軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1472話 ラーデとドライアド

目覚めの湖でライトの各種魔力テストを実施した翌日。

この日から、ライトの夏休みの始まりである。

ライトはいつも通り朝早くに起きて、魔石回収ルーティンワークや畑の水遣りをする。

夏休みになったのだから、少しくらい朝寝坊しても良さそうなものなのだが。今日はレオニスやラウルとともに、天空島にお出かけする予定が入っている。

それがとても楽しみなライト。畑の水遣り作業中もずっと鼻歌交じりでこなすくらいに、非常にご機嫌である。

「あ、ラーデ、おはよう!」

『おはよう。何やら 頗(すこぶ) る機嫌が良いな?』

「そりゃあね!何てったって、今日から夏休みだし!しかも初日の一発目から天空島にお出かけなんて、良い事尽くめだよね!」

『おお、そうか。我にはその『夏休み』なるモノが何なのか、今一つよく分かっておらんのだが……其方がそれ程喜ぶなら、きっと良いモノなのだろう』

「うん!」

朝からウッキウキな様子のライトに、ラーデも小さく微笑んでいる。

ちなみにラーデの身体のサイズは50cm程度に戻り、今のところ安定している。

四月に暗黒神殿守護神のクロエに力を分けたことにより、ラーデは一時期身長が約40cmに縮んでしまったが、その時の損失分はもうすっかり取り戻したようだ。

そして、普段の生活でもラーデは今のサイズを保っている。

これはラーデ自身が『天空ならいざ知らず、地上で過ごすにはこの程度の大きさでいた方が何かと楽』そして『魔力の節約にももってこい』という考えに至ったらしい。

竜の祖が自ら省エネモードを選択するとは、何とも慎ましやかである。

その後ライトはレオニスとともに朝食を摂り、畑で各種巨大野菜を収穫していたラウルやラーデと合流した。

「ラウル、今日もたくさんの野菜を収穫したんだねー」

「おう、今日は天空島にいるヴィーちゃんやグリンちゃんにもご馳走をたくさん持っていってやらなきゃならんからな」

「ラーデも天空島に行くのは久しぶりだよね?」

『ああ。あの戦いを経て地上に降りて以来だな』

「そしたらラーデも天空島の皆に会うのは久しぶりだから、すっごく楽しみだね!」

『そうだな』

ラウルに抱っこされているラーデに、ニッコニコで話しかけるライト。

そんなライトの屈託ない笑顔に、ラーデもつられて自然と顔が綻ぶ。

そうして四人は、カタポレンの家の外にある転移門を使って天空島に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「エルちゃん、おはようございます!」

「よう、エルちゃん、久しぶり」

『ようこそいらっしゃいました』

天空島に移動直後に、開口一番に天空樹に挨拶するライトとレオニスに、ユグドラエルも嬉しそうな声音で歓迎する。

そしてラウルの腕の中にいるラーデに向かって、ユグドラエルが声をかけた。

『皇竜もお久しぶりですね。今は『ラーデ』と呼ばれているのでしたっけ?』

『うむ。其方も我のことは『ラーデ』と呼ぶがいい』

『フフフ、でしたらラーデも私のことを『エルちゃん』と呼んでくださいね?』

『エルちゃん…………『エル』ではダメなのか?』

互いの呼称や愛称を確認し合うラーデとユグドラエル。

ユグドラエルの方はともかく、ラーデは天空樹のことを『エルちゃん』と呼ぶことに何やら抵抗感があるらしい。

それは絶対に嫌だ!というような嫌悪感ではなく、どちらかというと照れ臭さや気恥ずかしさといった類いのむず痒さ?からきているようだ。

そんなラーデの言い分に、何故かユグドラエルの枝がワッシャワッシャと揺れ動き始めた。

『あらまぁ、呼び捨てですか? それはとても新鮮味があって良いですねぇ』

『うぬぅ……そういうものなのか?』

『そういうものなのです♪ ……そう、貴方がレオニス達から『ラーデ』と呼ばれることを受け入れているのと同じようにね』

『……ふむ、それもそうだな』

いつになくウッキウキな声音で、ラーデからの呼び捨てを喜ぶユグドラエル。

呼び捨てにされて喜ぶ様子に、ラーデが小首を傾げつつ心底不思議そうな顔をしていた。

しかし、その後ユグドラエルから語られた本音を聞けば得心だ。

ユグドラエルはサイサクス世界における原初の神樹として、ひたすら崇敬を受ける身。

今でこそ『エルちゃん』『エルちゃん様』などの可愛らしい愛称を得たが、それでもまだ呼び捨てにされる程の対等な関係の者はいない。

そしてそれはラーデも同じで、皇竜メシェ・イラーデは竜の祖であり常に畏怖される偉大な存在。

大抵の者は皇竜の前で平伏し、決して彼の横に立とうなどとは思わない。

だが、呼び捨てという関係性はそうした一線を軽々と飛び越えて、一気に近しい存在になったような気がするものだ。

ユグドラエルがラーデからの呼び捨てを『新鮮味がある』と評したのも、今までユグドラエルを呼び捨てにできる者がいなかったから。

しかし、皇竜メシェ・イラーデなら名実ともにユグドラエルと対等な立場を築くことができる。

このことにユグドラエルは大きな喜びを感じていた。

似た者同士の二者の会話に、ライト達も思わず微笑む。

するとここで、どこからかキャイキャイとはしゃぐ声が聞こえてきた。

それは、大勢のドライアド達であった。

『あー、やっぱりラウルだー!』

『皆、いらっしゃーい♪』

『エルちゃん様、おはようございまーす♪』

『ねぇねぇ、ラウルー、朝ごはんのマカロンちょうだーい♪』

たくさんのドライアド達がわらわらとライト達のもとに集まり、口々に好き勝手なことを言いながら客人達の周りに群がっている。

ドライアド達の半分くらいはラウルが目的で、ラウルを見つけた途端に一目散に駆け寄ってきて彼の身体にヒシッ!としがみつく。

そうしてラウルはあっという間に、抱っこしていたラーデもろともドライアド塗れになってしまった。

「『………………』」

「はいはい、ドライアドのおちびちゃん達よ、朝っぱらから元気なのはいいことだがな。このままだとうちのラウルとラーデが窒息しちまうので、とっととひっ剥がすぞー」

『『『キャーーー♪』』』

「ドライアドさん達も、おはようー。皆、ホントにラウルのことが大好きなんだねー」

『『『キャーーー♪』』』

ラウルという花の蜜に群がる蝶々の如きドライアド達を、レオニスとライトが次々と引き離してはポイポイ、ポイー☆と空中に放り出す。

これまで幾度となく展開されてきた光景だが、こんな些細な攻防戦ですらドライアド達はお約束の遊びとして楽しんでいるようだ。

そしてラウルから引き剥がされたドライアド達が、ふとラウルの腕の中にいるラーデの存在に気づいた。

『あら? その赤黒い子は、だぁれ?』

『何かどっかで見た気がするー』

『もしかして、ラウルの子?』

『にしては、木の精っぽくないわよねぇ?』

『ラウルってば、アタシという者がありながら他所で子を作るなんて!しどい!』

興味津々といった様子で、ラーデを観察するような目でじーっと見つめるドライアド達。

これまた口々に好き勝手なことを言っていて、中には昼ドラで出てきそうな台詞までちらほらと聞こえてくる。

ちなみに最後の台詞の主は、自称『ラウルと最も親しいドライアド』のモモである。

そんなフリーダムなドライアド達に、ユグドラエルが少しだけ呆れたような声で軽く窘める。

『これこれ、ドライアド達。そこにいるのはラーデ、先日の邪竜の島との戦いで残酷な呪縛からようやく解き放たれた皇竜メシェ・イラーデですよ』

『え"ッ!? 皇竜メシェ・イラーデ様!?』

『イヤーン、私ってば何て失礼なことを!』

『メシェ・イラーデ様、ごめんなさい!』

『『『ごめんなさい!!』』』

ラーデの正体を知ったドライアド達が、慌ててラーデに向かって頭を垂れる。

しかし、ラーデが怒る様子は全くない。

それどころか、ユグドラエルに向かって物申し始めた。

『これ、エルよ。せっかく我にくっついてきてくれた小さき友を、そう叱るでない』

『叱るという程怒った覚えはありませんが……この子達が貴方の存在に気づいていなかったようなので、ひとまず貴方の正体を教えたまでのことですよ』

『それも致し方ない。今の我は、この者達同様に小さき存在故な』

ユグドラエルに窘められたドライアド達を擁護するラーデ。

小さくてもユグドラエルと対等に渡り合うラーデを見て、ドライアド達が感激している。

『メシェ・イラーデ様って、すっごく寛大な御方なのね!』

『見た目は小さくても、中身は立派な紳士でステキ!』

『それに、メシェ・イラーデ様のあの御色……よくよく見たら、ワタシの大好きなクランベリーのマカロンにそっくり!』

ラーデの寛大さに、ただただ感激の面持ちでラーデを見つめるドライアド達。

その視線は熱く、ラーデの人気は一気にうなぎのぼりである。

ただし一部のドライアド(主にモモ)には、ラーデの赤黒い身体がクランベリー色に見えるようだが。

ドライアド達の崇敬を一気に得たラーデ。

ラウルの腕の中から出てふよふよと飛び、ドライアド達の前に近づいた。

『其方達も、我のことは『ラーデ』と呼ぶがいい』

『ラーデ様!』

『ぬ、様は要らん』

『じゃあ、ラーデ君!』

『ふむ……それでも良かろう』

『『『ラーデ君!』』』

新しい友達ができたことに、ドライアド達が破顔しつつラーデを取り囲む。

さすがに今のラーデの大きさでは、ドライアド達がくっつく面積がほとんどないのでしがみつくことはしないようだ。

ラーデも新たな呼称の様付けは回避し、君付けを落とし所にした。

自分はユグドラエルへのちゃん付け呼びを渋ったのに、自分の君付けはOKとか若干ズルい気がしなくもないが。

『ねぇねぇ、ラーデ君、私達といっしょに遊ぼう?』

『何をして遊ぶのだ?』

『ンーとねぇ、かくれんぼとかどう?』

『ふむ、かくれんぼか。良かろう』

『わーい!じゃあ、最初はラーデ君が鬼ねー!』

『それはいいが……其方達は全部で何体おるのだ?』

『130くらい?』

『それを全部我が見つけねばならんのか……?』

ドライアドの提案で、かくれんぼをすることになったラーデ。

しかし、130対1はさすがに分が悪い。ドライアド全員を見つけるのに、半日以上はかかりそうだ。

『じゃあ、ラーデ君が私達を20人見つけたら交代でどう?』

『うむ、それくらいなら良いか』

『決まりね!じゃあラーデ君、今から数を三十数えてね!』

『承知した。いーち、にーぃ、さーん……』

早速ラーデとドライアド達とのかくれんぼが始まった。

目隠し代わりにラウルの胴体にしがみつき、数を数え始めたラーデ。その姿は、ラウルに群がるドライアドと大差ない。

皇竜メシェ・イラーデと天空島に住むドライアド。

両者の新たな絆と交流に、くつくつと笑いながら見守るライト達だけでなく、ユグドラエルもまた微笑むかのように彼女の枝葉がさわさわと揺れ動いていた。