軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1428話 有資格者と必須アイテム

そうしてティファレト遺跡の地下二層に進んだライト。

ここも構造的には地下一層と全く同じで、アーチ状の高い天井と幅広の廊下が延々と続く。

しかし、先程までの地下一層とは決定的に違うことが起きた。

壁から突如何者かが出てきたのだ。

それは赤い甲冑を着た鎧武者で、中身は人間ではなく骸骨。

右手には1メートルはあろうかという長くて大きく反った刀を、鞘無しの剥き出しで携えている。

神殿の中で骸骨の鎧武者が彷徨いているというのは、かなりの場違い感がある。

そしてこの鎧武者、身体全体が半分以上透けていて向こう側の壁が見える。

どうやら実体を持っていないと思われる。

赤い鎧武者の出現に、ライトは慌ててどこかに隠れようとする。

しかしここは一本道の廊下なので、身を隠せるような場所が全くない。

あばばばば……と大慌てで右往左往するライトだったが、鎧武者は特に動揺する様子もなくスーッ……とライトの身体を通り抜けた。

鎧武者はライトの存在に全く気づいていないようだ。

ライトは両手で口を覆い、叫び出したい衝動を必死に抑えた。

『うおおおおッ、びっくりしたぁぁぁぁ!!』

『壁からいきなり出てくるとか、反則にも程があるっしょ!?』

危うくエンカウントするところを無事回避できたことに、ライトが内心でホッとしている。

いくらここが夢の中でも、あんな長くて如何にも鋭い刀で切りつけられたらたまったものではない。

今のライトは丸腰だし、とてもじゃないが鎧武者と戦って生き延びられる気がしない。

バクバクする心臓を落ち着かせるため、ライトはスゥー……ハァー……と深呼吸を数回繰り返した。

その間ライトは、先程の鎧武者のことを考えていた。

『つーか、あれ、『 忿怒(ふんぬ) の屍武者』だよな? 何でこんなとこにいんの? アイツ、別のイベントのモンスターなのに……』

『間違っても課金任務の中に混ざるような代物じゃないんだが……バグッてんのか?』

ライトは後ろを振り返り、通り抜けていった鎧武者を繁繁と眺める。

赤い鎧武者を着た骸骨は『忿怒の屍武者』という名のモンスターで、BCOのとある期間限定イベントでボスモンスターとして登場したやつだ。

一方、今ライトが夢の中で見ているティファレトの古代遺跡は、リアルマネーを使い課金して購入する任務の舞台。

期間限定イベントとコラボするような質のものではない。

何がどうしてこんなことになっているのか、ライトにはさっぱり分からない。

だが、ここで考え倦ね続けても何もならない。

ライトは気を取り直して、再び先に進むことにした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして地下五層まで進んだライト。

ここ来るまでに、何度もモンスターと遭遇した。

忿怒の屍武者以外にも、光の精霊によく似た『禍精霊【光】』や巨大なライオン型モンスター『遺却の獣王』など、間違っても現実では絶対にかち合いたくない強大なものばかり。

しかもそれらも、本来ならこのティファレト神殿にいるはずのないモンスターで、謎は深まる一方である。

ただ、どのモンスターも忿怒の屍武者同様ライトの存在には気づかず、そのまま通り過ぎていくことだけは幸いだ。

とはいえ、このままでは心臓に悪いことこの上ないので、ライトは試しにマイページを開こうとした。

マイページが開けるなら、その中のアイテム欄に収納してある武器=ガンメタルソードも取り出せるはず!と考えたのだ。

しかし、いつもなら簡単に開けるマイページがうんともすんとも言わない。

やはりここは夢の中だから、マイページ操作ができないのだろうか。

地下五層の廊下のド真ん中で、ライトは腕組みしながらしかめっ面で考え込む。

「くッそー……マイページが開けられなきゃ、武器も回復剤も取り出せん!ここにはアイテムリュックもないし……」

「これ、夢の中のことだから大丈夫!とか思ってたけど……もしかして、結構危ない状況だったりする?」

目を閉じ口をへの字にして、うんうんと呻り続けるライト。

今まで大丈夫だったからといって、この先もずっと大丈夫とは限らない。

むしろ大丈夫じゃなかった場合、エンカウントしたモンスターから攻撃された時のことを考えると不安が募る。

例えばの話、かつてラグナ神殿主教座聖堂で起きた【破壊神イグニス】と【武帝】の残滓の戦い。

あの時【破壊神イグニス】は、辛くも【武帝】の残滓に勝利したが、霊体に激しい損傷を負い、本体のイグニス少年は数日に渡り意識不明の重体に陥った。

今のライトにも、それと同じことが起きるかもしれない。

それに、丸腰のままモンスター達の横や前を通り過ぎるのは、如何に向こう側が全く気づかないとしても甚だ心臓に悪い。

忿怒の屍武者のガチャガチャという鎧が擦れる音や、禍精霊【光】の『キャハハハハ!』という狂気じみた甲高い笑い声、遺却の獣王のブフー、ブフー……というものすごく荒い鼻息を聞く度に、ライトの心臓は縮み上がるばかりだ。

「こりゃ早いとこ夢から覚めた方が良さそうだけど……どうやって目を覚ませばいいんだろ?」

最初こそ好奇心で夢の中のティファレト神殿を見て回っていたが、こうなってくるともはや悪夢と大差ない。

この状況を打開するには、現実世界の方でさっさと起きるのが一番なのだが。どうやって起きればいいのかが分からない。

地下五層の廊下をウロウロと歩き回った挙句、ライトははたとした顔でとあることを思いついた。

「……とりあえず、神殿の外に出るか。そうすりゃ少なくとも神殿内にいるモンスターとかち合うことはなくなるし!」

ライトが思いついたのは『神殿の外に出る!』ということ。

神殿の外に出れば、少なくともここにいるモンスター達に怯える必要はなくなる。

そうと決まれば即実行!とばかりに、ライトは踵を返して上の層に上がる階段のところに戻るべく歩き始めた。

するとその時、ライトの背後から声が聞こえた。

『君、どうしてここにいるニャ?』

「!?!?!?」

突然声をかけられたことに、ライトは驚愕しながらガバッ!と後ろを振り向いた。

するとそこには、猫の頭だけがふよふよと浮かんでいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「『………………』」

しばし無言で対峙するライトと謎の猫頭。

全体的に半透明の薄紫色で、ピンと立った猫耳とふっくらした頬のラインに外跳ねの毛束が三本づつ左右についている。

この猫も実体はなく、影だけの存在のようだ。

しかし、よくよく目を凝らしてみると、目の辺りには釣り上がった三日月型の目が二つ、それに鼻と口の辺りに猫のウィスカーパッドがあるのが見える。

そして最初に発した言葉の語尾に『ニャ』がついていることから、こいつは猫だということが分かる。

声をかけられたライトは、目を丸くしながらただただ驚いている。

ずっと絶句しているライトに痺れを切らしたのか、猫シルエットの方から再び話しかけてきた。

『吾輩は猫である。名は『にゃドー』。影に潜み、影に生きる者 也(なり) 』

「にゃドー……さん? え、えーと、は、初めまして、こんにちは……?」

『うむ、挨拶ができるのはいいことだニャ。ついては君も名乗りたまえ。我輩だって名乗ったのだからして』

『にゃドー』と名乗った猫シルエットに、ライトも思わず初めましての挨拶をした。

続けてライトの名乗りを促すにゃドー。

確かににゃドーもその名を明かしたのだから、ライトだって名乗らなければ失礼に当たる。

ライトは慌てて名乗り始めた。

「ぁ、えっと、ぼくはライトといいます」

『ふむ、ライト君ね。OK、OK、しっかり名前を覚えたニャ』

「ぁ、ありがとうございます……」

『で? さっきも聞いたけど。君、ニャんでここにいるニャ?』

「な、何で、と言われましても……夜になって、いつものように寝たらここにいたので……ここ、ぼくの夢の中ですよね?」

またもライトに『何故ここにいる』と問うにゃドー。

そんなことライトに聞かれても、困るとしか言いようがない。

いつも通り普通に寝たら、ティファレト神殿と思しきこの場所にいただけなのだ。これ以上説明のしようがない。

思いっきり戸惑うライトに、にゃドーがフフッ、と鼻で笑うような仕草をした。

『夢の中、ねぇ……まぁいいニャ。というか、君、今日の昼間もこの近くに来てたよね?』

「ぇ、ぇぇ、確かにティファレトの古代遺跡を一目見たくて、昼に見に行きましたけど……」

『久しぶりに 資格を持つ者(・・・・・・) がキタ!と思ったんだけど……君、肝心の チケット(・・・・) を持ってニャいし。ホンット、残念ニャ』

「………………」

眉をハの字っぽくしながら残念がるにゃドー。

そんなにゃドーの言葉に、ライトは驚きを隠せない。

にゃドーが言う『資格を持つ者』とは勇者候補生のことで、『チケット』とはBCOの課金アイテム『古代遺跡調査許可証』のことを指しているのだ。

またも口をあんぐりと開けて言葉を失うライトに、にゃドーが鋭い視線を向けた。

『てニャ訳で。君にはここに立ち入る権利はニャいニャ。ここに来たければ、チケットを買って正当ニャ手続きを踏んでから来るニャ』

「えッ!? で、でも、ぼくは課金任務をするつもりでここに来たんじゃないですよ!?」

『ンニャ? 任務をしニャいなら、 何(ニャに) をしに来たニャ』

「た、ただの見学です……だって、今のぼくには『古代遺跡調査許可証』を購入するCPなんて持ってないですし……」

ライトを詰るにゃドーに、ライトは慌てて否定し言い募る。

にゃドーはライトが不法侵入を犯したと思っているのだ。

確かに無賃乗車や無銭飲食のように、支払うべきお金を出さずに踏み倒そうとしているなら、責められて然るべきだろう。

しかし、ライトには全くそんなつもりはない。

そもそもティファレト神殿は、サイサクス世界に実在する古代遺跡。

その古代遺跡に足を踏み入れただけで不法侵入者扱いされるのは心外だ。

「ぼく、この世界で課金任務をするつもりは全くないんです!」

『どうしてニャ? 君らは様々ニャ任務をチケットで買って、それを繰り返しこニャすことで強くニャっていくのだろう?』

「どうして、と言われましても……第一にお金、CPがないのと、もし万が一CPに余裕があっても他のことに使いたいし……」

『お金がニャいのか…… 何(ニャん) とも侘しい 話(はニャし) だニャぁ……』

ライトの話に、にゃドーの釣り目がどんどん垂れ下がりしょんぼりとしている。

実際ライトのCPがすっからかんなのは事実だし、サイサクス世界ではCPを貯めるのは容易ではない。

にゃドーの言うチケット、『古代遺跡調査許可証』を一つ買うだけで500CPが必要なのだが、この500CPを貯めるだけでこの先一体何年かこることやら。ライト自身、考えたくないくらいには憂鬱になる話である。

にゃドー以上にしょんぼりとしてしまったライト。

幼い子供をしょぼくれさせたことに、にゃドーが罪悪感を抱いたのか、努めて明るい声でライトに話しかけた。

『……ま、見学するだけニャら、いくらでもしていいニャ。チケットを持たないまま神殿に入ったところで、 何(ニャに) も起こらニャいし!』

「ホントですか!?」

『うむ、我輩は嘘はつかニャいニャ』

「ありがとうございます!」

態度が軟化したにゃドーに、それまで俯いていたライトがパッ!と顔を上げて喜ぶ。

そんなライトに対し、にゃドーが瞬時にキリッ!とした目つきになる。

『ただし。いつかは正規の手続きを経て、修行しに来るニャ。君ら 有資格者(・・・・) は常にそうあらねばニャらニャいし、この古代遺跡も我輩もそのために在るのだからして』

「……分かりました!いつか本物のにゃドーさんに会えるように、ぼくも一生懸命頑張ります!」

『その意気ニャ』

張り切りながら応えるライトに、にゃドーも再び三日月型の釣り目を釣り上げてニヤリ、と笑う。

その直後に、ライトの視界が次第にぼやけてきた。

そして気がつくと、ライトはティファレトの貸し切りコテージのベッドの上で目覚めていた。