった、これは百歩譲って致し方ないことと認めるとしよう。だが!その世話役にこんな下賤な蟻を推薦するとは、一体どういう了見だ!』

『……下賤な蟻、ですって? レオニスは、私達の天空島を何度も救ってくれた大恩人よ。何も知らないくせに、勝手なことを言うのは許さないわ』

それまでびっくりしていた光の女王が、サマエルの不遜な言葉の数々にどんどん顔が険しくなっていく。

普段はおっとりとしていてお淑やかな光の女王だが、北の天空島全体の大恩人であるレオニスを悪しざまに貶されるのは我慢ならないらしい。

不愉快さを隠さない光の女王に、サマエルが呆れ顔をしてみせる。

『ほう、許さないならどうするというのだ? というか、お前の許しなど私にはこれっぽっちも必要ないのだが。闇に生きる闇の女王が 盲(めくら) なのは当たり前だが、光の女王まで 盲(めしい) ていたとは笑い話にもならんな。もしや自分の光で目が潰れたか?』

『言わせておけば……グリンちゃん、準備はいいわね?』

「コケケーッ!」

サマエルの挑発的な態度に、光の女王の機嫌がますます悪くなっていく。

光の女王の相棒であるグリンカムビも彼女に同調していて、両者とも絶賛 殺(ヤ) る気満々だ。

そんな光の女王とグリンカムビに、隣に控えていた雷の女王が慌てて声をかける。

『ちょちょ、ちょっと待って……光の女王、グリンちゃん、早まらないで!』

『いいえ、ここまで私達の大恩人を悪しざまに言われては引けないわ。それだけじゃない、闇の姉様までとんでもない侮辱をされたのよ。雷の女王、貴女は悔しくないの?』

『いや、それはもちろん私もそう思うし、すっごく悔しいけど……でも、今ここでグリンちゃんの浄化砲を撃ったら、アイツに抱っこされているラーデ様まで巻き込んじゃうわ!』

怒りに打ち震える光の女王を、何とか止めようと必死に説得する雷の女王。

普段は雷の女王がイケイケで、光の女王がそれを宥めに回るのが常なのに。

何とも珍しいことに、今日はその立場が完全に逆転してしまっている。

オロオロと止めにかかる雷の女王に、光の女王がさらにヒートアップしていく。

『それなら大丈夫。ちょっと高度を上げてから、まずは奴の後ろにいる天空竜だけを一掃するから。奴の始末はその後よ』

『ぃゃ、あの、だからね? それをやっちゃったら、もはや南の天空島との全面戦争に突入よ?』

『ええ、構いませんとも。だいたい奴等の方から先に、ずっと私達の天空島を監視してきたんですもの。不審者を無礼討ちするだけのことよ』

『あああ、だからそれはマズいってぇー……』

端正な顔を歪め、歯をギリギリと食いしばりながら物騒なことを言う光の女王。

苛立ちが募るにつれて、彼女の身体の輝きがどんどん強くなっていく。

光の女王の感情が昂ると、普段はほんのりとした身体の輝きがより強く発光するようだ。

『私やレオニスだけでなく、闇の姉様まで侮辱したことを後悔させてやるわ……覚悟なさい』

『ぁぁ、もうダメだわ……』

光の女王がゆっくりと上空に昇り始め、相棒のグリンカムビも彼女とともに飛んでいく。

二者の身体は強く輝いていて今にも爆発寸前といった様子に、雷の女王が頭を抱えて絶望している。

一方レオニスも、事態の急展開にオロオロしつつ光の女王に「おい、光の女王、ちょっと待てって!」と声をかけるも、その程度の言葉ではもはや光の女王に届きそうにない。

先程までは怒髪天のレオニスが周囲を冷や冷やさせていたというのに、ここでも光の女王と完全に立場が逆転している。

こりゃマズい、俺も後ろに退かなきゃならんか!?とレオニスが思い始めたその時。

畑の島の方から、全く見覚えのない何者かが近づいてくるのが見えた。

「おい、ちょっと待て!あっちから何かが近づいてきているぞ!」

後方を指差しながら、大慌てで叫ぶレオニス。

その大声に、雷の女王だけでなく光の女王もさすがに後ろを振り向いた。

レオニスが指差した方角にいたのは―――

ライト達を背に乗せたリンドブルムだった。