軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1439話 水の女王の精一杯のおもてなし

目覚めの湖の小島から湖に入り、湖底神殿に向かうライト達。

深く潜っていくにつれて、陽の光がだんだん届かなくなって薄暗い湖の中をレオニス、ラウル、アクア、イードがスイスイー……と泳いでいく。

そしてアクアの背中の上で、クロエが初めて見る水の中の景色を物珍しそうにキョロキョロと見回している。

暗黒の洞窟はもとより先程までの地上の風景とも全く異なる世界に、クロエの顔は終始ワクテカしっぱなしだ。

『へぇーーー……水の中を泳ぐのって、こんな感じなのねー。何だかとっても不思議……』

「大抵の生き物は水の中では呼吸できなくて、そのままずっと水の中にいると溺れて死んじゃうんだけどね」

『えッ、そなの!? じゃあ何でココ達は平気なの!?』

ライトの何気ない解説に、クロエが心底びっくりしている。

クロエは暗黒の洞窟生まれで、これまで水の中に入って泳いだりしたことなど一度もない。

故に『水の中では呼吸ができない』『こんなに深く潜ったら、普通は溺れて死ぬ』という基本的な知識も全くなく、そうした事実を知って驚いたのだ。

そんなクロエに、水の中でも普通に呼吸や会話ができている秘訣をライトが明かす。

「それはね、さっきアクアから加護を与えてもらったからだよ。だってアクアは水神だもの、水のことに関しては水の女王様と同じく最強無敵だからね」

『そうだったのね……アクア君、本当にありがとう!アクア君のおかげで、とっても素敵な体験ができて嬉しい!』

水の中を自由に動けるのがアクアの加護のおかげだと知ったクロエ。

アクアの背中に乗りながら、その背鰭を撫でつつ礼を言う。

とても素直なクロエに対し、アクアも微笑みつつ応える。

『どういたしまして。君は僕にとって神殿守護神仲間で、新しい友達だもの。そんなに喜んでもらえて、僕もとても嬉しいよ』

『そしたらココも、後でアクア君にココの加護をあげるね!』

『それは嬉しいな。暗黒神殿守護神の加護には、どんな効果があるんだい?』

アクアの加護のお礼に、自分もアクアに加護を与えるというクロエ。

加護のお礼に同じく加護でのお返しがもらえるとは、アクアも全く思ってもいなかった。

そして、クロエの加護にどんな効果があるのかが気になるようだ。

そんな興味津々のアクアに、クロエが早速解説を始めた。

『えーとねぇ、まず暗闇の中でも夜目が利いて、まるで昼間と同じくらいよく見えるようになるみたい』

『へー、それは便利そうだね。特に夜にお出かけする時はとても役立ちそう』

『でね、ココはノワール・メデューサって種族なんだけどね? メデューサ族には、その目で見つめた相手のことを石にしちゃう能力があるの。だからね、ココの加護を持ってると石化しないよ!あと、多分魅了の類いも効き難くなる、はず?』

『石化に魅了……ココちゃん、君ってすごい能力を持ってるんだね』

ココが語る暗黒神殿守護神の加護の効果に、アクアが本気で驚いている。

暗黒神殿守護神ならば、その加護の効果として夜目が利くようになることくらいは想像に難くない。

しかし、クロエのもう一つの側面であるノワール・メデューサとしての特性を含む加護効果までは、さすがにアクアも全く予測できなかったようだ。

他にも様々な会話を交わすアクアとクロエ。

アクアの能力『名のある水場ならどこでも瞬間移動できる』を聞いたクロエが『何ソレ、すっごく羨ましい!』と本気で羨ましがったり、クロエの能力『石化した相手を洗脳して下僕化=絶対的忠誠を誓わせる』を聞いたアクアが『それ、ココちゃんが本気を出したら世界征服できちゃうヤツだねー』とカラカラと笑いながら何気に物騒なことを言っている。

ちなみにアクアの少し後ろで泳いでいるイードの触腕に抱っこされている八咫烏達も、初めて見る水中の景色にずっとうっとりとしていた。

彼女達は霊鳥族なので、水中に深く潜ったことなど生まれてこの方一度もないし、この先もきっと滅多に経験しないであろう貴重な体験。

それは、何百年と生きてきた彼女達ですら感動に打ち震える出来事だった。

そうしてしばらく泳いでいくうちに、湖底神殿のある場所に辿り着いた。

レオニス、ラウル、アクア、イードが湖底神殿横に降り立ち、アクアの背やイードの腕に抱えられていたにライト達も湖底に下り、目の前に聳え立つ湖底神殿を見上げた。

湖底神殿を初めて見るラーデやアラエル、ココが思わず嘆息を漏らす。

『湖の底に、こんな大きな神殿があるとは……すごいな……』

「この神殿、天空島にある二つの神殿とよく似ていますね」

『ココのおうちにある暗黒神殿にもそっくりね!』

この湖底神殿は、他の属性の女王達が住まう神殿同様、地球で言うところのギリシャ風神殿を模している。

なかなかに荘厳な外観は、初めて見る者の心を瞬時に捕らえて離さない。

そしてアクアの背中から降りた水の女王が、水中をふよふよと優雅に泳ぎながらレオニスの前に移動した。

『さ、着いたわよ!早く中に入りましょ!』

「お、おう、そんな慌てんでもちゃんと中に入るって」

『いーからいーから!早く闇のお姉ちゃんに会わせて!』

「分かった分かった」

レオニスの手を両手でガシッ!と掴み、早く湖底神殿の中に入ろう!と引っ張る水の女王。

彼女がすぐにでも会いたい闇の女王は、今はレオニスが身に着けているブローチの黒水晶の中にいる。

一分一秒でも早く姉妹に会うためには、兎にも角にもブローチの所有者であるレオニスを湖底神殿に引き入れる!という訳だ。

何気にせっかちな水の女王に急かされて、レオニスも苦笑いしながら手を引っ張られていく。

レオニスと水の女王の微笑ましいやり取りに、ライト達もクスクスと笑いながら後を追って湖底神殿の中に入っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

水の女王を先頭に、ライト達も次々と湖底神殿の中に入る。

ライト達が神殿内部に足を踏み入れた瞬間、神殿内部にある側廊の列柱上部がぽつん、ぽつん、とドミノ倒しのように連鎖しながら灯りが灯されていく。

その灯りは鬼火のような形をしていて、青白い炎が周囲を淡く照らしていた。

それを見た水の女王が、何やら手をあちこちに振り翳している。

『あまり明る過ぎても闇のお姉ちゃんが出てこれなくなっちゃうから、いくつか灯りを消して最小限の明るさにするわねー』

『うむ。吾への気遣い、すまんな』

『いーのいーの!やっと闇のお姉ちゃんに会えるんですもの、これくらい朝飯前のちょちょいのちょいー、よ!』

水の女王が指差した先にある青白い炎が、フッ……フッ……と次々と消えていく。

これは、暗闇を好む闇の女王を出迎えるに当たり、水の女王ができる精一杯のおもてなしである。

そうして灯りを七割くらい消して、ほんのりとした灯りのみが灯る薄暗さにすることに成功した水の女王。

満を持して、レオニスの胸元にある黒水晶に向かって声をかけた。

『闇のお姉ちゃん、どう? このくらいの明るさなら出てこれる?』

『ああ。この程度の灯りなら、全然問題ない』

『じゃあ……その黒い石から、こっちに出てきてくれる?』

『いいとも』

期待の篭った水の女王の問いかけに、闇の女王が直ぐ様応じて黒水晶の中から出てきた。

最初は黒い靄のようなものが黒水晶からスルスルと出てきて、その靄はあっという間に闇の女王の形を成した。

ようやく念願の対面を果たした水の女王と闇の女王。

しばしお互いの顔を見合った後、水の女王の方から闇の女王に抱きついた。

『闇のお姉ちゃん!お姉ちゃんに会えて、とっても嬉しい!』

『ああ、吾も嬉しいぞ。思いがけず他の姉妹に会えて、これ程喜ばしいことはない』

闇の女王の身体にヒシッ!としがみつく水の女王に、闇の女王も嫋かな笑みを浮かべつつ水の女王の頭をそっと撫でる。

年齢的にどちらが上なのかは分からないが、二者の性格的には闇の女王が姉で水の女王が妹のようだ。

目覚めの湖と暗黒の洞窟のある山は、そこまで遠距離ではない。

むしろ他の姉妹達の居場所に比べたら、間違いなくご近所さんだ。

しかし、これまでの彼女達には『他の姉妹に会いに行く』という考えがなかった。それは『自分はここに居なければならない』という謎の強制力に染まりきった故の視野狭窄、思い込みによるものだった。

だが、それらの既存概念はライト達の出現によって覆された。

他の精霊のように、あちこちフラフラと好きなように出かけられる訳ではないが、それでも短時間なら神殿を離れて動けるようになった。

それは炎の女王からの依頼で属性の女王達の安否を確認し続けたライト達の功績であり、二人の人族からもたらされた大いなる幸福と奇跡だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「遠く離れた姉妹の再会……ううッ、何て感動的なんだろう……」

「全くだ……兄弟姉妹ってのは、どんなに遠く離れていても思い合うもんだもんなぁ……」

「いや、目覚めの湖と暗黒の洞窟はそこまで離れていねぇけどな」

「水の女王様も、闇の女王様に会うことができて、本当に良かったねぇぇぇぇ」

「ああ、俺も貰い泣きしちまうぜ……頼れる兄貴や姉貴ってのは、本当にいいもんだよなぁ」

「まぁな。姉妹がこうして巡り合い、その出会いを心から喜べるのはいいことだってのは俺も同意だ」

滝の如き涙をダバダバダーと流す人外ブラザーズ。どうやら水の女王と闇の女王の感動の対面に、二人して思いっきり貰い泣きしているようだ。

そしてその間に立って、何故かラウルがツッコミ役をしている。

滝涙を流しまくる人外ブラザーズの間で、終始スーン……とした顔で呟くラウル。

いつもならここで、ラウルがライトとレオニスに滝涙を拭うためのタオルを渡すところなのだが。今は目覚めの湖の中にいるので涙を拭う必要はない、と判断したようだ。

常に冷静沈着で状況判断ができるラウル、今日も完璧なる万能執事である。

そんなライト達や感動の対面を果たした二人の女王を、アクアやクロエ、そして八咫烏達も温かい気持ちでずっと見守っていた。