軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1423話 ティファレトの街でのお買い物

ライト達とアイギス三姉妹のティファレト温泉旅行二日目。

午前十時から全員で街中に繰り出した。

アラエル、ムニン、トリス、ミサキは小さな文鳥サイズに化けて、人化したマキシやライト、ラウルの肩にちょこん、と乗っかっている。

ラーデはレオニスの右肩に乗り、フォルはアイギス三姉妹が代わる代わる抱っこしている。

今は黄金週間の真っ最中だけあって、ティファレトの繁華街はたくさんの人で大賑わいだ。

通り沿いにはたくさんの露店が並び、様々な品物が売られている。

ティファレト名物の温泉グッズや遺跡関連だけでなく、焼きそばや串焼き等の食べ物や飴細工等のスイーツ、アクセサリーや果物、野菜をそのまま売っている店もある。

「あ、これ、昨日レオが買ってくれた入浴剤と違うヤツね。今回は私がうちとレオ達の分を買ってあげるわ!」

「いろんな香りの入浴剤があるのねー。ヒノキ、ラベンダー、ゆず、薔薇、シトラス……どれも素敵過ぎて、何を選ぶべきか迷っちゃう!」

「あら、このバススポンジ、遺跡みたいな形ね? ……あら、ホントにティファレト遺跡の建物を模してるのね。面白いから全員分買っちゃいましょう♪」

アイギス三姉妹は、主に入浴剤やお風呂グッズを売る店で品定めをしている。

一方レオニスは、その店の横にあるアクセサリー屋を眺めていた。

「ふむ、温泉マークのペンダントに揃いのイヤリングか。なかなかにオシャレだな」

「えー、それ、誰が着けるのよ……」

「あ、レオ兄ちゃん、あっちに温泉マークのタイピンやカフスボタンがあるよー」

「よし、温泉マークのアクセサリー全種類買うか!」

「ったく……レオのセンスは相変わらずねぇ」

温泉マークを象った各種アクセサリー類が気に入ったのか、レオニスが全種類を購入すると言う。

温泉マークのイヤリングやチョーカーなど、一体誰が着けるんだ?というメイの疑問は尤もである。

しかし、せっかくティファレトに旅行に来たのだから、ティファレトらしい土産を買いたい!というレオニスの気持ちも分からないではない。

故にセイも、このレオニスのセンスに苦笑いしている。

その後もライト達は、様々な土産物屋を覗いては盛り上がる。

「ねぇねぇ、レオ兄ちゃん!あの温泉マークの提灯が欲しーい!」

「おお、カッコいいな。俺の分も一つ買おう」

「ご主人様よ、このペナントってのはタオルや布巾としても使えるのか?」

「ラウル、それは壁に貼ったり吊るしたりして飾って楽しむものだよ……」

「マキシ兄ちゃーん!あの『温泉まんじゅう』が食べたーい!」

「そしたら里にいる父様達の分も買ってこようね」

「うん!」

たくさんの人が行き交う中、様々なお土産を買っていくライト達。

ここで気をつけなければならないのは『ナンパ』と『スリ・ひったくり』である。

ティファレトは基本的に治安の良い街ではあるが、それでもこうして人が混雑するところには必ずと言っていい程スリやひったくりが横行する。

土地勘のない観光客を狙った悪い輩は、どこの街にもいるものなのだ。

また、美女と見れば誰彼構わずしつこくナンパしてくる男もいる。

特にアイギス三姉妹は、三人とも違った系統の美女揃い。

おっとりした柔らかい笑顔が魅力のカイ、キリッとした凛々しさが目を引くセイ、溌剌とした闊達さが売りのメイ。

この三人がいっしょに歩いていれば、すれ違う男達の目を引き釘付けにしてしまうのも当然である。

しかし、今回に限ってはナンパに絡まれる心配はない。

何故なら彼女達の近くにレオニスとラウルがいるからだ。

レオニスと軽く腕を組んで楽しそうに歩くカイに、同じくラウルの腕をガッチリと捕らえて離さないセイ、そんな二組の後ろでライトとマキシの二人と仲良く手を繋ぐメイ。

この美男美女の集団闊歩に割って入る度胸のある男など、このティファレトには誰一人として存在しなかった。

ただし、スリは話が別だ。

特にカイのぽやぽやとした空気を『良いカモだ』と思うそうで、しばらくはカイ達の後をつけてくるのが何人かいた。

隙を見てカイが持つショルダーバッグを奪い取ろうと狙いを定めるスリ達。

しかし、そんな犯罪者達に付け入る隙は永久に来ない。何故なら、そうした不穏な空気にレオニスが気づかない訳がないからだ。

温泉マーク柄ではない、普通の花柄の可愛らしいムームーを売っている露店で、しばし足を止め見ていたカイ。

それを見たセイとメイも「まぁ、何て可愛い服でしょう!」「私達三人分だけでなく、アラエルさん達四人分も買いましょうよ!」と大盛り上がりしている。

そんな彼女達の楽しそうな買い物の様子を、店の前で見ていたレオニス。

同じく露店の脇で待機していたラウルにこそっと耳打ちする。

「ラウル、ちょっとの間、カイ姉達のことを見ててくれ」

「了解」

ラウルにカイ達の護衛を頼むと、レオニスは露店から少し離れた脇道に入っていった。

そして、カイ達を付け狙う不審者にどんどん近づいていく。

「……おい。お前ら、今のうちに家に帰る方がいいぞ?」

「な、何だよ、いきなり………………ッ!?!?!?」

不審者達はレオニスがいきなり近づいてきたことに、内心ではビビりまくっていた。

しかし、現段階ではまだ何もしていない。それ故レオニスの警告など聞く耳持たず、しらばっくれていた。

だが、不審者達の強がりは瞬時に挫かれた。レオニスの強い威圧が放たれたのだ。

「俺は孤児院の出でな? 幸いなことに、俺自身はそうした犯罪に手を染めたことは一度もないが……こういうことをしでかす奴等が出す、特有の空気ってやつ?はよーく知ってんだ」

「………………」

「お前、あの服を売っている露店の前で買い物している女三人連れを狙ってるだろう? ああ、誤魔化さんでいいぞ、お前がさっきからずっと俺達の後をつけてきていたことは分かってるから」

「………………」

「財布狙いのスリか、それとも人攫いの人身売買目的か知らんが……あの三人に指一本でも触れてみろ、その時はお前の両腕を粉々に砕いてやる」

「………………」

不機嫌さを隠そうともしないレオニス。尋問とともに放たれる壮絶な圧に、冷や汗をダラダラと掻いていた不審者はとうとう失禁しながら失神してしまった。

この小悪党は、スリの常習犯。レオニスが追及していた通り、カイ達の財布狙いだった。

それがまさか、いっしょに歩いていた男に見破られ、しかも人身売買疑惑までかけられるとは。

蛇に睨まれた蛙どころではない。アナコンダに睨まれたおたまじゃくしですらまだマシに思える有り様である。

股間を濡らして地面に仰向けに倒れた男を見下ろしつつ、レオニスが徐に口を開いた。

「チッ、気絶したか……まぁいい。これに懲りたら、二度と悪さするんじゃねぇぞ? ……って、聞こえちゃいねぇだろうがな」

「……おい、そこの裏で隠れてる奴。お前らも同じ目に遭いたくなけりゃ、こいつを拾ってとっとと失せろ」

「つーか、こんなみみっちい犯罪を企む暇があったら、冒険者になって世のため人の為に働け。その方が絶対にいいことあるぞ」

レオニスは、この場には一見して二人しかいない裏路地の奥に向かって、凛としたよく通る声で話しかけた。

その後レオニスは、表通りに向かってさっさと歩き裏路地から出ていった。

そしてレオニスが立ち去ってからしばらくして、裏路地のさらに奥から三人の男がのそのそと出てきた。今地面に倒れているスリ男の仲間だ。

三人のうち二人が気絶した男の肩を抱え、四人でどこかへ消えていった。

その四人が、レオニスの忠告を聞き入れて冒険者になったかどうかは定かではない。

しかし、これに懲りて更生し、どこかで真っ当な人生を歩み直してほしいと願うばかりである。

こうしてカアイギス三姉妹を付け狙う不審者を一掃し終えたレオニス。

再び服売りの露店に戻ると、まだカイ達が服選びをしている真っ最中だった。

色とりどりの華やかなムームーを手にとっては、姉妹同士で楽しげに選んでいる。

すると、レオニスが戻ってきたことに気づいたカイ達が、レオニスに声をかけた。

「あら、レオちゃん、おトイレから戻ってきたのね」

「ぉ、ぉぅ、待たせたか?」

「ンもー、レオってばトイレが長いわねぇ。もしかして便秘?」

「ぁー……そうそう、最近腹の調子があまり良くなくてな……」

「そしたら、コテージに帰ったら良い便秘薬をあげるわ!」

「よ、よろしく頼む……」

レオニスの裏工作など露知らぬアイギス三姉妹。

レオニスが店の前からいなくなったことに気づかれた時、ラウルから経緯を耳打ちされたライトが咄嗟の機転で「レオ兄ちゃん、おトイレに行ったみたい!」と上手く誤魔化していたのだ。

レオニスにしてみれば、便秘疑惑というとんでもない風評被害を受けた格好である。

しかし、そんなあらぬ風評被害を受けようともレオニスはへこたれない。

姉と慕うアイギス三姉妹の平穏を守ることの方が、余程大事だからだ。

しばらくは微妙な顔をしていたレオニスだが、カイが手招きをしていることに気づき露店の奥に入っていく。

「ねぇ、レオちゃん、このムームーなんだけど、どうかしら? 姉さんにはちょっと派手じゃない?」

「いや、そんなことはないさ。この明るくて綺麗な花柄は、カイ姉によく似合ってるよ」

「そ、そう? 若作りしてるように見えないかしら?」

「そんなん全然大丈夫。だってカイ姉はまだ普通に若いし」

「あ、ありがとう、レオちゃん。そう言われると、何だか照れ臭いけど……嬉しいわ」

薄緑色の生地がベースで、胸元と裾にピンク色の花柄が描かれた愛らしいムームーをレオニスに見せるカイ。

ムームーには珍しいパステルカラーだが、それがまたカイの雰囲気にとてもよく似合っている。

その感想をレオニスが素直に伝えると、カイが嬉しそうにはにかだ。

そしてムームーといっしょに手に持っていた、同色同柄のアロハシャツもレオニスに見せた。

「そしたらレオちゃん、これとお揃いのアロハシャツがあるんだけど、どう?」

「おお、素敵なシャツだな」

「サイズが合いそうなら、姉さんが買ってあげるから……着てくれる?」

「ンー……この大きさなら多分大丈夫かな」

カイが差し出した同柄のアロハシャツ。

レオニスがそれを受け取り、両肩の部分を手に持って広げて大きさを確認している。

レオニスは体型的には細マッチョ以上ゴリマッチョ以下で、そこまで大柄でもない。

シャツのサイズは見たところかなり大きめで、ゆったりとした作りとなっている。これなら今のレオニスでも無理なく着られそうだ。

レオニスの肯定的意見を聞いたカイの顔が、パァッ!と明るくなる。

「じゃあ、このアロハシャツもいっしょに買うわね!」

「ああ。カイ姉から旅行土産を買ってもらえるなんて嬉しいよ」

「ウフフ、だって私達はレオちゃんのお姉さんですもの。たまには姉さんが服を買ってあげたって罰は当たらないわよ。じゃ、他のものもいっしょにお会計してくるわね!」

「ああ、いってらー」

花咲くような笑顔で、ムームーとアロハシャツを胸に抱きながら会計に向かうカイ。

その背中を見ながら、レオニスは思う。

両親のいない俺が、さっきの奴らのように道を外すことなく育ってこれたのも……全ては孤児院の仲間達―――カイ姉やセイ姉、メイ、シスターマイラ、そしてグラン兄やレミ姉のおかげなんだ。

皆が俺のことを正しく導いてくれたからこそ、今の俺があるんだ。

これからも皆には、できる限り恩返ししていかないとな―――

レオニスがそんな思いに耽っていると、たくさんの袋を抱えたアイギス三姉妹がレオニスのもとに戻ってきた。

「おぉおぉ……何だかえらい大荷物だな?」

「どの服も可愛くて、なかなか選べなくて……気に入ったものを全部買っちゃったの」

「レオ、悪いけどこの荷物を全部預かってくれる?」

「いいとも」

「ありがと!」

「どういたしまして」

セイの要望に応えてレオニスが空間魔法陣を開き、購入したもの全部を仕舞い込んでいく。

先程の二着以外にも、この場にいる全員分のムームー及びアロハシャツ、特に女性用のムームーは大小様々なサイズで三十着以上は購入したようだ。

大量のムームーを購入し、終始ご満悦のアイギス三姉妹。

コテージに帰ったら、早速女性達だけでムームーファッションショーを繰り広げるのだろう。

この後も様々な温泉グッズを購入したり、ティファレト温泉旅行での買い物を存分に楽しんだライト達だった。