軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1454話 レオニスへの個人的な依頼

その後ライト達はウォーベック兄弟とともに貴族街に戻り、一旦ウォーベック邸の前で降りてレオニスの屋敷に戻る。

そして屋敷の厨房で料理をしていたラウルとマキシと合流し、午後七時に四人でウォーベック邸を訪問した。

ウォーベック邸でも話は通っていて、ライト達四人の訪問を快く受け入れてくれた。

玄関で執事が恭しくライト達を出迎え、晩餐会が開かれる大広間まで案内する後ろをライト達はおとなしくついていく。

そうして辿り着いた先には、既にウォーベック兄弟の家族達がテーブルに就いて座っていた。

「おお、レオニス君!よく来てくれた!ささ、こちらに座ってくれたまえ」

「晩餐にお招きに与り光栄だ」

「そんな堅苦しいことを言わずに!君と私達の仲じゃないか!」

「そうですとも。私達は良き隣人同士なのですからね」

上機嫌でライト達を迎えるアレクシスとクラウス。

上座に座るアレクシスの横にレオニス、ラウル、マキシ、ライトの順に座る。

ちなみにライトの横にはハリエットが座っていて、彼女もニコニコ笑顔でライトを迎えていた。

「主賓も無事到着したことだし、乾杯しようか。クラウス、頼むぞ」

「はい。では、今日のこの良き日を皆で迎えられたことを祝して……乾杯!」

「「「乾杯ー!」」」

屋敷の主であるクラウスの乾杯の音頭に、その場にいた全員がグラスを掲げて乾杯する。

皆飲み物に軽く口をつけたら、晩餐会の始まりだ。

「ぃゃー、今日の鑑競祭りは本当にすごかったな!」

「全くです。とはいえ、傍で観ているだけだからこそ気楽に楽しめたのでしょうがね」

「ああ、あの熱狂の渦中に身を投じるのは確かにしんどいな。最後の方、光の雫で競り負けたサンチェス卿なんて鬼の形相で帰っていったもんな……」

「レオニス君、当分の間は身辺に気をつけたまえよ。ああなったサンチェス卿は、手段を選ばず君達に接触してくるぞ」

「おう、忠告ありがとうな」

今日の鑑競祭りの話で盛り上がるウォーベック兄弟。

彼らはほんの数時間前までその場にいて、有力な入札者達の顔や素性も知っているだけに、レオニスにも要注意人物のことを親切に教えてくれている。

こう見えて彼らも高位貴族なので、貴族特有の様々な問題や柵などにも精通しているのだ。

ちなみにレオニス自身もその手の警戒は怠っていない。

実は去年の鑑競祭り直後でも同様のことは起きていて、冒険者ギルド総本部でもレオニスへの個人指名で『乙女の雫の採取』という依頼が何件も寄せられていた。

ただし、当のレオニスがその全てを尽く撥ねつけて断固拒否していたのだが。

もちろん冒険者ギルド側もこうなることは最初から理解していて、一応レオニスにも確認した上で後日依頼主側に『指名者に打診したが断られたので、個人指名は諦めてくれ』と伝えてある。

その結果、ラグナロッツァ総本部によく貼られている『求む!乙女の雫(属性の種類問わず)』『雫一個につき500万G』という、誰にも相手にされない万年お飾りの依頼書になったのである。

その後も晩餐会は様々な話で盛り上がった。

特にレオニスのプロステスの別荘購入について、アレクシスとクラウスがノリノリで話を進めている。

帰りの馬車の中でも「レオニス君は、500万Gだけ負担してくれれば良い。後は我々が責任を持って最適な物件を斡旋しよう」「今年の夏休みには利用できるよう、迅速に用意すると約束しよう」等々、二人して大乗り気であった。

二人の会話によると、プロステス領主邸の二軒隣に空き家となった貴族用の豪邸があるのだという。

その豪邸は、三年前にプロステスの猛暑に耐え切れなくなった貴族が手放した別荘だという。

不動産の相場で言えば、中古物件扱いでも1000万Gは下らない代物らしいが、空き家となってから未だ買い手がつかず放置されたままなのだとか。

アレクシスは晩餐のステーキを食べながら「明日プロステスに戻ったら、すぐにあの邸宅の購入手続きをしなければな!」と張り切っている。

一方ラウルはクラウスやアレクシスの子供達に人気で主にスイーツの話をしていて、マキシはアイギスに勤めているせいかウォーベック兄弟の奥方達に大人気だ。

そしてライトはというと、隣のハリエットと仲良く話をしていた。

「明日のラグーン学園再開の前に、こうしてライトさんとお食事をともにできるなんて、思ってもいませんでしたわ」

「そうだね。明日からまたラグーン学園が始まるもんね。ハリエットさんは、黄金週間を楽しめた?」

「ええ、今年も伯父様達の首都観光にお供させていただきまして。とても良い休日を過ごすことができましたわ。ライトさんの方はどうでしたか?」

「うん、ぼくもレオ兄ちゃんやラウル、マキシ君といっしょにティファレトに温泉旅行に行ってきたんだー。ラグナロッツァに帰って来てからも、皆でスタンプラリー巡りもしたし。すっごく楽しかった!」

「まぁ、ティファレトに温泉旅行ですか!それはよかったですわね!」

互いの黄金週間中の過ごし方で盛り上がるライトとハリエット。

もっともライトが堂々と話せるのはティファレト温泉旅行だけで、実はそのティファレト温泉旅行に八咫烏母娘達の随伴もあったことや『クロエのお泊まり会決行』などは絶対に明かせないのだが。

そしてメインディッシュ等の食事が進み、最後の締めのデザートにラウル特製のザッハトルテが出てきた。

これは、先程ライト達がクラウス邸を訪問した直後に、ラウルが執事に渡しておいたものである。

艶々に輝くチョコレートでコーティングされていて、適宜散りばめられた金箔に目を奪われるウォーベック一族。

特にアレクシス達プロステス組の感激ぶりは尋常ではなかった。

「ぉぉぉ……これは、ラウル君のザッハトルテではないか!」

「あのザッハトルテを、再び口にできる日が来るなんて……夢のようですわ!」

「これ、前にも食べたことがある!すっごく美味しかったやつ!」

「私、このチョコレートケーキ、とっても大好き!」

「これもラウルさんが作ったのよね!? ラウルさん、ありがとう!」

アレクシスだけでなく、その妻ヴァネッサや息子エドガー、娘フローラ、オリヴィアまでも、目の前に差し出されたザッハトルテをキラッキラの目で見つめている。

そうして一頻りザッハトルテを眺めた後、フォークを用いて食べ始めたアレクシス達。

それはそれは大切な宝物を扱うかのように、一口一口ゆっくりと噛みしめている。

一方レオニスやラウルは食後のコーヒーを堪能していたのだが、ふとクラウスが思い出したようにザッハトルテを堪能中のアレクシスに声をかけた。

「……あ、兄上。そういえば例の件、ツェリザークのことをレオニス君に話しておかなければいけないのでは?」

「ン? おお、そういえばそうだったな」

クラウスの催促に、アレクシスがザッハトルテを食べる手を一旦止めてレオニスに話しかけた。

「レオニス君に、折入って相談があるのだが」

「ン? 何だ?」

「いつでもいいから、ツェリザークの領主に一度会ってきてもらいたいのだ」

「ツェリザークの領主に会えってのか? 何でだ?」

「実はな―――」

アレクシスの相談、それはツェリザークの領主のことだった。

彼の話によると、ツェリザークにも彼の地を代々治める領主一族がいて、それはスペンサー家という侯爵家だという。

そのスペンサー家で、昨年の九月に当主が交代したのだとか。

そしてその新当主、ジョシュア・スペンサーがレオニスとの対談を熱望しているのだそうだ。

「何でそのツェリザーク領主、スペンサー家の新当主が俺に会いたがってるんだ?」

「スペンサー一族は我がウォーベック一族とは違って、氷の洞窟を疎み敵視する当主の方が圧倒的に多かったんだ。何しろ氷の洞窟は、ツェリザークの厳冬の直接的な原因だからな」

「そりゃまぁな……ツェリザークの厳しい冬を思えば、寒さの原因である氷の洞窟を毛嫌いする気持ちも分からんでもないが……」

「だろう? だが、新当主となったジョシュア君は、スペンサー家の中では変わり種としても有名でな。氷の洞窟の存在を認めていて、尚且つ親睦を深めたいとすら思っているのだ」

「ほう……だから俺に接触したいってことか?」

「つまりはそういうことだ」

アレクシスの話に、レオニスもある程度のことを察する。

これまでツェリザークの領主がレオニスに接触を図ってこなかったのは、氷の洞窟のことなどどうでもいいと思っていたからだ。

人を開放的にさせるプロステスの夏とは違い、ツェリザークの長い冬は人を陰鬱にさせる。

一年の半分近くを雪に閉ざされる厳寒の地、ツェリザーク。

冬という辛い季節を憎み、その主要因たる氷の洞窟そのものをも憎む気持ちは、部外者であるレオニスにも容易に想像はつく。

しかし、そんなスペンサー一族の中にあって、新しく当主の座についたジョシュア・スペンサーは氷の洞窟の容認派であるという。

もし彼が氷の洞窟の主である氷の女王と接触し、親睦を深めたいと望むのであれば―――レオニスとの接触が最短かつ最善の道であることは明らかだった。

「去年の九月に代替わりしたもんだから、これまでずっと繁忙期で他のことに注力する暇などなかったのだがな。先日の定例会議でジョシュア君に『氷の女王と親交があるというレオニス・フィア卿に、是非ともお会いしたい!』『ついてはアレクシス侯、是非ともその橋渡しを引き受けていただきたい!』と、それはもう強く熱望されてな」

「ンー……まぁ、会うだけならいくらでも会うが……」

「そうか、引き受けてくれるか!ありがとう、レオニス君!」

レオニスの回答に、アレクシスが殊の外喜んでいる。

そんなアレクシスに、レオニスがいくつかの質問を始めた。

「つーか、領主に会うとなると、事前に予約なり何なりしなきゃいけねぇよな?」

「そうだな。普通はそうなるところだろうが、ツェリザーク領主として最も忙しくなるのは毎年十一月から翌年の四月辺りまでだから、それ以外の時期なら面談は然程難しいことではないぞ。特にレオニス君、君はジョシュア君から会うことを熱望されているのだから、今の時期なら君から会いたいと言えばすぐにでもジョシュア君の前に通されるはずだ」

「それをどこに言いに行けばいいんだ? 直接領主邸に乗り込んでもいいのか?」

「それでもいいと思うが、一応念の為に私が 認(したた) めた紹介状を渡しておこう。ウォーベック家現当主からの紹介とあらば、無碍にする者などおるまいよ」

レオニスの質問に適宜答えていくアレクシス。

すぐに執事を呼び寄せて、大広間の隅に置いてあったワゴンの上にある紹介状を持ってこさせてレオニスに渡した。

「随分と用意がいいな?」

「そりゃあね、私としてもツェリザークの新しい当主になったジョシュア君を応援したい気持ちがあるからね」

「まぁなぁ……ツェリザークで氷の女王を崇める人間なんて、圧倒的に少ないだろうしなぁ」

「そういうことだ」

執事から渡された紹介状を眺めながら呟くレオニスに、アレクシスも真面目な顔で答える。

陰鬱な冬が長く続くツェリザークにおいて、氷の女王を歓迎する人間が果たしてどれだけいるか。間違いなくそれは圧倒的少数派であろう。

そして、そういった街で氷の女王との関係を見直し融和していこうと模索するのは、茨の道であると言う他ない。

「……ま、そういうことなら近いうちにツェリザークに行くことにしよう」

「そうしてもらえると、私としても非常に助かる」

「要は夏の間に行けばいいんだよな?」

「ああ。その方がいいというか、絶対にそうしてもらいたい。ツェリザークの領主は、冬になるとそれこそ執務室から出られなくなる日が増えるからな」

「承知した」

レオニスはアレクシスとの会話を続けながら、空間魔法陣を開いてツェリザーク領主宛の紹介状を仕舞い込む。

それを見届けたアレクシス、ホッ……としながら再びフォークを握りしめた。

「……さて。ジョシュア君からの嘆願も無事届けたことだし。至福の時を再開するとしよう」

「ええ。私も大役を果たした褒美に、ザッハトルテのおかわりを所望します」

「何ッ!? クラウスよ、お前はいつでもラウル君の絶品スイーツを食べられるだろう!? ならばここは、兄にその権利を譲るべきではないか!?」

「いーえ、こればかりは兄上相手でも譲れませんな。如何に我が家がレオニス君やラウル君とご近所さんであろうとも、毎回毎度ザッハトルテを食べられる訳ではありませんので」

「ぐぬぬぬぬ……この、食いしん坊の欲張りめ!」

「それは兄上の自己紹介ですかな?」

先程までの真面目な雰囲気はどこへやら。

ラウルの絶品スイーツを巡って、ウォーベック兄弟間で骨肉の争いが勃発しようとしている。

ある意味仲睦まじい兄弟に見えるが、それでも食べ物の恨みを侮ってはいけない。

ウォーベック兄弟の、間抜けなようでいて実に真面目なやり取りを見たレオニス。くつくつと笑いながらラウルに声をかけた。

「ラウルよ、もしザッハトルテがまだあるなら、今日の晩餐の礼にもう一つ渡してやってくれるか?」

「おう、いいぞ。ただし、ホールのザッハトルテはあと二つしかないから、出しても一つまでな」

「OK、それで十分だ」

レオニスの頼みを快く引き受けたラウル。

徐に空間魔法陣を開き、ザッハトルテのホールを一個取り出した。

ラウルはそれを執事に渡しながら、アレクシスとクラウスに釘を刺す。

「アレクシスにクラウス、追加のザッハトルテを渡したからもう喧嘩はやめろ。つーか、これ以上喧嘩するようならもう俺のスイーツは渡さんぞ?」

「何ッ!? それは困る!というか、私達は喧嘩などしておらんぞ!」

「そうですとも!今のは兄上がちょーっとだけ駄々をこねただけであって、決して喧嘩などではありません!」

スイーツを巡って大人気ない言い争いをするウォーベック兄弟に、ラウルの忠告『もうスイーツやらんぞ?』は壮絶に効いたようだ。

やれやれ、といった呆れ顔をしてみせるラウルに、本気で大慌てするアレクシスとクラウス。

大の大人がする会話ではない、と思うことなかれ。ラウルの作るスイーツは、それ程までに食べた者を魅了してやまないのである。

そんな大人達の大人気ない会話に、ライト達子供も二人の奥方もクスクスと笑う。

黄金週間最終日のクラウス邸は、いつになく和やかで笑いに満ちていた。